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罠に嵌った青年

誘拐

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 「お兄さん、お兄さん、大丈夫ですか?」正太は男に体を揺すられていた。

 「ふぁい?あっ!あれ、ここは何処?あっそうか、ヤバいっ、寝ちゃったんだ!」正太は一気に立ち上がるとよろけてしまう・・・

 「おっと、大丈夫ですか?」正太は男に体を支えられた。

 「あっ、すみません・・・だ、大丈夫です・・・」

 「大丈夫に見えないですよ、グデングデンじゃないですか・・・」

 「あれ?変だな・・・体が思うように動かない・・・フラフラする・・・あれくらいの酒でこんなになるなんて・・・」

 正太は学生時代から酒豪で名が通っており、確かにめちゃくちゃに飲んではいたが、だからと言って動けなくなるほどではないはずだった。

 「俺の体、なんか変だ・・・」正太はベンチに座り直して思った。

 「お兄さん、何処まで帰るの?もう終電ないよ?」男は正太に声を掛けた。

 「そうっすよね・・・終電はもうないですよね、横浜まで帰らないといけないんです・・・タクシーかな・・・」

 「調子に乗って後輩に奢っちゃって、金ないんすけど・・・あっ、すみません、こちらのことです・・・」正太は口を滑らせた。

 「お兄さん、私も横浜方面に帰るから良かったら一緒にタクシーに乗っていきませんか?もちろん支払いはついでなので結構です」

 「えっ?いいんですか?それは凄く助かります!」

 「お兄さん、じゃあ行きましょうか、歩けますか?」

 「はい、もちろん、あれっ?」正太は立ち上がろうとするとよろけてしまう・・・

 「お兄さん、だいぶ酔っ払っていますね、ちょっと待っていてください・・・」男は正太の側を離れた。

 「どうしよう・・・知らない人に迷惑かけちゃっているよ・・・でも、何でこんなに体が動かないんだろう」正太はボーっとする意識の中で考えていた。

 「待たせちゃってごめんね、水を買ってきたから飲んで!」

 「えぇっ!そんな・・・申し訳ありません、お金はお支払いしますから」

 「いいからいいから!」男は優しく微笑んでいる。

 「何ていい人なんだろう・・・」正太はボトルのキャップを開けて水を飲む。

 「うわぁ、水がこんなに美味いなんて!ありがとうございます!」

 「こうやって会ったのも何かの縁です、あ、そうそう、俺、たまたま二日酔いの薬持っていたからこれを飲みなさい!」

 男は鞄から錠剤を取り出して1錠正太に手渡した。

 「そんな、すみません、助かります・・・」正太は躊躇ちゅうちょする事なく、錠剤を水で流し込んだ。

 「さぁ肩を貸すからタクシー乗り場まで行こうか」男は正太の左腕を自分の肩に掛け、正太に体を密着させ立たせた。

 男は大柄な正太を意図も軽々と支え、力強くグイグイとタクシー乗り場へ向かう。

 「凄いなぁ、この人・・・何だかカッコいい・・・頼りになる兄貴!いやお父さんみたいな人だ・・・」

 遠ざかる意識の中、正太は思った。

 正太の父親を早くに亡くし、父親の愛情を知らないで育った。

 正太は酔いも手伝ってか、見知らぬ初めて会う男に自分の父親像を重ね合わせていた。

 「お兄さん、まだ寝ちゃ駄目だぞ!いくら俺だって、大柄なお兄さんが寝ちゃったら連れて帰れないぞ!」

 「あっ、すみません、頑張ります!」正太は意識が落ちないように必死に頑張った。

 二人はタクシーに乗り込むと、正太は眠りに落ちた・・・

 男の肩に寄りかかりスヤスヤと眠る正太。

 正太の寝顔を見て男はニヤっとするのだった・・・



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