27 / 60
第三幕 伝言ふたつ
27.ちょっと待った!
しおりを挟む
◇◇
場がしんと静まり返る中、煙をくゆらすように尻尾を揺らしたフクは、丸くなりながらつぶやいた。
「これで分かったろ。じいさんの伝言をばあちゃんに言うわけにはいかねえってことが……」
そのとおりね……。
おばあさんの素敵な思い出に対して、おじいさんは逆に申し訳ない気持ちでいっぱいだったなんて、言えるわけないもの。
おじいさんはどう思っているんだろう。
フクから目を離し、おじいさんに視線を移す。
その次の瞬間、私は思わず「えっ?」と声をあげてしまった。
なぜなら彼の目は喜びに満ちていて、頬は興奮で赤くなっていたのだから――。
「そうか……。みず江は幸せだったのか……。それはよかった。本当によかった」
おじいさんは思いの丈を絞り出すようにそう言うと、空になりかけたコーヒーカップを持ち上げた。その手はわずかに震え、結んだ唇もまた小刻みに動いている。
油断すれば涙が落ちてしまいそうなのを必死にこらえているのは、「孫の前で泣いてたまるか」という彼の意地なのかもしれない。
そしておじいさんはコーヒーを口にする前に、フクに対し、あらためておばあさんへの伝言を告げたのだった。
「私もみず江のことを愛している、と伝えてほしい」
とてもシンプルだけど、おじいさんらしくていいと、私には思えた。
美憂さんも同じように感じたのだろうか。うんうんと満足そうにうなずいている。
でもフクは相変わらず意地っ張りみたい。
ふと顔をあげると「気が向いたらな」とだけ言って、また顔を伏せてしまったのだ。
そんなフクに対しておじいさんは穏やかな口調で問いかけた。
「おまえは私のことが嫌いか?」
「ふん、聞くまでもないだろ。それにじいさんだって俺のことなんか、なんとも思ってないんだろ? そもそも俺を施設から連れ出してくれたのは、ばあちゃんだったんだから」
彼らの会話はそれっきり途絶えた。
おじいさんは小さな笑みを浮かべた後、残ったコーヒーをくいっと飲み干した。ほぼ同時に、ちりりんと鈴の音が鳴る。
ソラだ――。
いつも通りに険しい表情をした彼は、テーブルの前までやってくるなり、ぐいっとお腹を押されるような張りのある太い声をあげた。
「黄泉送りの時間だ」
柔らかな空気がピリッと張り詰め、美憂さんの背筋がすっと伸びる。ぴょこんと地面に降り立ったフクは4本の足を踏ん張って、大きく伸びをした。
「じゃあな」と、素っ気なく言ったフクは、ソラに向かってテクテクと歩いていく。
そんな中だった。空気を切り裂くような高い声が響いたのは――。
「ちょっと待って!!」
その声の主は何を隠そうこの私、関川美乃里だった。
場がしんと静まり返る中、煙をくゆらすように尻尾を揺らしたフクは、丸くなりながらつぶやいた。
「これで分かったろ。じいさんの伝言をばあちゃんに言うわけにはいかねえってことが……」
そのとおりね……。
おばあさんの素敵な思い出に対して、おじいさんは逆に申し訳ない気持ちでいっぱいだったなんて、言えるわけないもの。
おじいさんはどう思っているんだろう。
フクから目を離し、おじいさんに視線を移す。
その次の瞬間、私は思わず「えっ?」と声をあげてしまった。
なぜなら彼の目は喜びに満ちていて、頬は興奮で赤くなっていたのだから――。
「そうか……。みず江は幸せだったのか……。それはよかった。本当によかった」
おじいさんは思いの丈を絞り出すようにそう言うと、空になりかけたコーヒーカップを持ち上げた。その手はわずかに震え、結んだ唇もまた小刻みに動いている。
油断すれば涙が落ちてしまいそうなのを必死にこらえているのは、「孫の前で泣いてたまるか」という彼の意地なのかもしれない。
そしておじいさんはコーヒーを口にする前に、フクに対し、あらためておばあさんへの伝言を告げたのだった。
「私もみず江のことを愛している、と伝えてほしい」
とてもシンプルだけど、おじいさんらしくていいと、私には思えた。
美憂さんも同じように感じたのだろうか。うんうんと満足そうにうなずいている。
でもフクは相変わらず意地っ張りみたい。
ふと顔をあげると「気が向いたらな」とだけ言って、また顔を伏せてしまったのだ。
そんなフクに対しておじいさんは穏やかな口調で問いかけた。
「おまえは私のことが嫌いか?」
「ふん、聞くまでもないだろ。それにじいさんだって俺のことなんか、なんとも思ってないんだろ? そもそも俺を施設から連れ出してくれたのは、ばあちゃんだったんだから」
彼らの会話はそれっきり途絶えた。
おじいさんは小さな笑みを浮かべた後、残ったコーヒーをくいっと飲み干した。ほぼ同時に、ちりりんと鈴の音が鳴る。
ソラだ――。
いつも通りに険しい表情をした彼は、テーブルの前までやってくるなり、ぐいっとお腹を押されるような張りのある太い声をあげた。
「黄泉送りの時間だ」
柔らかな空気がピリッと張り詰め、美憂さんの背筋がすっと伸びる。ぴょこんと地面に降り立ったフクは4本の足を踏ん張って、大きく伸びをした。
「じゃあな」と、素っ気なく言ったフクは、ソラに向かってテクテクと歩いていく。
そんな中だった。空気を切り裂くような高い声が響いたのは――。
「ちょっと待って!!」
その声の主は何を隠そうこの私、関川美乃里だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─
石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」
貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。
「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」
かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。
ときどき舞い込んでくるトラブル。
慌ててミーナを探しているルカ。
果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。
甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。
*サイトより転載になります。
火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~
秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。
五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。
都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。
見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――!
久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――?
謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。
※カクヨムにも先行で投稿しています
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる