音無響一の日常

音無響一

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人生の失敗

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俺は生きていく中で多数の失敗を経験している。

失敗をしていない完璧な人間なんているだろうか。

みんなはどんな失敗談がある?

物心ついた時から失敗したことなんて覚えているか?

そんな数ある失敗談、語ろうじゃないか。

最初の話は俺の人生最大の過ちと行っても過言では無い。

正直な話、こんなことを文章にして晒すのは恥ずかしい。

だが色んな人に読んでもらうのもまた乙ではなかろうか。






みんなは学生時代は何をして過ごしていたか覚えているか?

幼稚園保育園小学校中学高校専門大学大学院。

どれが1番印象に残る学生時代だった?

俺は幼稚園小学校の記憶がかなり曖昧だ。

脳の成長がかなり遅かったと思う。

ボケーっとしててよく親に怒られてたな。

まぁうちの家族は俺以外は頭が良かった。

家庭内では「響一は勉強もスポーツもなんも出来ないな」なんて言われて育つくらいは出来なかったな。

そんなこと言われてたからなのか、小学校までの記憶はあるにはあるが、とっても楽しかった記憶は少ししかない。

俺が中学に上がったころだろうか。

この位から俺の脳は徐々に覚醒し始めたのかもしれない。

言うなればここがゼロ歳レベルなんだろう。






今回語るのは学生時代の失敗談だが、学校で起こったことではない。

俺には兄がいる。

学年では2つ上の兄だ。

その兄が特殊な人でな、まぁ小さい頃からよく虐められては泣いていた。

それでも俺は兄が好きだった。

よく喧嘩もしたし泣かされもしたが、それでも兄は兄だ。

優しいところもある────あるよな?

搾取されてたような気もするが、それはまぁいい、家族ということでプラマイゼロだ。

兄がすることをよく真似したがる。

弟なんてそんなもんだろう。

兄がタバコを吸い始めれば俺もしてみたくなる。

兄がゲームにハマれば俺も好きになる。

兄が好きなアーティストを見つければ俺もそれを好きになる。

高校生までは兄の後ろ姿を追っていたような気がするな。

兄のいい所は真似せず、兄の悪い所ばかり真似する弟だった。





兄はとても勉強ができる。

エリートと言っても過言では無い。

某有名な進学校に中学受験で合格できるほどの秀才だ。

俺もハマればやり込むタイプだが、兄はその比ではない。

日本でもトップクラスになるほどやり込むんだ。

俺の家庭はとっても異常だと思う。

なんでもできる書道の師範の母。

絵も字も創作も勉強も裁縫だろうが編み物だろうが、料理だってなんでも一流な人だ。

弱点は方向音痴なとこだったな。

そんな母のいい所を全て受け継いだのが兄だ。

俺が受け継いだところ?方向音痴なとこだけだ!

悲しいことこの上ないが、そんな兄を尊敬しているし今もまだ大好きな兄である。





そんな兄が大学生になったある日。

もちろん日本でも指折り、上から数えた方が早いというかトップ5には入る大学の学部に入っている。


「なぁ、響一。お前パチンコパチスロって知ってる?」


当時の俺はまだ高校生だ。

パチンコの存在は知ってる程度だ。


「そりゃもちろん知ってるけどなんで?」

「俺この前やってみたんだけどよ。今から行かないか?」


まさかの兄からのパチンコデートのお誘いだ。

君さ、俺の年齢知ってる?

違法だぞ?


「うーん、ちっちゃい頃に親父が行った時について行ったことあるくらいで知識なんてないぞ?それに俺が行ってもいいのかよ」

「打たなきゃ大丈夫だからついてこいって」


確かに当時のパチンコ屋は18歳未満は遊戯禁止なだけで入店は可能だった。

託児所付きのパチンコ屋すらあったからな。

小学校くらいまでは小さい子が落ちてる玉やメダルで遊んでる、なんてよく見る光景だ。

平成初期のゆるゆるな法律だった頃だな。

まぁ大丈夫だろう、それじゃあついて行くか。

ここが俺の人生の最大のターニングポイントだ。

失敗人生の⋯⋯⋯⋯⋯







兄と駅前のパチンコ屋へ行く。

当時の最寄り駅にはパチンコ屋はここしかなかった。

今もよく覚えている。

兄と初めてのパチンコ屋での出来事を。





店内に足を踏み入れる。

自動ドアを開けた瞬間に放たれる独特な騒音と匂い。

当時のパチンコ屋は煙草の匂いで充満している。

今は分煙、電子タバコがあるが、当時はそんなものは無い。

まだまだ煙草の分煙すら勧められてない。

副流煙のことがようやく世の中に出回ったくらいじゃなかろうか。

高校生が道端で酒やタバコをしているのは警察がいなければ誰も咎めない。

制服を着たまま酒とタバコもエロ本すらも買えた時代だ。






店内に足を踏み入れると様々な年齢層の人がパチンコパチスロに勤しんでいる。

高校生の俺からしてみたら厳ついことこの上ない人達だ。

親という守りがない今、俺の心臓は恐怖と興味でバクバクと音を奏でている。

だけどそれをかき消す程の音が店内を支配していた。

100台を超えるパチンコパチスロ台の音が重なり合う。

全部が同じ台ではない。

色んな台の色んな音が混ざり合い、ただのデカイ音としか認識できない。

その中にパチンコ玉のぶつかり合う音。

メダルの流れる音が混ざり合う。

扉ひとつで別世界に迷い込んだ。

そう思えるほど異質な空間だ。

だが俺はこれに嫌悪感を抱かなかった。

この時は思わなかったが、むしろ心地良さすら感じていたのかもしれない。





人は旅行が好きな人が多い。

日常を忘れさせてくれるからなんだろう。

俺は旅行が好きじゃない。

日常が好きだから。

だが俺も非日常を求めていたのかもしれない。

その非日常がここにあったんだ。






「響一!スロットのとこ行くぞ!」

「なに?スロット?どこにあんだよ!」


店内では大きな声を出さないと聞こえない。

それほどの騒音だ。


「こっちだ!」


兄はどこに何があるか分かっているんだろう。

スタスタと進んで行く。

パチンコは小さい頃に少しやった事はあるが、その頃に見たものと全く様子が違う。

あの頃は指でレバーを弾くものだった。

今は液晶が付いていて、ハンドルのようなものを握って玉を打ち出す仕掛けのようだ。

キョロキョロと見渡しながら兄の後をついて行く。

兄が打つ台を物色している。

何が何だかさっぱりわからない。

同じ台が5台ずつ並んでいたり、10台だったり。

兄が打つ台を決めたようだ。


「これやってみるか」


兄がその台の椅子に座り、財布から1000円を取り出した。

1000円、だと?

バイトもしてない学生からしたら、1000円なんて大金だ。

それを迷いもなく台横の投入口に差し込んだ。

吸い込まれていく1000円。

それと同時に下部から出てくるメダル。

50枚でてくるらしい。

1枚20円、それがレートだそうだ。

1000円がたったの50枚。

なんて世界なんだ。





そのメダルをスロット台の投入口に入れていく。

左側にレバーがあり、それを叩く。

回転する筐体きょうたいの中心にあるリールが回転した。

それを無造作にストップボタンと呼ばれている3つ並んだボタンを左から順に押す。

押す度にリールが止まる。

何が何だか分からない。

兄が2000円目も惜しげも無く投入していく。

後ろで見ている俺は気が気じゃない。

数分もせず消えていくお金。

自分のお金じゃないのにハラハラドキドキが止まらない。





5000円目だろうか、もう魂が抜けるかのような感覚だ。

そして兄が言った。


「響一、入ったぞ」


入った?なんのこと?


「ど、とういうこと?」

「当たったってことだよ見てろ」


当たった?どういうことなのか分からない。

いいことなのか?

慎重にストップボタンを押していく兄。

固唾を呑んで見守る俺。

すると絵柄が3つ揃った。

筐体の枠ランプが光り、軽快な音楽が鳴り始める。






後から分かったことだが、兄が打っていた台は、当時の社名はアルゼという会社の看板スロット台。

その名も【HANABI】

この台は何台も何台もシリーズとして発売されている。

2025年の今でも人気機種の1つとして全国のスロッターの間で親しまれている。

その初代となる名機だ。

兄はその後も2回ほど『ドンちゃん』と呼ばれるキャラクターの絵柄を揃えた。

筐体備え付けのメダル受け、通称下皿はメダルでパンパンだ。

兄は満足したのかそれを箱に移し替えた。





「帰るか!」


そう告げた兄はメダルジェットの前まで行き、店員を呼んだ。

メダルを流し、メダルの枚数を計数する。

流石に細かい数字は覚えていないが、ものの1時間とちょっとで5000円が15000円に変わっていた。

なんて世界なんだろうか。

楽してお金を増やすことができるのか。

当時の俺はそう思ってしまった。

そして俺はパチンコパチスロと言う闇に飲まれていく。






「それじゃあ帰るか!」


1万円も増やしたことで兄はホクホクだ。

ここからが俺の兄の兄たる所以だ。

飯すら奢ってくれなかったよ⋯⋯⋯⋯

兄ちゃんケチすぎるぜっっっっ!








fin.実話です

※高校生の時は自分は遊戯してません※
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