平凡な365日

葉津緒

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「副会長サマにはアンタらが説明しといて。無理そうなら別に良い」

「えっ」

「もう行くぞ、脱出ルートは? ん、覚えた。後よろしくな」

「気をつけてね。頼んだぞ赤」

「任せろ」


教室の隅に落ちていた黒のフード付きマントを拾い、青髪のスマホに表示された旧校舎の地図を確認。画面の中で、こちらへ向かってくる白い点滅が風紀委員達なのだろう。うわ、急がねぇと。


「あ、最後に一つだけ。俺はアンタらともう二度と関わりたくないし今度同じことがあっても助けない。つまり、次は無いから」

「……っ!」「……分かった」



ゆっくりと頷いた親衛隊二人。
その顔付きが変わった、ように見えたのは気のせいか。
まあ、どうせ俺が何を言ったところで今更だ。



 ***



「やっぱ向こう、大事になってんな」


駆けつけた風紀委員や副会長親衛隊幹部、学校医らが遠くでワーワー言ってるのを聞きながら、俺と赤髪はこそこそ逃走中。
旧校舎内って意外と広く迷路のように入り組んでて、鬼ごっこに最適。


「副会長とやらのことは本当にあれで良かったのか?」

「あー、別に良いんじゃね。最悪バレたら諦めて出頭するし、すげぇ面倒臭いけど。庇ってもらった分の借りは返さなきゃだろ」

「……ああ。悪い、間に合わなかった」

「は? 何言ってんだよこのくらいで」


俺の額の傷に伸ばした手を、触れる直前で止める赤髪。何かを我慢するような、悔しげな表情と口調。
大した傷でもないのに気にしすぎだ。拳を震わせて「ちくしょうッ」とか呟かなくても良いから。

そもそも普段なら掠りもしない程度の攻撃。
つまり俺の油断、自己責任だ。
人の気配に敏感な筈が、どうも今日は上手く働かない。おかげで何度も背後から襲われ――


「!?」


背後の何か、に反応して蹴り出した足が片手で掴まれた。
向こうも俺も想定外の出来事に驚き、見合ったまま一瞬動きが止まる。


「なっ、誰だてめえ離せ!」

「……ッ」


気付いた赤髪が相手に殴りかかった。
そのタイミングで、掴まれた足を軸に空中回し蹴り――を逆の腕で防がれるが、緩んだ拘束を抜け出し跳んで離れる。
目を見開いた相手は赤髪の攻撃を避け、一瞬で何故か俺へと向かってきた。

待て待て待て、お前たった今俺らの後ろから赤髪に手を出しかけてたよな。だったら獲物はあっちだろ。初志貫徹、こっち来んな!


「くっそ」

「……その動き。お前、あの時の?」


非常に見覚えのある蹴り技。
以前と変わらず当たったら威力凄まじーっぽい攻撃を続けて避ける俺に、向こうも気付いたようだ。
会いたくはなかったが久しぶり。夏に一度戦った……転入生んトコの副総長、美形不良くんじゃねーかよ。お前が何故ここにいる。

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