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春
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みんなの元へ戻って、私は表向き平静を保っていた。しかし律と光が戻ってきて、私はわずかに顔色を変えたのかもしれない。
「…周。ちょっといい?」
「何?」
「煙草吸いたいから、つき合えよ。」
「仕方ないわね。」
私はバックを持って、席を離れた。ちらりと光を見たけれど、光は何も言わないで缶チューハイを飲んでいたように思える。
桜は満開に近い。すでに散り始めているものもあって、それが道をピンクに染める。それが白い絨毯に見える。
「何で殴られてたの?」
うじうじ考えるのはやめよう。私はずばっと律にそのわけを聞いた。すると律は足を止める。
「喫煙所は、どこだ?くそ。煙草も自由に吸えないなんて、この国も不便だ。」
どの国を基準に言っているのだろう。たぶん彼が若いときに行っていた余所の国のことかもしれない。
「そっちよ。慌てないの。」
「朝から吸ってないから、手が震えそうだ。」
「仕方ないわね。ヤニ中は。」
軽口を叩きあう。そして見つけた喫煙所。そこで彼はポケットから煙草を取り出す。口にくわえると満足そうに煙を吐き出した。
他に煙草を吸っている人はいない。この国も喫煙者は減ってしまったのかもしれない。だから喫煙所の数が少ないのだ。
「しかし…こんなに情熱的に言い寄られたことはなかったな。」
「え?」
「光がさ、俺のことが好きなんだと。」
「そう。」
「どこがいいんだろうな。」
「そんなに自分を卑下することはないでしょ。」
「…一番自分を卑下しているヤツに言われるとは思わなかった。」
バックから煙草を取り出して、私も煙草に火を付ける。桜の下煙草の煙が漂った。
「でもそれで殴られないわよね。」
「あぁ。」
「何か言ったの?」
「…お前じゃないって。」
「それは殴られるわ。」
灰を落とし、また桜を見る。すると彼の煙草も灰を落とす。
「私よりも光とのつきあいは長いんでしょう?そうしたら、光の性格はわかっているのでしょう?どうしてそんなことを言うの?言い方ってものが…。」
「女の気持ちなんかわからない。俺の気持ちも分からないのに。」
「気持ちが分からないけど、光じゃないって言ったの?」
「光じゃないから。」
「…じゃあ誰なの?」
煙草を落とし、私は彼を見る。すると彼は戸惑ったように私を見る。
「誰って…。」
そのとき阿川さんが私たちを見つけて近寄ってきた。
「携帯鳴らしてたのに。」
「そうだったの?ごめん。どうしたの?」
「そのままお茶を買ってきて欲しいって言おうかと思って。でも私もここまできたから、私が行く。」
「ほら、律。」
「何だよ。」
「阿川さんについてやって。」
「え?」
そう言って私は律を阿川さんに押しつけた。煙草を消して、私はまた花見の方へ戻っていった。
夕方ほどになり、お花見はお開きになった。光は大して飲んでいないのにグダグダと愚痴を言って、最終的には眠ってしまった。
「まだお昼だよ。もう寝たの?」
田宮さんのお孫さんからつつかれても、光は起きる気配がない。
「あれ?律は?」
片づけをしながらよく見ると、律がいない。
「耳がじゃらじゃらしてるお兄さんだったら、向こうで写真撮ってたよ。」
「あぁ。撮影してたのね。」
「なんか地元の新聞社から、依頼が来ていたって言ってたな。」
すると江口君がお孫さんの目線にたつと、にっこり微笑んでいった。
「あのお兄ちゃんは、体にもお絵かきしているみたいだってさ。」
「体にお絵かきしてたらお母さんに怒られるよ。」
「怒られなかったのかな。」
「江口君。それ以上言ったらだめよ。」
阿川さんが止める。それを無視してさらには無そうとしている江口君の後ろに、その律がいた。
「あぁ。律。いい写真は撮れた?」
すると江口君はまるでいたずらがばれた子供のように、美くっと体をふるわせた。
「俺の体がなんだって?」
「何でもないっす。」
こういう時律は本当に怖い。すごみがある。普段そんなに饒舌じゃないし、感情が乏しい気がするけれど本当に怒ると、殴られるってみんな身構える。
「また夜に来ないとな。」
「また来るの?」
「まぁ。ここじゃなくてもいいけど、夜桜が欲しいんだといわれたから。」
「桜ねぇ。」
すると田宮さんが思いだしたように言った。
「うちの近所の神社も桜が咲いてたわ。そこなら夜桜見物している人とかあまりいないと思うけど。」
「田宮さんの家なら歩いても行けるな。ありがとう。」
「どういたしまして。でもあそこは気を付けた方がいいけどね。」
「え?」
「人が死んでるからね。」
神社で人殺しか何かってこと?物騒な世の中だ。
「え?もしかして田宮さん。あの事件って…。」
「そう。その神社。」
「何?どんな事件?」
ブルーシートを畳みながら、田宮さんに江口君が聞く。
「失恋した人が自殺したって所。その自殺の仕方が、焼死だったのよ。インパクトがあるから当時ここにいた人はみんな知っているわ。」
ぞっとする。焼死。自殺の中でも相当苦しいはずだ。
「律。そんなところやめた方がいいんじゃないのか。何か別のものが写るかもしれないし。」
楓が言うのも納得する。私でも止めるだろう。
「写らない。俺はこれまで何万枚、何十万枚と写真を撮ったが、そんなものは写ったことはない。」
ばっさりと切り捨てた。
「それに今日がいい。新月だ。」
そう言って彼は携帯の天気情報を見ていた。
「…周。ちょっといい?」
「何?」
「煙草吸いたいから、つき合えよ。」
「仕方ないわね。」
私はバックを持って、席を離れた。ちらりと光を見たけれど、光は何も言わないで缶チューハイを飲んでいたように思える。
桜は満開に近い。すでに散り始めているものもあって、それが道をピンクに染める。それが白い絨毯に見える。
「何で殴られてたの?」
うじうじ考えるのはやめよう。私はずばっと律にそのわけを聞いた。すると律は足を止める。
「喫煙所は、どこだ?くそ。煙草も自由に吸えないなんて、この国も不便だ。」
どの国を基準に言っているのだろう。たぶん彼が若いときに行っていた余所の国のことかもしれない。
「そっちよ。慌てないの。」
「朝から吸ってないから、手が震えそうだ。」
「仕方ないわね。ヤニ中は。」
軽口を叩きあう。そして見つけた喫煙所。そこで彼はポケットから煙草を取り出す。口にくわえると満足そうに煙を吐き出した。
他に煙草を吸っている人はいない。この国も喫煙者は減ってしまったのかもしれない。だから喫煙所の数が少ないのだ。
「しかし…こんなに情熱的に言い寄られたことはなかったな。」
「え?」
「光がさ、俺のことが好きなんだと。」
「そう。」
「どこがいいんだろうな。」
「そんなに自分を卑下することはないでしょ。」
「…一番自分を卑下しているヤツに言われるとは思わなかった。」
バックから煙草を取り出して、私も煙草に火を付ける。桜の下煙草の煙が漂った。
「でもそれで殴られないわよね。」
「あぁ。」
「何か言ったの?」
「…お前じゃないって。」
「それは殴られるわ。」
灰を落とし、また桜を見る。すると彼の煙草も灰を落とす。
「私よりも光とのつきあいは長いんでしょう?そうしたら、光の性格はわかっているのでしょう?どうしてそんなことを言うの?言い方ってものが…。」
「女の気持ちなんかわからない。俺の気持ちも分からないのに。」
「気持ちが分からないけど、光じゃないって言ったの?」
「光じゃないから。」
「…じゃあ誰なの?」
煙草を落とし、私は彼を見る。すると彼は戸惑ったように私を見る。
「誰って…。」
そのとき阿川さんが私たちを見つけて近寄ってきた。
「携帯鳴らしてたのに。」
「そうだったの?ごめん。どうしたの?」
「そのままお茶を買ってきて欲しいって言おうかと思って。でも私もここまできたから、私が行く。」
「ほら、律。」
「何だよ。」
「阿川さんについてやって。」
「え?」
そう言って私は律を阿川さんに押しつけた。煙草を消して、私はまた花見の方へ戻っていった。
夕方ほどになり、お花見はお開きになった。光は大して飲んでいないのにグダグダと愚痴を言って、最終的には眠ってしまった。
「まだお昼だよ。もう寝たの?」
田宮さんのお孫さんからつつかれても、光は起きる気配がない。
「あれ?律は?」
片づけをしながらよく見ると、律がいない。
「耳がじゃらじゃらしてるお兄さんだったら、向こうで写真撮ってたよ。」
「あぁ。撮影してたのね。」
「なんか地元の新聞社から、依頼が来ていたって言ってたな。」
すると江口君がお孫さんの目線にたつと、にっこり微笑んでいった。
「あのお兄ちゃんは、体にもお絵かきしているみたいだってさ。」
「体にお絵かきしてたらお母さんに怒られるよ。」
「怒られなかったのかな。」
「江口君。それ以上言ったらだめよ。」
阿川さんが止める。それを無視してさらには無そうとしている江口君の後ろに、その律がいた。
「あぁ。律。いい写真は撮れた?」
すると江口君はまるでいたずらがばれた子供のように、美くっと体をふるわせた。
「俺の体がなんだって?」
「何でもないっす。」
こういう時律は本当に怖い。すごみがある。普段そんなに饒舌じゃないし、感情が乏しい気がするけれど本当に怒ると、殴られるってみんな身構える。
「また夜に来ないとな。」
「また来るの?」
「まぁ。ここじゃなくてもいいけど、夜桜が欲しいんだといわれたから。」
「桜ねぇ。」
すると田宮さんが思いだしたように言った。
「うちの近所の神社も桜が咲いてたわ。そこなら夜桜見物している人とかあまりいないと思うけど。」
「田宮さんの家なら歩いても行けるな。ありがとう。」
「どういたしまして。でもあそこは気を付けた方がいいけどね。」
「え?」
「人が死んでるからね。」
神社で人殺しか何かってこと?物騒な世の中だ。
「え?もしかして田宮さん。あの事件って…。」
「そう。その神社。」
「何?どんな事件?」
ブルーシートを畳みながら、田宮さんに江口君が聞く。
「失恋した人が自殺したって所。その自殺の仕方が、焼死だったのよ。インパクトがあるから当時ここにいた人はみんな知っているわ。」
ぞっとする。焼死。自殺の中でも相当苦しいはずだ。
「律。そんなところやめた方がいいんじゃないのか。何か別のものが写るかもしれないし。」
楓が言うのも納得する。私でも止めるだろう。
「写らない。俺はこれまで何万枚、何十万枚と写真を撮ったが、そんなものは写ったことはない。」
ばっさりと切り捨てた。
「それに今日がいい。新月だ。」
そう言って彼は携帯の天気情報を見ていた。
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