婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子

文字の大きさ
23 / 65

23 もう一度、チャンスを(ラウル視点)

しおりを挟む
「ラウル、今は我慢だ!」

「マルセルに任せろ!」

 両手両足に胴体と、五人がかりで動きを抑えられた俺は、必死に首を伸ばした。すると、殿下と並んで歩くアリス殿が見える。その指には、キラリと光る物があった。

(指輪だ! 捨てたんじゃなかった!)

 今もつけていてくれるなら、少しくらい希望を持っていいだろうか。誤解があるなら解きたい。冷たい態度で傷付けてしまったのならば全力で謝る。頼むから、このまま終わりにしないでくれ。

 アリス殿たちと距離をとりながら進み、祈るような気持ちで合図を待つ。

 街の家具屋付近でマルセルから連絡が入り、ようやくアリス殿に会えるチャンスを得た。 
 
 泣きそうになるのを堪えながら、彼女のもとへ向かう。今度こそ、このくちを完璧にコントロールするのだと、強い気持ちを持って臨んだのだが、それがいけなかったのだろうか。

 彼女が店内に突入した。

「え、え、え!? そんな作戦だっけ?」

 マルセルは動揺しているし、殿下はこめかみを抑えて、苦悶の表情をしていた。

 アリス殿は、俺を見て慌てて飛び込んだように見えたが、そんなに嫌われていたのか。ショックのあまり、呆然と立ち尽くす。

「ラ、ラウル、予想外のことが起きたけど、大丈夫だ。この店を騎士で囲もう。何事もなければ正面から、何か起これば裏口から出てくるから」

 意外に活動的なアリス殿に驚いたのか、マルセルが動揺している。

 俺は、追いかけたい衝動を抑えるのに必死だった。何かあってからでは遅いからだ。

「……確かに、狭い店内で戦うのは、危険だな」

 マルセルの言うことももっともなので、ここは、理性を優先させた。だんだん彼女が分かって来た俺は、裏口に回りながら考えを整理する。

 学園では貴族令嬢として振る舞っているが、本来のアリス殿は、昔と変わらず快活な少女なのだ。それが嬉しくもあるし、気付くのが遅くなったことを、悔しくも思う。

 気が付くと、目の前に殿下が立っていらした。

「ラウル様、今、マルセルから聞きましたわ。部外者が口を出すのは気が引けますけれど、敗者復活戦が始まったのは本当ですの?」

「……はい」

 現実を突きつけられ、情けなさと悲しみが込み上げる。アリス殿と親しい殿下は、俺を好ましく思っていないだろう。きっと、今回のことを喜んでいらっしゃるはずだ。

 だが、殿下は、優しく微笑まれた。

「では、いい所を見せないといけませんわね。あの子は強い殿方に憧れを持っていますから、どうぞお一人で悪い奴らをやっつけてくださいませ。ぜひ、正義の味方風に登場なさることを、お勧めいたしますわ」

「はい?」

「さあ、名誉挽回のチャンスですわ! 張り切って参りましょう!」

 殿下は、応援してくれるのか。俺を排除しようとしても、おかしくないのに。お心を推し量ることは出来ないが、ご厚意は素直に受け入れよう。

「……承知しました」

 混乱する頭を一旦放棄し、任務に集中する。アリス殿と子どもたちを、無事に助け出さなくてはならない。

 しばらくして、縄で縛られたアリス殿が、男に担がれて出て来た。俺は怒りのあまり、どうにかなりそうだ。剣を持っていたら、間違いなく一刀両断してしまうだろう。

 アリス殿には凄惨な場面は見せたくないから、全員を体術で倒すことにした。仲間たちが見せ場を譲ってくれたが、本当にこれで、彼女の心に変化はあるのだろうか。殿下を疑うわけではないが、少し不安だ。

 そんなとき、得体の知れない黒いモヤが、またもや体から抜けて行く。

「大変ですわ!」

 殿下の声で、彼女がいなくなったことを知った。

「ラウル様、すぐに追ってくださいませ! 護衛も付けずに街を行くなんて、今のアリスには危険すぎますわ!」

「でも、俺は、アリス殿に嫌われていて……」

 思わず、弱音を吐いてしまった。実際、他の騎士が付いたほうが彼女も喜ぶだろう。落ち込む俺に、マルセルが申し訳なさそうに近付いてきた。

「ラウル、すまない。アリス殿の誤解が解きたくて、お前の気持ちを伝えようとしたのだが、妨害が入って出来なかった」

 いつものやつだ。
 マルセルが無事でよかった。

「お前が危険な目に遭うことはない。気持ちだけで十分だ」

 それに、今までのすれ違いは、気のせいや勘違いで済ませられるが、今回ばかりは、明らかに避けられていることが分かる。彼女は、自分の意思で俺から逃げているのだ。

「マルセルを止めたのは私です。私も散々な目に遭っていますから、見ていられませんでしたの」

 殿下の言葉を聞いて、驚いた。危険を承知で話そうとしてくださったとは。なぜ、そこまでして俺を庇うのだ。

「反省している場合ではありませんわ。 早く行ってくださいませ!」

「はい、いえ、でも」
 
 もちろん、行きたいのは山々だ。しかし、彼女の気持ちを考えると、すぐに返事が出来なかった。
 そこで、殿下の表情が一変する。

「ラウル様! アリスを見捨てるのですか!?」

「え」

 この場合、見捨てられたのは、俺のほうではないのか。殿下の、怒りのポイントが分からない。

「嫌われているからって、それが何ですの!? これまでの努力を、水の泡にするおつもりですか! それとも、アリスに対する想いは、その程度でしたの!? これは、とんだ見込み違いでしたわね!  とんびに油揚げをさらわれるのを、そこで指をくわえて見ていればよろしいのですわ!」

 激しい憤りをぶつけられるとともに、期待外れとののしられ、俺はぐうの音も出なかった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

【完】愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 第18回恋愛小説大賞で、『奨励賞』をいただきましたっ! ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。 ※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)  

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

白い結婚で結構ですわ。殿下より、私の自由のほうが大事ですので

鍛高譚
恋愛
「第二王子との婚約? でも殿下には平民の恋人がいるらしいんですけど? ――なら、私たち“白い結婚”で結構ですわ。お好きになさってくださいな、殿下」 自由気ままに読書とお茶を楽しむのがモットーの侯爵令嬢・ルージュ。 ある日、突然“第二王子リオネルとの政略結婚”を押しつけられてしまう。 ところが当の殿下は平民の恋人に夢中で、 「形式上の夫婦だから干渉しないでほしい」などと言い出す始末。 むしろ好都合とばかりに、ルージュは優雅な“独身気分”を満喫するはずが…… いつしか、リナという愛人と妙に仲良くなり、 彼女を巡る宮廷スキャンダルに巻き込まれ、 しまいには婚約が白紙になってしまって――!? けれどこれは、ルージュが本当の幸せを掴む始まりにすぎなかった。 自分を心から大切にしてくれる“新しい旦那様”候補が現れて、 さあ、思い切り自由に愛されましょう! ……そして、かの王子様の結末は“ざまぁ”なのか“自業自得”なのか? 自由気ままな侯爵令嬢が切り開く、 “白い結婚破談”からの痛快ざまぁ&本当の恋愛譚、はじまります。

「君は地味な裏方だ」と愛人を優遇するサイコパス気質の夫。〜私が去った後、商会の技術が全て私の手によるものだと気づいても、もう手遅れです〜

水上
恋愛
「君は地味だから裏方に徹しろ」 効率主義のサイコパス気質な夫は、妻であるクララの磨いた硝子を愛人の手柄にし、クララを工房に幽閉した。 彼女は感情を捨て、機械のように振る舞う。 だが、クララの成果を奪い取り、夫が愛人を壇上に上げた夜、クララの心は完全に凍りついた。 彼に残した書き置きは一通のみ。 クララが去った後、商会の製品はただの石ころに戻り、夫の計算は音を立てて狂い始める。 これは、深い絶望と、遅すぎた後悔の物語。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

「格が違う」なら、どうぞお好きに。あなたも、鍵印のない範囲でお幸せに。

なかすあき
恋愛
王都の大聖堂で迎えた結婚式当日。 花嫁セレナは控室で、婚約者アルトから突然の破棄を告げられる。 「格が違う」 それが理由だった。代わりに祭壇へ立つのは名門令嬢ミレイア。会場は勝者を祝福し、アルトの手首には華やかな血盟紋が輝く。 だが、盟約の儀が進むほどに“信用”の真実が姿を現していく。大司教が読み上げる盟約文、求められる「信用主体確認」。そしてセレナの鎖骨にだけ浮かび上がった、真層の印「鍵印」。 拍手が止まった瞬間、彼の勝利は終わる。 泣かず、怒鳴らず、おごそかに。セレナは契約を“手続き”として完了し、最後に一言だけ置いて去っていく。 静かな処刑がもたらす、痛快な逆転劇。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処理中です...