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二年目
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後ろ頭を支えられ、茅さんは唇をぐっと閉じている私のその唇を舐めてきた。その行動が葵さんにも、そして柊さんにもよく似ている。
「口開けろよ。」
だめ。開けるわけにはいかない。これ以上されてはいけない。首を横に振り、私は彼を見る。
「だめです。」
「だったらキスだけで終わらない。今日は柊に会ってないんだろう?匂いがしない。俺の匂いに染めてやる。」
「帰るから。」
横に避けて、立ち上がる。そして逃げるように玄関へ向かった。ドアの前にたってドアノブを握ると、後ろから手が伸びてくる。逃げられないように。
「好き。」
耳元で囁かれる声。でもこれは柊さんの声じゃない。
「帰る。」
「帰さない。」
腰に伸びてきた腕。白いワイシャツから透ける入れ墨。それが柊さんではないことを証明しているようだった。
「奪われれば、奪い返すっていうのはわかる。だけど、私は奪われて柊のところにいるんじゃないから。」
「だったら何だ?」
「私は私の意志で彼のところにいる。」
「のこのこ男の部屋に上がるような女なのに?柊も哀れだな。こんな尻軽な女を好きになって。」
かちんときた。ムキになって私は彼の方を振り返る。」
「仕事の話っていうから、上がってのよ!」
「仕事の話で終わるつもりだった。柊の話が出てくるまではな。」
「あなたの柊への恨みはただの逆恨みだわ。」
「生意気な女だ。口を塞ぐぞ。」
そう言って彼は私にさらに近寄り、唇を重ねた。今度は舌を入れてくる。激しく唇を合わせてきて、まるで食べられそうなくらいだった。
「んんっ!」
体を押しのけようと彼の肩に手を置こうとした。しかし腕までがっちりと抱きしめられ、何も抵抗はできなかった。
一度唇が離れても、また合わせてくる。嫌悪感しかないそのキスは、永遠に続くかと思った。
やっと唇が離れ、彼は額を合わせてきた。吐息が交差して、何も言えない。
「駄目だから。」
「その抵抗はやめろ。俺の気持ちをかき立てるだけだ。」
「……。」
「桜。すべて終わったら、ウチに来い。せめてコーヒーを淹れてくれ。そうすれば、もうお前に手を出さないから。」
首を横に振る。もうたぶん私は泣いていた。
「柊についていく。」
「……奴に……。」
「彼が帰るなら、帰る。」
「そんなつまんない奴になるな。お前の意志を聞いているんだ。」
「離れたくないから。」
「柊もそれを求めてるのか。お前のやりたいことを止めてまで、あいつの側にいて欲しいって言ったのか?」
「……。」
「確認してから言え。」
「でも一つ言えることがある。」
「何だ。」
「柊はこの街にはもう居たくないんだと思うから。蓬さんの目が届いているこの街に……。」
手を切るためには、蓬さんの居ないところにいきたい。だから彼はあの温泉の街へ行ったとき、蓬さんの目が届かないところだとはじめに言ったのだ。
「俺なら逃げない。守ってやるのに。」
彼はそう言って額を離すと、また唇を合わせてきた。
私の中に嫌悪感しかないと思っていた。だけどその中に気持ちがいいと思う感情、そして罪悪感の中に、どこか彼を求めている気がしていやだった。
新学期が始まりテストが終わると、普段の授業が始まる。いつもの日常だ。しかしその中の日常に、就職活動というものが加わってきた。
就職活動はすぐに本格化する。いつもの授業なのに、一人、一人と居ないことも多くなってきた。そんなある日のことだった。
「はい。みなさん、チャイムが鳴りましたよ。」
向日葵たちと話をしていた私は、慌てたように席に着いた。ん?見たこと無い若い先生がいる。誰だこの人は。どこか見たことあるような細身の若い男の先生だ。ちょっと怖い感じがする。彫りが深いからかな。
「柴田先生の代わりに、三年の英語を担当します。藤堂と言います。よろしく。」
藤堂?はっ!藤堂って……もしかして茅さんの?
「せんせー。下の名前何つーの?」
「藤堂桔梗です。」
「歳はー?若そー。」
「三十一。独身です。これくらいでいいですか。自己紹介は。」
表情一つ変えない。ちょっと気後れするような人だな。とりつく島が無いというか。んー。どことなく柊さんっぽい。
そう言えば歳も同じか。がたいが細いくらいで、背は同じくらいかな。声も低い。
「では出席を採ります。それと含めて自己紹介もお願いしますね。では出席番号一番から。」
茅さんの話だと、桔梗さんは百合さんの本当の弟。血の繋がりのある人は、この人だけらしい。でも何でこんなところで教師を?
「桜。呼ばれてるよ。」
向日葵から言われ、私は席を立ち上がった。
「沖田さん。」
「はい。沖田桜です。」
「……みんな一言を添えてましたよ。あなたは何かありますか。」
「あ、そうだったんですね。すいません。ちょっと考え事を。」
「余裕ですね。部活か何か入ってますか。」
「いいえ。部活は入ってません。バイトしてます。」
「そうですか。結構です。では次の方。」
無関心。そんな感じの印象だ。茅さんとは逆に見える。でも茅さんは柊さんに心酔していたと言ってた。だから似てるというイメージだったのかもしれないけれど、この人は天然で柊さんに似てる気がした。
「せんせー柴田先生、辞めたの?」
「はい。結婚されるそうですよ。」
その声に教室がわいた。
「絶対妊娠してんだぜ。」
「遊んでたもん。ねー。」
「急だもん。誰かな相手。」
下品な言葉が教室をわかせる。すると藤堂先生は、その出席簿で教卓を叩く。
ばん!
派手な音がして、教室は静まった。
「うるさい。誰が妊娠しようと勝手だ。辞めた奴のことを想像でモノを言うな。くそガキが。」
圧倒された。今までの敬語は何だったんだ。というくらい怖い。
「では授業を始めます。教科書の二十ページから。」
あっという間にさっきの敬語モード。
あー。怖かった。
「口開けろよ。」
だめ。開けるわけにはいかない。これ以上されてはいけない。首を横に振り、私は彼を見る。
「だめです。」
「だったらキスだけで終わらない。今日は柊に会ってないんだろう?匂いがしない。俺の匂いに染めてやる。」
「帰るから。」
横に避けて、立ち上がる。そして逃げるように玄関へ向かった。ドアの前にたってドアノブを握ると、後ろから手が伸びてくる。逃げられないように。
「好き。」
耳元で囁かれる声。でもこれは柊さんの声じゃない。
「帰る。」
「帰さない。」
腰に伸びてきた腕。白いワイシャツから透ける入れ墨。それが柊さんではないことを証明しているようだった。
「奪われれば、奪い返すっていうのはわかる。だけど、私は奪われて柊のところにいるんじゃないから。」
「だったら何だ?」
「私は私の意志で彼のところにいる。」
「のこのこ男の部屋に上がるような女なのに?柊も哀れだな。こんな尻軽な女を好きになって。」
かちんときた。ムキになって私は彼の方を振り返る。」
「仕事の話っていうから、上がってのよ!」
「仕事の話で終わるつもりだった。柊の話が出てくるまではな。」
「あなたの柊への恨みはただの逆恨みだわ。」
「生意気な女だ。口を塞ぐぞ。」
そう言って彼は私にさらに近寄り、唇を重ねた。今度は舌を入れてくる。激しく唇を合わせてきて、まるで食べられそうなくらいだった。
「んんっ!」
体を押しのけようと彼の肩に手を置こうとした。しかし腕までがっちりと抱きしめられ、何も抵抗はできなかった。
一度唇が離れても、また合わせてくる。嫌悪感しかないそのキスは、永遠に続くかと思った。
やっと唇が離れ、彼は額を合わせてきた。吐息が交差して、何も言えない。
「駄目だから。」
「その抵抗はやめろ。俺の気持ちをかき立てるだけだ。」
「……。」
「桜。すべて終わったら、ウチに来い。せめてコーヒーを淹れてくれ。そうすれば、もうお前に手を出さないから。」
首を横に振る。もうたぶん私は泣いていた。
「柊についていく。」
「……奴に……。」
「彼が帰るなら、帰る。」
「そんなつまんない奴になるな。お前の意志を聞いているんだ。」
「離れたくないから。」
「柊もそれを求めてるのか。お前のやりたいことを止めてまで、あいつの側にいて欲しいって言ったのか?」
「……。」
「確認してから言え。」
「でも一つ言えることがある。」
「何だ。」
「柊はこの街にはもう居たくないんだと思うから。蓬さんの目が届いているこの街に……。」
手を切るためには、蓬さんの居ないところにいきたい。だから彼はあの温泉の街へ行ったとき、蓬さんの目が届かないところだとはじめに言ったのだ。
「俺なら逃げない。守ってやるのに。」
彼はそう言って額を離すと、また唇を合わせてきた。
私の中に嫌悪感しかないと思っていた。だけどその中に気持ちがいいと思う感情、そして罪悪感の中に、どこか彼を求めている気がしていやだった。
新学期が始まりテストが終わると、普段の授業が始まる。いつもの日常だ。しかしその中の日常に、就職活動というものが加わってきた。
就職活動はすぐに本格化する。いつもの授業なのに、一人、一人と居ないことも多くなってきた。そんなある日のことだった。
「はい。みなさん、チャイムが鳴りましたよ。」
向日葵たちと話をしていた私は、慌てたように席に着いた。ん?見たこと無い若い先生がいる。誰だこの人は。どこか見たことあるような細身の若い男の先生だ。ちょっと怖い感じがする。彫りが深いからかな。
「柴田先生の代わりに、三年の英語を担当します。藤堂と言います。よろしく。」
藤堂?はっ!藤堂って……もしかして茅さんの?
「せんせー。下の名前何つーの?」
「藤堂桔梗です。」
「歳はー?若そー。」
「三十一。独身です。これくらいでいいですか。自己紹介は。」
表情一つ変えない。ちょっと気後れするような人だな。とりつく島が無いというか。んー。どことなく柊さんっぽい。
そう言えば歳も同じか。がたいが細いくらいで、背は同じくらいかな。声も低い。
「では出席を採ります。それと含めて自己紹介もお願いしますね。では出席番号一番から。」
茅さんの話だと、桔梗さんは百合さんの本当の弟。血の繋がりのある人は、この人だけらしい。でも何でこんなところで教師を?
「桜。呼ばれてるよ。」
向日葵から言われ、私は席を立ち上がった。
「沖田さん。」
「はい。沖田桜です。」
「……みんな一言を添えてましたよ。あなたは何かありますか。」
「あ、そうだったんですね。すいません。ちょっと考え事を。」
「余裕ですね。部活か何か入ってますか。」
「いいえ。部活は入ってません。バイトしてます。」
「そうですか。結構です。では次の方。」
無関心。そんな感じの印象だ。茅さんとは逆に見える。でも茅さんは柊さんに心酔していたと言ってた。だから似てるというイメージだったのかもしれないけれど、この人は天然で柊さんに似てる気がした。
「せんせー柴田先生、辞めたの?」
「はい。結婚されるそうですよ。」
その声に教室がわいた。
「絶対妊娠してんだぜ。」
「遊んでたもん。ねー。」
「急だもん。誰かな相手。」
下品な言葉が教室をわかせる。すると藤堂先生は、その出席簿で教卓を叩く。
ばん!
派手な音がして、教室は静まった。
「うるさい。誰が妊娠しようと勝手だ。辞めた奴のことを想像でモノを言うな。くそガキが。」
圧倒された。今までの敬語は何だったんだ。というくらい怖い。
「では授業を始めます。教科書の二十ページから。」
あっという間にさっきの敬語モード。
あー。怖かった。
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