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二年目
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高校を卒業してその後四月の入社式までは、少し間がある。だいたいの高校生が遊んだり、髪を金色にしたり、ピアスをあけたりしていた。
私は鏡の前に立ち、髪に触れた。うーん。長くなり過ぎた気がするな。まぁきるタイミングを失ったから、これを機に切ってもいいとは思うけど。
「ただいま。」
柊さんが帰ってきて、私はふとそちらを見る。
「お帰りなさい。」
仕事から帰ってきたばかりで、作業着姿だった。鏡の前で髪を見ていた私を不思議そうに彼は見ている。
「どうした。鏡なんか見て。」
「髪が長くなったなぁ、と思って。」
「切るのか?せっかく綺麗なのに。」
そう言って彼は私の髪に触れると、それに口を付ける。髪に感覚はない。だけど顔が赤くなりそうだ。
「そうね。このままにしておいてもいいわね。でも乾かすの面倒だし……それに……。」
「どうした。」
「この間、行った式場の人に長すぎると、髪をまとめたとき頭が大きくなるって言われたから。」
この間、柊さんが休みの日。私たちは結婚式場へ行った。この街ではなく、○×市の式場だった。式を挙げて、写真だけを撮りたいと荷物を少し持っていったついでに、衣装を着てみたのだ。
「俺も切るから。一緒に切るか?」
「そうね。」
「……あぁ。切る前に、一度イベントがあったな。」
「DJの?」
「菊音がいなくなったクラブがほかの奴に買い取られて、そのこけら落としらしい。」
「菊音さんは……。」
聞こうと思ったが、やっぱりやめた。
私には明らかに関係ない世界だ。菊音さんはいなくなった。それだけがわかればいい。
その私の頭の中がわかったのか、彼は少し背を屈み私の体を包み込むように抱きしめた。
「イベントに来てみるか?」
「私が?」
「あぁ。もう高校生ではないが、十八歳だ。そんなに長くは居れないだろうが、途中で帰ってもいいし。」
「うん。」
Syuである彼を見ることは、これからそう無いかもしれない。もう一度彼のSyuとしての姿を見てみたいと思う。
「茅にも声をかける。」
「どうして?あまり音楽には興味がなさそうよ。」
茅さんの名前を聞いて少しどきりとした。その鼓動が伝わりそうで、少し体を離す。
「お前がいると言えば来るだろう?連れて帰ってもらえばいい。俺は多分動けないだろうから。」
「……わかった。」
帰ってこないとわかれば、茅さんは多分私を求めてくるだろう。誤魔化すようにその後お風呂に入って、濡れたシーツを洗って……。だけど体はずっと熱いのだ。
「桜。」
彼はそう言って私の唇にキスをしてきた。そして髪を避けて、首元に唇を寄せてくる。
「……柊。食事の用意をしないといけないわ。」
「俺も手伝うから。」
耳元で囁かれ、さっきとは違うときめきを感じた。そして耳たぶにわずかな痛みを感じる。
「桜……。」
ベッドに押し倒されて、私は彼の首に手を伸ばした。
柊さんと食事の用意をしていると、茅さんが帰ってきた。茅さんは最近、事務仕事の受け渡しに忙しいらしい。やっと使える事務員がやってきたらしいと上機嫌だ。もちろん、上機嫌の原因はほかにもある。
「今日の揚げ物か?」
「うん。柊が手伝ってくれたから。」
割と揚げ物は手が必要だからあんまりしたくはないけれど、たまには食べたくなるのが唐揚げ。全く鳥の中でもカロリーが高い部分を使っているし、衣つけて、揚げて、ものすごく高カロリーなのにたまに食べたくなる。
「トマトはくし切りでいいか?」
「えぇ。食べやすければどうとでも。アスパラ湯がけたわ。」
割と自炊をしていた柊さんは、手際がいい。この太い腕と指で器用に包丁を使っている。
「手際いいなぁ。やっぱあれか?男も料理とか出来た方がいいのか?」
「作れないに越したことはないだろう。」
柊さんはそう言って、湯がいたアスパラを外に出す。
「茅はおもしろいくらい料理が出来ないからな。」
「そうみたいね。」
いつか自分で作ろうとして、あまりの危なっかしさに「もういい」と言ってしまったのだ。
「るせー。俺だってやれば出来る。」
「期待しないで待ちましょう。」
「そうだな。嫁が来るまでは卵の一つでも割れたらいいだろう。」
嫁という単語にドキッとしてしまった。そうか。茅さんもいずれは奥さんをもらうかもしれないんだ。そのときは私との関係も無かったことになるかもしれない。
望んでいたことなのに、どうしてこんなに胸が摘まれるんだろう。
「あー余裕だよな。嫁をもらう奴は。なぁ。俺さ、あっちに行ったら飯だけでも食わせてもらえねぇ?住むところは一緒とはいわねぇからさ。」
柊さんは無表情に茅さんを見る。そしてサラダを盛りつけた皿を、彼に渡した。
「テーブルは拭いてある。それを置いてくれ。」
「んだよ。無視かよ。」
文句を言いながら、茅さんはその皿を持ってテーブルに置いた。そしてジャケットを脱ぐと、ソファにそれを置く。
「柊……。」
「飯だけならかまわないが、あいつの場合飯だけにとどまらない気がする。」
「……そうね。」
「桜。そこは否定してくれ。何かあったのかと思えるから。」
「何もないわ。そしてこれからも何もない。」
鳥肉を油からあげて、新しい鶏肉を入れる。じゅわっという音がして心地いい。
「気にしない方がいいのよ。きっとこれから、あなたよりも茅さんと一緒にいることの方が多いわ。嫉妬しないで。」
「お前に嫉妬してばかりだな。」
茅さんがキッチンの方に戻ってきて、柊さんが愚痴を一つ言う。
「なんもねぇよ。手ぇ出しても払われてばっかだ。俺、いずれこいつに投げられる。護身術教えただろ?お前。」
「あぁ。」
「ったく、よけいな事しやがって。」
また嘘をついた。いつまで私は彼に嘘をつくのだろう。
私は鏡の前に立ち、髪に触れた。うーん。長くなり過ぎた気がするな。まぁきるタイミングを失ったから、これを機に切ってもいいとは思うけど。
「ただいま。」
柊さんが帰ってきて、私はふとそちらを見る。
「お帰りなさい。」
仕事から帰ってきたばかりで、作業着姿だった。鏡の前で髪を見ていた私を不思議そうに彼は見ている。
「どうした。鏡なんか見て。」
「髪が長くなったなぁ、と思って。」
「切るのか?せっかく綺麗なのに。」
そう言って彼は私の髪に触れると、それに口を付ける。髪に感覚はない。だけど顔が赤くなりそうだ。
「そうね。このままにしておいてもいいわね。でも乾かすの面倒だし……それに……。」
「どうした。」
「この間、行った式場の人に長すぎると、髪をまとめたとき頭が大きくなるって言われたから。」
この間、柊さんが休みの日。私たちは結婚式場へ行った。この街ではなく、○×市の式場だった。式を挙げて、写真だけを撮りたいと荷物を少し持っていったついでに、衣装を着てみたのだ。
「俺も切るから。一緒に切るか?」
「そうね。」
「……あぁ。切る前に、一度イベントがあったな。」
「DJの?」
「菊音がいなくなったクラブがほかの奴に買い取られて、そのこけら落としらしい。」
「菊音さんは……。」
聞こうと思ったが、やっぱりやめた。
私には明らかに関係ない世界だ。菊音さんはいなくなった。それだけがわかればいい。
その私の頭の中がわかったのか、彼は少し背を屈み私の体を包み込むように抱きしめた。
「イベントに来てみるか?」
「私が?」
「あぁ。もう高校生ではないが、十八歳だ。そんなに長くは居れないだろうが、途中で帰ってもいいし。」
「うん。」
Syuである彼を見ることは、これからそう無いかもしれない。もう一度彼のSyuとしての姿を見てみたいと思う。
「茅にも声をかける。」
「どうして?あまり音楽には興味がなさそうよ。」
茅さんの名前を聞いて少しどきりとした。その鼓動が伝わりそうで、少し体を離す。
「お前がいると言えば来るだろう?連れて帰ってもらえばいい。俺は多分動けないだろうから。」
「……わかった。」
帰ってこないとわかれば、茅さんは多分私を求めてくるだろう。誤魔化すようにその後お風呂に入って、濡れたシーツを洗って……。だけど体はずっと熱いのだ。
「桜。」
彼はそう言って私の唇にキスをしてきた。そして髪を避けて、首元に唇を寄せてくる。
「……柊。食事の用意をしないといけないわ。」
「俺も手伝うから。」
耳元で囁かれ、さっきとは違うときめきを感じた。そして耳たぶにわずかな痛みを感じる。
「桜……。」
ベッドに押し倒されて、私は彼の首に手を伸ばした。
柊さんと食事の用意をしていると、茅さんが帰ってきた。茅さんは最近、事務仕事の受け渡しに忙しいらしい。やっと使える事務員がやってきたらしいと上機嫌だ。もちろん、上機嫌の原因はほかにもある。
「今日の揚げ物か?」
「うん。柊が手伝ってくれたから。」
割と揚げ物は手が必要だからあんまりしたくはないけれど、たまには食べたくなるのが唐揚げ。全く鳥の中でもカロリーが高い部分を使っているし、衣つけて、揚げて、ものすごく高カロリーなのにたまに食べたくなる。
「トマトはくし切りでいいか?」
「えぇ。食べやすければどうとでも。アスパラ湯がけたわ。」
割と自炊をしていた柊さんは、手際がいい。この太い腕と指で器用に包丁を使っている。
「手際いいなぁ。やっぱあれか?男も料理とか出来た方がいいのか?」
「作れないに越したことはないだろう。」
柊さんはそう言って、湯がいたアスパラを外に出す。
「茅はおもしろいくらい料理が出来ないからな。」
「そうみたいね。」
いつか自分で作ろうとして、あまりの危なっかしさに「もういい」と言ってしまったのだ。
「るせー。俺だってやれば出来る。」
「期待しないで待ちましょう。」
「そうだな。嫁が来るまでは卵の一つでも割れたらいいだろう。」
嫁という単語にドキッとしてしまった。そうか。茅さんもいずれは奥さんをもらうかもしれないんだ。そのときは私との関係も無かったことになるかもしれない。
望んでいたことなのに、どうしてこんなに胸が摘まれるんだろう。
「あー余裕だよな。嫁をもらう奴は。なぁ。俺さ、あっちに行ったら飯だけでも食わせてもらえねぇ?住むところは一緒とはいわねぇからさ。」
柊さんは無表情に茅さんを見る。そしてサラダを盛りつけた皿を、彼に渡した。
「テーブルは拭いてある。それを置いてくれ。」
「んだよ。無視かよ。」
文句を言いながら、茅さんはその皿を持ってテーブルに置いた。そしてジャケットを脱ぐと、ソファにそれを置く。
「柊……。」
「飯だけならかまわないが、あいつの場合飯だけにとどまらない気がする。」
「……そうね。」
「桜。そこは否定してくれ。何かあったのかと思えるから。」
「何もないわ。そしてこれからも何もない。」
鳥肉を油からあげて、新しい鶏肉を入れる。じゅわっという音がして心地いい。
「気にしない方がいいのよ。きっとこれから、あなたよりも茅さんと一緒にいることの方が多いわ。嫉妬しないで。」
「お前に嫉妬してばかりだな。」
茅さんがキッチンの方に戻ってきて、柊さんが愚痴を一つ言う。
「なんもねぇよ。手ぇ出しても払われてばっかだ。俺、いずれこいつに投げられる。護身術教えただろ?お前。」
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