150 / 172
クリスマス
150
しおりを挟む
腰が立たないほどセックスをして、倒れ込むように二人で眠った。目を覚ますと、桂はまだ眠っている。春川は体を避けて、ベッドから降りようとしたときだった。すると桂は寝ぼけているように彼女の体を抱きしめる。
「春……。」
周りはまだ暗い。起きるにはまだ早い時間なのだろうが、いつもの時間に目が覚めてしまった春は、その手を避けようとした。だが桂はその手を避けようとしない。
「桂……。」
「早いな。」
彼はそう言って後ろを向いている彼女の後ろ頭に、キスをする。
「起きたの?」
「あぁ。目が覚めてしまった。」
彼女は彼の方を向いて、その唇にキスをする。彼の体にも、そして彼女の体にも無数の跡が付いていた。どれだけ激しい夜を過ごしたのかがそれでわかる。
彼女の指にはもうとっくに指輪はない。代わりに彼と出会った夏にもらったブレスレットがある。彼はその手を握ると、その手首に唇を寄せた。
「指輪を贈りたいな。」
「必要かしら。」
「あぁ。あんたが男と女のアレコレを書きたいんだったら、また取材するんだろう。そのときに男に襲われないためにも男除けとして、ずっと付けておいてくれないか。」
そう言えば祥吾からもらった指輪は、いつもそういう現場で役に立っていた。勘違いする男が多いから。
「そうね。でも……私自身はコレで十分だけど。」
手首に巻かれているブレスレットを見せる。まるで手錠だと思うから。
「そうか。」
「嬉しかったのよ。」
幸せそうに微笑む。あのときは邪険に突き放したが、本音は嬉しかったのだ。
「春。」
「何?」
「もう一回させて。」
呆れたように彼女は彼を見上げる。そして唇を重ねた。
相川の事務所は芸能事務所としても小規模の事務所で、正直相川秀一以外は聞いたことのないタレントや役者ばかりだった。
相川がもし何かあったらどうするのだろう。倒れてしまうのではないかとか、吸収合併するのではないかと思っていた。だがまぁそんなに悲観することはないと、事務所の外に出たとき相川は言う。
「社長になっているあいつは、元タレントだが手腕は悪くない。わがままも割ときくしな。」
「……そんなもんなんですね。」
「そういえば、君は昔事務所に入っていただろう?どこだったんだ。」
「大きな事務所でしたよ。俺みたいな人はごろごろ居ました。何かしらのバイトをみんなしていて、同じホストクラブにいたヤツが事務所辞めてそっちに専念した話もありましたしね。」
「よくある話だ。」
ビルを二人で出ると、相川はタクシーを停めた。そして相川のマネージャーである男と、桂とで三人でタクシーに乗る。
そしてたどり着いたのは、そこからほど近いビルだった。古い建物で、ビルと言っても五階ほどしかない。その三階まで三人は階段で向かう。
そしてたどり着いたそのドアを開けようと、ドアノブに相川が手をかけたときだった。開けなくてもすぐにドアが開く。そして一人の女が涙目になりながら出て行った。
階段を下りていく女を見て、相川はため息を付く。
「またか……。三吉さんは容赦ないからな。」
「は?」
「まぁいい。君なら持つと思うよ。」
意味ありげにドアを開けると、そこは化粧の濃い年増の女が受付のように座っている。暖房がきいていて、外の寒さが嘘のようだった。
「あら。相川さん。」
「美雪さん。久しぶりですね。」
「ココにくるの久しぶりね。あぁ。新人を連れてきたいって言っていたかしら。」
彼女は立ち上がり、後ろに立っていた桂を値踏みするように見上げた。
「ふーん。新人にしてはとうがたってるわね。」
「あぁ。でもこの間までAV男優だったよ。」
「あら、そう。そこで小銭を稼いでいたのね。」
ずいぶん失礼な言い方をする女性だ。桂はそう思っていたが、表情には出さなかった。
そのときだった。奥のドアが勢いよく開いた。
「こんなとこいられっかよ!」
「おー、出て行きてぇなら出ていきな。」
ジャンパーを手に持ってそれを着るのもそこそこに、男はまだ受付にいた桂たちを無視して勢いよく出て行った。そしてそのドアからやってきたのは、煙草をくわえた背の高い男だった。
「ったくよぉ。最近の新人は……。」
「あなた。また生徒を逃したのね。」
呆れたように美雪と呼ばれた女が彼を見る。
「仕方ねぇだろ?演技自信ありますって言うから、じゃあ五秒以内に泣けって言ったら、出来ねぇんだもん。あいつアホか?」
どこかで見たことがある男だ。桂はそう思って彼を見ていた。
「手厳しいな。敦は。」
相川はそういうと、その男は煙草を消して相川に近づく。
「おー。久しぶり。秀ちゃん。元気だった?」
「あぁ。お陰でこの間健康診断にも引っかからなかった。」
「健康的で良いねぇ。お?新人か?」
「あぁ。」
「自己紹介して。」
偉そうな態度だが、それだけ自信があるのだろう。桂はそう思って、ソファに座った彼を前に自己紹介を始める。
「桂です。宜しくお願いします。」
すると彼は桂を見上げて、鼻で笑った。
「お前、オーディションでそれしかいわねぇの?」
「は?」
マネージャーが青い顔で相川を見ていた。だが相川は涼しそうな顔だ。
「もっと何かあるだろ?自己PR。ほらやってみろよ。役者なんだろ?お前。」
その言葉に桂もかちんときたらしい。だがすぐに冷静になる。そして振り返ると、その受付にいた美雪という年増の女性に近づいた。
「何?」
女性は驚いたように彼を見上げる。しかし彼はひざまづいて、彼女を見上げた。
「初めまして。桂と言います。あなたは?」
「……三吉……美雪。」
「良い名前ですね。色が白い。あなたにぴったりの名前だ。」
あくまで自然に、彼はその手を取る。下品な赤いマニキュアがはげかけているその手は、もうしわが多くて若いとは言い辛い。だが彼はそれを大事そうに両手で包み込んだ。
男には慣れているはずだった。だが彼女の頬は赤くなる。
「……桂さんは?本名は?」
そのとき後ろから笑い声が聞こえた。それは男の声だった。
「よし、いいぞ。」
その声に桂はすっと手を離し、立ち上がる。
「さすが元AV男優だな。女を口説くのも一級品ってわけだ。」
知っていた。なのにわざと演技をさせたのだ。性格が悪い男。桂はそう思っていた。
「俺、三吉敦。このスタジオで演技指導してんだよ。」
「まぁ、演技しか教えていないけどね。それもみんなすぐ逃げちゃうから。火の車。」
美雪はそういって笑っていた。
「るせーな。マンションとかアパートで何とか生活出来てんだろ?」
そうか。彼はやっと思いだした。この男も元AV男優だったはずだ。愛川航と言う名前だった。引退して演技指導をしているところをみると、彼も同じ穴の狢だったのだろう。
「春……。」
周りはまだ暗い。起きるにはまだ早い時間なのだろうが、いつもの時間に目が覚めてしまった春は、その手を避けようとした。だが桂はその手を避けようとしない。
「桂……。」
「早いな。」
彼はそう言って後ろを向いている彼女の後ろ頭に、キスをする。
「起きたの?」
「あぁ。目が覚めてしまった。」
彼女は彼の方を向いて、その唇にキスをする。彼の体にも、そして彼女の体にも無数の跡が付いていた。どれだけ激しい夜を過ごしたのかがそれでわかる。
彼女の指にはもうとっくに指輪はない。代わりに彼と出会った夏にもらったブレスレットがある。彼はその手を握ると、その手首に唇を寄せた。
「指輪を贈りたいな。」
「必要かしら。」
「あぁ。あんたが男と女のアレコレを書きたいんだったら、また取材するんだろう。そのときに男に襲われないためにも男除けとして、ずっと付けておいてくれないか。」
そう言えば祥吾からもらった指輪は、いつもそういう現場で役に立っていた。勘違いする男が多いから。
「そうね。でも……私自身はコレで十分だけど。」
手首に巻かれているブレスレットを見せる。まるで手錠だと思うから。
「そうか。」
「嬉しかったのよ。」
幸せそうに微笑む。あのときは邪険に突き放したが、本音は嬉しかったのだ。
「春。」
「何?」
「もう一回させて。」
呆れたように彼女は彼を見上げる。そして唇を重ねた。
相川の事務所は芸能事務所としても小規模の事務所で、正直相川秀一以外は聞いたことのないタレントや役者ばかりだった。
相川がもし何かあったらどうするのだろう。倒れてしまうのではないかとか、吸収合併するのではないかと思っていた。だがまぁそんなに悲観することはないと、事務所の外に出たとき相川は言う。
「社長になっているあいつは、元タレントだが手腕は悪くない。わがままも割ときくしな。」
「……そんなもんなんですね。」
「そういえば、君は昔事務所に入っていただろう?どこだったんだ。」
「大きな事務所でしたよ。俺みたいな人はごろごろ居ました。何かしらのバイトをみんなしていて、同じホストクラブにいたヤツが事務所辞めてそっちに専念した話もありましたしね。」
「よくある話だ。」
ビルを二人で出ると、相川はタクシーを停めた。そして相川のマネージャーである男と、桂とで三人でタクシーに乗る。
そしてたどり着いたのは、そこからほど近いビルだった。古い建物で、ビルと言っても五階ほどしかない。その三階まで三人は階段で向かう。
そしてたどり着いたそのドアを開けようと、ドアノブに相川が手をかけたときだった。開けなくてもすぐにドアが開く。そして一人の女が涙目になりながら出て行った。
階段を下りていく女を見て、相川はため息を付く。
「またか……。三吉さんは容赦ないからな。」
「は?」
「まぁいい。君なら持つと思うよ。」
意味ありげにドアを開けると、そこは化粧の濃い年増の女が受付のように座っている。暖房がきいていて、外の寒さが嘘のようだった。
「あら。相川さん。」
「美雪さん。久しぶりですね。」
「ココにくるの久しぶりね。あぁ。新人を連れてきたいって言っていたかしら。」
彼女は立ち上がり、後ろに立っていた桂を値踏みするように見上げた。
「ふーん。新人にしてはとうがたってるわね。」
「あぁ。でもこの間までAV男優だったよ。」
「あら、そう。そこで小銭を稼いでいたのね。」
ずいぶん失礼な言い方をする女性だ。桂はそう思っていたが、表情には出さなかった。
そのときだった。奥のドアが勢いよく開いた。
「こんなとこいられっかよ!」
「おー、出て行きてぇなら出ていきな。」
ジャンパーを手に持ってそれを着るのもそこそこに、男はまだ受付にいた桂たちを無視して勢いよく出て行った。そしてそのドアからやってきたのは、煙草をくわえた背の高い男だった。
「ったくよぉ。最近の新人は……。」
「あなた。また生徒を逃したのね。」
呆れたように美雪と呼ばれた女が彼を見る。
「仕方ねぇだろ?演技自信ありますって言うから、じゃあ五秒以内に泣けって言ったら、出来ねぇんだもん。あいつアホか?」
どこかで見たことがある男だ。桂はそう思って彼を見ていた。
「手厳しいな。敦は。」
相川はそういうと、その男は煙草を消して相川に近づく。
「おー。久しぶり。秀ちゃん。元気だった?」
「あぁ。お陰でこの間健康診断にも引っかからなかった。」
「健康的で良いねぇ。お?新人か?」
「あぁ。」
「自己紹介して。」
偉そうな態度だが、それだけ自信があるのだろう。桂はそう思って、ソファに座った彼を前に自己紹介を始める。
「桂です。宜しくお願いします。」
すると彼は桂を見上げて、鼻で笑った。
「お前、オーディションでそれしかいわねぇの?」
「は?」
マネージャーが青い顔で相川を見ていた。だが相川は涼しそうな顔だ。
「もっと何かあるだろ?自己PR。ほらやってみろよ。役者なんだろ?お前。」
その言葉に桂もかちんときたらしい。だがすぐに冷静になる。そして振り返ると、その受付にいた美雪という年増の女性に近づいた。
「何?」
女性は驚いたように彼を見上げる。しかし彼はひざまづいて、彼女を見上げた。
「初めまして。桂と言います。あなたは?」
「……三吉……美雪。」
「良い名前ですね。色が白い。あなたにぴったりの名前だ。」
あくまで自然に、彼はその手を取る。下品な赤いマニキュアがはげかけているその手は、もうしわが多くて若いとは言い辛い。だが彼はそれを大事そうに両手で包み込んだ。
男には慣れているはずだった。だが彼女の頬は赤くなる。
「……桂さんは?本名は?」
そのとき後ろから笑い声が聞こえた。それは男の声だった。
「よし、いいぞ。」
その声に桂はすっと手を離し、立ち上がる。
「さすが元AV男優だな。女を口説くのも一級品ってわけだ。」
知っていた。なのにわざと演技をさせたのだ。性格が悪い男。桂はそう思っていた。
「俺、三吉敦。このスタジオで演技指導してんだよ。」
「まぁ、演技しか教えていないけどね。それもみんなすぐ逃げちゃうから。火の車。」
美雪はそういって笑っていた。
「るせーな。マンションとかアパートで何とか生活出来てんだろ?」
そうか。彼はやっと思いだした。この男も元AV男優だったはずだ。愛川航と言う名前だった。引退して演技指導をしているところをみると、彼も同じ穴の狢だったのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる