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湯船にお湯をためて、ゆっくりと湯に浸かる。食堂で仕事をしているのとは違って、一緒に仕事をしている相手がいれば楽かと思ったがそれはそれで気を使う。唯一良かったことは、やりやすい人間で良かったと言うことだろう。
風呂から上がると、キッチンへ向かう。引き出しから白い薬を取り出すと、それを口に含み水を飲んだ。最近はこの青い薬を飲むことはなくなった。あの変な頭痛はきっと藍が原因だったと考えれば、やはり恋愛感情が原因だったのだろう。セックスをすれば更に頭が痛くなる。好きという感情を体が拒否していたのだ。
恋愛はもうしない方がいいのかもしれない。だが心には逆らうことは出来ないのだ。
夜が来て眠ると、夢に出てくることがある。藍が優しく微笑み、彼女を優しく抱きしめるのだ。幸せな夢。だが起きると、それは全て夢で空しい気持ちになる。
全て忘れよう。
彼女はそう思いながら、電気を消してベッドに横になる。今日は彩も来ることはない。ライブバーに復帰したのだ。彼を目当てに来る客の相手をしているのだろう。
そして藍もあの子供を抱えた女性と一緒にいる。それが一番心を苦しめた。
「昼間も?」
オーナーがウェイトレス、ウェイター、そして調理場の従業員をみんな集めて、仕事終わりにそう告げた。
「あぁ。飯が美味しくなったと評判でね。出来ればランチも出来ないかと言われている。」
その言葉に累は表情を変えずに、顎に手を当てる。少し考えているようだった。
「酒は出さないんでしょう?」
「望めば出せばいいが、そう真っ昼間から飲む奴が居るかな。」
ウェイトレスはそういってウェイターと笑っていた。
「ライブは?」
彩はそう聞くと、オーナーは笑いながら言う。
「ライブはしないよ。あくまで食事メインだ。」
累の方をみる。しかし彼女は少し考えているようだった。
「時間は?」
今度は隆が聞いた。
「十一時から二時まで。夜が七時から十二時まで。」
「食事をすることを考えれば、実質三時までで、その間は四時間。仕込みを考えれば三時間といったところですか。」
出来ないことはない。だが彼女はまだ黙ったままだった。それに気がついて、隆が声をかける。
「累。何かあるか?」
「……出来ればランチのみのメニューにすればいいのですが。」
「日替わりって事か?」
「えぇ。そうすれば早くできるし、仕込みも時間がかからないと思います。」
「君がしてたようにか。」
彩はそういって皮肉を言う。おそらく反対なのだろう。しかし累はしたいのかもしれない。元々食堂をしていたのだし、食事を作るのは苦ではない。
「そうですね。二種類くらいに絞って。」
「食べれないものがあったらどうするんだよ。」
ウェイターはそういって止めようとした。昼間も出て働くのが面倒なのかもしれない。
「人材を入れるつもりですか。」
「きついって言うんだったらな。」
だが今の人時で人を入れることを考えられないだろう。
「最初はあまりお客様も入らないかもしれませんので、出てきたい方だけ出てくればいいのではないのでしょうか。」
「累は出るのか?」
「えぇ。私は物入りでここにいるので。」
まだ「旬食」を開店させたいと思っているのだろう。だからなるべくお金を稼ぎたい。それに体を動かした方が余計なことを考えないですむ。
「だったら俺も出るか。」
「隆さん。」
隆はそういって彼女をみる。
「気にするな。俺も物入りなんだよ。」
やはり結婚を意識しているのかもしれない。そのためには金がいるのだ。
結局昼間も出て働くという人は半分ほど。ランチは平日のみで、土日はしない。ターゲットは市場で働くものだという。
「あまり気取った料理ではなくても良いかもしれませんね。」
バーの外に出て、彼女は考えを巡らせる。いつも市場へ行き、食材を見ながら何にしようと考えを巡らせるようなやり方では時間が足りない。
だったらあらかじめメニューを決めてしまうか。曜日ごとにメニューを決めてしまうとか。そうすれば仕入れる食材も限られてくるし、コストもかからない。何より彼女らが楽だろう。
「累。」
隆は帰る方向が違うので、いつも店の前で別れるが今日は彼女のところに駆け寄ってきた。
「どうしました?」
「今度の休みは何か予定があるか。」
「いいえ。特には。」
掃除をするくらいだろう。あとは零教授のところへ行きメンテナンスをする。時間はそれほどかからないし、いつ行ってもかまわないと言われているのだ。
「だったら市場へ行こう。」
「行ったことがないのですか?」
「いいや。久しぶりにどんな食材があるか見たいし、メニューも決めたい。あんたと一緒に行った方が、俺が勝手に決めるよりもいいだろう。」
確かにそうだ。一緒に食事を作るのであれば、彼と一緒に選んだ方がいいだろう。それに市場の人たちに彼の顔も市場の人に知られておいた方がいい。
「わかりました。休みの日……明後日ですか。」
「市場はどれくらいから開いてる?」
「五時ですね。四時くらいに漁船が帰ってきます。それから仕分けや、競りが始まります。私たちの手にはいるのは五時くらいです。」
「わかった。じゃあ五時に港に。」
そんな早い時間から動いていたのだ。一人で食堂をしていたというから当然だろう。一人で動き、一人で経営し……。一人で働いたことのない彼にとっては未知のことだった。
去っていく彼女の後ろ姿を見て、彼はポケットから煙草を取り出してそれをくわえた。するとあとから出てきた彩が、彼に声をかける。
「お疲れさま。」
「お疲れ。今日も客の相手か?」
嫌みのつもりで言ったわけではない。だが元気だなと思う。
「あぁ。そうだね。復帰したらしたで、面倒だ。」
面倒ならしなければいいのに。訳の分からない男だ。
「累はやりやすい?」
「あぁ。いつもの奴らよりは相当やりやすい。手際も悪くないしな。まだ細かいミスはあるが、それはそれでカバーすれば何とかなる。」
「昼もすれば、また君が目を光らせるのかな。」
煙を吐き出して、彩をみる。嫌みのつもりだろうか。だがそれに乗っかる気はない。同じ店で働いているのだ。波風は立てたくない。
「そうだな。お互いがカバーできればいいだろう。」
「累は失恋したばかりでね。ずっとあのこの世話はしていたが、その辺は僕には癒せないようだ。頑固だからね。」
すると彩も煙草をとりだして火をつける。
「変に気を使うからだろう。失恋したんだったらそっとしておけ。時間が何とかする場合もあるだろう。」
「新しい相手に目を向ければいいんだけどね。」
「……。」
「累は頑固だからね。君が仲良くなっても、君に振り向くことはないと思う。」
「俺がか?無理だな。俺には相手がいる。家に帰れば、一応待っているし。」
「だったらいいんだ。変に勘違いしないで欲しいと思っただけだ。」
彩はそういって手を拭り、花街の方へ向かっていった。
何を勘違いしているんだか。隆はそう思いながら、自分の部屋へ向かっていく。
そう。家には自分の恋人がいる。だから累に振り向くことはないのだ。そう思いながら夜のぬるい空気を受けながら、彼は帰っていった。
風呂から上がると、キッチンへ向かう。引き出しから白い薬を取り出すと、それを口に含み水を飲んだ。最近はこの青い薬を飲むことはなくなった。あの変な頭痛はきっと藍が原因だったと考えれば、やはり恋愛感情が原因だったのだろう。セックスをすれば更に頭が痛くなる。好きという感情を体が拒否していたのだ。
恋愛はもうしない方がいいのかもしれない。だが心には逆らうことは出来ないのだ。
夜が来て眠ると、夢に出てくることがある。藍が優しく微笑み、彼女を優しく抱きしめるのだ。幸せな夢。だが起きると、それは全て夢で空しい気持ちになる。
全て忘れよう。
彼女はそう思いながら、電気を消してベッドに横になる。今日は彩も来ることはない。ライブバーに復帰したのだ。彼を目当てに来る客の相手をしているのだろう。
そして藍もあの子供を抱えた女性と一緒にいる。それが一番心を苦しめた。
「昼間も?」
オーナーがウェイトレス、ウェイター、そして調理場の従業員をみんな集めて、仕事終わりにそう告げた。
「あぁ。飯が美味しくなったと評判でね。出来ればランチも出来ないかと言われている。」
その言葉に累は表情を変えずに、顎に手を当てる。少し考えているようだった。
「酒は出さないんでしょう?」
「望めば出せばいいが、そう真っ昼間から飲む奴が居るかな。」
ウェイトレスはそういってウェイターと笑っていた。
「ライブは?」
彩はそう聞くと、オーナーは笑いながら言う。
「ライブはしないよ。あくまで食事メインだ。」
累の方をみる。しかし彼女は少し考えているようだった。
「時間は?」
今度は隆が聞いた。
「十一時から二時まで。夜が七時から十二時まで。」
「食事をすることを考えれば、実質三時までで、その間は四時間。仕込みを考えれば三時間といったところですか。」
出来ないことはない。だが彼女はまだ黙ったままだった。それに気がついて、隆が声をかける。
「累。何かあるか?」
「……出来ればランチのみのメニューにすればいいのですが。」
「日替わりって事か?」
「えぇ。そうすれば早くできるし、仕込みも時間がかからないと思います。」
「君がしてたようにか。」
彩はそういって皮肉を言う。おそらく反対なのだろう。しかし累はしたいのかもしれない。元々食堂をしていたのだし、食事を作るのは苦ではない。
「そうですね。二種類くらいに絞って。」
「食べれないものがあったらどうするんだよ。」
ウェイターはそういって止めようとした。昼間も出て働くのが面倒なのかもしれない。
「人材を入れるつもりですか。」
「きついって言うんだったらな。」
だが今の人時で人を入れることを考えられないだろう。
「最初はあまりお客様も入らないかもしれませんので、出てきたい方だけ出てくればいいのではないのでしょうか。」
「累は出るのか?」
「えぇ。私は物入りでここにいるので。」
まだ「旬食」を開店させたいと思っているのだろう。だからなるべくお金を稼ぎたい。それに体を動かした方が余計なことを考えないですむ。
「だったら俺も出るか。」
「隆さん。」
隆はそういって彼女をみる。
「気にするな。俺も物入りなんだよ。」
やはり結婚を意識しているのかもしれない。そのためには金がいるのだ。
結局昼間も出て働くという人は半分ほど。ランチは平日のみで、土日はしない。ターゲットは市場で働くものだという。
「あまり気取った料理ではなくても良いかもしれませんね。」
バーの外に出て、彼女は考えを巡らせる。いつも市場へ行き、食材を見ながら何にしようと考えを巡らせるようなやり方では時間が足りない。
だったらあらかじめメニューを決めてしまうか。曜日ごとにメニューを決めてしまうとか。そうすれば仕入れる食材も限られてくるし、コストもかからない。何より彼女らが楽だろう。
「累。」
隆は帰る方向が違うので、いつも店の前で別れるが今日は彼女のところに駆け寄ってきた。
「どうしました?」
「今度の休みは何か予定があるか。」
「いいえ。特には。」
掃除をするくらいだろう。あとは零教授のところへ行きメンテナンスをする。時間はそれほどかからないし、いつ行ってもかまわないと言われているのだ。
「だったら市場へ行こう。」
「行ったことがないのですか?」
「いいや。久しぶりにどんな食材があるか見たいし、メニューも決めたい。あんたと一緒に行った方が、俺が勝手に決めるよりもいいだろう。」
確かにそうだ。一緒に食事を作るのであれば、彼と一緒に選んだ方がいいだろう。それに市場の人たちに彼の顔も市場の人に知られておいた方がいい。
「わかりました。休みの日……明後日ですか。」
「市場はどれくらいから開いてる?」
「五時ですね。四時くらいに漁船が帰ってきます。それから仕分けや、競りが始まります。私たちの手にはいるのは五時くらいです。」
「わかった。じゃあ五時に港に。」
そんな早い時間から動いていたのだ。一人で食堂をしていたというから当然だろう。一人で動き、一人で経営し……。一人で働いたことのない彼にとっては未知のことだった。
去っていく彼女の後ろ姿を見て、彼はポケットから煙草を取り出してそれをくわえた。するとあとから出てきた彩が、彼に声をかける。
「お疲れさま。」
「お疲れ。今日も客の相手か?」
嫌みのつもりで言ったわけではない。だが元気だなと思う。
「あぁ。そうだね。復帰したらしたで、面倒だ。」
面倒ならしなければいいのに。訳の分からない男だ。
「累はやりやすい?」
「あぁ。いつもの奴らよりは相当やりやすい。手際も悪くないしな。まだ細かいミスはあるが、それはそれでカバーすれば何とかなる。」
「昼もすれば、また君が目を光らせるのかな。」
煙を吐き出して、彩をみる。嫌みのつもりだろうか。だがそれに乗っかる気はない。同じ店で働いているのだ。波風は立てたくない。
「そうだな。お互いがカバーできればいいだろう。」
「累は失恋したばかりでね。ずっとあのこの世話はしていたが、その辺は僕には癒せないようだ。頑固だからね。」
すると彩も煙草をとりだして火をつける。
「変に気を使うからだろう。失恋したんだったらそっとしておけ。時間が何とかする場合もあるだろう。」
「新しい相手に目を向ければいいんだけどね。」
「……。」
「累は頑固だからね。君が仲良くなっても、君に振り向くことはないと思う。」
「俺がか?無理だな。俺には相手がいる。家に帰れば、一応待っているし。」
「だったらいいんだ。変に勘違いしないで欲しいと思っただけだ。」
彩はそういって手を拭り、花街の方へ向かっていった。
何を勘違いしているんだか。隆はそう思いながら、自分の部屋へ向かっていく。
そう。家には自分の恋人がいる。だから累に振り向くことはないのだ。そう思いながら夜のぬるい空気を受けながら、彼は帰っていった。
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