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第三十四話「いきなりスタンピード(中篇)」
しおりを挟む中央広場の前で説明を聞いた限りでは、なんでも獣魔大乱には例外なく、その群れを統率するボスが存在するらしい。
なんでも、獣魔大乱とは、どこからか強力な固体が現れた結果、その固体が周囲の魔物を率いて群れを成して人里を襲う現象を指すらしい。
縄張りを追われた強力な固体、静かに進化しその頂へと育った者、突然変異……原因は様々だが、獣魔大乱には必ずその群れを統率している王がいる、とは広場での説明の際にカンペを読みながら作戦概要を伝えてくれた警護兵団長の言葉だ。
『群れの王を倒せば支配は終わる。そうすれば、群れは統率を乱され我に帰って散り散りに逃げていくだろう。王を探せ。発見したら無理に倒そうとはせず報告に来くること。この街一番の精鋭パーティを三組向かわせる。そうすれば、この戦いは勝利だ』
警備兵団長は大雑把な説明をそう言って締めた。
この言葉を真に受けるのであれば、ボスを発見して報告すれば俺の任務は終わるっぽい。
でも、別に倒してしまってもよいのだろう?
逞しい背中をフィルナ達に見せつけながらフラグ臭いことを妄想しつつドヤ顔で浸る俺。
「ねぇ、やっぱりやめない? 危ないよ」
心配そうな声をあげるのはフィルナだ。
不安げな表情で俺を見上げている。
「大丈夫だって。さっきも話しただろ?」
街の城壁の外。門からやや離れた位置。
ここから俺は最前線の部隊に混ざって進軍する。
一方、俺の嫁達は後方支援部隊。
最前線部隊ではなく、打ち漏らした敵が城壁付近まで来た場合に駆除することを主とする部隊だ。
「俺は死なない」
嫁達には俺のユニークスキルの中に不死身が混ざっていると伝えてある。
「神に愛されし者」に含まれる「不老不滅」によるものだ。だから決して死ぬことはない。多分、きっと、メイビー……。
だけどこのスキルは他者に付与することはできなかった。
ユニークスキルは「夜の王」による「スキル獲得・授与[性交]」の適応対象外みたいなんだよね。残念。
なので安全に戦えるのは俺だけ。危険な戦に嫁はできるだけ巻き込みたくない。結果、こういった形となったのだ。
だがしかし……。
「……そんなのわかんないじゃん」
ステータスには「老いる事もなく死ぬ事も無い」と書かれてはいる。
だが実際に死んで見たことは一度もない。
本当に死んでも生き返れるという保障はどこにもない。
自然死しないだけで実は死んだら生き返れない可能性は確かにワンチャンあるかもしれなくもない……。
まぁ、心配するよね。逆の立場だったら絶対止めてるもん。
でもなぁ……。
「まぁ、確かに試したことは無いけどさ。そう書かれてあるんだから、多分大丈夫だよ」
「うぅ……」
涙目で俺を見つめるフィルナをそっと抱きしめる。
……ぶっちゃけステータス的には多分俺が一番強いはずだからなぁ。下手すればこの街で一番だったりするかも?
だから俺がやるしかないと思うんだよね。何もしないで犠牲出すほうが嫌なんだよ。俺は。
わがままでごめんな。
「必ず帰ってくるから」
謝罪の意味も込めて、フィルナの頭を優しく撫でてやる。
「……うん。約束」
「あぁ、約束だ」
にっこりと笑みを浮かべるフィルナ。
その表情を確認してから、俺は嫁達に告げる。
「むしろお前らこそ絶対に死ぬんじゃねぇぞ? もし一人でも死んでたら……俺、心が折れてダークサイド一直線だからな? 絶対に死ぬなよ? 絶対だぞ?」
今度は俺が心配する番だった。軽く涙目で。
「大丈夫。無茶はしない」
「はい、出来うる限りがんばりますです」
言うまでもないことだろうけど、三人を後方部隊に配属させたのは俺の案だ。
理由は述べたとおり。
もうみんな俺の大事な嫁だからだ。
めっちゃ可愛い大切な俺の嫁達だ。
一人でも欠けたら心が死ぬ。
肉体が不死身でも心が死ぬ。
心が死んだら立ち直れる気がしない。
超長く引きずると思う。だから……。
「アルク……信じてる」
セルフィが俺の頬へとキスをする。
「あぁ! ずるい! ボクもボクも~!」
フィルナが俺に飛びついてキスをする。
「あわわ、じゃ、じゃあ私も……」
あわてた様子でルティエラも近づいて来て、恐る恐るといった感じで、かがんだ俺の額にキスをする。
「ひゅうひゅう!」
「ちっくしょうモテやがって!」
「くっそぉ、俺もあやかりてぇぜ」
「もうこの戦いが終わったら結婚しやがれ!」
周囲の冒険者達から冷やかされる。
そうだった。ここは公衆の面前だった。
三人とも顔を真っ赤にしながらうつむいている。
こんな状況だ。
冗談でも「死ね」とは言わない。
言えない。
だって、ここから先にある戦場では、その言葉は冗談では無くなってしまうかもしれないのだから。
「お前は確か、まだGランクかそこらじゃなかったか?」
最前線部隊の列に並ぶと、強面の冒険者が声をかけてくる。
「よくわかりましたね」
「薬草採取の報酬を受け取ってるのをチラっと見たことがある。この街で見かけたのも最近だ。新米だろうと判断した」
スキンヘッドに髭もじゃの、黒い眼帯をした屈強の大男だ。
「とすれば、薬草採取と軽めの討伐しか経験が無いはずだ。最前線で本当にいいんだな?」
「はい、御心配なく。腕には自信がありますから」
「この業界、その言葉を口にした奴が何人も死んでいったよ。女がいるんだろ? 三人も。今からでも遅くない。そばにいてやれ」
お、この人案外いい人っぽいな。
この戦いが終わったらぜひとも仲良くなりたいものだ。
「まぁ、俺は飛べますんで。ボスの探索に有利かなぁって。本気でやばそうだったら後ろまで逃げさせてもらいますんで」
「……そうか。無理はするなよ」
髭の大男は巨大な槍斧をかつぐと森のある方向を静かに見つめる。
「お前らも、本当にいいんだな? こいつ一人を前に出して」
静かだが、よく響く声で後方のセルフィ達に問う。
「パーティを組まないとなると危険度は一気に増す。逃げ専の斥候だろうと、死線だぞ」
ちらりと目だけで後方を睨む大男。
「彼を……信じていますから」
代表として答えたルティエラだけでなく、セルフィ、フィルナも、小さくうなづく。
その目は決意に満ちていた。
三人とも、俺を信じてくれている。
この戦い……負けられない!
「そうか。あまり無理はするなよ」
にやりと小さく笑みを浮かべた大男に背中をバシンと叩かれ、気合が入ったところで、作戦開始を合図する角笛が鳴らされた。
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