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第22話
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和彦は勢いよく立ち上がる。覚悟を決めた以上、のぼせそうになるまで湯に浸かっているわけにもいかない。和彦がどれだけ迷い、悩もうが、大事なのは賢吾がどう反応するかなのだ。
なんといっても、和彦を〈オンナ〉扱いした最初の男だ。よくも悪くも、和彦にとって賢吾は、特別な存在だった。
浴衣を着込むと、髪も乾かさずにまっすぐ賢吾の部屋へと戻る。すでに二組の布団を並べて敷いてあった。その中央に、浴衣に着替えた賢吾があぐらをかいて座っていた。
賢吾に軽く手招きされ、和彦は緊張しながら布団の上にあがる。すかさず腕を掴まれて強引に引き寄せられた。よろめき、倒れ込みそうになるが、その前に賢吾の両腕の中に閉じ込められ、背後からがっちりと抱き締められた。力強い腕の感触に和彦は、怯えではなく心地よさを感じた。
「数えきれないぐらい抱き締めているのに、飽きねーな、先生の体の感触は」
耳に唇が押し当てられ、官能的なバリトンに囁かれる。ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け上がり、和彦は小さく声を洩らしていた。
「――先生が旅行に出かけた日、この感触をオヤジが味わっているのかと思ったら、さすがの俺も胸の奥がザワザワした」
「えっ……」
思いがけない賢吾の言葉に反射的に和彦は振り返ろうとしたが、耳朶に歯が立てられて動けなかった。一瞬感じた痛みは、すぐに肉の疼きへと姿を変える。湯上がりの和彦の体は、熱が冷めるどころか、燃えそうなほど熱くなっていく。
「先生の存在は、オヤジにとっても特別なようだ。いままであの〈化け狐〉は、俺が誰と寝ようが興味を示したことはなかった。それこそ、息子のオンナに手を出すなんざ、天地がひっくり返ってもありえないことだった。――先生が現れるまではな」
話しながら賢吾の手は油断なく動き、浴衣の裾を割って、両足の奥へと入り込んでくる。内腿を撫でられたかと思うと、無遠慮な手つきで下着を脱がされる。さすがに和彦は拒もうとしたが、もう片方の手が喉にかかり、軽く圧迫される。それだけで和彦の抵抗の意思は潰えた。
「俺も、自分の息子の〈恋人〉に手を出して、体よく取り上げたんだ。しかも、千尋と違って、単なる色恋だけで行動したわけじゃない。先生に利用価値があると判断したうえで、モノにしたんだ。それとまったく同じことを、今度は俺のオヤジがした。これで俺が怒り狂ったら、理屈が通らない」
「……長嶺の男の理屈は、ぼくには理解しにくい。自分勝手で、強引で……」
和彦が控えめに非難すると、喉にかけた手を外した賢吾は、熱い舌で首筋をベロリと舐め上げてくる。
「極道だからな。自分がやりたいようにやるが、通すべき筋ってものもある。ただし、上から下へ、親から子へと求める、一方通行の筋だ。力でしかものを言えないこの世界を生きて、治めるってのは、そういうことだ。先生は今の生活を送る限り、どんなに苦くて不味い理屈でも、呑み込まざるをえない。頭のいい先生は、それがわかっているから――」
賢吾に手荒く欲望を掴まれ、和彦は息を詰める。一瞬本気で、握り潰されることを覚悟していた。
「長嶺守光のオンナになったんだろ?」
和彦はおずおずと振り返り、間近にある賢吾の顔を見つめる。大蛇を潜ませた目から、まるで陽炎のような激情の炎が透けて見える。
「先生と長嶺の男は、妙に相性がいい。俺や千尋だけじゃなく、オヤジとも体が馴染んでも不思議じゃない。先生が、長嶺の男を骨抜きにすればするほど、この世界に深入りして、抜け出せなくなる。表の世界に逃げられるぐらいなら、化け狐の爪にがっちりと押さえ込んでもらったほうがいい……と、俺なりに計算はしてあったんだがな」
淡々と言葉を重ねる賢吾の迫力に呑まれ、和彦は瞬きもできない。そんな和彦の唇を、賢吾は傲慢に貪り始める。
自惚れかもしれないが、賢吾に執着されていると伝わってくるような口づけだった。
「――……会長の刺青は、たまたま見たんだ。朝、会長が着替えているときに、偶然ぼくが目を覚まして……。一瞬しか見えなかった。でも、怖かった」
口づけの合間に和彦が訴えると、喉を鳴らすようにして賢吾は笑った。
「先生は、物騒な男が入れている、物騒な刺青を可愛がるのが好きなんじゃねーのか」
「ぼくは、二人の男の刺青しか、可愛がっていない。あんたと――」
さすがにこの状況で、三田村の名は口にできなかった。それでも賢吾には十分伝わったらしく、こう言われた。
「まったく、性質の悪いオンナだ」
次の瞬間、和彦は片手を取られて、賢吾の両足の中心に導かれる。最初から行為を求めるつもりだったのか、下着を身につけていない賢吾のものの興奮ぶりは、浴衣の上からでもよくわかった。
なんといっても、和彦を〈オンナ〉扱いした最初の男だ。よくも悪くも、和彦にとって賢吾は、特別な存在だった。
浴衣を着込むと、髪も乾かさずにまっすぐ賢吾の部屋へと戻る。すでに二組の布団を並べて敷いてあった。その中央に、浴衣に着替えた賢吾があぐらをかいて座っていた。
賢吾に軽く手招きされ、和彦は緊張しながら布団の上にあがる。すかさず腕を掴まれて強引に引き寄せられた。よろめき、倒れ込みそうになるが、その前に賢吾の両腕の中に閉じ込められ、背後からがっちりと抱き締められた。力強い腕の感触に和彦は、怯えではなく心地よさを感じた。
「数えきれないぐらい抱き締めているのに、飽きねーな、先生の体の感触は」
耳に唇が押し当てられ、官能的なバリトンに囁かれる。ゾクゾクするような疼きが背筋を駆け上がり、和彦は小さく声を洩らしていた。
「――先生が旅行に出かけた日、この感触をオヤジが味わっているのかと思ったら、さすがの俺も胸の奥がザワザワした」
「えっ……」
思いがけない賢吾の言葉に反射的に和彦は振り返ろうとしたが、耳朶に歯が立てられて動けなかった。一瞬感じた痛みは、すぐに肉の疼きへと姿を変える。湯上がりの和彦の体は、熱が冷めるどころか、燃えそうなほど熱くなっていく。
「先生の存在は、オヤジにとっても特別なようだ。いままであの〈化け狐〉は、俺が誰と寝ようが興味を示したことはなかった。それこそ、息子のオンナに手を出すなんざ、天地がひっくり返ってもありえないことだった。――先生が現れるまではな」
話しながら賢吾の手は油断なく動き、浴衣の裾を割って、両足の奥へと入り込んでくる。内腿を撫でられたかと思うと、無遠慮な手つきで下着を脱がされる。さすがに和彦は拒もうとしたが、もう片方の手が喉にかかり、軽く圧迫される。それだけで和彦の抵抗の意思は潰えた。
「俺も、自分の息子の〈恋人〉に手を出して、体よく取り上げたんだ。しかも、千尋と違って、単なる色恋だけで行動したわけじゃない。先生に利用価値があると判断したうえで、モノにしたんだ。それとまったく同じことを、今度は俺のオヤジがした。これで俺が怒り狂ったら、理屈が通らない」
「……長嶺の男の理屈は、ぼくには理解しにくい。自分勝手で、強引で……」
和彦が控えめに非難すると、喉にかけた手を外した賢吾は、熱い舌で首筋をベロリと舐め上げてくる。
「極道だからな。自分がやりたいようにやるが、通すべき筋ってものもある。ただし、上から下へ、親から子へと求める、一方通行の筋だ。力でしかものを言えないこの世界を生きて、治めるってのは、そういうことだ。先生は今の生活を送る限り、どんなに苦くて不味い理屈でも、呑み込まざるをえない。頭のいい先生は、それがわかっているから――」
賢吾に手荒く欲望を掴まれ、和彦は息を詰める。一瞬本気で、握り潰されることを覚悟していた。
「長嶺守光のオンナになったんだろ?」
和彦はおずおずと振り返り、間近にある賢吾の顔を見つめる。大蛇を潜ませた目から、まるで陽炎のような激情の炎が透けて見える。
「先生と長嶺の男は、妙に相性がいい。俺や千尋だけじゃなく、オヤジとも体が馴染んでも不思議じゃない。先生が、長嶺の男を骨抜きにすればするほど、この世界に深入りして、抜け出せなくなる。表の世界に逃げられるぐらいなら、化け狐の爪にがっちりと押さえ込んでもらったほうがいい……と、俺なりに計算はしてあったんだがな」
淡々と言葉を重ねる賢吾の迫力に呑まれ、和彦は瞬きもできない。そんな和彦の唇を、賢吾は傲慢に貪り始める。
自惚れかもしれないが、賢吾に執着されていると伝わってくるような口づけだった。
「――……会長の刺青は、たまたま見たんだ。朝、会長が着替えているときに、偶然ぼくが目を覚まして……。一瞬しか見えなかった。でも、怖かった」
口づけの合間に和彦が訴えると、喉を鳴らすようにして賢吾は笑った。
「先生は、物騒な男が入れている、物騒な刺青を可愛がるのが好きなんじゃねーのか」
「ぼくは、二人の男の刺青しか、可愛がっていない。あんたと――」
さすがにこの状況で、三田村の名は口にできなかった。それでも賢吾には十分伝わったらしく、こう言われた。
「まったく、性質の悪いオンナだ」
次の瞬間、和彦は片手を取られて、賢吾の両足の中心に導かれる。最初から行為を求めるつもりだったのか、下着を身につけていない賢吾のものの興奮ぶりは、浴衣の上からでもよくわかった。
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