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カウンターに戻ると、私はあがる為にカウンター奥のドアをくぐり、バックヤードで着替えを済ませた。
そしてフロアに出ようと、ドアノブに手を回して止めた。
立ち聞きする気はないけれど、以前彼らは喧嘩して柊さんが出て行ったのを覚えている。殺伐としたところに空気を読まず出て行った事がある。そんな時私が立ち入ると良くないと思い出したのだ。
しかし、そんな心配をよそに、二人の空気はいいものに思えた。
「可愛らしい人でしょう。」
「誰がだ。」
「とぼけないでくださいよ。桜さんですよ。」
「あぁ。確かにな。男にすれていないし、素直だ。今時の高校生とは少し違う気がする。」
「それだけですか。」
「何が?」
「学校の中でも会うことはあるでしょう。」
「あるが、声をかけることはない。お前、そんなことを気にしていたのか。」
「男と女でしょう。」
あまり険悪ではない雰囲気だと思って、ドアを開けようとしたけれど、葵さんの言葉に私は手を思わず止めた。
男と女。確かにそうだ。でもまだ彼らに認めてもらうほど大人じゃない。大人っていうのは、お母さんみたいな人のことを言うのだから。
「嫌な言い方だ。」
「女が一番欲しい時期に、私たちはムショにいた。まるで僧侶のような生活をして、禁欲を強いられた。だからあなたも私もそういうことには敏感になっているはずだ。」
「元々女はそこまで必要じゃない。一緒にするな。」
「そうでしょうか。自慰だってするでしょう。」
生々しい。そんなことを葵さんがいうと思わなかった。と言うか、今、衝撃的なことをいわなかった?
”私たちはムショに入っていた。”
お母さんから聞いていて葵さんが入っていたのは知っていたけど、まさか柊さんも?
「女は必要ない。」
それ以上聞きたくなかった。私はドアを開ける。すると二人はこちらを見て、顔を見合わせた。
「まだいたんですね。」
「えぇ。ちょっと……では、先にあがります。」
「はい。お疲れさまでした。」
外に出て行く。そして走るように表通りに出て行った。
明るいコンビニで雑誌をみる。隣には若いけれど、スウェットをきて無精ひげを生やした寝癖の男がパチンコの雑誌を見ていた。
色とりどりの雑誌がある。マンガ、ファッション誌、タウン誌。その中の一つを手にとって、流し読みをした。そして映画のコーナーを見た。評判の映画が今日から公開している。殺人事件の話。有名な小説家が原作らしい。
そのとき、コンビニに誰か入ってきた。思わずその人をみる。
「桜さん?」
雑誌のコーナーで声をかけられた。それは竹彦だった。
「あ……。」
まずい。竹彦が一番疑っているのに。
「今帰ってるの?」
「今日は少し早く上がれたから。」
「そう。」
竹彦は学校でみる格好とは違う。長い髪をピンで上げていて、耳には数個のピアスが付いていた。
「ピアスすごいわね。」
「うん。まぁ、いつの間にかね。」
誤魔化すように彼は笑っていた。
「それじゃ、私帰るわ。」
そう言わないと、彼はいつまでも付いてきそうだった。
「桜さん。」
彼は何か言い掛けた。だけどそれを聞くわけにはいかない。
「また月曜日に。」
私はそう言ってドリンクのコーナーへ向かう。お茶を一つ買い、外に出て行った。
「どうしよう。」
すると向こうから柊さんが歩いてきた。私を見て少し手を上げる。でも私は手を上げることは出来なかった。後ろから多分、すぐに竹彦が来るから。
「……。」
戸惑っていると、やはり後ろから竹彦がやってきた。まずい。どうやって誤魔化せばいいんだろう。
「……柊さん。もう出たんですか?」
偶然会うことはある。そう思いながら私は声をかけた。柊さんも竹彦に気が付いたようで、その場を誤魔化した。
「あぁ。もう閉める時間だと。」
「やっぱり早く閉めたんですね。」
白々しい会話だと思う。だけどそうするしかない。
「桜さん。」
竹彦はコンビニの袋を持ったまま、私たちを見ていた。
「ん?」
「……。」
側にいる柊さんが彼を見て、にらみつけている。ように見えた。それに竹彦は気後れたように彼を見ている。だがぐっと彼は拳に力を入れていう。
「あとで電話してもいい?」
「出るかわからないよ。」
「いいんだ。ちょっと話があるから。」
そう言って竹彦は私が帰る方向とは逆の方向へ歩いていった。
そのあとに残った私と柊さんは、呆気にとられたように彼を見ていた。どういうことだろう。電話をしていい?って。私に何か話でもあるのだろうか。
「モテモテだ。」
「あなたほどじゃありませんよ。」
「俺は女に縁がないんだが。」
「でも前に言ってましたよ。興味のない女に言い寄られているって。」
「よく覚えているな。」
彼は少しため息をついて、私を見下ろした。
「桜。家まで送ろう。」
「ありがとうございます。」
それから私たちは並んで歩いた。時間が早いから車は多いほうかもしれない。テールランプが遠ざかっていくのを見て、この中には恋人同士や恋人ではない人も多いのだろうと想像できる。
恋人じゃないし、友人ですらないだろう。あえていうなら兄のような、父のような存在の柊さん。
でもキスはする。今日もした。授業の合間に、誰も来ないのを見計らって私たちは求めたのだった。
”誰にも言えず、内密にする関係ほど燃え上がる。だが燃え尽きたときは、炭になりむなしくなるだけだ。”
椿さんはいつかそう言っていた。今は種火。そしてそれは燃え上がるのか、それとも鎮火するのかわからない。だけど言えるのは「この先はない」と言うことだった。わかってる。だけど求められ、拒むことは出来ないのだ。
そしてフロアに出ようと、ドアノブに手を回して止めた。
立ち聞きする気はないけれど、以前彼らは喧嘩して柊さんが出て行ったのを覚えている。殺伐としたところに空気を読まず出て行った事がある。そんな時私が立ち入ると良くないと思い出したのだ。
しかし、そんな心配をよそに、二人の空気はいいものに思えた。
「可愛らしい人でしょう。」
「誰がだ。」
「とぼけないでくださいよ。桜さんですよ。」
「あぁ。確かにな。男にすれていないし、素直だ。今時の高校生とは少し違う気がする。」
「それだけですか。」
「何が?」
「学校の中でも会うことはあるでしょう。」
「あるが、声をかけることはない。お前、そんなことを気にしていたのか。」
「男と女でしょう。」
あまり険悪ではない雰囲気だと思って、ドアを開けようとしたけれど、葵さんの言葉に私は手を思わず止めた。
男と女。確かにそうだ。でもまだ彼らに認めてもらうほど大人じゃない。大人っていうのは、お母さんみたいな人のことを言うのだから。
「嫌な言い方だ。」
「女が一番欲しい時期に、私たちはムショにいた。まるで僧侶のような生活をして、禁欲を強いられた。だからあなたも私もそういうことには敏感になっているはずだ。」
「元々女はそこまで必要じゃない。一緒にするな。」
「そうでしょうか。自慰だってするでしょう。」
生々しい。そんなことを葵さんがいうと思わなかった。と言うか、今、衝撃的なことをいわなかった?
”私たちはムショに入っていた。”
お母さんから聞いていて葵さんが入っていたのは知っていたけど、まさか柊さんも?
「女は必要ない。」
それ以上聞きたくなかった。私はドアを開ける。すると二人はこちらを見て、顔を見合わせた。
「まだいたんですね。」
「えぇ。ちょっと……では、先にあがります。」
「はい。お疲れさまでした。」
外に出て行く。そして走るように表通りに出て行った。
明るいコンビニで雑誌をみる。隣には若いけれど、スウェットをきて無精ひげを生やした寝癖の男がパチンコの雑誌を見ていた。
色とりどりの雑誌がある。マンガ、ファッション誌、タウン誌。その中の一つを手にとって、流し読みをした。そして映画のコーナーを見た。評判の映画が今日から公開している。殺人事件の話。有名な小説家が原作らしい。
そのとき、コンビニに誰か入ってきた。思わずその人をみる。
「桜さん?」
雑誌のコーナーで声をかけられた。それは竹彦だった。
「あ……。」
まずい。竹彦が一番疑っているのに。
「今帰ってるの?」
「今日は少し早く上がれたから。」
「そう。」
竹彦は学校でみる格好とは違う。長い髪をピンで上げていて、耳には数個のピアスが付いていた。
「ピアスすごいわね。」
「うん。まぁ、いつの間にかね。」
誤魔化すように彼は笑っていた。
「それじゃ、私帰るわ。」
そう言わないと、彼はいつまでも付いてきそうだった。
「桜さん。」
彼は何か言い掛けた。だけどそれを聞くわけにはいかない。
「また月曜日に。」
私はそう言ってドリンクのコーナーへ向かう。お茶を一つ買い、外に出て行った。
「どうしよう。」
すると向こうから柊さんが歩いてきた。私を見て少し手を上げる。でも私は手を上げることは出来なかった。後ろから多分、すぐに竹彦が来るから。
「……。」
戸惑っていると、やはり後ろから竹彦がやってきた。まずい。どうやって誤魔化せばいいんだろう。
「……柊さん。もう出たんですか?」
偶然会うことはある。そう思いながら私は声をかけた。柊さんも竹彦に気が付いたようで、その場を誤魔化した。
「あぁ。もう閉める時間だと。」
「やっぱり早く閉めたんですね。」
白々しい会話だと思う。だけどそうするしかない。
「桜さん。」
竹彦はコンビニの袋を持ったまま、私たちを見ていた。
「ん?」
「……。」
側にいる柊さんが彼を見て、にらみつけている。ように見えた。それに竹彦は気後れたように彼を見ている。だがぐっと彼は拳に力を入れていう。
「あとで電話してもいい?」
「出るかわからないよ。」
「いいんだ。ちょっと話があるから。」
そう言って竹彦は私が帰る方向とは逆の方向へ歩いていった。
そのあとに残った私と柊さんは、呆気にとられたように彼を見ていた。どういうことだろう。電話をしていい?って。私に何か話でもあるのだろうか。
「モテモテだ。」
「あなたほどじゃありませんよ。」
「俺は女に縁がないんだが。」
「でも前に言ってましたよ。興味のない女に言い寄られているって。」
「よく覚えているな。」
彼は少しため息をついて、私を見下ろした。
「桜。家まで送ろう。」
「ありがとうございます。」
それから私たちは並んで歩いた。時間が早いから車は多いほうかもしれない。テールランプが遠ざかっていくのを見て、この中には恋人同士や恋人ではない人も多いのだろうと想像できる。
恋人じゃないし、友人ですらないだろう。あえていうなら兄のような、父のような存在の柊さん。
でもキスはする。今日もした。授業の合間に、誰も来ないのを見計らって私たちは求めたのだった。
”誰にも言えず、内密にする関係ほど燃え上がる。だが燃え尽きたときは、炭になりむなしくなるだけだ。”
椿さんはいつかそう言っていた。今は種火。そしてそれは燃え上がるのか、それとも鎮火するのかわからない。だけど言えるのは「この先はない」と言うことだった。わかってる。だけど求められ、拒むことは出来ないのだ。
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