あなたの前だけに見せる顔

神崎

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酒の勢い

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 生活はすれ違いだった。春は食堂のために市へ行くため、起きるのは朝四時。秋は仕事のために起きるのは六時。秋が帰ってくるのはだいたい二十時。春は秋のために日替わりをいつも一人分余計に用意している。
 二階の生活のことはすべて秋がしてくれた。そして食堂の片づけの手伝いもしてくれた。春は仕事が楽になったと、嬉しい悲鳴だ。
 ただ秋はまだ、春が女性であることをまだ告げていなかった。

 そして暑い夏が過ぎ、秋の風が吹いてくる頃。
 仕事を終えた春は、珍しく秋を飲みに行こうと連れて行った。次の日は日曜日で市が休みだからだろう。
 春はいつも行くというジャズバーへ秋を連れて行った。
 特大のスピーカーから流れるジャズの音に、彼は初めて音楽を聴いた気がした。そして初めて春が色っぽく見えた。
「いい音だねぇ。」
 春は何を考えているのかわからないところがある。ただの気まぐれでここに連れてきたのか。それとも何かの狙いがあるのか。
 わからないが、彼はとりあえず春のいう音に酔いしれた。

「って、酔いすぎ。あんたねぇ。」
 春はあきれたように秋に肩をかして、家にまで連れてった。
「普段飲まないから……。」
「でっかい図体して、酒弱いなんて笑えるけど、こっちは笑えねぇよ。」
 やっと家に帰り着いて、階段を上がらせる。そして敷いておいた布団に、彼を寝かせる。
「はーっ。やっと寝た。弱すぎなんだよな。酒。水いるか?」
「んー。」
「まぁいいや。とりあえず……ん?何だよ。」
 足首を捕まれた。そしてしゃがませる。
「んだよ。お前。」
「……春。なぁ。りょうちゃんって誰?」
 その名前に春は顔をひきつらせた。
「あんたには関係ないだろ?」
「知ってる?俺いっつも布団にお前寝かせてんの。」
 寝かせてる?ってことは?
「あんた……。」
「なぁ。春。男と女が一緒に住んでて、何にもないってことあり得る?」
「あり得るんじゃねぇの。実際あり得てるじゃん。」
「……女だと思ってなかったのにな。」
 そういって彼は春を寝かせる。
「ちょ……。」
 春の上には秋がいる。そして彼は春に逃げられないように手をつかんだ。そして唇を重ねる。
「んっ……。やめて……。」
 何度離しても住ぐに重ねてくる。やがて彼の舌が彼女の口内を埋めていく。

 ちゅ……。ちゅ……。

 彼女も観念したように、それに抵抗するのをやめた。それに彼の唇は気持ちいい。
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