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 食事の後、甥夫婦はタカシとジャックが話しているのを楽しんで見ていた。ミルもその場にいた。
 真佐希まさきは一人でソファに座ってミルクティーを飲んでいた。

「ここ、座ってもいい?」
 美貴みきが真佐希に声をかけた。
「あ、はい...」
 真佐希は照れた。
「これ、真佐希君へプレゼント」
 美貴は20センチ四方の箱を渡した。
「ありがとうございます」
 真佐希は頭をペコリと下げながら受け取った。
「基礎化粧品なの」
「え? 開けてもいいですか?」
 真佐希の顔が明るくなった。

「最近は男の子も肌の手入れをする時代になったしね。この化粧品メーカーは無添加で肌にやさしいの」
 真佐希は開封すると、
「あ! 僕、ここの化粧品、知ってます。すごくいいやつです」
「ふふふ。私もコレを使っているの。洗顔と化粧水と乳液とパックね。3ヶ月分あるわ。あと、これはクレンジングオイルなんだけどファンデーションとか塗ったりする?」
「...たまに」
「今どきの男の子はおしゃれだもんね。服も女の子っぽいの着てたり」
「....僕、女の子の服を着るの好きです」
「うん、似合うと思う」
 美貴は驚かずにサラリと答えた。

 驚かない美貴に真佐希はしゃべり続けた。
「..でも、ヘンタイって言われる..」
「視野の狭い人たちがいるからね。日本は遅れてるし。でも、今は昔よりだいぶマシになってきたと思うわ。それに女装が好きな男性は結構多いしね。タレントにもいるし。自分で生活できるようになれば、気にせず女装を楽しんでいいと思うわ」
 美貴は微笑んだが、真佐希はうつむいた。
「...おばあちゃん達の世代には理解されないと思う」
「話してみたの?」
「うん、ていうかバレた」
「その時、おばあちゃんはなんか言ってた?」
「もっと男らしくしなきゃって」
「そっか。"僕は女装が好きなんだ" って言ってみるのはどう?」
「無理だよ。理解してもらえないよ。おばあちゃんはこんな僕が恥ずかしくて仕方ないんだ」
「そんなことないわよ。一人孫だし。さっきキッチンでお手伝いをしてたんだけど、冷蔵の中に途中まで出来上がったケーキが入っているのを見つけたの。多分、今日の朝一番に作ったんだと思うわ。そのケーキを見てすぐにわかったわ。おばあちゃんは本当にあなたの誕生日を心から喜んでいるんだって。誕生日って無事に一年間生き延びてくれたお祝い日なのよ。あなたのご両親が早くお亡くなりになった分、あなたの成長を一番喜んでいると思うわ。だから、必ずあなたの生き方を賛成してくれるはずよ」
「.....もし、美貴さんの子供が僕みたいだったらどうする?」
「ん~...最初はサッカーや野球に夢中になるわんぱくな男の子に育ってほしいと思うけど、最後は本人の生き方を応援するわ。だって、子供に願うのはたった1つだけよ。いつまでも健康で無事に生き延びてほしいってね。そして、子供が楽しい人生を送っているのであればそれだけでいいわ」

 真佐希はジッと美貴を見つめた。
 美貴は親しげに微笑んだ。
「うちのマンション、ここから歩いて15分くらいなの。遊びにいらっしゃいよ。私、コスメオタクだからいろいろ化粧道具も持ってるわよ。見せてあげる」
「ホント? 今度見に行く」
 真佐希は喜んだ。
「ジャックを連れて来てくれるとタカシも喜ぶわ
 二人はタカシを見た。
 タカシは甥夫婦とミルの三人の前で四つん這いになってジャックとワンワン話し合っていた。大いに盛り上がっていた。

 美貴とタカシは、甥夫婦を残しながら家を去るのはちょっと心配だったが、時間になったので帰ることにした。

 家に帰り着くとタカシが言った。
「さっき、ジャックから聞いたけど、あの甥夫婦、相当悪い連中みたいだぞ」
「うん、わかる。感じ悪かったもん」
「塀に梯子をかけて勝手に家の中に侵入してくるらしい」
「不法侵入じゃない!」
「しかも、ちょっと金目のものを見つけると盗むらしいぞ。ジャックは催眠スプレーを何度もかけられて被害を受けてるそうだ」
「窃盗罪と動物愛護法違反ね。親戚だからって大目に見る必要はないわ。アイツらいつかバチが当たるわ!」
 タカシは洗面所で手を洗ってうがいをした。

「そうだ。真佐希君にうちに遊びにおいでって言ったから、来たら仲良くしてあげてね」
 タカシはうがいした後ゴクッと飲んだ。
「おう、わかった」
「...ホント、飲むの好きね」
「胸のこの辺がスーッとして、あとからじんわりくるんだ」
 嬉しそうな顔でタカシは語った。
「それが好きなのね....」
 美貴はタカシの行動にかなり順応してきた。

 日曜日の朝、
「じゃ、オレ、仕事行ってくるよ!」
 スーツを着たタカシが家を出た。
「行ってらっしゃーい」
 美貴は義母の退院の準備をした。

 タカシは公園の通りでジャックを散歩させている真佐希に会った。
「真佐希君、昨日はありがとう!」
「タカシさん! こちらこそ。美貴さんからプレゼントもらいました。ありがとうございます」

 真佐希を見てニコニコしているタカシにジャックが「ワン!」と吠えた。
「おっ、マジで?」タカシは遠くを見た。

「アレか...真佐希君、もうすぐジャックの彼女が来る」
「え! 昨日話してた白のシェパード?」
「そうそう。ああ、来たぞ」
 ジャックが尻尾を振り出した。

「おはようございます」
 タカシが泉田いずみだに声をかけた。
「おはようございます。今日はミルさんは?」
「ミルさんは家でお休み中です。こちらはミルさんのお孫さんです」
「真佐希です..」
 照れながら挨拶すると、
「やぁ、こんにちは。泉田です」
 泉田はやさしく微笑んだ。

 ジャックとモモコがじゃれ合った。

「すみません...ジャックがなんかモモコさんのことが好きみたいで」
「ああ、いいんだ。モモコもイヤじゃなさそうだし」
 泉田は機嫌がよかった。
「お! ジャック、チャンス到来かもよ」
 タカシがジャックに言うと、
「ばふ~ん」とジャックはニタついた。

 真佐希はチラチラと何度も泉田を見ていた。
「真佐希君、泉田さんはあの億ションに住んでる、ある会社の社長です」
 タカシが続けて泉田に、
「真佐希君は一戸建て豪邸に住んでる坊っちゃんです」
 とそれぞれに紹介した。

「お金持ちのお二人はどうぞこのまま犬の散歩をお楽しみください。貧乏人の私は仕事に行ってきます!」
 タカシは走って駅へ向かった。
「おもしろい人だろ? タカシさんは」
 泉田は真佐希に笑いかけた。
「はい、本当に犬語を話せるんです。初めて見ました」
「くくく。私も初めて会ったよ。それはそうと、君のおばあさんのミルさんが20年前まで海外で活躍していたフラワーアーティストだというのを思い出したよ」
「え! おばあちゃんが?」
「あれ? もしかして知らなかった?」
「聞いたことないです」
「君が生まれる前の話だしね。10年前に引退したのは君の面倒をみるためだったんだな。テレビにもよく出てたんだよ」
 泉田はやさしく微笑んだ。真佐希はその笑顔に見惚れた。

「今日はジャックとモモコのために川沿いを散歩しようと思うんだが、行きたいところある?」
「い、いいえ」
「よし、じゃ行こうか」

 二人は二匹を連れて一緒に散歩した。
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