ヤバい!魔王が息してない!~英雄になれない最強忍者と白い犬の異世界忍法帖~

友理潤

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プロローグ

その死は計画外!

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しのびたるもの、任務遂行には計画を大切にせよ」

これは伝説の忍者である俺の祖父(じいちゃん)が、俺に教えてくれた忍者としての心得の一つだ。
しかし、目の前の「計画外」の事態に、俺はなすすべを失っていた。

――これはヤバイ!どうしたらいいんだ!?

ここは難攻不落の魔王城のとある部屋の中。時は丑三うしみつ刻、つまり深夜…あたりは寝静まり、新月である今宵のあかりと言えば、空に輝く星々しかない。
俺、忍者のコウガ・サイゾーは、黒装束を身にまとい、とある人物の「魔王城の見取り図を作って欲しい」という依頼事を遂行する為に、単身でその魔王城に忍びこんでいる。
依頼事は「計画通り」に進んでいたのだが、たった一つの不幸な出来事によって生じた「計画外」の状況に、今までの18年の人生の中で最も大混乱していた。
ただ、叫びたい衝動を抑えられるほどには、理性は残っているらしい。物音一つ立てずに、静かにたたずんでいる俺の外見は冷静そのものだが、その胸の内は、大火事の家屋の中にいるような、パニックの真っ只中にいた。

落ち着こう…まずは落ち着け…

そう自分に言い聞かせ、ゆっくりと深呼吸をする。そして、俺の師匠である、祖父じいちゃんの言葉を思い返していた。

しのびたるもの常に冷静であれ」

である。
今は亡きじいちゃんの厳しい教えを思い起こそうと、目をつむる。

鬼のように怖かったじいちゃん…
ポックリと死んでしまったとき、地獄の特訓の日々が終わると、少しだけホッとしたのは内緒だ。

じいちゃん…今さらだけど、じいちゃんが死んだのを喜んでしまって、ごめんよ。
俺は心の中でじいちゃんを想い、合掌しておいた。

そんなどうでもいい事を考えているうちに、大火事だった俺の胸の内が、少しずつ鎮火していくのが自分でも分かった。

そして心臓の鼓動が、元の速度まで戻りつつあるのを確認したのちに、そっと目を開けてみた…が、しかし…

目の前に横たわる死体が目に入った瞬間に、ようやく抑えたはずの汗が体中から吹き出し、再び心臓の鼓動がノリのいい音楽に合わせて鳴り響く太鼓のように小気味よいテンポを刻んで早くなるのだから、たまったものではない…

自分で言うのも何だが、里で一番の忍者である俺が、冷静になる術をしらないほどに、重大なことをやらかしてしまったのだ…

それは目の前の屍の元の持ち主が、あまりにも「大きすぎる」からである。

そう…この死体こそ、人類にとって最大の敵、世界平和を脅かす最凶の悪魔…
魔王ルシファーその者であった…

つまり俺がやらかしてしまったこと…

それは、魔王をこの手で殺してしまったのである。

いや!「殺してしまった」というのは語弊がある!
これは事故だ!突発的かつ偶然に起こってしまった事なのだ!

まさか、最後に忍びこんだこの部屋が魔王の寝室で…
まさか、偶然に寝ぼけた魔王と鉢合わせになり…
まさか、もう一度眠ってもらおうと思って、首筋に刺した眠り薬を塗った針が、急所を刺してしまうなんて…

全部「偶然」のたまものじゃないか!!

特に最後のくだりの、「急所を刺してしまう」確率に至っては、1/10000だぞ!!
俺の「運」のステータスは最低ランクなんだぞ!
それなのに急所を刺してしまうとは何事だ!不運にもほどがあるだろ!

って…まさか…
「運」が最低ランクだから、急所を刺してしまったのか…

くっそぉぉぉぉぉ!!
「運」によって全てを決めている「運命の女神」なんてヤツがいたなら、そいつは絶対に許さん!
出てこいや!!こらぁ!!

そもそも、魔王!
おい!そんな簡単に死んだらダメだろぉ!
なにをやってるんだよぉ!?
お前は最後のボスで、勇者に倒されるのが宿命じゃないか!

戻ってこい!戻ってこい!戻ってこぉぉぉぉい!

もう一度言っておくと、俺の外見は至って冷静沈着。
これは心の中の俺が、どうしようもない現実にじたばたしているだけなのだ。


こうして一人の忍者の手によって、世界の平和が訪れたのだった。めでたし、めでたし…
なんて事になればいいのだが、そんな風に上手くいくなら、天地がひっくり返るほどの混乱などしていないわけで…

それは俺の生まれ育った忍者の里に、こんな掟があるからだ。

「忍たるもの、英雄となってその名をあげてはならない。
その名は常に影に隠れてなくてはならず、もし日の目を見ることとなった場合、その一族は里を出なくてはならない」

この鉄の掟に従うならば、俺が魔王を殺してしまった事実を、『絶対』に知られてはならない。もし俺が「魔王を討伐した世界の英雄」になんてなってしまったあかつきには、俺の家族は全員里を追われてしまう。
由緒ある最強忍者のコウガの家系を俺がつぶしかねないのだ。
そんな事になったら…殺される…絶対に…俺のじいちゃんより怖い、俺の姉ちゃんに殺される…

「本当にどうしたらいいんだ…」

そう途方に暮れた俺は、何かの気配を足元に感じた。

「何者だ!」

と、声には出さずに、殺気を込めてその気配に視線を送る。

もしこの場面を何者かに見られていたなら…その者を消さねばならない。
俺はとっさに身構えたが、目に入ってきた相手に対して、拍子抜けしたように肩の力が抜けてしまった。

そこには白い毛玉のような犬が一匹が、毛を逆立てて俺を睨みつけて、牙をむき出しにしていた。
モコモコした柔らかそうな白い毛、目はクリッとして、小さな鼻と口、片手でも抱えられそうな小さな体。
一言で言えば、ラブリーな小型犬だ。

「なんだ…驚かせるなよ…お前を相手している場合ではないんだ。あっちへ行ってろ」

シッシッと手をひらひらさせて、白い犬を追い払おうとする俺。

しかしその犬は、目の前の見知らぬ人物が不審者だと思っているらしい。
いや、現に不審者そのものなのだが…
まさに今から吠(ほ)えようかという構えを見せて、
「う~~~っ…」
と、唸(うな)っている。

これはマズイ!
今「ワンッ!」と吠えられでもしたら、ここまで誰にも気付かれずにここまで潜入してきた俺の努力は水の泡だ。

俺は自分の口に右手の人差し指をあてて、「シーッ」と言い、暗に「吠えるなよ!」と、目の前の白い毛玉の犬にサインを送る。
しかしそんな俺などお構いなしに、喉を鳴らし続ける白い犬。なかなかの忠犬ぶりに、感心する俺。
ちょっと待て!感心している場合かぁ!?
と、一人でつっこむと、俺は即座に行動に移した。
まさにその犬が吠えようとしたその瞬間、俺は犬の口を塞ぎ、抱きかかえてその部屋を駆け出してあとにしたのだ。

この犬を拉致するように抱えて逃げ出したのは、この城では絶対に俺の存在がバレてはならないからだ。
放っておいたらこの手元の白い毛玉は、城のすみずみにまで響き渡るほどのけたたましい声で吠えることは明白であった。
「これは何かあったに違いない!」と勘付いた魔物たちが集まってきて、たちまち俺は囲まれてしまうだろう…
そうなるわけにはいかなかった。

俺の腕の中で必死に暴れるモコモコした気持ちいい感触の犬。
俺はその犬を抱えたまま、疾風のように、城から脱出したのだった。

この時の俺…
本当に「無計画ノープラン」。
「どうにかなるさ」と、半ば諦めるように思いながら、荒野を夜通し走り続けたのだった。


しかしこの時からすでに「運命」という名の「神が作りし計画」も同じように走り出していたんだ。
それは俺と俺の小脇に抱えられた小さな白い犬が、「英雄」と呼ばれるようになる「計画」のことなのだが、この時の俺はそんなことを思いもよらなかったわけで…


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