デバッグ中のゲームにバグとして転送されてしまったのでとにかく逃げようと思う

友理潤

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第1章 早速追われる!なぜならバグだもの

10. 未来からやって来るアノ動物型ロボットが欲しい

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「無覚の漆黒」は、目・鼻・耳・口がない。
のっぺらぼうの様な顔に、凶悪な角を生やしたサイのようなモンスターだ。

いかにも鈍重そうな巨躯を見て「これは逃げ切れる」と余裕をぶっこいていた
5分前の俺を叱ってやりたい。


シェリーは小さい。明らかに足は遅いだろう。

自慢じゃないが、やることないから毎日無駄に秋葉原の街をうろうろしていたから、脚力だけは自信がある。

…そう言えば、転生した世界でも基礎体力は一緒なのか?
まぁ、その辺は置いておこう。

俺は有無を言わさず、シェリーをおぶって逃げることにした。
シェリーは最初は抵抗していたが、すぐに諦めて俺の背中に納まった。
「意外と軽いな」
と思わず漏らした際に、頭を一発引っ叩かれた理由は、今でも不明だ。

「…98、99、100~!
さぁ行きなさい!」

なぜか頭の中に直接響く、フィクサーの声。

「サイなだけに『行きなサイ』って(笑)ダジャレかよww」

と思わずこぼれた笑みは、5秒後には、恐怖に引きつっていた。

サイは、本当に一直線に俺達に向かって、まるで重戦車のように突走ってきたのだ!

ドドッ!ドドッ!


という、いかにも重量がありそうな足音に、

バキッ!
ドッカーン!

という、木々や岩が砕ける音が、静寂の森を突き抜ける。

距離感を把握する為に、利用可能となった広域マップを開いていた。
しかし、サイを示す赤い点は、俺達を示す青い点に向かって、それはもう、とんでもない速度で近づいてくる。

前へ!前へ!
とにかく逃げなきゃ!

この世に生を受けてから20年―――こんなに真剣な表情で走りまくったのは、もちろん初めてだ。

「あれだけ勇ましい事言っておいて!無策とは!どういう事なのかしら!?」

「仕方ないだろ!?あんなのと追いかけっこするなんて、聞いてないし!

『言ってないも~ん』

頭に直接響くフィクサーの声、イラッとする。

チクショウ!なんか手だてはないのか!?

破れかぶれで、アイテムをランダムに出しては放り投げる。

薬草・薬草・解毒草・小石…

こんな時、未来からやってくる動物型の国民的ロボットがいれば、なんとかしてくれそうだ。
ワープするドアとか使って…

ダメだ!妄想に逃げたら終わる!
諦めたら試合終了だ!

その時、手に火傷しそうな程の痛覚が、電撃のように走った。

「アチィィィ!!」

思わず手に取ったソレを、反射的に放り投げる。

「ちょっと!何してるのかしら!!?
危うく落っこちる所だったじゃない!」

「すまん!すまん!思わずビックリしちゃって!
うん…?」

その時、サイを示す赤い点が、一瞬マップ上で止まった。
ほんの一瞬だが…

そして、あろうことか、俺達とはわずかに異なる方向に向きを変えて、再び突進を始めた。

少し安堵しつつも、その隙に少しでも、間を広げるように、俺は走り続ける。
サイは…とある地点で立ち止まり、地面に穴が空くのではないかと思う位、足踏みをしている。

あそこは、俺が思わずとあるアイテムを放り投げた場所だ。
そのアイテムは―――「小石【バグ】」。

しばらくすると、サイは再び俺達の方に向きを変え、突進を再開した。

ふと一つの「賭け」が俺の頭をよぎる。
そして、もはやその「賭け」しか、こちらが勝利するカードは残っていない。

「シェリー!降ろすぞ!
これからは自分の足で逃げるんだ!」

「で、出来ないわ!私の足では捕まってしまって、一突きされるのが落ちかしら!」

シェリーは涙声で、イヤイヤっとするように首を振る。

俺に捕まる手に力が入る。

「大丈夫だ!
俺を信じろ!お前だけは絶対に逃がしてやる!」

「~~~っ!」

もはや言葉になっていない。
完全に泣きじゃくっている。

「お姫様になるんだろ!?
こんな事でくじけちゃ、立派なお姫様になんてなれないぜ!
それに俺はお前だけは絶対に生かしてやる!約束だ!」

「…いつも期待に応えられないクセに…」

「憎まれ口叩けるなら大丈夫だ。さぁ降りろ。
降りたら、すぐにこのまま真っすぐに走るんだ!
分かったな!?」

いつにない、俺の真剣な声色に、シェリーは諦めにも似た様にうつむいて、
俺の背中を降りた。

「いいか、絶対に振返るなよ。
俺は少し用事を済ませたら、後を追う。
森の外で落ち合おうぜ!」

精一杯の虚勢を張って、俺は親指を立てる。
「さぁ行け!立派なお姫様に向かって走り出せ~!」

最早、何を言っているか自分でもよく分かっていなかったが、とにかくシェリーの背中をグイッと押した。

シェリーは、彼女なりの精一杯の脚力で、走り出す。

思ったより早い…これなら最初から手を引いて逃げた方が早かったかも。

そんな後悔をする間もなく、俺は、シェリーの逃げる方向から、少し横にそれた。

サイはすぐに俺の目の前まで迫ってきた。

少し躊躇した素振りを見せると、俺の方に黒光りした角を向けた。

ドドッ!

一気に突進してくる。

そして俺の腹をその角が貫こうとした、その瞬間――
俺は「お菓子」をかじった。

サイはピタリとその歩を止めた。

「ざんね~~ん!目の前にいるのにね~(笑)
そうだったぁ~(笑)ちみ、目見えないし、鼻も利かないんだもんね~(笑)」

俺のステータスは「ユー」と表示されている。

「賭け」は正解だった。

このサイは「バグ」に反応して進んでいるのだ。

自分に最も近い「バグ」に向かって、ひたすら突進していると考えられる。

そして、俺は「万能薬」を食べて、一定時間――たぶん1分ほど、「バグ」ではなくなった。
だからサイは俺を標的とは見なさずに、俺の腹を突き抜ける瞬間に歩を止めたのだ。

俺の目の前でサイは向きを変えると、再び突進を開始した。

シェリーに向かって…

そして、俺の横を通り過ぎた瞬間――

「ユー投手!第1球を投げました~~!!」

俺は「小石【バグ】」をアイテムから取り出すと、
焼けるような熱さを堪えて、サイの通ってきた
まさに草の根一つない、まっさらな道に向かって
それを全力投球で投げた。

サイは、急ブレーキをかけると、驚くほど身軽に振返り、「小石【バグ】」に向かってばく進を始めた。

どうやら「賭け」に勝ったらしい。
あとは輝くウィニングランをするだけだ。
―――そう思っていたんだ。その時は…













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