あなたの前だけに見せる顔

神崎

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出会い

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 昼間は静かな繁華街も夜になればネオンが光り、客引きや浅黒い肌を持った女性が酔っぱらいの袖を引く。そしてその繁華街のその奥。
 ソープランドや特殊なキャバクラのあるその一角に小さな店があった。
 カウンター席が六席と、四人掛けの机が二つだけ。酒は出さず、メニューは一つのみ。日替わり定食。
 それが「月の食堂」という店だった。
 開店は昼十二時から十五時。夜は十七時から二十一時まで。普通の所にあれば、普通の食堂である。
 客席が少ないのは面積が圧倒的に狭いこともあるが、働いているのが一人だけだったからだ。
「いらっしゃい。」
 小柄な男。まるで成長期が来ていない子供のような男が一人、そこで働いている。それに細く、腕はまるで女性のようだと始めてきた客は思う。
 だが胸元を見て、「あぁやっぱり男なのだ」と納得する。膨らみの一つもないその体は、成人男性そのものだった。
 そして今日も彼の前に客が訪れる。
「春君。今日は飯何だい?」
「今日はコロッケと串カツ。」
「春君のコロッケうまいもんなぁ。今日来てラッキーだったぜ。」
 口の悪い呼び込みの男性は、パンチパーマで見た目が怖い。だが話せば面白い人なのだ。
 彼はその対面式になっているキッチンに、用意してあった串カツとコロッケを一つずつ揚げる。その間にトマトとキャベツの千切りを皿に盛る。ほかの小鉢には豆腐を置き、ネギと鰹節を散らした。漬け物は沢庵。ほんのり黄色くなっているのは、手作りながらだろう。
 先にコロッケを油からあげ、その次に串揚げをあげる。そして用意して置いた味噌汁、ご飯をつぐ。キャベツの下にコロッケと串揚げを添えると完成だ。
「はい。日替わり。」
「春君のコロッケはなんか豪快だよなぁ。でーんとしてて。うちの母ちゃんが作ったコロッケみたいだ。」
 こんなところに食堂を?という人は多かった。だが母の味に似ていると常連になる人は多く、気がつけば開店一周年。
「いらっしゃい。」
 入り口が開いて、そちらをみる。そこには常連のタカという売れっ子ホスト。そしてその後ろには、彼の養子に全く似合っていない長髪の男がいた。
「春。ちょっといい?」
 タカがそう言って彼をカウンター越しに彼を呼ぶ。
「何だよ。」
「こいつさ、秋っていうんだけど、ちょっとの間面倒見てもらえねぇかな。」
「面倒?それは面倒くさい。」
 自分でいって自分で笑う。そんな人だった。
「頼むよ。」
「どうしたんだよ。訳ありか?」
「そ。うちの店の茂っているんだけど、一回連れてきたっけ?」
「あぁ。なんか黒い奴。」
「日サロで黒いだけだけどさ、あいつのうちにこいつ下宿してたんだけどあいつ借金作ってばっくれたんだよ。」
「くずだな。」
「で、家賃も払えねぇっていうから、別のとこ紹介してやろうと思ってさ。お前、家のことデキる奴いねぇかっていってたじゃん。」
「言ってたけどさ、いきなり言われても。」
「頼むよ。」
 タカは春にそうやって頼み込んでいたが、肝心の秋は表情一つ変えない。春にはそれが何となく彼に違和感を感じていたのだ。
「タカに免じてやりてぇけどよ、肝心のあんたはどうなんだ。家のこととかできんの?」
 するとぼそっと秋は言う。
「適当には。」
「ふーん。でもたっぱあるし、高いとこの掃除は任せられそうだな。うっし、じゃあ宜しくな。」
「ありがてぇ。なんかあったら連絡して。」
「良いよ。お前ケータイ番号変わってねぇの?」
「変わってねぇよ。」
 そういってタカは、仕事があると言って出て行った。
「秋だっけ?宜しく。荷物は?そんだけ?」
 背中に小さなリュックがあるだけ。それが彼の荷物なのだろうか。
「はい。」
「じゃあ、階段そっちだから……。」
 そういうと秋は階段を上がっていった。そして春はまたカウンターに戻る。
「春君。いいのか。あんまり変な奴連れてきたら、朝起きたら金がなかったってこともあるんだぞ。」
「大丈夫。ここにゃ、そんな金はねぇから。」
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