音無響一の日常

音無響一

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人助けin地下鉄のプラットホーム

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俺は転職した。

転職してから電車通勤だ。

実は電車通勤は社会人になって初めてだった。

高校大学と満員電車に揺られた俺は、電車に乗るのが大嫌いになっていた。

来る日も来る日も満員電車。

背の高い俺は両手を上げ、吊り革より上の鉄のバーを掴む。

こうしないとマジで痴漢と思われるかもしれないからだ。

冤罪とか本気でシャレにならん。





背が高いのはいいことだけじゃない。

よく羨ましがられるが、ぶっちゃけて言うと、小さくなりたい。

何もかもが狭い。

公共の乗り物は全て狭い。

軽自動車だって狭い。

頭はぶつかるからかなり危険だ。

あと危険なのは雨の日の歩行だ。

開いた傘の骨組みの先がちょうど俺の眼球の位置にくる。

何度も目に入る危険性を感じたな。

それに浴槽が狭いのなんのって。

足に合わせたら肩が出る。

上半身に合わせたら足が出る。

全身くまなく浸かりたいんだ。

布団も狭い。

寝る時に足が出る。

横幅も狭く感じる。

シングルじゃ足りないんだ。

まぁ不便なとこを並べたら、身長の低い女性も山ほどあるだろう。

どっちもどっちで不便さがあるもんなんだろうな。






おっと、また話しが逸れたな。

こういう脱線が俺の悪い癖なんだ。

だけど脱線することで、会話が広がるってもんだろう。

え?あ、ごめんなさい、本編行きます。

それでは、相変わらず人助けをする音無響一をお楽しみください。

ではご覧あれ。







あれは夏の日だったろうか。

地下鉄に乗って通勤をしていた。

色んな路線が絡み合う地下鉄。

覚えるのが大変なんだ。

3方向に向かう分岐点の駅がある。

そこで乗り換えをしなければならない。

最寄り駅まで直通が少ないのが玉に瑕だ。

電車が止まった。

ここからは鈍行で4駅だ。

ものの数分で着く。

乗り換えと言っても、降りた目の前の乗り場だからな、これと言った不満は無い。

それよりも今の時代は鈍行なんて言うやついるんだろうか。

まぁ所謂、各駅停車ってやつだな。

まっすぐ立って歩くと電車の入口に頭が当たるからな。

少し頭を屈めて降りる。






降りた瞬間違和感だ。

俺は通勤中に音楽を聞いているが、骨伝導イヤホンのおかげで周囲の音も耳に入ってくる。

右方向10mくらいの位置でザワザワしているのを横目で確認する。

俺はイヤホンのボタンを切る。

視線をそちらにやり状況を確認する。

俺がそう何度も何度も人助けしているわけではない。

そういう場面でも近くにいる人が助けて解決、なんて場面もよく遭遇する。

聞いた話によると、そもそもそんな現場に遭遇することが稀らしい。

────え、まじ?

そこまで頻繁じゃないが、月イチとかであるときはあるし、少なくても半年に1回は何かしらの人助けをプライベートでしてるんだが⋯⋯⋯⋯⋯







視線の先には人だかりができていた。

隙間から倒れている人を確認する。

喧騒すぎて何を言っているのか分からなかったが、安否確認をしている様子は見られない。

頭を守るようにバッグを下に敷いて寝かされているようだ。

ぐるっと辺りを見渡した。

うーん、駅員がすぐに来る様子がまだないな。

はぁ、行くか。





意を決した俺は駆け出した。

おそらくこの間2、3秒だろう。

倒れている人の所へダッシュだ。

みんなあたふたしている。

周りの人に聞いても仕方ないだろう。

まずは意識の確認だな。


「すみませーん、声は聞こえますかー?お名前言えますかー?」


喧騒がすごいので大きな声で倒れて虚ろな目をしたお姉さんに話しかける。

お姉さんはマスクをしている。

口の動きが分からない。

俺は確認をしてからマスクを取った。


「すみません、1回マスク取りますよ!失礼しますね!」


むっ、見るからに唇の色が薄いな。

チアノーゼまでは行かないが、顔も顔面蒼白だ。

とりあえず分かることを聞いていこう。

俺は医者じゃないから眼球見たところで分からん。


「この手は見えますか?どこか痛いとこありますか?」


眼球が多少は動いたな。

意識が少しはあるのかもしれない。


「ダイエットはしてますか?今日は何か食べましたか?それとも食べてませんか?」


やっと女性が反応した。


「⋯⋯⋯⋯⋯して、ません⋯⋯⋯」


食事の有無も聞きたいところだったが仕方ないか。


「失礼ですが、女性の日だったりしますか?」


これはデリケートな話だからな、耳元でそっと伺う。


「⋯⋯⋯⋯いえ、違い、ます⋯⋯」


ダイエットでも生理でもないのか。


「なにか持病を抱えてたりしてますか?」

「⋯⋯⋯ない、です⋯⋯⋯」



ふむ。わからんな!


「誰か駅員に通報しましたか?」


俺は周りに大声で問いかける。

するとおばさん、いや、お姉様が教えてくれた。


「さっき連絡してます!」


さすがだな、直接助けはしないがやることやる。

それがお姉様。

突っ立てるだけじゃ何も解決せんからな。

こういう時は動くべし。







さてどうするかと悩んでいると、後ろで見守ってたスーツの兄ちゃんが焦った顔で話しかけてくる。


「お、お医者様ですか!?!」


お、おお?

そんなわけなかろう?

まぁ一般人には医者の対応かどうかなんて分かるわけないよな。

さてなんて言おうか⋯⋯⋯⋯


「いえ、通りすがりのおっさんです⋯」

「⋯⋯⋯⋯え?」


うむ、盛大に滑ったな。

ここはスケートリンクか?







こんな時に滑った滑ってないは考えたらダメだ。

真面目にやれ。


「頭は痛くないですか?」


まだまだ駅員の来る気配は無い。


「はい、大丈夫⋯⋯⋯です⋯⋯⋯」


痛くはないが何かあるかもしれん。

とりあえず目撃情報でも聞いとくか。


「この人が倒れているところ見てた人いますか?」


シーーーン


「どんな風に倒れてたか見てますか?頭打ってるかどうかわかる人いますか!?」


俺はさらに大きな声で問いかける。

やはりおば⋯お姉様だよな。

こういう時はお姉様が頼りになるんだ。


「打ってないと思います!」

「ありがとうございます!どんな風に倒れたか見てましたか?」

「はい、ゆっくり倒れてました、座り込むようにして⋯⋯だから頭は打ってないはずです!」


なるほど、詳しく教えてくて助かるな。

ってとことは⋯⋯うん、わからん。

意識はあるし、問いかけもできてる。

もしかしたら低血糖とか貧血だろう。

触った感じも多少冷たかったしな。

それか脱水かもしれん。

急な血圧の乱高下かもしれんしな。

ゆっくり倒れたのならブラックアウトも気絶もしてないだろうから大丈夫か。






おっ、駅員さんが向かってく⋯⋯⋯

なんで車椅子なんじゃーい。

ストレッチャーでこんかーい。

車椅子の使い方知ってんのか謎だぞこれは。


「じょ、状況は!?」

「状況は⋯第一発見者というか、このバックを頭に置いてくれたのは誰ですか?」


なんで俺が仕切ってんだろうか。

まぁいい。


「あ、はい!自分です!」


おっ、スーツのお兄ちゃんか。

君も人助けスピリッツのある心優しき人間なんだな。

素晴らしいぞ。


「まず状況は⋯⋯⋯」


スーツのお兄ちゃんも多少落ち着いたんだろう、焦らず喋れててえらいぞ。

それにしてもフットレスト(車椅子の足を乗せる板)くらい上げといてくれないだろうか。

状況確認しながら動いてくれないもんか。

まぁいいこれも俺がやろう。

ササッとフットレストを上に持上げ開いておく。

ブレーキもされていないのでそれもしっかりとロックする。

スーツのお兄ちゃんの説明が終わったんだろう。

俺から話すことは特にない。

頭を打ってないことも伝えていたからな。


「駅員さん、車椅子の使い方説明しときますね」


走ってきたんだろう。

まだ肩で息をしている駅員さん。

どう見てもまだ若いのに体力なさ過ぎないか?

それだけ急いでくれたってことなのかもしれんがな。







車椅子の説明を軽くし、人を乗せて走る時の注意点をざっと説明しておく。

意識が朦朧としていようが、普通の健常者だ。

しっかり座れる人はそこまで危なくないだろう。


俺は車椅子を引き寄せる。


「それじゃあ車椅子に座りますから立ちますよ」


お姉さんに声をかけ、上半身を起こす。

脇の下に腕を入れ、一緒に立ち上がる。

もちろん声掛けは必須だ。


「では行きます、せーので立ちますよ。せーの」


さすが健常者だ。

すんなり立てるし、少しの保持での立位もう可能だな。

もしかしたら立ち上がりの補助もここまで必要なかったかもしれない。

立ち上がった車椅子をお姉さんの方に寄せようと誰もしない。

そりゃそうか。

分かるわけないよな。

俺はお姉さんを支えながら、もう片方の手で車椅子を引き寄せる。


「それじゃあゆっくり腰をかけます」


座れる位置に引き寄せたらあとはゆっくり座るだけだ。

しっかり座ったのを確認し、お姉さんの足をフットレストに置いてあげる。


「ここをしっかり握っておいてください」


お姉さんにアームレスト(肘掛部分)を把持するように伝えておく。

こうすれば前に落ちる心配も減る。

ブレーキを外し、駅員さんへとあとを託す。


「あとはお願いします」


俺の対応がスムーズ過ぎたのか、全員ポカーンとしている。

しっかりせい。

ここからは君らの仕事だろう。





俺は人助けをするのが好きなわけじゃない。

身体が勝手に動いてしまう。

制御することはできる。

だが、あたふたしてる人達を見ると、脳が加速モードに突入してしまう。

俺じゃない誰がやっても結果は同じだろう。

緊急時に、即座に動ける状態を無意識下で準備を出来なきゃ介護士なんてやってられない。

それがプライベートでも出てしまうんだろう。




見送ろうかと思ったが、なんてちょうどいいタイミングなんだろうか。

俺の乗りたい電車が来たじゃないか。

そして俺は何も言わずに電車へと向かった。

さっきまでの脳の異常回転が終わったからだ。

俺の役目はここまで、脳がそう告げている。











fin.実話です
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