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第10話 責任取ってください
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新入社員歓迎会は橋本くんが用意してくれたレクリエーションをしつつ盛り上がりを見せていた。
「玉木さん、そのくらいにした方が⋯」
「いえ!大丈夫れす!」
みんなは楽しそうだが俺はヒヤヒヤだ。
もう3杯も飲んでるじゃないか。
店員さんにもお願いして薄くしてもらってるが、それでも心配になる。
「課長のせいですよ?責任取ってくださいね」
「ど、どういうことでしょう⋯」
責任⋯⋯⋯だと?
なんの責任を取ればいいんだ。
「酔い潰れたら送ってください。飲ませた課長の責任です」
お、おお、送るだと?
いや、それは確かにそうなんだが⋯
「ふふ、冗談ですよ。その時は私も付き合いますのでご安心を」
「いや、それは坂下さんに申し訳ないですが⋯⋯」
「一人暮らしの新入社員の女の子を、課長おひとりで送ると、そう言うことですね?」
な、なん⋯⋯だと?
これはもう詰みだ。
俺はどうやっても明日の朝刊の1面だ。
「ふふ、課長ったらなんてお顔されてるんですか?心配しないでください、ちゃんと私も送りますから安心してください」
坂下さんには敵わないな。
ほっとした顔をしてる俺に坂下さんは声を掛ける。
じーっと俺の目を見ながら「課長」短くと呼んだ。
そして今からイタズラするような子供っぽい笑顔を浮かべる。
「埋め合わせは期待してますね?」
「は、はい⋯⋯⋯⋯」
埋め合わせ⋯何をすればいいんだろうか。
ブランド物のバックでもプレゼントした方がいいのだろうか。
まずは坂下さんの好きなブランドのリサーチから始め、そして次にどんなものがほしいかを⋯
いや、そうじゃない、焦るな。
「そうですね、2人きりで食事とか⋯期待してますね」
ほっ、食事か。
ブランド物より安く済⋯
2人きりだと?
ダメだダメだ、今度は坂下さんにセクハラになるじゃないか。
どうしたらいいんだ。
もうこれは完全に詰んでいる⋯のか?
課長と坂下さんと玉木さん楽しそう。
見ていることしか出来ない。
大人の世界。
入っていく方法がわかんない。
橋本先輩のナイスアシストもなかったら無理だよ。
課長と玉木さん。
課長と坂下先輩。
2人ともとっても楽しそう。
それはお酒のせいですか?
それとも課長と話しているからですか?
なんで課長は私に声を掛けてくれないんですか?
なんで課長は私に目も向けてくれないんですか?
私がお酒も飲めないお子様だからですか?
はぁ、早く大人になりたい。
あ⋯⋯⋯だめ、泣いちゃいそう⋯⋯
「さ、課長、まだまだ飲めますよね?」
「い、いやぁ、そろそろ打ち止めに⋯」
この雰囲気に耐えられなくなり、俺は助けを求めるように井上さんに顔を向ける。
いつも元気な井上さんが物悲しげに俯いている。
「井上さん、大丈夫ですか?」
「どうしたの?気分悪くなったの?」
坂下さんも気が付いたようで、一緒に声を掛ける。
「え、は、はい、大丈夫です!」
バッと顔を上げ返答してくれる。
でもその目は微かに潤んでいた。
大丈夫だろうか。
とっても心配になるな。
課長が話しかけてくれた。
一瞬息を飲み、嗚咽が漏れそうになるのを防ぐため、小さく吐く。
そして溢れそうな涙をグッと堪えて顔を上げた。
あのまま声を掛けられなかったら私は泣いていたかもしれない。
なんでこんなに悲しいのか理解しきれてない。
でも泣いたらダメだ。
みんな楽しそうにしてるのに、雰囲気ぶち壊しだよ。
私は無理やり笑顔を作る。
口角を上げたつもりだ。
ねぇ、今の私、ちゃんと笑えてる?
課長、私が作り笑いだって気付いてますか?
私の笑顔をしっかり見ててくれていますか?
「私、まだまだお子様なんで、眠くなってきちゃいました!」
嘘だけど、このくらいの嘘なら許されるよね⋯⋯⋯⋯
「そうなんですね、そろそろ飲み会も終わりでしょうし、終わったらすぐに帰りましょう」
眠いだけならいいんだが⋯大丈夫だろうか。
玉木さんも心配だが、井上さんもなんだか心配になる。
許されるなら井上さんを送り届けたい。
⋯⋯許されないな。
こういうのは若い者同士に任せた方がいい。
飲み会中、ずっと井上さんの左隣に座っている山下くんが話しかけていた。
傍から見ても好意のありそうな雰囲気を醸し出している。
ダメではない、ダメではないが、軽い気持ちなら手を出すなとは言いたい。
山下くん、ちゃんと本気になれるのか?
⋯⋯⋯⋯なんてな。
俺にそんなこと言う権利なんてどこにもないのが悲しくなるな。
はぁ、俺がもう15年⋯いや、10年でも若ければ⋯
目の前のグラスの中の氷が溶けたのだろう。
乾いた音が鳴る。
俺の心の中の音なのだろうか。
玉木さんのお酒に付き合い、坂下さんの挑発のような言動にヒヤヒヤしながらしていると、橋本くんが会の終わりを告げた。
「それでも皆さん!宴もたけなわですが、そろそろお開きの時間になりました!二次会行くぞーーー!」
「「「「「おーーーっ!」」」」」
みんな元気だな。
若いってすばらしい。
「課長は行くんですか?」
「ははは、さすがに行きませんよ、玉木さんのこともありますし」
「それじゃあ私もご一緒しますね」
井上さんはどうするんだろうか。
眠いと言っていたし帰るかな?
「井上さん、疲れているでしょうし、帰ってゆっくり休んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
なんだかやっぱり元気ないな。
心配だ。
ほら、山下くん、ここだぞ、送ってくと言いなさい。
例え逆方向でも男は損してなんぼだぞ。
⋯⋯⋯考え方が昭和過ぎるか?
って二次会組に合流してるじゃないか。
そういうとこだぞ山下くん。
みんなで店外へ出る。
「それでは帰る人達はお気をつけて!二次会の会場はあちらになります!レッツカラオケパーティ!」
「「「「「「いえーーい!」」」」」」
体育会系すぎないか?
誰だ、営業課を体育会系にした奴は。
誰だろうか⋯
二次会⋯⋯⋯⋯か。
私はそんな気分じゃない。
山下先輩に頻り誘われたけど、丁重にお断りしておいた。
課長と玉木さんと坂下さんで何か話してる。
私の入り込む感じじゃない。
お子様はお呼びじゃない、そう言われている気がして悲しかった。
私はみんなに聞こえるか聞こえないか、そのくらいの声で「失礼します」とだけ告げ、駅へと向かった。
楽しかったのにな、最初は。
なんでこんなに悲しいんだろう。
課長と帰りたかったな。
コーヒー⋯飲みたくなっちゃった。
明日は課長と行ったカフェに行こう。
いつの間にか井上さんが居なくなっていた。
1人で帰れないことはないだろうが心配だ。
「課長は行かないんですか?」
橋本くんがこちらを気にしている。
「玉木さんが大変そうなんで、送って帰ります」
「課長1人で大丈夫ですか?」
「いえいえ、坂下さんが一緒に来てくれるそうなんで3人でタクシー捕まえたいと思います」
「坂下さんがいるなら安心ですね!では課長、みんなと楽しんできます!今日はありがとうございました!」
「はい、皆さん普段の疲れをパーッと解放してきてくださいね」
俺と坂下さんでみんなを手を振りながら見送った。
「ふふ、課長、それじゃあ私達もいきましょうか」
「はい、そうしましょう、玉木さん、家はどの辺なんですか?」
「私の家は北町です!知らないんですかぁ」
うーん、まだまだ酔ってるな。
吐かないか心配になる。
この辺はどこでタクシーを呼べるんだろうか。
「課長、あと少しでタクシーが来るのでお待ちください」
さすが出来る女性坂下さんだ。
もうスマホで呼んでいる。
「あの道に来る手はずになってるのでそこまで行きましょう」
3人で大通りで待っていると、すぐにタクシーがやってきた。
既に玉木さんはぐでんぐでんでまともに喋れていない。
水は最後の方に飲ませていたが、あれでは足りないだろう。
タクシーに乗り込むと、玉木さんの私物から坂下さんが住所を特定し、運転手さんに伝えている。
ここからそんなに遠くないようだ。
俺、玉木さん、坂下さんの順番で後部座席に座る。
坂下さんがいて本当に助かっている。
仕事のできる女性は酔っていてもさすがだな。
玉木さんの私物を俺が漁ったりでもしてみろ。
社会的に死ぬのは間違いない。
玉木さんがずっと俺に寄りかかっている。
しかも俺の腕にしがみつきながらだ。
大きい⋯⋯⋯んだな。
馬鹿なことを考えるな。
部下なんだぞ、それに坂下さんもいるんだ。
今は本当にダメだ。
ああ、柔らかい⋯
酔っているのに、いや、酔っているからなのか?
その柔らかさと大きさが腕を通して俺の感覚を刺激してくる。
考えないようにしているのに、それを突破してくる破壊力だ。
柔らかさで気持ちいいはずなのに胃が⋯⋯
今週は調子良かったのに、今日の飲み会のせいでおジャンだ。
「課長、嬉しそうですね、若い子にそんなにくっつかれて」
なんだかトゲがあるな⋯⋯
目もなんだか冷ややかと言うか、汚い物を見るような⋯
これは完全に不可抗力なのに。
「う、嬉しいなんてことは⋯⋯⋯ただ心配なだけなんです」
「そんな風には見えませんけど?それと課長はお忘れなんですか?」
お忘れ?
何をだろうか。
しかしこれは思い出さないとダメなパターンじゃないのか?
全く思い出せない。
ああ、胃の痛みが⋯⋯⋯
「この前の飲み会の時に約束してくれたじゃないですか」
なんの事か本当に分からないぞ?
「もぅ、課長にとって私ってその程度なんですね!」
ご立腹だ。
それもそうだろう、約束を忘れたんだ。
本当に思い出せない⋯⋯
「坂下さん、本当に申し訳ないです。どんな約束をしたか教えて頂けないでしょうか⋯」
「知りません!」
そっぽを向いてしまった⋯
頑張れ俺のストマック。
あと少しで帰れるぞ。
「玉木さん、そのくらいにした方が⋯」
「いえ!大丈夫れす!」
みんなは楽しそうだが俺はヒヤヒヤだ。
もう3杯も飲んでるじゃないか。
店員さんにもお願いして薄くしてもらってるが、それでも心配になる。
「課長のせいですよ?責任取ってくださいね」
「ど、どういうことでしょう⋯」
責任⋯⋯⋯だと?
なんの責任を取ればいいんだ。
「酔い潰れたら送ってください。飲ませた課長の責任です」
お、おお、送るだと?
いや、それは確かにそうなんだが⋯
「ふふ、冗談ですよ。その時は私も付き合いますのでご安心を」
「いや、それは坂下さんに申し訳ないですが⋯⋯」
「一人暮らしの新入社員の女の子を、課長おひとりで送ると、そう言うことですね?」
な、なん⋯⋯だと?
これはもう詰みだ。
俺はどうやっても明日の朝刊の1面だ。
「ふふ、課長ったらなんてお顔されてるんですか?心配しないでください、ちゃんと私も送りますから安心してください」
坂下さんには敵わないな。
ほっとした顔をしてる俺に坂下さんは声を掛ける。
じーっと俺の目を見ながら「課長」短くと呼んだ。
そして今からイタズラするような子供っぽい笑顔を浮かべる。
「埋め合わせは期待してますね?」
「は、はい⋯⋯⋯⋯」
埋め合わせ⋯何をすればいいんだろうか。
ブランド物のバックでもプレゼントした方がいいのだろうか。
まずは坂下さんの好きなブランドのリサーチから始め、そして次にどんなものがほしいかを⋯
いや、そうじゃない、焦るな。
「そうですね、2人きりで食事とか⋯期待してますね」
ほっ、食事か。
ブランド物より安く済⋯
2人きりだと?
ダメだダメだ、今度は坂下さんにセクハラになるじゃないか。
どうしたらいいんだ。
もうこれは完全に詰んでいる⋯のか?
課長と坂下さんと玉木さん楽しそう。
見ていることしか出来ない。
大人の世界。
入っていく方法がわかんない。
橋本先輩のナイスアシストもなかったら無理だよ。
課長と玉木さん。
課長と坂下先輩。
2人ともとっても楽しそう。
それはお酒のせいですか?
それとも課長と話しているからですか?
なんで課長は私に声を掛けてくれないんですか?
なんで課長は私に目も向けてくれないんですか?
私がお酒も飲めないお子様だからですか?
はぁ、早く大人になりたい。
あ⋯⋯⋯だめ、泣いちゃいそう⋯⋯
「さ、課長、まだまだ飲めますよね?」
「い、いやぁ、そろそろ打ち止めに⋯」
この雰囲気に耐えられなくなり、俺は助けを求めるように井上さんに顔を向ける。
いつも元気な井上さんが物悲しげに俯いている。
「井上さん、大丈夫ですか?」
「どうしたの?気分悪くなったの?」
坂下さんも気が付いたようで、一緒に声を掛ける。
「え、は、はい、大丈夫です!」
バッと顔を上げ返答してくれる。
でもその目は微かに潤んでいた。
大丈夫だろうか。
とっても心配になるな。
課長が話しかけてくれた。
一瞬息を飲み、嗚咽が漏れそうになるのを防ぐため、小さく吐く。
そして溢れそうな涙をグッと堪えて顔を上げた。
あのまま声を掛けられなかったら私は泣いていたかもしれない。
なんでこんなに悲しいのか理解しきれてない。
でも泣いたらダメだ。
みんな楽しそうにしてるのに、雰囲気ぶち壊しだよ。
私は無理やり笑顔を作る。
口角を上げたつもりだ。
ねぇ、今の私、ちゃんと笑えてる?
課長、私が作り笑いだって気付いてますか?
私の笑顔をしっかり見ててくれていますか?
「私、まだまだお子様なんで、眠くなってきちゃいました!」
嘘だけど、このくらいの嘘なら許されるよね⋯⋯⋯⋯
「そうなんですね、そろそろ飲み会も終わりでしょうし、終わったらすぐに帰りましょう」
眠いだけならいいんだが⋯大丈夫だろうか。
玉木さんも心配だが、井上さんもなんだか心配になる。
許されるなら井上さんを送り届けたい。
⋯⋯許されないな。
こういうのは若い者同士に任せた方がいい。
飲み会中、ずっと井上さんの左隣に座っている山下くんが話しかけていた。
傍から見ても好意のありそうな雰囲気を醸し出している。
ダメではない、ダメではないが、軽い気持ちなら手を出すなとは言いたい。
山下くん、ちゃんと本気になれるのか?
⋯⋯⋯⋯なんてな。
俺にそんなこと言う権利なんてどこにもないのが悲しくなるな。
はぁ、俺がもう15年⋯いや、10年でも若ければ⋯
目の前のグラスの中の氷が溶けたのだろう。
乾いた音が鳴る。
俺の心の中の音なのだろうか。
玉木さんのお酒に付き合い、坂下さんの挑発のような言動にヒヤヒヤしながらしていると、橋本くんが会の終わりを告げた。
「それでも皆さん!宴もたけなわですが、そろそろお開きの時間になりました!二次会行くぞーーー!」
「「「「「おーーーっ!」」」」」
みんな元気だな。
若いってすばらしい。
「課長は行くんですか?」
「ははは、さすがに行きませんよ、玉木さんのこともありますし」
「それじゃあ私もご一緒しますね」
井上さんはどうするんだろうか。
眠いと言っていたし帰るかな?
「井上さん、疲れているでしょうし、帰ってゆっくり休んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
なんだかやっぱり元気ないな。
心配だ。
ほら、山下くん、ここだぞ、送ってくと言いなさい。
例え逆方向でも男は損してなんぼだぞ。
⋯⋯⋯考え方が昭和過ぎるか?
って二次会組に合流してるじゃないか。
そういうとこだぞ山下くん。
みんなで店外へ出る。
「それでは帰る人達はお気をつけて!二次会の会場はあちらになります!レッツカラオケパーティ!」
「「「「「「いえーーい!」」」」」」
体育会系すぎないか?
誰だ、営業課を体育会系にした奴は。
誰だろうか⋯
二次会⋯⋯⋯⋯か。
私はそんな気分じゃない。
山下先輩に頻り誘われたけど、丁重にお断りしておいた。
課長と玉木さんと坂下さんで何か話してる。
私の入り込む感じじゃない。
お子様はお呼びじゃない、そう言われている気がして悲しかった。
私はみんなに聞こえるか聞こえないか、そのくらいの声で「失礼します」とだけ告げ、駅へと向かった。
楽しかったのにな、最初は。
なんでこんなに悲しいんだろう。
課長と帰りたかったな。
コーヒー⋯飲みたくなっちゃった。
明日は課長と行ったカフェに行こう。
いつの間にか井上さんが居なくなっていた。
1人で帰れないことはないだろうが心配だ。
「課長は行かないんですか?」
橋本くんがこちらを気にしている。
「玉木さんが大変そうなんで、送って帰ります」
「課長1人で大丈夫ですか?」
「いえいえ、坂下さんが一緒に来てくれるそうなんで3人でタクシー捕まえたいと思います」
「坂下さんがいるなら安心ですね!では課長、みんなと楽しんできます!今日はありがとうございました!」
「はい、皆さん普段の疲れをパーッと解放してきてくださいね」
俺と坂下さんでみんなを手を振りながら見送った。
「ふふ、課長、それじゃあ私達もいきましょうか」
「はい、そうしましょう、玉木さん、家はどの辺なんですか?」
「私の家は北町です!知らないんですかぁ」
うーん、まだまだ酔ってるな。
吐かないか心配になる。
この辺はどこでタクシーを呼べるんだろうか。
「課長、あと少しでタクシーが来るのでお待ちください」
さすが出来る女性坂下さんだ。
もうスマホで呼んでいる。
「あの道に来る手はずになってるのでそこまで行きましょう」
3人で大通りで待っていると、すぐにタクシーがやってきた。
既に玉木さんはぐでんぐでんでまともに喋れていない。
水は最後の方に飲ませていたが、あれでは足りないだろう。
タクシーに乗り込むと、玉木さんの私物から坂下さんが住所を特定し、運転手さんに伝えている。
ここからそんなに遠くないようだ。
俺、玉木さん、坂下さんの順番で後部座席に座る。
坂下さんがいて本当に助かっている。
仕事のできる女性は酔っていてもさすがだな。
玉木さんの私物を俺が漁ったりでもしてみろ。
社会的に死ぬのは間違いない。
玉木さんがずっと俺に寄りかかっている。
しかも俺の腕にしがみつきながらだ。
大きい⋯⋯⋯んだな。
馬鹿なことを考えるな。
部下なんだぞ、それに坂下さんもいるんだ。
今は本当にダメだ。
ああ、柔らかい⋯
酔っているのに、いや、酔っているからなのか?
その柔らかさと大きさが腕を通して俺の感覚を刺激してくる。
考えないようにしているのに、それを突破してくる破壊力だ。
柔らかさで気持ちいいはずなのに胃が⋯⋯
今週は調子良かったのに、今日の飲み会のせいでおジャンだ。
「課長、嬉しそうですね、若い子にそんなにくっつかれて」
なんだかトゲがあるな⋯⋯
目もなんだか冷ややかと言うか、汚い物を見るような⋯
これは完全に不可抗力なのに。
「う、嬉しいなんてことは⋯⋯⋯ただ心配なだけなんです」
「そんな風には見えませんけど?それと課長はお忘れなんですか?」
お忘れ?
何をだろうか。
しかしこれは思い出さないとダメなパターンじゃないのか?
全く思い出せない。
ああ、胃の痛みが⋯⋯⋯
「この前の飲み会の時に約束してくれたじゃないですか」
なんの事か本当に分からないぞ?
「もぅ、課長にとって私ってその程度なんですね!」
ご立腹だ。
それもそうだろう、約束を忘れたんだ。
本当に思い出せない⋯⋯
「坂下さん、本当に申し訳ないです。どんな約束をしたか教えて頂けないでしょうか⋯」
「知りません!」
そっぽを向いてしまった⋯
頑張れ俺のストマック。
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