【完結】おじさんガチ恋物語〜私の初恋は会社の上司。この恋、社会的にアウトですか?〜

音無響一

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第9話 前の席はハズレ

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「課長の隣なんですね、井上さんも近いなんていい席ねここは。失礼します」


井上さんと話していると、俺の隣に座る人が来た。


「あっ、坂下先輩!」

「坂下さんですか、どうぞどうぞ」

「ふふ、当たりの席⋯かな。よろしくお願いします」

「何か言いましたか?」

「⋯⋯⋯いいえ、何も」


なんとなく坂下さんの言葉が気になったが、深く考えないことにした。

前に井上さんで、右隣に坂下さんか。

華やかになっていい。

左隣は誰なんだろうか。

井上さんの右隣には橋本くんが座った。

俺の左隣は新入社員の玉木さんだ。


「し、失礼します⋯」

「お疲れ様です玉木さん、今日は楽しみましょうね」

「は、はい、ありがとうございます」


まだまだオドオドしてるし、自信がなさそうだな。

この子は営業課でやっていけるのだろうか。

人事部の采配ミスってないか?

それとも彼女の希望なのだろうか。


「課長の周りには女の子が集まりますね!」


たしかに女性に囲まれてしまった。


「いやいや、橋本くんがいるじゃないですか、席決めもいい感じですし、この後もよろしくお願いします」

「橋本先輩、本当にナイスです!」

「はい?そんなに喜んでもらえて良かった」


先輩のこともちゃんと褒めるなんて、井上さんは出来る後輩って感じか?

思い返せば俺もよく褒められていたような⋯

かっこいいとかまだまだ若いとか言われたよな。

⋯⋯⋯⋯やはりお世辞か。

そうだよな、俺みたいなおじさんに井上さんみたいないい子が本気で褒めるわけないんだ。

ふぅ、なんだか一気に気持ちが落ち着いてきたな。

今日は飲もう。

耐えてくれよ俺のストマック。

直前にウコンを投入したからいけるはずだ。








坂下先輩がみんな最初の飲み物を聞いている。

課長はビールなんだ。

胃⋯大丈夫かな。

私はもちろん未成年だからソフトドリンクだ。

オレンジジュースにしよっと。

坂下先輩は飲み会でもテキパキ動いてすごいなぁ。

ちゃんと見ておかないと。

私はソフトドリンクなんだもん。

酔った人がどうなるかはお母さんを見てるから分かる。

私がちゃんとやれたら先輩達ももっと楽しめるかもだから。

玉木さんはソフトドリンクを飲むんだ。

でも乾杯だけビールをちょこっと入れたグラスを持ってる。

いいな、私もみんなと同じものを飲んで楽しみたい。

あと少しの我慢だよね。


「皆さん、飲み物は行き渡りましたかー?それでは乾杯の挨拶を、課長!お願いします!」

「私ですか?それでは⋯⋯」


橋本先輩の無茶ぶりなのかな?

でもこういうのは上司の役目なのかな。

課長はその場で立ち上がる。

私は座敷に座っている。

背の高い課長がより高く見える。

おっきいなぁ、やっぱり素敵です課長。








「皆さんお疲れ様です。本日はお集まり頂きありがとうございます」


橋本くんは無茶ぶりだなぁ。

なんにも用意してないから話せるか⋯


「新入社員の歓迎会です、みんなで楽しく、食べて飲みましょう!それでは皆さんグラスをお持ちください」


皆が一斉にグラスを持つ。

1拍置いて言った。


「乾杯!」

「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」


みんなで乾杯し合う、一気に飲み干す人、嬉しそうに飲む人、ちびちび飲む人、色んな飲み方があるな。

俺も周りの人と乾杯をし合う。

まだ井上さんとしてないんじゃないか?

チラリと見ると目が合った。


「課長!乾杯です!」

「はい、乾杯。今日もお疲れ様でした」


眩しい笑顔だな。

俺はそんな井上さんの笑顔を見て、込み上げる気持ちをビールで一気に胃に流し込んだ。

絶対に胃に良くはない。

だが飲みたかった。

この笑顔は俺だけのものにはならない。

それに気付いたからなのだろうか。

でもそれでいい。

上司と部下、おじさんと高卒の女の子だ。

先週の土曜日が奇跡だったんだ。

もう二度と来ない奇跡。

その思い出を、その想いを洗い流したかったのかもしれない。








わわ、一気に飲み干しちゃった、大丈夫なのかな。

課長の胃が心配になっちゃう。

お酒って胃に良くなさそうだもん。


「課長、今日はどうされました?珍しいですね、一気に飲み干すなんて」


すかさず坂下先輩が課長を心配してる。

さすがすぎます。

そうやって気遣いができるところ尊敬します。

でも私がそれをしたかったなぁ。

やっぱり隣の席が当たりの席だったんだ。

玉木さん席を変わって欲しいよぉ。


「今日はなんだか飲みたい気分なんです。最近は飲んでませんでしたからね」

「そうでしたか。土日のご予定は?私はないのでとことんお付き合い致しますよ」

「それは頼もしいですね、坂下さんも飲みたい気分なんですか?」

「ふふ、そうかもしれません」


ずるいなぁ⋯⋯

変わって欲しいよ坂下先輩。

大人な二人の会話を私は見ていることしかできない。

私の左隣に座っている男性の山下先輩に話しかけられている。

正直、ちゃんと会話が入ってこない。

ちゃんと会話になってるのかな。








坂下さんも残りを一気に飲み干した。

少し首の角度をつけて飲む。

その綺麗な首筋を見せつけるように。

飲み込む度に動く喉の動きに艶めかしさを感じてしまう。


「そんなにハイペースで大丈夫ですか?」

「普段は猫を被ってるんです」

「はい?それはどういう⋯」

「冗談です、ふふ、びっくりしました?」


うーん、美人だなぁ。

お酒を飲み干してるところなんて色気が⋯

もう酔ってきてるのか?


「次は何を飲みますか?」


坂下さんが注文を取ってくれるようだ。


「もう一杯ビールを飲みますか」

「それでは私もご一緒させて頂きます」


注文すると程なくしてビールが届く。

なみなみ注がれたビール。

先程飲み干したばかりなのに喉がなる。

お通しを1口食べる。

2杯目のビールで坂下さんと2人だけで乾杯をする。

坂下さんを見ると妖艶に微笑んでいた。

挑発か?

猫を被ってるとか言ってたよな。

ジョッキをお互いが口元へ運ぶ。

お互い見つめ合いながらだ。

口につける瞬間に、ジョッキの縁を艶めかしく舐めた。

なんの意味があるのだろうか。

そういう癖⋯では無いだろうなぁ。

誘われてるのか挑発されてるのか。

坂下さんはこんな子だったのか?

考える必要なんてない。

今は飲む、それだけだ。

飲み干した後に口をつけていたコップの縁を持ち手とは反対の指でなぞりながら俺を見つめてきた。

⋯⋯⋯⋯狙われてるのか?

そんな馬鹿なことはないか。








ああ、また一気に飲み干してる⋯

それに2人で見つめ合ってたし。

もしかして課長と坂下先輩って、そういう関係⋯⋯⋯なの?

私の入り込む隙間なんてない、そんな雰囲気を課長と坂下先輩が醸し出している。

見ていることしかできないの?

それが辛い。

今は若さが憎い。

早く大人になって二人だけの空間に入り込みたかった。


「課長、グイグイいきますね~今日はガッツリ行っちゃいましょ!」


私がモヤモヤしていると橋本先輩がその雰囲気をぶち壊すように話しかけた。

橋本先輩、ナイスです!

今日の橋本先輩は悉くナイスです!


「ははは、私だって飲みたい時はありますからね、まだまだ行きますよ!」


課長、もう酔ってる?

顔も赤くなってるような。


「今日の課長はいつもと違うぞ!みんな、課長に負けるな!」

「「「「「おーーーっ!」」」」」


ちょっと体育会系だよね営業課って。

でもそれがちょっぴり好きだったりする。








3杯目はさすがに一気飲みはしなかった。

レモンサワーを飲みながら食事を楽しむ。

座敷なだけあって、出てくる食事は和食が中心だ。

これは日本酒の方がいいか?

日本酒なんて飲んだらベロンベロンになるかもしれない。

さすがに部下のいる手前、節度は守らないとな。


「それではここで新入社員の3人に今後の意気込みを発表して貰いたいと思います!」


橋本くんが席を立ち司会をし始めた。


「それではまずは⋯⋯⋯⋯吉川くんから!こういうのは男の子からバシッと行こう!」

「じ、自分っすか、りょ、了解っす」


頑張れ吉川くん。


「自分はまだまだ仕事も覚えきれないし、頭も良くないっす!でも頑張っていきたんでよろしくっす!」


うんうん、元気があってよろしい。

若い子は勢いが大事だからな。

みんなが暖かい拍手を送っている。

チラリと隣の玉木さんを見る。

俯いているな。

こういうのは得意じゃないんだろう。

次は自分なんだ、なんて思って戦々恐々とでもしてるのだろうか。


「玉木さん、無理しないで大丈夫ですからね」


俺は優しく玉木さんに声をかける。


「は、はい、ありがとうございます課長⋯」

「こういう時はグイッと飲んで気持ちを切り替えられるといいんですが⋯お酒は苦手ですか?」


最初からずっとソフトドリンクを飲んでいるんだもんな。

素面でやれなくても少しでも酔えば勇気も出るかもしれない。


「は、はい、お酒もほとんど飲んだことなくて⋯」

「そうだったんですね。それなら何かあれば私がフォローしますから、これからどうしていきたいのか言ってみましょう。声なんて大きくなくていいので、玉木さんのペースでゆっくりでいいですからね」

「ありがとう⋯⋯ございます⋯少しだけ勇気出して頑張ってみます⋯」

「うんうん、応援してますよ」


これで心が軽くなってくれればいいんだが⋯








「それじゃあ次は⋯⋯玉木さん、お願いします!」


え、最後が私?

どうしようどうしようどうしよう。

課長は隣の玉木さんに優しくアドバイスしてた。

私にもください、課長、私にも優しくアドバイスお願いします。

私は課長を見ながら必死に目で訴える。

でも課長は玉木さんが頑張る姿を微笑ましそうに見て応援している。


「わた、私は⋯その、あんまり色々⋯上手く出来ないこと多くて⋯」

「大丈夫ですよ、ゆっくりです。頑張ってください玉木さん」

「は、はい⋯それでその、不器用なのがとても⋯その⋯嫌で⋯だから⋯そんな自分を変えたく⋯⋯」

「いいですよ玉木さん、その調子です」

「は、はい⋯ご、ご迷惑をた、たくさん⋯かける⋯と、思います⋯」

「迷惑なんかじゃありませんよ。それをフォローするのが私達先輩や上司ですからね」

「は、はい⋯そ、その、が、頑張ります!」


盛大な拍手が上がった。

玉木さん、頑張ったもん。

でも課長、優しすぎです。

私にもその優しさをくれますか?

すぐに橋本さんは私にフリ、席を立ち意気込み発表をしている。







「お疲れ様でした、本当に頑張りましたね」

「は、はい⋯⋯⋯⋯」


玉木さんは喋り終わると崩れ落ちるように座った。

「はい、これどうぞ」と労うために近くにあったお茶を渡す。

「あ、課長、それ⋯」なんて橋本くんが言っていたがどうした?

玉木さんは「ありがとうございます」と言って受け取り一気に飲み干した。


「課長、それ、橋本くんのウーロンハイですね。課長も悪い人ですね。若い子を酔わせてどうしようって言うんですか?」


坂下さんがそんなことを言った。


「え、ほ、本当ですか?」

「お、おいし⋯課長、ありがとうございました。私、頑張れましたか?」

「おいしい?それお酒みたいで⋯ごめんなさい玉木さん、具合悪くなってないですか?」

「大丈夫⋯です⋯でも、なんかフワフワして⋯」


慣れてない子が一気に飲み干したらダメだろう。

俺はなんてことをしてしまったんだ。

慌てて俺は背中を摩る。







「はう⋯⋯⋯か、課長⋯そ、それらめ⋯」

「大丈夫ですか玉木さん、気分は平気ですか?」


え、どういうこと?

なんで背中を摩ってるの?

私が喋ってるのに課長全然聞いてない?

酷いです課長⋯⋯⋯⋯

やっぱり隣じゃなきゃダメだったんだ。

前で良かったとか思ってたからなのかな。

いいな玉木さんも。

どうしてあんなことになってるんだろう。








「玉木さん、落ち着きましたか?」

「ひゃあっ、も、もう大丈夫れす、から⋯」

「課長、そろそろセクハラになりますよ?」


坂下さんにそんなことを言われ、俺はハッとする。


「も、申し訳ございません玉木さん!」

「い、いえ、しょの、ありがとうございましゅ⋯」


俺もだが玉木さんも酔ってしまったのだろうか。


「課長、ほんとそういうところありますよね」

「坂下さん、どういうことでしょうか⋯」

「分からないならいいんです」


どういうことなのか誰か教えてくれ。

セクハラをしてしまったのか?

いや、背中を摩るなど100%セクハラ認定なのか?

こ、怖すぎる⋯⋯⋯


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