着ぐるみ若葉におまかせあれ! 〜がけっぷち商店街からはじまる、女子高生と着ぐるみの青春物語〜

友理潤

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第一話

第一話 神崎若葉 キグジョ誕生! ②

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◇◇

――商店街の未来が若葉にかかってるんだよ! この通り! 一生のお願いだ!

――地域の子どもたちに『りゅっしー』の存在が知り渡れば、商店街の活気が戻ってくるんじゃないか、ってみんなで話し合っていたんだ!

――いつも明るい若葉ちゃんなら、きっと『りゅっしー』を人気者にできる! いや、若葉ちゃんしかいないんだ!

 と、必死に頭を下げるパパたちを見たら、引き受けるしかないじゃない。
 ほんと大人ってずるいんだから!

 ……とは言え、商店街の活気が日に日に失われていくのを、前々から気に病んでいたのは確かだ。

 商店街で生まれ育ったと言っても過言ではない私は、一件、また一件とシャッターを下ろすお店が出るたびに、身が切られるような痛みを覚えていた。

 だからこそ地域の人々が大勢集まるフリーマーケットで『りゅっしー』を利用して、商店街のPRをしたいというパパたちの切実な願いを、無下にできなかったのだった。

 そこで……。

――絶対に私だってバラさないこと! それに、りゅっしーになるのは今日だけだからね!

 という条件で、しぶしぶ『りゅっしーの中の人』を引き受けることにしたのだ。
 だからこの時は、りゅっしーの中に入るのが嫌で嫌で仕方なかった。
 
 けど、一度引き受けたからには妥協したくないのは、パパゆずりの頑固な気質からだろう。
 
 りゅっしーの中にすっぽりとおさまりきる頃には「やってやるぞ!」というやる気がみなぎり、強い決意が口をついて出てきたのだった。

「どーんと、若葉におまかせあれ! きっと『りゅっしー』を有名にしてみせるから!」

「おおっ!!」

 それを聞いた商店街の人々は、感嘆の声をあげ、手を叩いて喜んでくれた。
 パパなんか感極まって涙を流している。そんなパパをからかうと、顔を真っ赤にして怒ってきた。

「バカヤロウ! 可愛い娘の『晴れ姿』を拝めたんだ。もういつ死んでも後悔しねえよ」

 その言葉に今度は私が顔を真っ赤にして頬を膨らませる。

「ちょっと! 『晴れ姿』ってなによ! そういうのは普通、『花嫁姿』まで取っておくものじゃない!」

 そんな親子の掛け合いが可笑しかったのか、商店街の人々がどっと湧いた。
 
 もう……。恥ずかしいったらありゃしないわ!

 でも、まったく悪い気はしなかった。
 むしろ抑えきれぬ高揚感に、全身の血が沸騰していくと、右手が勝手に高々と突き出された。

「おお! 頑張れ! 若葉ちゃん!」
「ファイト! 若葉ちゃん!」

 拳をぐっと握って気合いを入れると、彼らの声援を背中で聞きながら、力強い足取りで運営本部をあとにしたのだった。


 しかし、情けないことに情熱はわずか五分ももたなかった――

――もう嫌だぁ……。あつーい……。

 初夏といってもいい強い陽射しのもと、着ぐるみの中はまるでサウナのように蒸し暑く、まだ会場につかないうちから、全身が汗でびっしょりになってしまったのだ。
 
 もしかしたら全身の血が沸騰したのは、単にりゅっしーの中が暑かっただけのような気もしてきた……。

 先ほどまでの熱意はとっくに霧散し、今すぐに着ぐるみを脱いで水風呂にダイブする妄想だけが頭の中を支配している。
 
――こんなキツいだなんて、聞いてないよぉ。
 
 朦朧とした意識の中、ふらふらしながら歩いていると、付き添いの藤田不動産の主人、健一おじさんが声をかけてきた。

「若葉ちゃん、大丈夫かい?」

 強面(こわもて)で、よくその筋の人に間違われる健一おじさんだが、心根はすごく優しい人だ。
 心配をかけてはならないと思い、強がって首を縦に振った。
 その様子を見た健一おじさんは、ニコリと微笑みかけてくれた。

 しかしその笑顔すら悪寒を感じるのだから、この人が怒ったらどんだけ怖いのだろうか……。
 
 そんなくだらないことを考えているうちに、健一おじさんは、来場者に向かって大声を張り上げたのだった。

「はい、みんなぁ! 今日はりゅっしーが遊びにきてくれたよぉ!」

 着ぐるみに身を包んだ私は、外から見えないにも関わらず、懸命に笑顔を作って人々に手を振る。

――りゅっしーを見た子供たちが笑顔になってくれるなら、私は頑張れる!

 そんな風に前向きに考えて、今は必死にりゅっしーを演じようと心に決めたのだ。

 だが……。
 現実は着ぐるみの中とは正反対で、凍えるように冷たかった――

「ママ? あの『変なの』なあに?」
「ママも知らないわ。パパ知ってる?」
「うむ、知らん。『変なの』には近寄ったらいかんよ」
「はぁい! パパ!」

 なんと完全に『変なの』扱いで、誰も近寄ろうとしてこなかったのだ。
 
――ちょっとぉ! こっちは汗だくになりながら必死に演じているのに、『変なの』はないでしょ!

 親子の会話を耳にした瞬間に地団太を踏むと、健一おじさんが慌てて耳打ちしてきた。

「ダメだよ! 若葉ちゃん! りゅしーは日本語を知らないし、しゃべれないって設定なんだから」

――なんなの!? その意味不明な設定は!?
 
 不思議に思って首をかしげた途端に、りゅっしーのやたら大きな頭の重みでぐらりとバランスを崩してしまった。
 
「危ない! 若葉ちゃん! 気をつけて!」

 健一おじさんが必死に私の頭を支えてくれたからどうにか体勢を立て直したものの、そのまま横倒しに倒れなくて本当によかった。もし倒れたひょうしに頭がすっぽりと外れてしまったら、それこそ一大事だ。
 
 だって『変なの』の中の人が、私だって知れ渡ってしまうのだから……。
 
――早く終わってー! こんなバイト嫌だぁぁ!
 
 バイトが始まってからまだ一〇分。
 早くも私の心はバキバキに折れていたのだった――
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