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第12話
(10)
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頭を上げさせられた和彦は、賢吾に引っ張り起こされ、向き合う形となって抱き締められる。その背後で千尋が身じろぐ気配と衣擦れの音を聞いた。
「俺の息子に対しては、先生は徹底して甘いな。俺が妬けるほどだ」
賢吾の肩に額を押し当て、息を喘がせていた和彦は、その言葉を聞いて顔を上げる。楽しげに見える賢吾だが、大蛇を潜ませた目はじっとりとした熱を孕んでいる。この男も興奮しているのだ。
今朝まで、別の男に抱かれていた和彦の体に触れながら、賢吾は何を思っているのか。
想像の余地はあるが、深い闇を覗き込むような行為に思え、怖かった。
ただ、和彦にも一つ言えることがある。
「あんたといい、千尋といい、性癖が特殊すぎるんだ」
精一杯の和彦の嫌味だが、賢吾にはまったく通用しなかったようだ。短く声を洩らして笑われた。
「――少なくとも、先生が言えることじゃねーな」
「うるさい……」
ここで和彦は、背後から千尋に腰を引き寄せられる。思わず賢吾の肩にすがりつくと、しっかりと和彦を抱き締めてくれた。
千尋の行為を咎める気はないが、それでもこう訴えずにはいられない。
「千尋、ゆっくり、してくれ。体がつらいんだ」
「安心して。乱暴にしない。それに、ゴムつけたから」
賢吾にたっぷり舐められたばかりの場所が、今度はその息子の千尋によって押し開かれる。
千尋は言葉通り、ゆっくりと内奥に押し入ってくる。まるで、鷹津を受け入れた場所の感触を確かめるように。
苦しさに小さく喘ぐと、賢吾の指先にうなじをくすぐられる。
「……腰つきが色っぽいな、先生。そうやって、鷹津のものも咥え込んでやったのか」
ふいに賢吾が話しかけてくる。千尋に腰を抱え上げられた和彦は、賢吾の肩に必死に掴まりながら応じる。
「秘密だ」
「可愛い言葉だ。秘密、か――」
ぐうっと腰を突き上げられ、和彦は千尋と深く繋がる。鷹津にも、こんな形で背後から貫かれたが、やはり全然違う。腰を掴む手の力強さも、内奥で刻まれる律動も、何より、奥深くに当たる逞しいものの感触が。
「はあっ、あっ、あっ、あっ……ん」
普段に比べてずっと穏やかで優しい動きに、和彦は簡単に翻弄される。
この男たちに自分は所有されているのだと実感すると同時に、自分の日常が戻ってきたのだと思った。サソリの毒に侵されるまでもなく、和彦はとっくに、この父子の執着という甘い毒に侵されているのだ。
和彦が深く息を吐き出すと、それが肌を掠めてくすぐったいのか、賢吾が小さく体を震わせた。顔を上げると、微かな笑みを返される。うろたえるほどの気恥ずかしさを覚えた和彦は、再び賢吾の胸に頬を押し当てた。
大きなベッドの上で三人で淫らに絡み合い、快感を極め合ったあとだけに、とにかく体が重い。まるでたっぷりの蜜を吸ったようだ。
今は賢吾がこうして和彦の枕になってくれているが、さきほどまで枕になっていた千尋は、シャワーを浴びに行っている。
賢吾の肩にまで彫られた大蛇の巨体を撫でてから、そっと唇を押し当てる。すると賢吾に髪を掻き上げられた。
「俺の大蛇をこんなに可愛がってくれるのは、先生だけだな。まるで、先生のペットだ」
「こんな物騒なペットを持った覚えはない」
「でも、嫌いじゃないだろ」
その問いかけには答えず、和彦はもう一度唇を押し当て、賢吾が提供してくれる腕枕に頭をのせた。剥き出しになっている賢吾の逞しい胸元に手を押し当てると、ドクッ、ドクッという鼓動が伝わってくる。思わず胸元をまさぐっていた。
「――鷹津には、一切手を出していない」
前置きなしに賢吾が切り出したが、和彦は驚かなかった。そこまで意識が明瞭ではないというのもあるが、賢吾に限って、下手なことはしないと簡単に予測がついていたからだ。
「そうか……」
「ただ、いろいろと込み入った話があるから、うちの事務所に連れて行きはしたがな。俺もその場にいたが、相変わらず嫌な男だ」
「鷹津も、同じことを思ってるだろうな」
「仕方ない。悪党同士だからな」
「……知ってる」
賢吾は声を洩らして笑い、何度も和彦の肩先を撫でてくる。
「どんな気分だ。物騒な男を番犬にした気分は。鷹津はヌケヌケと、先生の命令になら尻尾を振って従ってやると言っていたぞ」
「嬉しくないのは、確かだ。手首に強引に巻きつけられた鎖の先に、狂犬がいるんだ。いつその狂犬が暴れるか、気が気じゃない」
「飼い主の腕の見せ所だ」
和彦を飼い主と言いながら、その和彦の飼い主は、この男だ。賢吾と鷹津は繋がったと言ってもいいが、間に和彦が入ることで、ヤクザと刑事の反社会的な繋がりはカムフラージュされる。
「俺の息子に対しては、先生は徹底して甘いな。俺が妬けるほどだ」
賢吾の肩に額を押し当て、息を喘がせていた和彦は、その言葉を聞いて顔を上げる。楽しげに見える賢吾だが、大蛇を潜ませた目はじっとりとした熱を孕んでいる。この男も興奮しているのだ。
今朝まで、別の男に抱かれていた和彦の体に触れながら、賢吾は何を思っているのか。
想像の余地はあるが、深い闇を覗き込むような行為に思え、怖かった。
ただ、和彦にも一つ言えることがある。
「あんたといい、千尋といい、性癖が特殊すぎるんだ」
精一杯の和彦の嫌味だが、賢吾にはまったく通用しなかったようだ。短く声を洩らして笑われた。
「――少なくとも、先生が言えることじゃねーな」
「うるさい……」
ここで和彦は、背後から千尋に腰を引き寄せられる。思わず賢吾の肩にすがりつくと、しっかりと和彦を抱き締めてくれた。
千尋の行為を咎める気はないが、それでもこう訴えずにはいられない。
「千尋、ゆっくり、してくれ。体がつらいんだ」
「安心して。乱暴にしない。それに、ゴムつけたから」
賢吾にたっぷり舐められたばかりの場所が、今度はその息子の千尋によって押し開かれる。
千尋は言葉通り、ゆっくりと内奥に押し入ってくる。まるで、鷹津を受け入れた場所の感触を確かめるように。
苦しさに小さく喘ぐと、賢吾の指先にうなじをくすぐられる。
「……腰つきが色っぽいな、先生。そうやって、鷹津のものも咥え込んでやったのか」
ふいに賢吾が話しかけてくる。千尋に腰を抱え上げられた和彦は、賢吾の肩に必死に掴まりながら応じる。
「秘密だ」
「可愛い言葉だ。秘密、か――」
ぐうっと腰を突き上げられ、和彦は千尋と深く繋がる。鷹津にも、こんな形で背後から貫かれたが、やはり全然違う。腰を掴む手の力強さも、内奥で刻まれる律動も、何より、奥深くに当たる逞しいものの感触が。
「はあっ、あっ、あっ、あっ……ん」
普段に比べてずっと穏やかで優しい動きに、和彦は簡単に翻弄される。
この男たちに自分は所有されているのだと実感すると同時に、自分の日常が戻ってきたのだと思った。サソリの毒に侵されるまでもなく、和彦はとっくに、この父子の執着という甘い毒に侵されているのだ。
和彦が深く息を吐き出すと、それが肌を掠めてくすぐったいのか、賢吾が小さく体を震わせた。顔を上げると、微かな笑みを返される。うろたえるほどの気恥ずかしさを覚えた和彦は、再び賢吾の胸に頬を押し当てた。
大きなベッドの上で三人で淫らに絡み合い、快感を極め合ったあとだけに、とにかく体が重い。まるでたっぷりの蜜を吸ったようだ。
今は賢吾がこうして和彦の枕になってくれているが、さきほどまで枕になっていた千尋は、シャワーを浴びに行っている。
賢吾の肩にまで彫られた大蛇の巨体を撫でてから、そっと唇を押し当てる。すると賢吾に髪を掻き上げられた。
「俺の大蛇をこんなに可愛がってくれるのは、先生だけだな。まるで、先生のペットだ」
「こんな物騒なペットを持った覚えはない」
「でも、嫌いじゃないだろ」
その問いかけには答えず、和彦はもう一度唇を押し当て、賢吾が提供してくれる腕枕に頭をのせた。剥き出しになっている賢吾の逞しい胸元に手を押し当てると、ドクッ、ドクッという鼓動が伝わってくる。思わず胸元をまさぐっていた。
「――鷹津には、一切手を出していない」
前置きなしに賢吾が切り出したが、和彦は驚かなかった。そこまで意識が明瞭ではないというのもあるが、賢吾に限って、下手なことはしないと簡単に予測がついていたからだ。
「そうか……」
「ただ、いろいろと込み入った話があるから、うちの事務所に連れて行きはしたがな。俺もその場にいたが、相変わらず嫌な男だ」
「鷹津も、同じことを思ってるだろうな」
「仕方ない。悪党同士だからな」
「……知ってる」
賢吾は声を洩らして笑い、何度も和彦の肩先を撫でてくる。
「どんな気分だ。物騒な男を番犬にした気分は。鷹津はヌケヌケと、先生の命令になら尻尾を振って従ってやると言っていたぞ」
「嬉しくないのは、確かだ。手首に強引に巻きつけられた鎖の先に、狂犬がいるんだ。いつその狂犬が暴れるか、気が気じゃない」
「飼い主の腕の見せ所だ」
和彦を飼い主と言いながら、その和彦の飼い主は、この男だ。賢吾と鷹津は繋がったと言ってもいいが、間に和彦が入ることで、ヤクザと刑事の反社会的な繋がりはカムフラージュされる。
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