8 / 88
第8話 【閑話】ニックへざまぁをするまで①
しおりを挟む
◇◇
ピートを囮にしたことで第53層のモンスターハウスからの脱出に成功した僕――ニックと、トラビス、イライザの一行は第52層をさまよっていた。
これまでピートが全て請負ってくれていた雑用を、自分たちでこなさねばならなくなったせいか、わずか1層を抜けるのにも3日以上かかっていた。
「ちっ! いい加減にしろよ!! この道を通ったのは2度目じゃねえか!! リーダーのくせしてまともに先導もできねえのか!」
いらだちを隠せないトラビス。
だが精神的にまいっていたのは彼だけではない。
イライザもまた同じだった。
「いちいちうるさいわね! あんただって索敵すらできないじゃない! 重い荷物をレディに持たせるし」
「なんだとぉ!? てめえは人に文句言う暇あったら料理の一つでも覚えやがれ! まずいもん食わせやがって!」
「なによ!」
「なんだぁ!?」
「やめないか、二人とも!」
いがみ合う二人の間に僕が入り、どうにかなだめる。
「さすがはニック。どんな状況でも冷静なのね」
イライザは感心してくれたが、僕もまた精神的にも肉体的にも限界を感じていた。
だがここで負けるわけにはいかない。
「とにかく先を行こう。ギルドに戻れば僕たちは英雄なんだから!」
史上最年少でのSランク昇格――この名誉だけが、僕たち3人にとって唯一の心の支えとなっていたのだ。
「……ったくよぉ。Sランクになる魔術師だったら【ダンジョンエスケープ】くらい覚えておけってんだ。どいつもこいつも役立たずばかりで、ほんとイラつかせるぜ」
トラビスがぶつくさ言いながら先を行く。
ダンジョンエスケープとは一瞬でダンジョンから脱出できる魔法のことだ。
特に深い階層を探索せねばならないSランクのパーティーには必須の魔法と言えよう。
レベルの高い魔術師なら身につけていてもおかしくはないのだが……。
ちらりとイライザの顔を覗く。
「ふん。何よ。私だってね……」
ん……?
何か言いたげだけど、それ以上は何も言いたくないのか、唇を固く結んでいる。
どういうことだ?
しかしそれを問う暇もなく、トラビスの明るい声が耳に飛び込んできた。
「おっ! ついに52層を抜けるぞ!」
第51層はワンフロアの広い部屋が一つだけ。
モンスターたちの襲撃をかわしながら進めばたいしたことはない。
そして第50層以降はグンとモンスターたちのレベルが下がる。
「よしっ! ついに、ついにSランクに手が届いた!!」
僕は思わず叫んだ。
それが合図だったかのように全員で走り出す。
しかし……。
第51層にたどり着いたとたんに、希望はあえなく霧散したのである。
「こ……これは……」
「うげえ」
「ひ、ひでえ……」
なんと冒険者たちの亡骸があちこちに転がっているではないか。
「いったい誰がこんなことを……」
顔を見ればどれもよく名の通ったSランクの冒険者ばかりだ。
ジェレミーにマットもいる。
しかしなぜこれほど大勢の冒険者たちがここに集まっていたのだろうか。
考えられるとすれば、ギルドが【緊急クエスト】を発令した場合くらいか。
だが【緊急クエスト】は国全体を揺るがすような危機的な状況以外では発令してはならないとされている。
そんな状況だったら僕らが気づかないわけがない。
となると、僕たちがダンジョンに入ってから今日までの23日間で何かが起こったということになる。
もしかして第53層で、何もなかったはずの部屋がモンスターハウスに姿を変えたのも何か影響しているのだろうか……。
そんな風に考えを巡らせていると、イライザが震える声をあげた。
「ねえ、ニック。あれ……」
イライザが指さした先で静かに佇んでいたのは初老の男。
背は高く、黒い外套を身にまとっている。
見たこともない男だ。
この光景を目の前にして、微笑を浮かべながらゆっくり徘徊しているのは、不気味というより他なかった。
「なあ、あんた! そこのあんただよ!!」
トラビスがだみ声を響かせると、男がこちらにゆっくりと視線を向けた。
目が合った瞬間に、ゾクリと背筋が凍る。
只者じゃない……。
逃げ出したいが、足が棒のように固くなって動けない。
「いったい全体どうなってやがる!? あんた知ってるのか?」
男がコクリとうなずいた。
「なら教えてくれ! これは誰の仕業――」
トラビスがそう言いかけた瞬間……。
――スンッ。
一陣の風が吹き抜けていった。
「へっ?」
素っ頓狂な声をあげるトラビス。
その直後。
――ボトッ……。
トラビスの右腕が地面に落ちた。
「余の仕業だ」
いつの間にか初老の男は、僕たちのすぐ目の前までやってきた。
「うがあああああ!! いてぇよぉぉぉ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
トラビスが泣き叫びながら転げまわる。
僕はとっさに彼の前に立ち、男に問いかけた。
「あんたは何者だ……?」
トラビスが苦しむ様子をニタニタしながら見つめていた男は、かすれ気味の声で名を告げた。
「我が名はアゼルオンなり」
これが僕にとっての絶望のはじまりだった。
ピートを囮にしたことで第53層のモンスターハウスからの脱出に成功した僕――ニックと、トラビス、イライザの一行は第52層をさまよっていた。
これまでピートが全て請負ってくれていた雑用を、自分たちでこなさねばならなくなったせいか、わずか1層を抜けるのにも3日以上かかっていた。
「ちっ! いい加減にしろよ!! この道を通ったのは2度目じゃねえか!! リーダーのくせしてまともに先導もできねえのか!」
いらだちを隠せないトラビス。
だが精神的にまいっていたのは彼だけではない。
イライザもまた同じだった。
「いちいちうるさいわね! あんただって索敵すらできないじゃない! 重い荷物をレディに持たせるし」
「なんだとぉ!? てめえは人に文句言う暇あったら料理の一つでも覚えやがれ! まずいもん食わせやがって!」
「なによ!」
「なんだぁ!?」
「やめないか、二人とも!」
いがみ合う二人の間に僕が入り、どうにかなだめる。
「さすがはニック。どんな状況でも冷静なのね」
イライザは感心してくれたが、僕もまた精神的にも肉体的にも限界を感じていた。
だがここで負けるわけにはいかない。
「とにかく先を行こう。ギルドに戻れば僕たちは英雄なんだから!」
史上最年少でのSランク昇格――この名誉だけが、僕たち3人にとって唯一の心の支えとなっていたのだ。
「……ったくよぉ。Sランクになる魔術師だったら【ダンジョンエスケープ】くらい覚えておけってんだ。どいつもこいつも役立たずばかりで、ほんとイラつかせるぜ」
トラビスがぶつくさ言いながら先を行く。
ダンジョンエスケープとは一瞬でダンジョンから脱出できる魔法のことだ。
特に深い階層を探索せねばならないSランクのパーティーには必須の魔法と言えよう。
レベルの高い魔術師なら身につけていてもおかしくはないのだが……。
ちらりとイライザの顔を覗く。
「ふん。何よ。私だってね……」
ん……?
何か言いたげだけど、それ以上は何も言いたくないのか、唇を固く結んでいる。
どういうことだ?
しかしそれを問う暇もなく、トラビスの明るい声が耳に飛び込んできた。
「おっ! ついに52層を抜けるぞ!」
第51層はワンフロアの広い部屋が一つだけ。
モンスターたちの襲撃をかわしながら進めばたいしたことはない。
そして第50層以降はグンとモンスターたちのレベルが下がる。
「よしっ! ついに、ついにSランクに手が届いた!!」
僕は思わず叫んだ。
それが合図だったかのように全員で走り出す。
しかし……。
第51層にたどり着いたとたんに、希望はあえなく霧散したのである。
「こ……これは……」
「うげえ」
「ひ、ひでえ……」
なんと冒険者たちの亡骸があちこちに転がっているではないか。
「いったい誰がこんなことを……」
顔を見ればどれもよく名の通ったSランクの冒険者ばかりだ。
ジェレミーにマットもいる。
しかしなぜこれほど大勢の冒険者たちがここに集まっていたのだろうか。
考えられるとすれば、ギルドが【緊急クエスト】を発令した場合くらいか。
だが【緊急クエスト】は国全体を揺るがすような危機的な状況以外では発令してはならないとされている。
そんな状況だったら僕らが気づかないわけがない。
となると、僕たちがダンジョンに入ってから今日までの23日間で何かが起こったということになる。
もしかして第53層で、何もなかったはずの部屋がモンスターハウスに姿を変えたのも何か影響しているのだろうか……。
そんな風に考えを巡らせていると、イライザが震える声をあげた。
「ねえ、ニック。あれ……」
イライザが指さした先で静かに佇んでいたのは初老の男。
背は高く、黒い外套を身にまとっている。
見たこともない男だ。
この光景を目の前にして、微笑を浮かべながらゆっくり徘徊しているのは、不気味というより他なかった。
「なあ、あんた! そこのあんただよ!!」
トラビスがだみ声を響かせると、男がこちらにゆっくりと視線を向けた。
目が合った瞬間に、ゾクリと背筋が凍る。
只者じゃない……。
逃げ出したいが、足が棒のように固くなって動けない。
「いったい全体どうなってやがる!? あんた知ってるのか?」
男がコクリとうなずいた。
「なら教えてくれ! これは誰の仕業――」
トラビスがそう言いかけた瞬間……。
――スンッ。
一陣の風が吹き抜けていった。
「へっ?」
素っ頓狂な声をあげるトラビス。
その直後。
――ボトッ……。
トラビスの右腕が地面に落ちた。
「余の仕業だ」
いつの間にか初老の男は、僕たちのすぐ目の前までやってきた。
「うがあああああ!! いてぇよぉぉぉ!! 助けてくれぇぇぇ!!」
トラビスが泣き叫びながら転げまわる。
僕はとっさに彼の前に立ち、男に問いかけた。
「あんたは何者だ……?」
トラビスが苦しむ様子をニタニタしながら見つめていた男は、かすれ気味の声で名を告げた。
「我が名はアゼルオンなり」
これが僕にとっての絶望のはじまりだった。
0
あなたにおすすめの小説
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます
エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】
「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」
そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。
彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。
傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。
「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」
釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。
魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。
やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。
「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」
これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー!
(※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。
夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。
もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。
純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく!
最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる