君はまだ、本当の自分を知らない

小説練習家

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届かない叫び

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 研究所の奥は、病院よりも静かだった。音がないのに、圧迫感だけがある。

 案内された部屋には、一人の男が座っていた。白衣ではない。年齢の分からない、感情の読めない顔。

「緋依さんですね」

淡々とした声だった。

「クローン生成は、こちらの条件をすべて受け入れていただくことで可能になります」

私は、黙って頷いた。

「第一に」

男は、机の上の資料を指で叩いた。

「生成後、あなたには定期的にこの研究所へ来ていただきます。クローンである彼の精神状態、生活の様子、感情の変化について、詳細に報告してもらいます」

私は、口を開いた。

「……それは、一生ですか」

「彼が稼働している限りは」

心臓が、ひとつ沈んだ。

「第二に」

男は、少しだけ声を低くした。

「クローン本人に、自分がクローンであるとに気付かせてはいけません」

私は、強く唇を噛んだ。

「認識した瞬間から、脳が記憶の波に襲われ、記憶の欠損が始まります。最終的には、完全停止です」

何度聞いても、慣れる言葉じゃない。

「あなたが彼に真実を告げることは、彼を"殺す"行為と同義です」

私は、まっすぐに男を見た。

「……守ります」

声が震えていた。

「絶対に、守ります」

 男は、何も言わなかった。ただ、小さく頷いただけだった。

───

別室で拓真は横たわっていた。意識はすでに薄い。

 ガラス越しに見える、巨大な装置はまるで棺みたいだった。白いフレームに、絡みつくケーブル。

 拓真の体が、ゆっくりと中へ運ばれていく。私は、ガラスの前に立った。

(ごめんね)

声に出せなかった。

(こんな形でしか、そばにいられなくて)

拓真の顔は、穏やかだった。まるで、眠っているみたいに。

 装置の扉が、閉まる。低い音がして、完全に密閉された。その瞬間、胸の奥が、引き裂かれた気がした。

(……お別れだね)

誰にも聞こえない声で、心の中だけで言った。

(ありがとう。大好きだった。ちゃんと、私の心の中で生き続けるよ)

私は、ガラスに手を当てた。冷たかった。

(また、会おう)

それが、願いなのか、呪いなのか、分からなかった。

機械のランプが、一斉に灯る。

その光の中で、私の知っている拓真は、確かに終わった。
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