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出張ホスト
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キスを繰り返していると、そのうちにそこに触れたくなる。キスを許したという事は、きっと彼女もそうなのだろうと、桂はその黒いシャツ越しに、胸に触れた。思ったよりも大きいと思う。それに柔らかいのに張りがあって、心地いい胸だと思う。そのときだった。
「やっ!」
いきなり突き放された。春川はいきなり我を取り戻したように、胸をかばうように押さえる。
「春。」
「やめてくださいよ。そこまで許した訳じゃないんですから。」
「……キスはいいけど、セックスダメって事ですか?高校生じゃあるまいし。」
「えぇ。高校生で結構。」
そう言って彼女は足下にあるバッグを拾い上げた。
「帰ります。お邪魔しました。」
「春。」
「ごめんなさい。まだ……私の中に祥吾さんが居て。」
「祥吾さんって……噂で聞いたんですよ。」
「……何の噂ですか?」
想像は付く。おそらく口の軽い編集者も中にはいるだろうから。そして彼らは省吾に妻が居ることを知らない。体が震えてくる。
「若い編集者に軒並み手を出してるって。」
「……。」
その言葉に彼女は堪えていた涙を溢れさせた。静かに泣いた彼女は、一人でそれを堪えていたのだろう。何のために自分が居るのかわからないまま、ずっと妻として耐えていたのだ。
「捨ててしまえばいいのに。」
「ダメなんです。」
消えるような声だった。彼女はまだ耐えている。ここで彼の優しさに転ぶのは簡単だ。しかしまだ彼女には残っているモノがある。
「私が好きなんです。」
「……春。」
「お願いです。忘れてください。」
その声を無視するように、彼はまた彼女を抱きしめた。
「ダメです。」
彼は首を振る。
「好きな女が泣いてて、放っておけない。春。あんたが好きだ。」
「ダメです。」
腕を伸ばして、拒否は簡単に出来る。だけど出来ない。彼女はゆっくりと腕を伸ばし、彼の背中に手を回した。
「ダメなのに……。」
ぎゅっと抱きしめて、そして彼はまた少し離すとまた口づけを重ねた。
「ごめんなさい。セックスはまだ勇気がでないから。」
そう言って春川は帰って行った。
今度がある。そう思いながら桂はシャワーを浴びていた。キスを重ねる度に好きになる。ぎこちなく舌を絡ませて、それを離すと頬が赤くなり、目はぼんやりと開いている。それがとてつもなく可愛いと思う。
最初に会ったとき、女を感じることはなかった。だけど、今はこんなに彼女を感じることが出来る。体も、唇も、全てが愛しい。
ふと自分のモノが膨らんでいるのに気が付いた。あぁ。これだけで興奮している。
「十代かよ。」
そう思いながら、彼はそれに手を伸ばした。頭の中に彼女を思いながら。
家に帰り着いたときには、もう次の日にさしかかろうとしていた。春川はドアを開けると、見慣れないパンプスが玄関にあるのに気が付いた。まだ帰っていなかったのだ。少しため息を付くと、そのパンプスを揃える。そして家の中にはいると、自分の部屋に戻っていった。
ドアを閉めるとため息を付いた。そしてぞくっとする。
唇に指が触れる。何度も何度も口づけをした。祥吾以外の人と。
「……。」
正直気持ち良かった。さすがに毎日セックスしているだけある。百戦錬磨だ。その技術もすごいモノがあるのだろう。
だけどそれに転ぶわけにはいかない。どんなに彼が不貞をしているからといって、自分もしていいとは限らないのだ。
いいや。もうすでに不貞をしているわけだけど。
ううん。もう忘れよう。彼女はバッグから携帯電話を取り出して、電話帳を開いた。桂の文字を見つけてそれを開く。ここで消去をすれば彼女から連絡を取ることはないし、彼からの連絡はもう取らないようにすればいいのだ。
きっと忘れられる。
そして祥吾だけをみる生活が出来るはずだ。普通の奥様がしているように、彼女にもそれが出来る。だけど消去のボタンが押せない。手が震えるのだ。
「……。」
携帯電話を閉じて、深いため息を付いた。とりあえずお風呂にでも入ろう。慣れない化粧が気持ち悪い。
着替えを持ってお風呂場へ向かう。そして洋服を脱いで、風呂場にはいる。ぬるいお湯だが、夏だから丁度いい。お風呂に浸かっていると、玄関のドアが開く音がした。やっと帰ったらしい。彼女はため息を付いて、その湯船のお湯で顔を洗い流した。
しばらくすると祥吾の声が聞こえた。
「春?」
「はい。」
「遅かったんだね。」
「えぇ。途中で事故があって、道が渋滞してました。すいません。」
「大丈夫だよ。ただ心配だった。連絡をいれてくれれば良かったのに。」
「そうですね。」
「春。私も入っていいかな。」
「え?恥ずかしいです。」
「今更何を言っているの。」
さっきまで抱いていた女の残り香をつけて、彼は自分を抱くのだろうか。それだけでぞっとする。
「すいません。もう出ますから。」
そう言って彼女は湯船からでる。体は洗ってしまったので、そのまま彼女は出た。
すると浴衣姿の省吾がそこにいた。
「タオルを。」
そう言って彼はタオルを渡してきた。
「ありがとうございます。」
「どうだったかな。他人の作られたデートは。」
「……なんと言いますか。駆け引きのように感じましたね。」
「駆け引き?」
「男性はたぶん「また指名してもらえればいい」と思っているし、女性は「あわよくば」という感じに見えました。もちろん男性にその気はありませんけどね。」
「なるほどね。面白そうなネタだ。」
「純文学にはなり得ませんよ。」
彼女はそう言って、釘を差す。彼もそのネタを使おうと思っていたのだろうか。
「どんな男だった?」
「そうですね。よくテレビに出てくるような……俳優とかアイドルのような。外見で売っているから、そんな感じなんですかね。」
下着を身につけて、部屋着に着替えた。
「出張ホストは、ベッドを共にすることもあるようだ。さながら売春だな。」
その言葉はどことなく嫌みなように聞こえる。彼がそれを下に見ているからだろう。
「……えぇ。そうですね。では仕事をしますので、これで。おやすみなさい。」
彼女はそう言って脱衣所を後にした。そして駆け足のように、自分の部屋に戻る。
あぁ。こんな人だったのだ。あの出張ホストも、AV男優も、AV女優も、みんなプライドを持って仕事をしているのに、彼らを卑下してみているのだ。
そう。彼女が書いているその官能小説も、きっと彼は卑下してみている。純文学ではない本の半分をそのシーンに持ってきていると言うだけで彼は「たかが官能小説だ」と見ているのだ。
それでも彼女は彼から離れられない。愛しているから。
愛して……。
そのとき彼女の頬につっと涙がこぼれた。
「やっ!」
いきなり突き放された。春川はいきなり我を取り戻したように、胸をかばうように押さえる。
「春。」
「やめてくださいよ。そこまで許した訳じゃないんですから。」
「……キスはいいけど、セックスダメって事ですか?高校生じゃあるまいし。」
「えぇ。高校生で結構。」
そう言って彼女は足下にあるバッグを拾い上げた。
「帰ります。お邪魔しました。」
「春。」
「ごめんなさい。まだ……私の中に祥吾さんが居て。」
「祥吾さんって……噂で聞いたんですよ。」
「……何の噂ですか?」
想像は付く。おそらく口の軽い編集者も中にはいるだろうから。そして彼らは省吾に妻が居ることを知らない。体が震えてくる。
「若い編集者に軒並み手を出してるって。」
「……。」
その言葉に彼女は堪えていた涙を溢れさせた。静かに泣いた彼女は、一人でそれを堪えていたのだろう。何のために自分が居るのかわからないまま、ずっと妻として耐えていたのだ。
「捨ててしまえばいいのに。」
「ダメなんです。」
消えるような声だった。彼女はまだ耐えている。ここで彼の優しさに転ぶのは簡単だ。しかしまだ彼女には残っているモノがある。
「私が好きなんです。」
「……春。」
「お願いです。忘れてください。」
その声を無視するように、彼はまた彼女を抱きしめた。
「ダメです。」
彼は首を振る。
「好きな女が泣いてて、放っておけない。春。あんたが好きだ。」
「ダメです。」
腕を伸ばして、拒否は簡単に出来る。だけど出来ない。彼女はゆっくりと腕を伸ばし、彼の背中に手を回した。
「ダメなのに……。」
ぎゅっと抱きしめて、そして彼はまた少し離すとまた口づけを重ねた。
「ごめんなさい。セックスはまだ勇気がでないから。」
そう言って春川は帰って行った。
今度がある。そう思いながら桂はシャワーを浴びていた。キスを重ねる度に好きになる。ぎこちなく舌を絡ませて、それを離すと頬が赤くなり、目はぼんやりと開いている。それがとてつもなく可愛いと思う。
最初に会ったとき、女を感じることはなかった。だけど、今はこんなに彼女を感じることが出来る。体も、唇も、全てが愛しい。
ふと自分のモノが膨らんでいるのに気が付いた。あぁ。これだけで興奮している。
「十代かよ。」
そう思いながら、彼はそれに手を伸ばした。頭の中に彼女を思いながら。
家に帰り着いたときには、もう次の日にさしかかろうとしていた。春川はドアを開けると、見慣れないパンプスが玄関にあるのに気が付いた。まだ帰っていなかったのだ。少しため息を付くと、そのパンプスを揃える。そして家の中にはいると、自分の部屋に戻っていった。
ドアを閉めるとため息を付いた。そしてぞくっとする。
唇に指が触れる。何度も何度も口づけをした。祥吾以外の人と。
「……。」
正直気持ち良かった。さすがに毎日セックスしているだけある。百戦錬磨だ。その技術もすごいモノがあるのだろう。
だけどそれに転ぶわけにはいかない。どんなに彼が不貞をしているからといって、自分もしていいとは限らないのだ。
いいや。もうすでに不貞をしているわけだけど。
ううん。もう忘れよう。彼女はバッグから携帯電話を取り出して、電話帳を開いた。桂の文字を見つけてそれを開く。ここで消去をすれば彼女から連絡を取ることはないし、彼からの連絡はもう取らないようにすればいいのだ。
きっと忘れられる。
そして祥吾だけをみる生活が出来るはずだ。普通の奥様がしているように、彼女にもそれが出来る。だけど消去のボタンが押せない。手が震えるのだ。
「……。」
携帯電話を閉じて、深いため息を付いた。とりあえずお風呂にでも入ろう。慣れない化粧が気持ち悪い。
着替えを持ってお風呂場へ向かう。そして洋服を脱いで、風呂場にはいる。ぬるいお湯だが、夏だから丁度いい。お風呂に浸かっていると、玄関のドアが開く音がした。やっと帰ったらしい。彼女はため息を付いて、その湯船のお湯で顔を洗い流した。
しばらくすると祥吾の声が聞こえた。
「春?」
「はい。」
「遅かったんだね。」
「えぇ。途中で事故があって、道が渋滞してました。すいません。」
「大丈夫だよ。ただ心配だった。連絡をいれてくれれば良かったのに。」
「そうですね。」
「春。私も入っていいかな。」
「え?恥ずかしいです。」
「今更何を言っているの。」
さっきまで抱いていた女の残り香をつけて、彼は自分を抱くのだろうか。それだけでぞっとする。
「すいません。もう出ますから。」
そう言って彼女は湯船からでる。体は洗ってしまったので、そのまま彼女は出た。
すると浴衣姿の省吾がそこにいた。
「タオルを。」
そう言って彼はタオルを渡してきた。
「ありがとうございます。」
「どうだったかな。他人の作られたデートは。」
「……なんと言いますか。駆け引きのように感じましたね。」
「駆け引き?」
「男性はたぶん「また指名してもらえればいい」と思っているし、女性は「あわよくば」という感じに見えました。もちろん男性にその気はありませんけどね。」
「なるほどね。面白そうなネタだ。」
「純文学にはなり得ませんよ。」
彼女はそう言って、釘を差す。彼もそのネタを使おうと思っていたのだろうか。
「どんな男だった?」
「そうですね。よくテレビに出てくるような……俳優とかアイドルのような。外見で売っているから、そんな感じなんですかね。」
下着を身につけて、部屋着に着替えた。
「出張ホストは、ベッドを共にすることもあるようだ。さながら売春だな。」
その言葉はどことなく嫌みなように聞こえる。彼がそれを下に見ているからだろう。
「……えぇ。そうですね。では仕事をしますので、これで。おやすみなさい。」
彼女はそう言って脱衣所を後にした。そして駆け足のように、自分の部屋に戻る。
あぁ。こんな人だったのだ。あの出張ホストも、AV男優も、AV女優も、みんなプライドを持って仕事をしているのに、彼らを卑下してみているのだ。
そう。彼女が書いているその官能小説も、きっと彼は卑下してみている。純文学ではない本の半分をそのシーンに持ってきていると言うだけで彼は「たかが官能小説だ」と見ているのだ。
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愛して……。
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