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姉
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ヒロを家の前でおろした。彼の家は古い一戸建てで、駅から少し離れているが閑静な住宅街といった感じに見える。
「一戸建てか。」
「貸家っすよ。狭いけどね。防音利いてるから、音楽したいときとかに便利。」
「音楽ねぇ。」
趣味でバンドをしていると言っていた。ライブハウスでライブをすればそこそこの客を集められるらしい。
「それに一人暮らしじゃねぇし。」
「あぁ。バンドの奴らと住んでるっていってたっけ。」
「そう。男ばっか。遊び来てくださいよ。」
「そうね。何か差し入れをするわ。」
「うわっ。それ超嬉しい。手作りでしょ?」
「食べれるって程度しか作れないけど、一応主婦だし。」
「家庭の味に飢えてるんですよ。また、飲みましょうよ。」
「えぇ。また。」
「お疲れさん。」
そういってヒロは行ってしまった。そして彼女は車を走らせる。
「……悪かったな。」
「謝るの?」
頭をぐじゃぐしゃとかいて、桂は春川をみる。春川はいつもと変わらないように見えた。
「人前でキスするなんか、あんたは慣れてないだろうにな。」
「慣れるようなものでもないわ。」
「でも今日のその格好は、誰もが振り向く格好だ。ヒロだって最初はあんたにそんなに興味がなかっただろうに。予想外だった。」
「そうね。なるべくしたくないわ。」
「でもたまには見たい。」
その言葉に、彼女は頬を染めた。
「……だったら、あなたとどこかへ行くときにこういう格好をしようかしら。」
「そうだったな。」
すっかり忘れていたが、デートをする予定だったのだ。夏頃に約束してもう寒くなっている。
「少し時間をとれるのか?」
時計をみる。そんなに責められるような時間ではないだろう。
「うん。」
その言葉に彼はまたほほえんだ。
「でも化粧が崩れるわ。」
「そのときは直してやるから。」
「そんなことも出来るの?多才ね。」
「別に出来る訳じゃない。ただ現場にいれば、そういうのも目にすることが多い。そうしているんだなと思っていただけだ。」
マンションにたどり着いて、二人でエレベーターに乗る。その間も惜しいのか、桂は春川の手を握る。そして彼女も彼を見上げた。
「春。」
彼女はそれを待ち、彼は少しかがむと彼女の唇にキスをする。そのときドアが開いた。慌てて彼女は離れる。そしてエレベーターに男と女が乗ってきた。中年同士だ。おそらく立場的には、彼らと同じだろうか。
やがて七階にたどり着き、桂たちはそこに降りた。途中で乗ってきた人たちは降りない。おそらくもっと上の階に行くのだろう。
「邪魔が入るな。」
彼は頭をかいて、部屋に向かう。その後を彼女がついて行った。そしてついたのは桂の部屋の前。彼は鍵を開けて、彼女を中に入れる。
靴を脱いで電気を付ける間もなく、二人はお互いの体に手を伸ばした。
「啓治……。」
彼女は彼のその胸に体を寄せる。彼の鼓動がシャツ越しに聞こえる。
「春。」
温かくて柔らかい。それを離したくなかった。思わず彼女の体を抱きしめる腕に力が入る。
「苦しいわ。」
「痣が出来るまで抱きしめたい。」
彼を見上げると、彼はその手を彼女の後ろ頭に持ってくる。
「春。言うのを忘れてた。」
「何?」
「綺麗だ。」
息を吐くように甘い言葉をささやく男だと思って、昔はそれを軽く交わしていた。だが今は違う。彼の行動一つが、とても愛しくて胸が切なくなる。
「……ありがとう。」
目を閉じると、彼は軽く彼女の唇にキスをした。そしてもう一度。唇を割り、彼女の舌を感じる。温かくて、ぬめっとしている。それが心地いいと思った。
「ん……。」
苦しそうに声を上げる彼女。
苦しいのではない。切ないのだ。もっと欲しい。もっとキスして欲しい。
唇を離すと、つっとお互いの口に糸が引いた。
「好き……。」
恥ずかしそうにいう彼女。もう押さえられない。彼は彼女を壁に押しつけると、その薄紫のコートを脱がせ始めた。足下でバッグが落ちて、コートも足下に落ちる。
自分もジャンパーを脱いだ。そして彼女の首元に唇を寄せる。そしてそのまま耳元に顔を上げた。
「俺も好き。一晩中いたい。」
「……んっ!」
耳たぶを軽く噛まれると、また声をあげた。そして手がセーター越しに胸に触れてくる。柔らかいそこも、自分のものにしたかった。
「春。」
「啓治。そんなに……んっ!」
「まだ服越しだけど。」
服も下着もあるのに、わずかにわかる。その下にある堅くとがった部分が。
「もう立ってる。相変わらずいやらしいな。」
「やだ。」
「言ってたよな。イヤは、いいってこと。」
その言葉で彼女は、わずかに表情を変えた。それは姉のことだったから。だがしつこく服越しから触れてくる指が、それを考えさせない。
「……んっ!啓治。お願い……。切ないから……。」
「言って。何をして欲しいか。」
「……直接触って。」
「どこを?言って。」
「……体。」
「体のどこ?」
顔が赤くなる。たまにこういったSのようなことを言うのだ。
「私の嫌らしい体。もう堅くなってる……乳首。」
「だけでいい?」
「全部……触って欲しいの。」
すると彼は満足したように、彼女を抱き抱える。そしてベッドルームへ連れてくると、彼女をベッドにおろしベッドサイドの電気を薄く付けた。
「寒くないか?」
彼女は首を横に振り、そのニットのワンピースに手をかける。しかし彼がそれを止めた。
「脱がせたい。」
「うん。」
前に抱いて、それから何度彼女を想像で抱いただろう。何度抜いただろう。何度抱いてもゾクゾクする。そして何度抱いても抱き足りない。
「春。愛してる。」
「私も愛してるわ。」
唇を重ね、彼はそのワンピースに手を伸ばした。
「一戸建てか。」
「貸家っすよ。狭いけどね。防音利いてるから、音楽したいときとかに便利。」
「音楽ねぇ。」
趣味でバンドをしていると言っていた。ライブハウスでライブをすればそこそこの客を集められるらしい。
「それに一人暮らしじゃねぇし。」
「あぁ。バンドの奴らと住んでるっていってたっけ。」
「そう。男ばっか。遊び来てくださいよ。」
「そうね。何か差し入れをするわ。」
「うわっ。それ超嬉しい。手作りでしょ?」
「食べれるって程度しか作れないけど、一応主婦だし。」
「家庭の味に飢えてるんですよ。また、飲みましょうよ。」
「えぇ。また。」
「お疲れさん。」
そういってヒロは行ってしまった。そして彼女は車を走らせる。
「……悪かったな。」
「謝るの?」
頭をぐじゃぐしゃとかいて、桂は春川をみる。春川はいつもと変わらないように見えた。
「人前でキスするなんか、あんたは慣れてないだろうにな。」
「慣れるようなものでもないわ。」
「でも今日のその格好は、誰もが振り向く格好だ。ヒロだって最初はあんたにそんなに興味がなかっただろうに。予想外だった。」
「そうね。なるべくしたくないわ。」
「でもたまには見たい。」
その言葉に、彼女は頬を染めた。
「……だったら、あなたとどこかへ行くときにこういう格好をしようかしら。」
「そうだったな。」
すっかり忘れていたが、デートをする予定だったのだ。夏頃に約束してもう寒くなっている。
「少し時間をとれるのか?」
時計をみる。そんなに責められるような時間ではないだろう。
「うん。」
その言葉に彼はまたほほえんだ。
「でも化粧が崩れるわ。」
「そのときは直してやるから。」
「そんなことも出来るの?多才ね。」
「別に出来る訳じゃない。ただ現場にいれば、そういうのも目にすることが多い。そうしているんだなと思っていただけだ。」
マンションにたどり着いて、二人でエレベーターに乗る。その間も惜しいのか、桂は春川の手を握る。そして彼女も彼を見上げた。
「春。」
彼女はそれを待ち、彼は少しかがむと彼女の唇にキスをする。そのときドアが開いた。慌てて彼女は離れる。そしてエレベーターに男と女が乗ってきた。中年同士だ。おそらく立場的には、彼らと同じだろうか。
やがて七階にたどり着き、桂たちはそこに降りた。途中で乗ってきた人たちは降りない。おそらくもっと上の階に行くのだろう。
「邪魔が入るな。」
彼は頭をかいて、部屋に向かう。その後を彼女がついて行った。そしてついたのは桂の部屋の前。彼は鍵を開けて、彼女を中に入れる。
靴を脱いで電気を付ける間もなく、二人はお互いの体に手を伸ばした。
「啓治……。」
彼女は彼のその胸に体を寄せる。彼の鼓動がシャツ越しに聞こえる。
「春。」
温かくて柔らかい。それを離したくなかった。思わず彼女の体を抱きしめる腕に力が入る。
「苦しいわ。」
「痣が出来るまで抱きしめたい。」
彼を見上げると、彼はその手を彼女の後ろ頭に持ってくる。
「春。言うのを忘れてた。」
「何?」
「綺麗だ。」
息を吐くように甘い言葉をささやく男だと思って、昔はそれを軽く交わしていた。だが今は違う。彼の行動一つが、とても愛しくて胸が切なくなる。
「……ありがとう。」
目を閉じると、彼は軽く彼女の唇にキスをした。そしてもう一度。唇を割り、彼女の舌を感じる。温かくて、ぬめっとしている。それが心地いいと思った。
「ん……。」
苦しそうに声を上げる彼女。
苦しいのではない。切ないのだ。もっと欲しい。もっとキスして欲しい。
唇を離すと、つっとお互いの口に糸が引いた。
「好き……。」
恥ずかしそうにいう彼女。もう押さえられない。彼は彼女を壁に押しつけると、その薄紫のコートを脱がせ始めた。足下でバッグが落ちて、コートも足下に落ちる。
自分もジャンパーを脱いだ。そして彼女の首元に唇を寄せる。そしてそのまま耳元に顔を上げた。
「俺も好き。一晩中いたい。」
「……んっ!」
耳たぶを軽く噛まれると、また声をあげた。そして手がセーター越しに胸に触れてくる。柔らかいそこも、自分のものにしたかった。
「春。」
「啓治。そんなに……んっ!」
「まだ服越しだけど。」
服も下着もあるのに、わずかにわかる。その下にある堅くとがった部分が。
「もう立ってる。相変わらずいやらしいな。」
「やだ。」
「言ってたよな。イヤは、いいってこと。」
その言葉で彼女は、わずかに表情を変えた。それは姉のことだったから。だがしつこく服越しから触れてくる指が、それを考えさせない。
「……んっ!啓治。お願い……。切ないから……。」
「言って。何をして欲しいか。」
「……直接触って。」
「どこを?言って。」
「……体。」
「体のどこ?」
顔が赤くなる。たまにこういったSのようなことを言うのだ。
「私の嫌らしい体。もう堅くなってる……乳首。」
「だけでいい?」
「全部……触って欲しいの。」
すると彼は満足したように、彼女を抱き抱える。そしてベッドルームへ連れてくると、彼女をベッドにおろしベッドサイドの電気を薄く付けた。
「寒くないか?」
彼女は首を横に振り、そのニットのワンピースに手をかける。しかし彼がそれを止めた。
「脱がせたい。」
「うん。」
前に抱いて、それから何度彼女を想像で抱いただろう。何度抜いただろう。何度抱いてもゾクゾクする。そして何度抱いても抱き足りない。
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「私も愛してるわ。」
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