297 / 1,289
第15話
(16)
しおりを挟む
「……自分で言うな。しかも、しっかり見返りを求めるくせに、何がプレゼントだ」
「当たり前だろ。さっきも言ったが、俺はタダ働きはしない」
こんな会話を交わしながら和彦は、これから数時間は身動きが取れなくなることを覚悟していた。
働いた番犬には、褒めて、餌を与えなければいけない。そう自分に言い聞かせて、鷹津に抱き寄せられ、唇を塞がれた。
痛いほど激しく唇を吸われ、口腔に舌が押し込まれる。小さく呻き声を洩らした和彦は、さすがにこの場では自重するよう諌めたかったが、頭を抱え込まれるように深い口づけを与えられると、何も言えない。肩を押し退けようとしても、無駄だった。鷹津は、飢えた獣そのものだ。
「ふっ……」
口腔深くまで犯そうとするかのように鷹津の舌が蠢き、感じやすい粘膜を舐め回される。吐き気がするような強烈な肉の疼きが、和彦の体の中で暴れ始めていた。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮されると、自販機のボタンを押しながら和彦は、心の中で呟く。
ミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、ついでにフロントに視線を向ける。チェックインの手続きを終えた鷹津が、部屋のキーを受け取るところだった。
車中では欲望を抑えきれないようだったが、さすがに多くの人目があるところでは、そんな気配を微塵もうかがわせない。そのため、少しばかり柄の悪い、身を持ち崩した男にしか見えない。顔立ちそのものは悪くないだけに、シニカルな雰囲気も含めて、鷹津に惹かれる女も少なからずいるだろう。世の中には、一定数の物好きはいるものだ。
努めて客観的に鷹津を分析しながら和彦は、二本のペットボトルを抱える。部屋のキーを振りながら鷹津がエレベーターホールのほうに向かい、和彦も他人のふりをしながらあとに続く。
エレベーターに乗り込んで二人きりになると、和彦はぼそりと洩らした。
「……わざわざ、きちんとしたホテルに部屋を取らなくてもよかっただろ」
「ラブホテルでよかったか?」
「あんたなら、そうすると思った」
「ヤクザの組長のオンナを、組員が見ている前で、ラブホテルに連れ込むのも悪いかと思ってな。――お前を、安く扱いたくない」
冗談なのか本気なのかわからない口調で、鷹津は言い切る。そんな鷹津を横目で見つめながら、和彦はもう一度心の中で呟く。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮される、と。
だが、鷹津の気遣いなど、所詮はささやかなものだ。そのことを、部屋に連れ込まれ、ベッドに押し倒されて和彦は思い知らされた。
まるで辱めるように手荒く下肢を剥かれ、続いてワイシャツの前を開かれたところで、鷹津がわずかに目を細める。その反応の意味がすぐには理解できなかった和彦だが、胸元にてのひらを押し当てられたところで、カッと体が熱くなった。
慌てて身を捩ろうとしたがすでに遅く、乱暴に肩を押さえつけられる。
「たっぷり男に愛されました、って体だな。まだこんなに派手なキスマークが残ってるってことは……クリスマスか?」
和彦は、ワイシャツを脱がされながら顔を背ける。
「……あんたには、関係ない」
「相手は長嶺か? それとも、その息子――、いや、お前の〈オトコ〉か」
「うるさい……」
低く笑い声を洩らした鷹津にベロリと胸元を舐め上げられ、不快さに鳥肌が立つ。肌を這う濡れた感触が気持ち悪く、すぐにでもシーツで拭いたい衝動に駆られる。身を強張らせる和彦にかまわず、鷹津は肌を舐め回していたが、ふいに、きつく吸い上げてきた。
一度ではなく、何度も同じ行為を繰り返されているうちに、和彦は鷹津の行為の意味を知る。三田村が残した愛撫の痕跡を辿り、その上から自分の痕跡を刻みつけているのだ。
思わず鷹津を睨みつけたが、反応が気に入らないとばかりに腕の付け根に噛みつかれたあと、傲慢に唇を塞がれた。
口腔に鷹津の唾液を流し込まれ、コクリと喉を鳴らして飲んでしまう。そのまま口腔を舌で犯されているうちに、和彦は狂おしい情欲の高まりを覚えた。
鷹津と交わす口づけも、肌に触れられる感触も、最初はひどく抵抗感があるのだ。だが厄介なことに、その抵抗感が妖しい媚薬として、溢れるような官能を生み出す。
唇を離したあと、和彦が息を乱しながらもおとなしくしていることに満足したのか、体を起こした鷹津がブルゾンを脱ぎ捨てる。引き締まった上半身が露になるところまでは見ていられた和彦だが、さすがに、すでに高ぶった欲望を見せられたときは、慌てて顔を反らす。
「いまさら初めて見たものじゃないだろ。初心な小娘みたいな反応をするな」
和彦の反応をそうせせら笑った鷹津は、その高ぶりを腿に擦りつけてきた。和彦は睨みつけ、吐き捨てる。
「当たり前だろ。さっきも言ったが、俺はタダ働きはしない」
こんな会話を交わしながら和彦は、これから数時間は身動きが取れなくなることを覚悟していた。
働いた番犬には、褒めて、餌を与えなければいけない。そう自分に言い聞かせて、鷹津に抱き寄せられ、唇を塞がれた。
痛いほど激しく唇を吸われ、口腔に舌が押し込まれる。小さく呻き声を洩らした和彦は、さすがにこの場では自重するよう諌めたかったが、頭を抱え込まれるように深い口づけを与えられると、何も言えない。肩を押し退けようとしても、無駄だった。鷹津は、飢えた獣そのものだ。
「ふっ……」
口腔深くまで犯そうとするかのように鷹津の舌が蠢き、感じやすい粘膜を舐め回される。吐き気がするような強烈な肉の疼きが、和彦の体の中で暴れ始めていた。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮されると、自販機のボタンを押しながら和彦は、心の中で呟く。
ミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、ついでにフロントに視線を向ける。チェックインの手続きを終えた鷹津が、部屋のキーを受け取るところだった。
車中では欲望を抑えきれないようだったが、さすがに多くの人目があるところでは、そんな気配を微塵もうかがわせない。そのため、少しばかり柄の悪い、身を持ち崩した男にしか見えない。顔立ちそのものは悪くないだけに、シニカルな雰囲気も含めて、鷹津に惹かれる女も少なからずいるだろう。世の中には、一定数の物好きはいるものだ。
努めて客観的に鷹津を分析しながら和彦は、二本のペットボトルを抱える。部屋のキーを振りながら鷹津がエレベーターホールのほうに向かい、和彦も他人のふりをしながらあとに続く。
エレベーターに乗り込んで二人きりになると、和彦はぼそりと洩らした。
「……わざわざ、きちんとしたホテルに部屋を取らなくてもよかっただろ」
「ラブホテルでよかったか?」
「あんたなら、そうすると思った」
「ヤクザの組長のオンナを、組員が見ている前で、ラブホテルに連れ込むのも悪いかと思ってな。――お前を、安く扱いたくない」
冗談なのか本気なのかわからない口調で、鷹津は言い切る。そんな鷹津を横目で見つめながら、和彦はもう一度心の中で呟く。
鷹津の気遣いは、よくわからないところで発揮される、と。
だが、鷹津の気遣いなど、所詮はささやかなものだ。そのことを、部屋に連れ込まれ、ベッドに押し倒されて和彦は思い知らされた。
まるで辱めるように手荒く下肢を剥かれ、続いてワイシャツの前を開かれたところで、鷹津がわずかに目を細める。その反応の意味がすぐには理解できなかった和彦だが、胸元にてのひらを押し当てられたところで、カッと体が熱くなった。
慌てて身を捩ろうとしたがすでに遅く、乱暴に肩を押さえつけられる。
「たっぷり男に愛されました、って体だな。まだこんなに派手なキスマークが残ってるってことは……クリスマスか?」
和彦は、ワイシャツを脱がされながら顔を背ける。
「……あんたには、関係ない」
「相手は長嶺か? それとも、その息子――、いや、お前の〈オトコ〉か」
「うるさい……」
低く笑い声を洩らした鷹津にベロリと胸元を舐め上げられ、不快さに鳥肌が立つ。肌を這う濡れた感触が気持ち悪く、すぐにでもシーツで拭いたい衝動に駆られる。身を強張らせる和彦にかまわず、鷹津は肌を舐め回していたが、ふいに、きつく吸い上げてきた。
一度ではなく、何度も同じ行為を繰り返されているうちに、和彦は鷹津の行為の意味を知る。三田村が残した愛撫の痕跡を辿り、その上から自分の痕跡を刻みつけているのだ。
思わず鷹津を睨みつけたが、反応が気に入らないとばかりに腕の付け根に噛みつかれたあと、傲慢に唇を塞がれた。
口腔に鷹津の唾液を流し込まれ、コクリと喉を鳴らして飲んでしまう。そのまま口腔を舌で犯されているうちに、和彦は狂おしい情欲の高まりを覚えた。
鷹津と交わす口づけも、肌に触れられる感触も、最初はひどく抵抗感があるのだ。だが厄介なことに、その抵抗感が妖しい媚薬として、溢れるような官能を生み出す。
唇を離したあと、和彦が息を乱しながらもおとなしくしていることに満足したのか、体を起こした鷹津がブルゾンを脱ぎ捨てる。引き締まった上半身が露になるところまでは見ていられた和彦だが、さすがに、すでに高ぶった欲望を見せられたときは、慌てて顔を反らす。
「いまさら初めて見たものじゃないだろ。初心な小娘みたいな反応をするな」
和彦の反応をそうせせら笑った鷹津は、その高ぶりを腿に擦りつけてきた。和彦は睨みつけ、吐き捨てる。
86
あなたにおすすめの小説
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
帝は傾国の元帥を寵愛する
tii
BL
セレスティア帝国、帝国歴二九九年――建国三百年を翌年に控えた帝都は、祝祭と喧騒に包まれていた。
舞踏会と武道会、華やかな催しの主役として並び立つのは、冷徹なる公子ユリウスと、“傾国の美貌”と謳われる名誉元帥ヴァルター。
誰もが息を呑むその姿は、帝国の象徴そのものであった。
だが祝祭の熱狂の陰で、ユリウスには避けられぬ宿命――帝位と婚姻の話が迫っていた。
それは、五年前に己の采配で抜擢したヴァルターとの関係に、確実に影を落とすものでもある。
互いを見つめ合う二人の間には、忠誠と愛執が絡み合う。
誰よりも近く、しかし決して交わってはならぬ距離。
やがて帝国を揺るがす大きな波が訪れるとき、二人は“帝と元帥”としての立場を選ぶのか、それとも――。
華やかな祝祭に幕を下ろし、始まるのは試練の物語。
冷徹な帝と傾国の元帥、互いにすべてを欲する二人の運命は、帝国三百年の節目に大きく揺れ動いてゆく。
【第13回BL大賞にエントリー中】
投票いただけると嬉しいです((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチ
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる