婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子

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22 敗者復活戦(ラウル視点)

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「……ペンダントが反応しない」

 馬上で何度も確認するが、全く指輪とつながらない。
 壊れたか、魔法が解かれたかだが、どちらにしても、アリス殿を追うことができなくなった。

 誘拐されたのではないと、彼女は言う。
 それでも、彼女の部屋が破壊されていたり、行動がおかしかったりしたから心配で話が聞きたいのに、どうしても会えない。

(俺は、避けられているのだろうか)

 いかん、泣きそうだ。

「次は、どこを探せばいいのだ……」

 すっかり途方に暮れてしまった。
 悪党が相手なら迷いはないのに、アリス殿のことになると、何が正解か分からない。

 当てもなく彷徨さまよっていると、通信用の魔道具から大声が聞こえてきた。

『ラウル! どこにいる!? 大変なことになったぞ!』

 出動要請だろうか。
 ふーっと、大きく息を吐いて、頭を切り替える。

「……どうした」

『国から通達があった! 敗者復活戦が決まったんだ!』

 俺の顔から、血の気が引くのが分かった。

「……え、な、何が何だって?」

『とにかく、一度、騎士団と合流しろ! そこで説明してやる! アーカン礼拝堂のホーム裏だ! あ、王女殿下の特別任務の護衛だから、目立たない服で来いよ!』

 興奮状態のマルセルは一気にまくし立てるが、俺は驚きのあまり内容が頭に入ってこない。

「あ、ああ」

 生返事をしたら、通話が切れた。
 呆然としたまま、魔道具を握りしめる。

「……何が……何だっけ」

 世界が足元から崩れ落ちて行くのを感じた。
 愛馬も俺の精神状態に不安を感じているらしく、落ち着きがない。

(情けない主人ですまない)

 かろうじて覚えていた、アーカン礼拝堂と目立たない服という言葉を頼りに、泣きながら向かった。

「なんだ、このポンコツぶりは!」

 礼拝堂に着いた途端、友から罵倒される。

「服のセンス以前に、サイズが合ってないぞ! こんなピチピチじゃ、戦っているうちに破れるわ! 作戦終了後、真っ裸になっていたら、お前を逮捕する!」

(……あんまりだ)

 それでも、なんだかんだ言って、服を手配してくれた。
 騎士団の仲間は、どう言葉をかけていいのか分からないようで、遠巻きに見守ってくれている。
 マルセルは、膝を抱えたまま物陰に潜む俺の隣に座ると、ポンと肩に触れた。

「まあ、そうなるのも無理はない。七年越しの恋を成就させるために、命がけで努力してきたからな。一体、何があった?」

 思い当たることは、一つだけだ。
 いや、指輪の魔法の件も後ろめたい。

「……お前も知っている通りだ。彼女を前にすると、思ったように話せない」

「気恥ずかしくて、ぎこちない態度を取った程度だろ?」

 そんな可愛らしいものではない。
 自分でもおかしいのは分かっていた。
 でも、どうにも出来なかったんだ。

「婚約してから日が浅いのに、不服を申し立てるなんて、拙速に過ぎるよな」

 彼女を悪く言うのはやめてくれ。
 マルセルには理解できないだろう。
 俺が今まで打ち明けなかったから。

「……違うのか。話してみろ」

 俺が返事にきゅうしていると、マルセルは何かを感じ取り、語気を強めた。

「……ああ」

 こうなったら腹を括るしかない。
 アリス殿との顔合わせから、昨日までの会話を覚えている限り正確に話した。

「これで、全部だ」

 話し終えると、友は鬼人と化していた。

「お前は阿呆か! いくら何でも酷い! むしろ、アリス殿は、よくぞ今まで耐えてくださった!」

 怒るのも無理はない。
 俺も自分を殴りたいくらいだから。
 でも、努力もしていたことは分かって欲しい。

「……確かに、口が悪かったのは認めるが、その埋め合わせをしたつもりだ。……指輪も送ったし」

 親友は、ますます顔をしかめる。

「あのなあ。どんな気持ちで行動したのか、伝えないと分からないだろうが」
 
「……それが出来れば苦労はしない。……せめて、察してもらえたら」

 キッと、鬼人の目は吊り上がり、怒りの炎が燃えあがる。

「それが、甘えと言うのだ! 分かってくれない彼女が悪いとでも言うのか! お前は、年下の彼女にどれだけ負担をかける気だ! 彼女の周りは事情を知っている者ばかりだから、お前の肩を持つだろう! それが、さらに彼女を孤独にさせているのが分からないのか!」

 マルセルの言葉は刃となり、俺の心臓に突き刺さった。致命傷を負った俺の心は、生きる希望を失う。




「……もう、終わりだ」


 

「待て! 勝手に決めつけるな!」

 しなしなと萎れていく俺に、マルセルが喝を入れる。

「話し合いが足りないだけだ! まずは、お前の気持ちを伝えることから始めろ! ずっと好きだったって言え! このままでは後悔するぞ! 早く解決しないと、国が傾くんだ!」

 最後の言葉がよく分からない。
 マルセルを見ると、頭を抱えていた。

「城が機能停止に陥り、大混乱だそうだ」

「……城が?」

 俺と城に、何の関係があるのだ。

「城で働く者には、大会参加者が多いだろうが! みんな早退して、アリス殿を探している!」

 そういうことか。
 おばあ様の家にいるなら安全だろうが、外出を控えるように伝えてあげたい。

 何も知らない彼女が、突然、男たちに囲まれたら怖がるだろう。俺はもう一度、立ち上がることが出来そうだ。彼女を守りたい。

「離脱してもいいか?」

 その時、マルセルがアーカンホームを見て、俺を制止する。

「ちょっと待て。対象の人物が出て来た。殿下に知らせてくる」

 そう言うと、友はその場を離れた。
 一人になると、悪い考えしか浮かばない。  
 またもや泣きそうな気持ちでいると、マルセルから通信が入った。

『ラウル! アリス殿が殿下と一緒だ! ここにいるぞ! お前はそのまま、俺たちと行動を共にしろ! タイミングを見て呼んでやる!』

 おばあ様の家にいたはずの彼女が、どうやってここまで来たのか分からないが、今すぐ会いたい。

 俺は無意識のうちに立ち上がり、走り出したところを仲間に取り押さえられた。
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