攻撃特化と守備特化、無敵の双子は矛と盾!

天眼鏡

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下りて早々

 一方その頃──。


 上層から中層へ下る長い長い階段を下りきったフェアト、ガウリア、ティエントの三人が、ここで一息つこうと思ったのも束の間。

 まるで『階段を下りてきた餌』を待ち構えていたと言わんばかりに襲いかかってきた魔物たちに矢を撃ち込むティエントだったが。

「──くそ……! 見向きもしねぇじゃねぇか! どんだけ俺に興味ねぇんだ!?」

 何故なのかは下層の魔物と出くわした事のない彼には分からないものの、事実ティエントが矢をいくら撃ち込んでも、その魔物たちは全く彼に対しての反撃を試みたりはせず。

 せめて撃ち込んでいる矢が効いていればマシだったのだが、どうやら痛痒で足を止める暇もないのか途切れる事なく彼以外の『階段を下りてきた餌』を執拗に追うその魔物は。


『『『クエェエエエエエエエエッ!!』』』

「……いや興味持たれんのも嫌だがよ」


 ──“雌喰《めんくい》”。


 一羽一羽が二メートル近くもあるというのに、その巨体に似つかわしくない甲高く耳障りの悪い鳴き声を上げて二人を追い回す、どういうわけか飛ぼうとはしない鳥型の魔物。

 何を隠そう、この種には普通の鳥や他の鳥型の魔物には当たり前のように備わっている羽──風切羽《かぜきりば》が存在せず、その代わり強靭な脚で獲物を地の果てまで追いかけ回すのだ。

 外見としては駝鳥《だちょう》に限りなく近いが、それはそれとして鸚鵡《おうむ》の如き派手な鶏冠《とさか》も、およそ鳥類とは思えない牙をも携えており──。

 その名の通り、『雌《めす》』しか喰らう事はなく雄《おす》にとっては何ら脅威ではないという事実を除いても、かなり厄介な魔物だといえよう。

 現に、たった今この瞬間も雌喰《めんくい》の群れはフェアトを抱えたガウリアだけを執拗なまでに追いかけ回し、そして喰らわんとしていた。

「あぁもう! しつこいねぇ! も散々追いかけ回されたってのに、また同じ目に遭うたぁ思ってなかったよ全く!!」

 そんな雌喰《めんくい》の習性を嫌というほど理解していた──理解させられていたガウリアは、かつて遭遇し、そして一緒に潜っていた傭兵仲間が生きたまま喰われたという悲惨な出来事を思い返して泣き言にも近い叫びを上げる。

 ただ、こちらも矢毒蠍《やどくさそり》と同じく大した速度は出ておらず、ガウリアの全力疾走を少し下回る程度の為、追いつかれる可能性は低い。


 しかし、それは彼女が普段通りならの話。


「……すみません、お手数をおかけして」

「黙って抱えられてな! 舌噛むよ!」

「舌は別に──……いえ、何でも」

 先述したように、ガウリアの右手はフェアトを抱えている兼ね合いで埋まってしまっており、その件に関して申し訳なさが募るフェアトが謝意を示すも、ガウリアは『それどころじゃない』と一蹴し、その口を塞がせる。

(舌は噛んでも大丈夫なんだけど……いやいや分かってる、そういう意味じゃないって事は)

 もちろん、フェアトが自分の舌を噛んだところで血の一滴も出ないし、そもそも貧弱な咬筋力では傷つける事さえ叶わないし、それはガウリアも何となく分かっている筈だが。


 ……そういう事を言いたいのではなく。


 自分からの謝罪に構ってる暇はない──。


 そういう事を言いたいのだろうと、フェアトは抱えられたまま何となしに頷いていた。

 ただ、フェアトとて何も自分から『抱えてもらえないか』などと頼んだわけではない。

 何なら、『どうせ噛まれても呑み込まれても大丈夫なので』と放置を提案したほどだ。


 しかし、ガウリアはそれを撥ね除けた。


 百以上も年下の子供を囮にできるか──。


 と、とても金に汚く裏切りの代名詞とまでいわれる傭兵とは思えない科白とともに、ガウリアはサッとフェアトを抱えたのである。


 ……ガウリアこのひとは傭兵らしくない。


 ふと、フェアトがそう思った瞬間──。


『『『……ッ、グェエエエエッ!!!』』』

「!? は、速っ! 追いつかれますよ!?」

「はっ!? ま、待ちやがれ!!」

 突如、雌喰《めんくい》の群れが脚を止めた事で『ようやく諦めたか』と思われたが、どういうわけか先程までより明らかな敵意のこもる鳴き声を一斉に轟かせ始めるだけでは飽き足らず。

 もはや、ペース配分などは微塵も考慮しないと言わんばかりの全力疾走を開始した事により、フェアトとティエントが驚く一方で。

(……ま、そりゃ)

 この危機的状況は自分の狙い通りだ──そんな感情が見え隠れする、およそ苦笑いにも近い表情をガウリアが密かに浮かべている。

 彼女は何も、ただ闇雲に逃げていたわけではなく、とある場所を目指して駆けていた。

 上層の魔物が魔奔流《スタンピード》に、中層の魔物が上層に、下層の魔物が中層に上がる中、決して階層から動かぬと断言できる魔物を目指して。

 そして、その魔物が雌喰《めんくい》より大きく強いと踏み、ぶつけさせて共倒れさせる為に──。

(焦る気持ちも分かるけど──もう遅いよ!)

 それを理解してしまったからこそ雌喰《めんくい》たちも、『早く仕留めて、この場から離れなくては』と判断し、ペース配分も考えない速度を出しているのだろうが──もう、遅かった。

「……ん!?」

 一方、ティエントの鼻を何かが掠める。

(この、匂い……無機質で、無感情で……だからこそ無意欲な殺意に満ちた──嘘だろっ!?)

 それは間違いなく魔物の匂い──下層の魔物しかいない筈なのに嗅いだ事のある──であり、その匂いに込められた怖気がするほどの殺意に、ティエントは思わず身震いして。

「おっ、おいガウリア!! まさか──」

 雌喰《めんくい》の群れから逃げるように先を走る彼女に追いつき、『匂いの正体』とガウリアが向かう先にいる『何か』が同じものなのかどうかを、可及的速やかに確認しようとしたが。

「あんたも気づいたみたいだねぇ!」

「えっ、な、何が──」

 ガウリアは何なら『やっと気づいたか』とばかりに得意げな笑みを湛えており、そんな二人の会話だけでは何も分からないフェアトが抱えられつつも疑問の声を上げたところ。

「迷宮ってのは基本的に下れば下るほど魔物が強くなってくけど──その中で唯一、がいるのさ!」

「っ、やっぱりか……!!」

「ティエントさんも、ご存知で……?」

 当の彼女は口の歪めて笑いながら、もはやフェアトでも分かる迷宮における常識と、そんな常識を覆すような真反対の事実に、ティエントが彼女からの予想通りな発言に舌を打つ一方、フェアトは更に疑問を重ねていく。

「ご存知も何も……! 俺は、のせいで撤退を強いられた事があんだよ……! とはいえ、『中層の魔物なら』って高を括っちまったのが不味かった……!」

 すると、ティエントは前に可食迷宮へ潜った時、自分の無知で本来なら負う必要もなかった怪我をしてしまい、そのせいで下層へ辿り着けなかったという苦い過去を思い返す。

「ははっ、そりゃ自業自得だねぇ! あいつとの戦いはってのに!」

「うるせぇ! あん時ゃ無知だったんだよ!」

 事実、二人が思い浮かべている魔物は動かない──のではなく、為、戦闘を避けるだけならそこらの子供でも可能だというのに、ティエントは何も知らぬまま食ってかかってしまったとの事。


 全ては、彼が無知であったがゆえに──。


「さぁもう目の前だ! 何も知らないフェアトはともかく、あんたは覚悟ができたろ!?」

「ぐっ──」

 ティエントとしては言いたい事があったようだが、ガウリアの言う通り『お目当ての魔物』の棲家はもはや目の前であり、ティエントは苦々しく顔を歪めながらも首を振って。

「……あぁもう! 好きにしやがれ!!」

「そうこなくっちゃねぇ!!」

 彼女の策に乗る以外の選択肢はない事も分かっていた為、結局は認める事と相成った。

『『『ッ!! グェエエエエ──』』』

 それを理解したのかしていないのかはともかく、ガウリアたちを未だに追いかけていた雌喰《めんくい》たちの速度が上がり、その嘴の先に展開した魔方陣から魔法さえ放出せんとするも。

「さぁ目覚めな!! 【土波《ウェイブ》】!!」

「うおぉ!?」

「ひゃあ!?」

『『『グェエ……ッ!?』』』

 すでに、フェアトをティエントに投げ渡していたガウリアは、あえて両刃斧ではなく自分の掌に魔方陣を展開させる事で精度を上げた【土波《ウェイブ》】を行使し、目の前のを揺らす。

 その壁を伝うように中層そのものを揺らすほどの地震は、そこそこ平衡感覚には自信のあるティエントをもふらつかせる一方、元より土属性に耐性があるわけでもない雌喰《めんくい》たちも、つんのめったり脚を止めたりしていた。

 ここまでなら、ただ単にガウリアが魔法を行使する事で雌喰を足止めしたようにも見えるが──ガウリアの狙いは、そこではない。

「……か、壁が、動いて──」

 その証拠に、ガウリアが震動させた行き止まりとしか思えない筈の巨大な岩壁が、フェアトの言葉通りにぐらぐらと動き始めるだけでなく、ばきばきと音を立てて砕けていき。


 ──そして、次の瞬間。










『──パォオ"ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……ッ!!!』


 轟いたのは──超特大の甲高い咆哮。


 現れたのは──岩で形成された巨大な象。


 ……の、前半分だけ。


 しかし、それでも十メートル近くある。


 威圧感だけなら【竜種】にも劣らない。


「……っ、出やがったか……!!」


 ティエントが犬耳を塞ぎつつ苦言を呈し。


「な、あ……!?」


 フェアトが突然の事態に驚愕を露わにし。


『『『……ッ!!』』』


 雌喰《めんくい》たちが改めて臨戦体勢に移る中──。


「──さぁ! 三つ巴と洒落込もうか!!」


 ガウリアだけは、両刃斧を手に──嗤う。


 何が起きるのか、誰より知っていたから。
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