君はまだ、本当の自分を知らない

小説練習家

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二度目の初対面

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 その時間の電車は、拓真がいつも乗っていたものだった。朝のホームは、通勤と通学の人で溢れている。私は、その中に立っていた。

わざと、少しだけ改札寄りの位置。前なら、自然と隣に並んでいた場所。

スマートフォンを見ているふりをしながら、何度も、視線だけで時間を確認する。

(……来る)

 人の流れが、一瞬だけざわついた気がした。その中に、見慣れた背中があった。

 少し猫背で、リュックの紐を片方だけ肩にかけている。歩き方も、何も変わっていない。

心臓が早鐘を打った。

(……拓真)

呼びそうになった名前を、喉の奥で、必死に噛み殺した。

 電車が来る。

扉が開き、人が流れ込んだ。私は、拓真のすぐ後ろに立った。車内は、少し混んでいた。つり革に掴まる指が、震えていた。

拓真は、何気なく振り返った。そこで視線がぶつかる。その瞬間、胸がぎゅっと潰れた。

──知っている目。

でも、そこにあるのは、"初対面の距離"だった。私は、自分から一歩、踏み出した。

「あの……」

声が、ちゃんと出たことに、少し驚いた。

「突然すみません」

拓真は、少し戸惑った顔をしてから、笑った。

「いえ……」

そして、首を傾げる。

「あれ、僕たち……会ったこと、ありましたっけ?」

心臓が、強く跳ねた。

「なんか、すごく懐かしい感じがして」

その言葉が、胸に刺さる。

(やめて。それ以上、思い出さないで)

私は、唇に力を入れて、出来るだけ笑顔を作った。

「いいえ」

声は、少しだけ高くなった。

「初めまして、です」

拓真は、驚いたように目を瞬かせた。

「そう、なんですね…なんかごめんなさい。変なこと言っちゃって。気にしないでください」

私は、軽く肩をすくめる。

「もしかしたら、運命かもしれませんね」

冗談めかして、笑ってみた。拓真も、つられて笑った。

「そんなことあるんですかね」

その笑顔が、昔と同じで。胸の奥が、音を立てて崩れた。

(知ってるよ)

(それ全部、一度失った笑顔だよ)

 電車が揺れる。誰かの肩が、私に当たった。その衝撃で、少しだけ現実に戻る。

私はうつむいた。涙が落ちないように、必死だった。

(苦しい。でもここで泣いたら、全部終わる)

私は、もう一度顔を上げた。笑顔を、張り付けて。

「……私、緋依って言います」

拓真は、少し間を置いてから、言った。

「拓真です」

 それは、私が二度目に聞いた、彼の名前だった。でも、彼は知らない。それで、よかった。
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