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一年目
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家に帰り、制服を脱いだ。そして部屋着に着替えていると、家の電話が鳴った。急いでリビングにやってきて電話をとる。
「もしもし。」
「あぁ。やっと繋がった。あんたどこ行ってたの?」
母親の声だ。時計を見ると、バイトが本当に終わる時間くらいになっている。
「バイトだけど。」
「嘘言って。今日はお客さんが閑散としてたから、早く閉めたって葵から聞いたのよ。」
げっ。そんなことまで知ってたのか。
「んーちょっと。コンビニとか行ってた。」
「早く帰りなさいよ。」
「それ言いたくて電話したの?」
「じゃないのよ。仕事用の携帯、テーブルの上にない?」
「あ……あるわ。」
ピンク色の通話とメール専用の携帯電話。それが母の携帯電話だった。
「あ、良かった。やっぱりそこにあったのね。ちょっと必要だから、今から取りに行かせるから。」
「誰が来るの?」
「うちの黒服が行くわ。頼んだわよ。」
そういって電話を切った。黒服ねぇ。誰が来るんだろう。若い人だろうな。
携帯を用意して、母が作ってくれたおかずを温めなおしていた。今日は生姜焼きらしい。それとポテトサラダ。ほうれん草のお浸し。豆腐とわかめの味噌汁。生姜焼きにもポテトサラダにもタマネギが入っている。シーズンなのか、タマネギが安くておいしい。
そうこうしていると、家の玄関のチャイムがなかった。おそらく黒服の人だろう。
「はい。」
玄関の扉を開けると、若い男が一人立っていた。オールバックの髪型があまりまだ似合っていない。どこかのヤンキーのようにも見えた。
「すいません。携帯電話を取りに来たんですけど。」
「ちょっと待ってください。」
温めなおした味噌汁の火を消して、テーブルに置いてあったその携帯電話を手にした。
「これです。」
「ありがとうございます。」
その男はこっちをいぶかしげな目で見ていた。ママと言ってもまだ三十代前半の母に、女子高生の娘は若すぎるとでも思ったのかもしれない。
「あなた。本当にママの娘ですか。」
「えぇ。そうですけど。」
「妹とかじゃなくて?」
「違いますけど。」
なんか失礼な人だな。早く帰ればいいのに。
「一人でいるの寂しくないですか。俺、ついてやってあげてもいいけど。」
「結構です。」
追い払おうとした。でもいつの間にかその人は玄関の中にまで入っている。気がつけば手を伸ばしてきて、壁に体を押しつけられていた。
「そんな格好で客を迎え入れるなんて、誘ってるんだろ?」
「やめて!」
ここでそんなことをするのはやめて!柊さんと最初にキスをした場所で、ほかの男に触られたくはない。
すると彼はすっとそのシャツの隙間から、手を入れようとしてきた。
「や!」
そのとき玄関のドアが開いた。思わずそちらをみる。そこには葵さんの姿があった。
「葵さん……。」
「何をしてるんですか。」
すると彼はひきつった笑顔で、葵さんに頭を下げた。
「すいません。ついつい。」
「ついついなんですか?」
笑顔のまま、葵さんは彼に近づいてくる。その笑顔が返って怖い。
「何でもないっす。」
そういって彼は私から手を離し、逃げるように出て行ってしまった。
「全く……何を考えているんだか。」
何で葵さんがここに来てるのだろう。どうしてここに?訳が分からない。
「どこか触られたりしてませんか。」
「何も……。あの……ありがとうございました。」
「不用心ですよ。」
そういって彼は私が着ているシャツの襟元を指さす。はっ。確かに。白いシャツの襟元がかなりあいている。
寝るときはその方が楽だから、そればかり着てたけど、男の人には目の毒だったのかも。まぁ、そのシャツの奥の膨らみはわずかだから、男の子と変わらないのかもしれないけど。
「どうしてここに?」
「何てことはないですよ。あなたの母親のところに用事があって行ってたときに、さっきの黒服が軽口を叩いてましたから。」
「なんて?」
「女子高生の娘が一人でいる部屋に行くと言ってましたか。年頃の男性が言うと、どうしても別の意味にとらえてしまうので。」
「……そんなものなんですか。」
「えぇ。そんなものです。子供の頃とは違う。簡単に家に上がらせてはいけません。」
簡単に男の部屋に上がり込んだ、私はどうなんだろう。股の緩い女ととらえられたのだろうか。ううん。柊さんに限って、そんなことを思うはずはない。……と思う。
まだ信用するには、彼について知らないことの方が多い。だからまだ信用できないのかもしれない。
「……桜さん?どうしました?」
ふっと顔を上げた。すると心配そうな葵さんの表情が飛び込んできた。
「何でもないんです。ちょっと考え事を。」
「ショックだったのかもしれないと思いましたよ。あなたにはそんな思いをさせたくなかったのに。」
「……大丈夫です。思ったよりもショックはありません。多分、彼の方があのまま進んでいたらショックだったでしょうね。」
「何故?」
「私は少年のような体ですから。」
凹凸のない体で、多分女として何も感じないだろう。母のようにボリュームのある体ではないのだし。
「そんなことは気にしませんよ。」
すると彼は私の手首を掴んだ。細くても力強い手だった。
「ほら。こんなに細い。男性にはないものですよ。それに、柔らかい。触ってみますか。男性を。」
そういって彼は私の手を自分の胸に持ってくる。柊さんとは違う細い体が手から伝わってくる。
柊さんと違う細い男の体。だけど女とは違って硬い。でもそれ以上何も思わない。柊さんのようなときめきはない。
「そうですね。」
私はそれだけ言うと、手を引っ込めようとした。しかしそれを彼は離すことはなかった。胸に置かれた手を自分の唇に持ってくる。
「ひゃっ!」
手のひらに温かくて、ぬめっとした感触が伝わり、思わず声がでてしまった。
「葵さん。酔っているなら、やめてください。」
「酔ってませんよ。今日はね。」
彼は掴んでいるその手と逆の手で、私の肩を掴んだ。逃げようとしたのに、もう彼の足の間に挟まれて身動きがとれなかった。
「やめてください。」
「どうして?柊にはさせているのに。私にはさせないんですね。」
どうして知ってるんだろう。
後ろめたさから、私は視線を外した。
「……彼は……。」
「あいつに惚れてはいけないんですよ。桜さん。きっとあなたが傷つく。私にしておきなさい。あなたのことは昔から知っている。幻滅はさせません。」
「柊さんも幻滅はしません。どんな彼であっても……。」
好き。そうか。私は、彼が好きなんだ。
だが葵さんはそれを拒否するように、私の唇にキスをした。コーヒーの香りがするキスは、望んだものではなかった。だがねっとりと舌を舐められ頭を押さえられると、逃げられなかった。心は拒否をしているのに。
「もしもし。」
「あぁ。やっと繋がった。あんたどこ行ってたの?」
母親の声だ。時計を見ると、バイトが本当に終わる時間くらいになっている。
「バイトだけど。」
「嘘言って。今日はお客さんが閑散としてたから、早く閉めたって葵から聞いたのよ。」
げっ。そんなことまで知ってたのか。
「んーちょっと。コンビニとか行ってた。」
「早く帰りなさいよ。」
「それ言いたくて電話したの?」
「じゃないのよ。仕事用の携帯、テーブルの上にない?」
「あ……あるわ。」
ピンク色の通話とメール専用の携帯電話。それが母の携帯電話だった。
「あ、良かった。やっぱりそこにあったのね。ちょっと必要だから、今から取りに行かせるから。」
「誰が来るの?」
「うちの黒服が行くわ。頼んだわよ。」
そういって電話を切った。黒服ねぇ。誰が来るんだろう。若い人だろうな。
携帯を用意して、母が作ってくれたおかずを温めなおしていた。今日は生姜焼きらしい。それとポテトサラダ。ほうれん草のお浸し。豆腐とわかめの味噌汁。生姜焼きにもポテトサラダにもタマネギが入っている。シーズンなのか、タマネギが安くておいしい。
そうこうしていると、家の玄関のチャイムがなかった。おそらく黒服の人だろう。
「はい。」
玄関の扉を開けると、若い男が一人立っていた。オールバックの髪型があまりまだ似合っていない。どこかのヤンキーのようにも見えた。
「すいません。携帯電話を取りに来たんですけど。」
「ちょっと待ってください。」
温めなおした味噌汁の火を消して、テーブルに置いてあったその携帯電話を手にした。
「これです。」
「ありがとうございます。」
その男はこっちをいぶかしげな目で見ていた。ママと言ってもまだ三十代前半の母に、女子高生の娘は若すぎるとでも思ったのかもしれない。
「あなた。本当にママの娘ですか。」
「えぇ。そうですけど。」
「妹とかじゃなくて?」
「違いますけど。」
なんか失礼な人だな。早く帰ればいいのに。
「一人でいるの寂しくないですか。俺、ついてやってあげてもいいけど。」
「結構です。」
追い払おうとした。でもいつの間にかその人は玄関の中にまで入っている。気がつけば手を伸ばしてきて、壁に体を押しつけられていた。
「そんな格好で客を迎え入れるなんて、誘ってるんだろ?」
「やめて!」
ここでそんなことをするのはやめて!柊さんと最初にキスをした場所で、ほかの男に触られたくはない。
すると彼はすっとそのシャツの隙間から、手を入れようとしてきた。
「や!」
そのとき玄関のドアが開いた。思わずそちらをみる。そこには葵さんの姿があった。
「葵さん……。」
「何をしてるんですか。」
すると彼はひきつった笑顔で、葵さんに頭を下げた。
「すいません。ついつい。」
「ついついなんですか?」
笑顔のまま、葵さんは彼に近づいてくる。その笑顔が返って怖い。
「何でもないっす。」
そういって彼は私から手を離し、逃げるように出て行ってしまった。
「全く……何を考えているんだか。」
何で葵さんがここに来てるのだろう。どうしてここに?訳が分からない。
「どこか触られたりしてませんか。」
「何も……。あの……ありがとうございました。」
「不用心ですよ。」
そういって彼は私が着ているシャツの襟元を指さす。はっ。確かに。白いシャツの襟元がかなりあいている。
寝るときはその方が楽だから、そればかり着てたけど、男の人には目の毒だったのかも。まぁ、そのシャツの奥の膨らみはわずかだから、男の子と変わらないのかもしれないけど。
「どうしてここに?」
「何てことはないですよ。あなたの母親のところに用事があって行ってたときに、さっきの黒服が軽口を叩いてましたから。」
「なんて?」
「女子高生の娘が一人でいる部屋に行くと言ってましたか。年頃の男性が言うと、どうしても別の意味にとらえてしまうので。」
「……そんなものなんですか。」
「えぇ。そんなものです。子供の頃とは違う。簡単に家に上がらせてはいけません。」
簡単に男の部屋に上がり込んだ、私はどうなんだろう。股の緩い女ととらえられたのだろうか。ううん。柊さんに限って、そんなことを思うはずはない。……と思う。
まだ信用するには、彼について知らないことの方が多い。だからまだ信用できないのかもしれない。
「……桜さん?どうしました?」
ふっと顔を上げた。すると心配そうな葵さんの表情が飛び込んできた。
「何でもないんです。ちょっと考え事を。」
「ショックだったのかもしれないと思いましたよ。あなたにはそんな思いをさせたくなかったのに。」
「……大丈夫です。思ったよりもショックはありません。多分、彼の方があのまま進んでいたらショックだったでしょうね。」
「何故?」
「私は少年のような体ですから。」
凹凸のない体で、多分女として何も感じないだろう。母のようにボリュームのある体ではないのだし。
「そんなことは気にしませんよ。」
すると彼は私の手首を掴んだ。細くても力強い手だった。
「ほら。こんなに細い。男性にはないものですよ。それに、柔らかい。触ってみますか。男性を。」
そういって彼は私の手を自分の胸に持ってくる。柊さんとは違う細い体が手から伝わってくる。
柊さんと違う細い男の体。だけど女とは違って硬い。でもそれ以上何も思わない。柊さんのようなときめきはない。
「そうですね。」
私はそれだけ言うと、手を引っ込めようとした。しかしそれを彼は離すことはなかった。胸に置かれた手を自分の唇に持ってくる。
「ひゃっ!」
手のひらに温かくて、ぬめっとした感触が伝わり、思わず声がでてしまった。
「葵さん。酔っているなら、やめてください。」
「酔ってませんよ。今日はね。」
彼は掴んでいるその手と逆の手で、私の肩を掴んだ。逃げようとしたのに、もう彼の足の間に挟まれて身動きがとれなかった。
「やめてください。」
「どうして?柊にはさせているのに。私にはさせないんですね。」
どうして知ってるんだろう。
後ろめたさから、私は視線を外した。
「……彼は……。」
「あいつに惚れてはいけないんですよ。桜さん。きっとあなたが傷つく。私にしておきなさい。あなたのことは昔から知っている。幻滅はさせません。」
「柊さんも幻滅はしません。どんな彼であっても……。」
好き。そうか。私は、彼が好きなんだ。
だが葵さんはそれを拒否するように、私の唇にキスをした。コーヒーの香りがするキスは、望んだものではなかった。だがねっとりと舌を舐められ頭を押さえられると、逃げられなかった。心は拒否をしているのに。
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