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姉
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居酒屋を出て、大通りに出る。すると嵐はもっと飲みたいらしく、ヒロをまた別の店に誘っていた。
「いいじゃん。お前明日仕事ねぇんだろ?」
「ですけどねぇ。俺、明日用事があって。」
「んだよ。みんな女かよ。あーさみしーな。俺。」
その時ヒロは、向こうからやってきた女に手をあげる。
「あ、来た来た。」
それは東の姿だった。彼女はリクルートスーツを着ている。どこかへ行った帰りだろうか。
「お久しぶりです。」
前に見たときよりもいい顔をしている。桂はそう思っていた。
「東さん。」
「げっ。東子。何で来たんだよ。」
嵐だけがイヤそうな顔をしている。
「仕事帰りよ。ヒロさんから連絡があって連れて帰ってくれって。」
「ヒーロー。お前なぁ……。」
「うるさい。お父さん。実家に今日あたしも帰るから、帰るわよ。」
そういって嵐は引きずられるように帰って行った。
「東さん。今何してんの?」
「AVのメーカーだって言ってたかな。企画を勉強したいだとよ。」
彼女とは昔ごたごたがあった。企画力は立派だったが、それにしてはまだまだいろんなものがついてきていない気がする。だからこそ、AVのメーカーにつとめているというのは、丁度いいのかもしれない。コレで彼女の視野が広まってくれればいいのだ。
「さて。俺らも帰るか。明日も撮影だし。」
達哉はそういってあくびをした。
「北川さん。送ろうか?」
「いいの?」
「いいよ。どうせ同じ方向だろ?桂さんたちはどうすんの?」
桂は春川の方をみる。出来るなら一緒にいたい。だが帰らないといけないのだろう。僅かな時間でいい。二人でいれる時間は出来ないだろうか。
「ヒロさんは帰るの?」
予想もしない言葉だった。するとヒロは少し笑いながらいう。
「さすがに帰ろうかな。本当に明日用事があるから。」
「車で来てるの。桂さんも乗るし、あなたも便乗していいよ。」
「マジで?タクシー代浮くわ。」
さっき話していたので、彼の家の方向が予想できたのだろう。思ったよりも近かったことで、彼女はそれを承知したのだ。
だが桂は少し不機嫌になる。ヒロがいることで、二人っきりになれる時間が減ったのだから。
三人で駐車場に向かっているその後ろ姿を見て、達哉はため息をつく。明らかに桂が不機嫌になっているから。
「どうしたの?」
「桂さんって、なんかあれだよな。」
「何?」
「子供っつーか。」
「そう?あたしには何で春川さんがヒロさんを送ってやろうか何ていったのかしらって思ったけど。」
「でもヒロはなんにも気がついてないわけじゃん。二人でいたら気づかれるに決まってる。春川さんが既婚者ってのは誰でも知ってるわけだから。」
「春川さんは気を回しすぎよ。普段一緒にいれないんだから、一緒にいれる時間を大事にしてあげればいいのに。」
「まぁ……なんだかんだいっても不倫だし。」
「……それをいっちゃお終いでしょ?」
駐車場へ向かう。その道のり。彼女らは自然と手を繋ぐ。
彼らはそれを責められることはない。だが桂と春川はそれを誰が見ているかわからないのだ。
駐車場に着くと、春川はその機械にコインをいれた。そして輪留めがはずれるのを見ると、運転席に乗り込んだ。助手席には桂が。そして後ろの席を少し片づけてヒロが乗り込む。
「荷物すげぇ。いつでも家出できそうだね。」
「泊まることもあるから、自然と荷物が増えたの。」
中にはお風呂セットなんかもある。本当に家出のようだ。
それまで桂は黙ったままだった。少し迷っているのだろう。ヒロは口が軽い訳じゃない。だがどこから情報が漏れるかわからないのだ。それに今まで漏れなかったのが奇跡なようなものだし。
「はぁ……。」
桂はため息をついて、外を見ていた。
「どうしたんですか。桂さん。ため息ついて。」
「ため息つくと幸せが逃げるっていいますよ。」
すると彼は不機嫌そうにいう。
「ため息くらいで逃げる幸せなら、逃がしていい。」
「言うなぁ。春川さん。俺さ、桂さん見てこの世界入ろうと思ったんだよ。」
「珍しいのね。あまり男優さんは名前がでない世界だと思ったけど。どこで知ったの?」
「んー。それはさぁ、今ほらインターネットとかで調べられるし。」
「まぁ。そうね。」
「でも俺背が伸びなかったし、あまり肉も付かないしさ。」
「でもち○こでかいじゃん。」
「まぁね。これだけは親に感謝しないとなぁ。コレばっかりはもって生まれたものだし。」
信号で車を停める。
「でかすぎるのも怪訝されるよ。」
「あら。そうなの。まぁね。でかければいいってものでもないのだろうし。」
「ようはテクニックっつーか。」
その流れは、「試してみる?」という流れだろう。ヒロも春川を気に入っているようだ。先手を打たないといけない。桂は、ちらりとヒロをみる。そして春川の方をみた。
「あー。長いんだよなぁ。ここの信号。」
すると彼は手を春川の方にのばす。そして顔を近づける。
「え?」
ヒロの目の前で、桂は彼女の唇にキスをする。軽く。ちゅっと音をさせた。そしてヒロの方をみる。
「ヒロ。手を出すな。こいつは俺のだ。」
「……桂さん。」
「これ以上、敵を増やしたくないからな。」
するとヒロは慌てたように彼にいう。
「いや。俺が手を出すわけないじゃないですか。」
慌てたようにヒロは弁解をする。そのとき信号が青に変わった。それに気がついて春川は、またアクセルを踏む。
「……ヒロさん。」
「はい?」
さっきまでタメ口だったのに、緊張したように彼は答える。もう酔いが醒めてしまったようだ。
「黙っていられる?私、まだ既婚者だし。まだ別れられないから。」
「……言い寄られてんですか?」
「違うわ。私が求めたのよ。」
その言葉に桂はさっきまで不機嫌を払拭させるように笑う。
「尻軽みたいにいうな。全く。俺が言い寄っただろう?あんたは最後まで拒否してたじゃないか。」
「何ですか。すげぇラブラブじゃん。」
こんな桂をみるのは初めてだった。仕事の時はあくまで演技なのだ。あくまで優しく演じているだけ。
今目の前の桂は、この女に翻弄されている。そういう風に見えた。
「いいじゃん。お前明日仕事ねぇんだろ?」
「ですけどねぇ。俺、明日用事があって。」
「んだよ。みんな女かよ。あーさみしーな。俺。」
その時ヒロは、向こうからやってきた女に手をあげる。
「あ、来た来た。」
それは東の姿だった。彼女はリクルートスーツを着ている。どこかへ行った帰りだろうか。
「お久しぶりです。」
前に見たときよりもいい顔をしている。桂はそう思っていた。
「東さん。」
「げっ。東子。何で来たんだよ。」
嵐だけがイヤそうな顔をしている。
「仕事帰りよ。ヒロさんから連絡があって連れて帰ってくれって。」
「ヒーロー。お前なぁ……。」
「うるさい。お父さん。実家に今日あたしも帰るから、帰るわよ。」
そういって嵐は引きずられるように帰って行った。
「東さん。今何してんの?」
「AVのメーカーだって言ってたかな。企画を勉強したいだとよ。」
彼女とは昔ごたごたがあった。企画力は立派だったが、それにしてはまだまだいろんなものがついてきていない気がする。だからこそ、AVのメーカーにつとめているというのは、丁度いいのかもしれない。コレで彼女の視野が広まってくれればいいのだ。
「さて。俺らも帰るか。明日も撮影だし。」
達哉はそういってあくびをした。
「北川さん。送ろうか?」
「いいの?」
「いいよ。どうせ同じ方向だろ?桂さんたちはどうすんの?」
桂は春川の方をみる。出来るなら一緒にいたい。だが帰らないといけないのだろう。僅かな時間でいい。二人でいれる時間は出来ないだろうか。
「ヒロさんは帰るの?」
予想もしない言葉だった。するとヒロは少し笑いながらいう。
「さすがに帰ろうかな。本当に明日用事があるから。」
「車で来てるの。桂さんも乗るし、あなたも便乗していいよ。」
「マジで?タクシー代浮くわ。」
さっき話していたので、彼の家の方向が予想できたのだろう。思ったよりも近かったことで、彼女はそれを承知したのだ。
だが桂は少し不機嫌になる。ヒロがいることで、二人っきりになれる時間が減ったのだから。
三人で駐車場に向かっているその後ろ姿を見て、達哉はため息をつく。明らかに桂が不機嫌になっているから。
「どうしたの?」
「桂さんって、なんかあれだよな。」
「何?」
「子供っつーか。」
「そう?あたしには何で春川さんがヒロさんを送ってやろうか何ていったのかしらって思ったけど。」
「でもヒロはなんにも気がついてないわけじゃん。二人でいたら気づかれるに決まってる。春川さんが既婚者ってのは誰でも知ってるわけだから。」
「春川さんは気を回しすぎよ。普段一緒にいれないんだから、一緒にいれる時間を大事にしてあげればいいのに。」
「まぁ……なんだかんだいっても不倫だし。」
「……それをいっちゃお終いでしょ?」
駐車場へ向かう。その道のり。彼女らは自然と手を繋ぐ。
彼らはそれを責められることはない。だが桂と春川はそれを誰が見ているかわからないのだ。
駐車場に着くと、春川はその機械にコインをいれた。そして輪留めがはずれるのを見ると、運転席に乗り込んだ。助手席には桂が。そして後ろの席を少し片づけてヒロが乗り込む。
「荷物すげぇ。いつでも家出できそうだね。」
「泊まることもあるから、自然と荷物が増えたの。」
中にはお風呂セットなんかもある。本当に家出のようだ。
それまで桂は黙ったままだった。少し迷っているのだろう。ヒロは口が軽い訳じゃない。だがどこから情報が漏れるかわからないのだ。それに今まで漏れなかったのが奇跡なようなものだし。
「はぁ……。」
桂はため息をついて、外を見ていた。
「どうしたんですか。桂さん。ため息ついて。」
「ため息つくと幸せが逃げるっていいますよ。」
すると彼は不機嫌そうにいう。
「ため息くらいで逃げる幸せなら、逃がしていい。」
「言うなぁ。春川さん。俺さ、桂さん見てこの世界入ろうと思ったんだよ。」
「珍しいのね。あまり男優さんは名前がでない世界だと思ったけど。どこで知ったの?」
「んー。それはさぁ、今ほらインターネットとかで調べられるし。」
「まぁ。そうね。」
「でも俺背が伸びなかったし、あまり肉も付かないしさ。」
「でもち○こでかいじゃん。」
「まぁね。これだけは親に感謝しないとなぁ。コレばっかりはもって生まれたものだし。」
信号で車を停める。
「でかすぎるのも怪訝されるよ。」
「あら。そうなの。まぁね。でかければいいってものでもないのだろうし。」
「ようはテクニックっつーか。」
その流れは、「試してみる?」という流れだろう。ヒロも春川を気に入っているようだ。先手を打たないといけない。桂は、ちらりとヒロをみる。そして春川の方をみた。
「あー。長いんだよなぁ。ここの信号。」
すると彼は手を春川の方にのばす。そして顔を近づける。
「え?」
ヒロの目の前で、桂は彼女の唇にキスをする。軽く。ちゅっと音をさせた。そしてヒロの方をみる。
「ヒロ。手を出すな。こいつは俺のだ。」
「……桂さん。」
「これ以上、敵を増やしたくないからな。」
するとヒロは慌てたように彼にいう。
「いや。俺が手を出すわけないじゃないですか。」
慌てたようにヒロは弁解をする。そのとき信号が青に変わった。それに気がついて春川は、またアクセルを踏む。
「……ヒロさん。」
「はい?」
さっきまでタメ口だったのに、緊張したように彼は答える。もう酔いが醒めてしまったようだ。
「黙っていられる?私、まだ既婚者だし。まだ別れられないから。」
「……言い寄られてんですか?」
「違うわ。私が求めたのよ。」
その言葉に桂はさっきまで不機嫌を払拭させるように笑う。
「尻軽みたいにいうな。全く。俺が言い寄っただろう?あんたは最後まで拒否してたじゃないか。」
「何ですか。すげぇラブラブじゃん。」
こんな桂をみるのは初めてだった。仕事の時はあくまで演技なのだ。あくまで優しく演じているだけ。
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