英雄テイマーの後継者~無能と罵られて追放されたテイマー、伝説の勇者と同じスキルを覚醒させて巨悪に立ち向かっていく。本物のテイムを見せてやる~

友理潤

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第79話 究極進化への試練

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◇◇

 扉の奥に足を踏み入れた先は、小広くて薄暗い部屋だった。
  その部屋の奥には細い通路があり、さらにその先にほのかな光が目に入る。
 
 きっとあそこが目的の場所だ。

 でも私たちの行方を阻むかのように、頭が頭が闘牛で体が人間のモンスターが、こちらに鋭い眼光を飛ばしていた。

 見上げるほどの巨体に黒光りするような鋼の肉体。
 明らかに強敵と分かるそのいでたちに、ドキドキと鼓動が早まる。

 どうやら戦わないといけないみたい。
 相手に集中してその実力を推しはかってみる。

 強い――。

 私たちよりも格段に相手の方が上なのは間違いないわ。
 それでも3人で束になって戦えばもしかしたら、どうにかなるかもしれない。

 そう考えを巡らせていたその時、エアリスが一歩前に出た。

「サン、カーリー。ここは私に任せて。久々に燃える相手に出会えて嬉しいよー」

 え?
 どういうこと?

 私が問いかけるより前にエアリスは舌を回した。

「へへへ。ムキムキのミノタウロスねー。相手にとって不足なしだよー」

「うそ……。そんなのダメよ!」

 私は思わず体を乗り出して反対した。
 だって強敵相手にエアリスひとりで戦わせるなんてできないもの。
 なおも反論しようと彼女の横に並びかける。
 でもカーリーが私を制した。

「……先を急ごう。ご主人様が待ってる」

 ピートさんが待ってる――その言葉を耳にしたとたんに何も言えなくなってしまった。

 もし3人で相手をしてもかなり時間のロスになるのは目に見えている。
 だからエアリスは危険を承知で一人で引き受けようとしているのだ。

 なんて声をかけたらいいのか迷っているうちに、エアリスはいつになく真剣な口調で言った。

「サン。君だけだったよね。新しいご主人様を信じていたのは。だから真っ先に『究極進化』して、ご主人様の元へ戻るのは君の役目。私はそのためだったら何でもする。そう決めていたんだよー」

「……私も」

「エアリス……。カーリー……」

「へへへ。それにさ。こいつを一人で倒したってなればご主人様も褒めてくれると思うもん! だから譲れないよー!」

 早口でまくし立てた後、エアリスはミノタウロス目がけて一直線に飛び込んでいく。

 丸太のようなミノタウロスの太い腕から繰り出される鉄拳と、木の枝のような細い腕のエアリスの拳が激しくぶつかる。

 力負けしたエアリスがわずかによろめいたところに、ミノタウロスの追撃。
 ひらりと右にかわしたエアリスは、がら空きになったミノタウロスの脇腹に鋭い蹴りを浴びせた。

「グオオオオ!!」

 怒りと痛みが混じった咆哮。
 効いてる。でも致命傷ではない。

「サン! 今のうちだよー!!」

 エアリスが叫んだと同時に、私とカーリーは先に続く通路に足を踏み入れた。

 背後からエアリスとミノタウロスの戦う音と声が聞こえ、そのシーンが鮮明に頭に浮かぶ。

 一進一退の激闘。

 エアリスの短いうめき声が耳に入るたびに振り返りたくなる。
 でも前を行くカーリーの背中から目に見えない綱が出ているようで、私が視線をそらすことを拒んでいた。

 徐々に近づいてくる光。
 あと少しだ。
 
 けどそう易々と先を行かせてくれるほど、試練は甘くなかった――。

「うそ……でしょ?」

 狭い通路の十字路。
 なんと両脇からミノタウロスが1体ずつ迫ってきたのだ。

「……サン。先を行って」
「ダメよ! 絶対にダメ!」
「行って!!」

 ピシャリと引き戸を閉めたかのようなカーリーの鋭い声。初めて聞いた……。
 驚いて目を丸くしてしまった私にカーリーはぐっと目に力を入れながら告げた。

「……サン。お願い。私じゃなくてご主人様を助けて」

 ずるいよ。
 それを言われたら何も言い返せないじゃない。

 みるみるうちに目に涙がたまってくる。
 
 1体だけでもエアリスが苦戦を強いられたのだから、2体同時に相手をするなんて無謀にもほどがある。

 でも……。
 それでも私は仲間を見放さなくちゃいけないの?

 どうすればいいの?

 誰か教えて……。

 祈るような気持ちで顔を伏せたその時。


「サン。あなたの役目はご主人様をお守りすることでしょ? 行きなさい。ここは私たち・・・に任せて」


 鼓膜を震わせたのは、ルナの透き通った声だった――。
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