セックスの価値

神崎

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告白

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 煙草に火をつけて、嵐は春川を見る。最初にあったときよりも随分女らしくなった。
 あのファミレスで、彼女は結婚していてその相手は冬山祥吾だと言っていた。だが彼と結婚して七年。レス歴は長いという。だから心を惹かれた桂に転ぶのは仕方ないと思う。
 それに祥吾はきっと昔と変わっていない。あいつの性格が昔のままなら、よく七年も続いたと感心する。
「祥吾は昨日から帰っていると言っていた。夕の所にいたらしいな。」
「えぇ。昔なじみの所だと言ってましたね。」
「みんな大学の同級生なり、後輩なりだよ。俺は祥吾の先輩だし、夕は後輩。祥吾はあの中で一番浮いてた。」
 大学生の時に小説かでビューをしていきなりヒット作を生み出した祥吾は、大学の中でも羨望のまなざしの中にいた。
「いっつもつんとしててな、文芸サークルに入ってたみたいだけど結局誰とも交わらなかったかな。イヤ……唯一一人だけ仲がいい奴居たっけ。本人はうっとうしそうだったけどな。」
「遠藤……守さんじゃないんですか?」
「あぁ。そうだ。」
 ミステリー小説の第一人者の遠藤守。自殺をしたのは、八年前。ちょうど、春川が祥吾の所を訪れたあたりだった。
「本人はうっとうしそうだったけど、あいつはいっつも祥吾と飯を食ったりしてたっけ。でもなぁ……。」
 嵐は煙草の灰を灰皿に落とすと、ため息をついた。
「いつだったか、俺らのサークルで短編の映画を作ることになってな。」
「ポルノを?」
「バカ言うんじゃねぇよ。俺だって最初からエロを撮るつもりじゃなかったんだって。」
 少し笑った。その笑い声が少し空気を軽くする。
「それでもどんな話か、おぼろげに決まってはいたんだけど文章のプロってのは居なかったからな。文芸サークルに頼んだんだ。祥吾の噂は有名だったし、できれば祥吾に書いて欲しいって言ったんだよ。」
「いやがったでしょう?」
「うん。もうプロになってんだから、そんなものにつきあっていられないと一言言ってな。それでなくても人と関わりたくないオーラ出てたし、つきあってたのは俺らのサークルの絹恵だけだっけか。」
「牧原さんとはそのころつきあっていたんですか。」
「だったな。だけど絹恵と対等にあるようだったけど、絹恵ともどっか距離があった。それでの絹恵がつきあっていたのは、似たもの同士だったからだろうな。」
「牧原さんも?」
「あぁ。あいつ不動のヒロインだったからな。女王様じゃねぇと気がすまねぇ。それに、あっちの相性も良かったみたいだしな。」
「あぁ。セックスですか。相性は確かにあるみたいですね。」
「あんたもわかるようになったのか。レスだって言ってたのにな。」
「旦那とではないですよ。」
「んだよ。熱いな。そいつ今から他の奴とセックスすんのに。」
「仕事でしょう?気にしません。」
 それは強がりだった。強がらなければ、泣いてしまうから。
「話がそれたな。どこまで話したっけ。」
「大学の演劇サークルで、脚本の執筆を先生に頼んだんですよね。」
「あぁ。だった。祥吾に頼んだんだけど、結局断られてな。「江河」がヒットしてたから、次を考えるのに頭がいっぱいだったんだろうって今考えれば思う。けど「俺が書くよ。」って言ってくれた奴がいてな。」
「……それって……。」
「そう。遠藤守。あいつ作家デビューしてからはミステリー作家みたいだったけど、あの脚本はラブストーリーだった。いい話だなぁって絹恵も誉めてたくらいだ。」
「想像できませんね。トリックが巧妙な作家だというイメージだったんですけど。」
「あぁ。だから意外だった。あぁいうラブストーリーを書くのも、ミステリーを書くのも。あいつあぁいう話を書く奴じゃないと思ってたし。それに……あいつはあんたに似てるよ。」
 急に降られて春川は驚いたように嵐を見た。
「私に?」
「なんつーか。ほら綿密に取材したり、舞台になる土地を見たり。何年生の頃だったか、大学の夏休みに一時いなくなってな。帰ってきたらすごい浮浪者みたいな格好して帰ってきた。どうしたんだって聞いたら、「ホームレスの話を書きたかった」って自分自身がそうなることで、浮浪者の話が聞けたって満足そうだった。」
「……。」
「あんたもやりかねないな。」
「そうですね。そう言う話を書くときは、そうするかもしれませんね。」
「やめとけ。やめとけ。男だからできたんだ。女がすれば、すぐに姦されるって。」
 煙草を消して、彼は笑う。
「祥吾とは大学を出てからつきあいはない。守とはつきあいがあったみたいで、その繋がりで絹恵ともつながりはあったんだろう。」
「どうして牧原さんと別れてしまったんでしょう。」
「さぁな。プライドの高いもの同士、衝突したんじゃねぇのかな。」
 そのときドアをノックする音がした。
「はい。」
 嵐が声をかけると、ドアはすぐに開いた。そこには桂の姿がある。
「春……。」
 嵐の隣に座っている彼女を見て、桂は少し不思議そうな顔をした。そして手にはピンク色のローターが握られている。
「どうしたんだよ。電池でも切れてたか?」
「あー。イヤ。プロット見てて、ストーリーならこれ使うのがおかしいところがあるなって思ったんですけど。」
「ん?どこ?」
 嵐は机に置かれているプロットを手にしてそれを見る。もう先ほどの話を桂の前でする気はないようだ。それだけ嵐が彼女に目をかけているのだろう。
「なるほどね。秋野。あんたならこれどうする?」
「メーカーとのかねあいで、このローターって使わないといけないんですよね?ちょっと貸してもらえます?どんな動きをするのか気になるし。」
「あー。だったらアレか?それもって桂の楽屋行く?」
 意地悪そうに嵐が聞くと、桂は焦ったようにそれを否定した。
「嵐さん。やめて下さいよ。」
 だが彼女はそれを気にせずに、ローターのスイッチを入れる。
「おー。すごい。こんな動きするんだ。これって新型?」
「らしい。まぁ。これを売るのに使って欲しいってことだし。」
「なるほどね。でも結構激しい動きですよね。これをクリに当てられたらたまらんわ。」
 ため息をついてスイッチを切る。そしてプロットに目を落とす。それを見た嵐は、心の中でため息をついた。本当に遠藤守に似ている女だ。
 興味があることの前では好きな人すら情報の糧であり、桂もそれに答えていた。桂もまた彼女並のワーカーホリックで、まだこの世界から足は洗えないのかもしれない。
 祥吾と絹恵が恋人同士だったのは似ているからだと思っていた。
 桂も春川もよく似ている。だから惹かれあったのだろう。だが祥吾もある意味では手段を使わないところがある。それを説き伏すのは一悶着ありそうだ。
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