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第四十四話「いきなり駅弁スタイル?(前編)」

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 眩い光に瞼を焼かれ、俺は半ば強制的ともいえる形で意識を覚醒させられた。
 眼を開き見つめた先、空の彼方にはこれでもかとばかりに強烈な光を放ち続ける太陽の姿。

 ……いや、日当たり良好すぎんだろ。

 逃げるように俺は身を起こす。

 ……ベッドの位置が悪すぎだな。

 まぁ、緊急で無理矢理設置されたものだ。いたしかたあるまい。
 それでも、高級な寝具であったのだろう。寝心地は良かった。
 いつもの宿屋の硬いベッドとは大違いのふかふかさ。
 これだけでも良い待遇だったのだと満足できる。

 実に心地のよい朝だった。

 ……隙間風さえ気にしなければ。

 掛け布団の暖かさで気付かなかったがだいぶ寒い。
 寝起きならなおさらだ。

 ちなみに、俺は睡眠不要のスキルを持っているため本来ならば睡眠を取る必要は無い。
 そんな俺がわざわざ眠る理由は二つある。

 一つは魔力の回復。
 これはなんとなくでやってみたことだが正解だった。
 普通に時間経過でもゆっくりと回復はしているようなのだが、睡眠をきちんととった方が段違いで回復効率がよいのだ。
 昨日は限界まで消耗しちまったからな。今日やる予定のことも考えれば、できるだけ完全回復させておくにこしたことはない。

 ちなみに二つ目の理由だが……単純に暇だからだ。

 誰も起きていない。話し相手も遊び道具も無い。明かりは魔法で灯せるが、今のところやれることがほとんどない。この世界、割と深夜にできることがないのだ。

 スマホアプリで課金ガチャゲー? 当然この世界にそんなものは無い。だからできるはずもないわけで……。
 ……今さらながらちょっとだけあの世界が恋しくなってくる。

 某おウマちゃんの育成ゲームが懐かしいぜ。
 あの娘はもう実装されたのだろうか。もしかしたら新キャラも増えてたりして? さすがにそれはまだ早いか。
 いづれにせよだ。残念ながらそれを知る術はきっともう無いのだ。ましてやスマホゲーなんて二度と遊べないことだろう。

 はぁ、エロゲも無ぇ。漫画も無ぇ。アニメもゲームもあるわけねぇ。オラこんな世界嫌だぁ~。ってか?

 いや、嫌なはずがない。
 だって、この世界には……俺の大切な、愛する嫁達がいるのだから!
 昨日は疲れてできなかったが、あの世界ではできなかったことがこっちではできるのだ!
 アニメやゲームは必要ない。実際に無双して英雄になればいいのだから。
 エロゲなんてもう必要ない。だって実際に嫁達と好きなだけすればいいのだから。
 実際にする場合はな! なんとモザイクも黒ノリも無いんだよ! バッチリ見られるんだよぉぉぉ!!

 ……うん、こっちの世界のが断然いいじゃん。

 もし元の世界に帰る方法が見つかっても絶対帰らねぇわ。嫁達がいる限りな。

 さて、そんな戯言はさておき、っと。

 話がちょっとそれたが、上記二つの理由をもって、必ずする必要はないんだけど、眠れる時は寝るようにしている俺なのだったとさ。

「さて……」

 体を軽く伸ばしながら窓の外を眺めれば、どこまでも、世界の果てまでも続いているであろう蒼空が広がっていた。

「風が爽やかだ」

 隙間風なのが悲しい所だが。

 心静かに、あらためて、じっくりと空を見やる。

 ……蒼空。

 青空ではない。

 そう“蒼”空。

 眼前に広がる空の色はどこかうっすらと緑がかっていて、青ではない“蒼”の色。
 しかも時折、うっすらと淡いピンク色に瞬くという謎の怪現象を起こしていたりするのだ。

 今まで長く生きてきた世界。あの見慣れた世界にあったあの空の色ではない。
 その事実こそが、俺が今、確かに異世界に存在しているのだということを思い知らせてくれる。

 ベッドから立ち上がり、近づいて眺めた窓の外には、まるで御伽噺に出てくるような西洋めいたレンガ造りの美しい町並みがあった。
 見飽きるほどに見慣れた゛あの世界”の鈍くくすんだ灰色のコンクリートジャングルはそこには無かった。

 そしてなにより……。

クァァおはよう

 庭に寝そべっているのはなんと、巨大な翼竜《ワイバーン》の姿ときたものだ。

「おう、おはよう」

 挨拶を返すと、目を細めて笑う。
 竜も笑うんだな。

 俺も笑顔を返す。

クゥ……おやすみ

 そして再びまどろみの中へと戻っていく我が相棒ペット
 まったく。可愛い奴だ。

――竜のいる世界。

 そう、夢などではない。これが今の俺の現実なのだ。
 俺は今、異世界にいるのだ。

 目を覚ました時、実はほんの少しだけ不安だった。

 今までのできごとが全部夢で、俺は普通に布団から目を覚まして、多分汚れているであろうパンツを洗い、渋々と学校へと向かうはめになる。そして――平穏だが“何も無い”、平和だが“決して何者にもなれることはない”、そんな“平凡”で“無難”で“空虚”な一生を終える。それが、本来ありえたはずの現実。そんなつまらない、ファンタジーとは無縁な灰色の世界リアルに戻ってしまっているのではないか、と。

 ……本当ならばその方が幸せなのかもしれない。

 だって、異世界が無双できるような夢物語ばかりとは限らないのだから。

 もしかしたら、異世界に転移したら、訳もわからないまま森の中に放り出され、巻き添えにされた友人なんかがいきなり目の前で殺されたりして、絶望の中、異形の魔物に追いまわされて、逃げた先で追い詰められて崖下に転落するような――そんな過酷で絶望的な異世界だってあったかもしれないのだから。

 けど、俺は違った。

 ……この、今までの出来事が夢じゃなかった、その事実に安堵する。
 嫁達との出会いが、昨日の激しい戦いが、夢ではなかったことに安堵する。

――俺は今、この異世界という地に、確かに立っている。

 ということは、だ……。

 俺は可愛い嫁達の姿を思い浮かべ、今日のこれからを夢想する。
 そして今後するであろうムフフな出来事や今後したいウヒョヒョーイな行為について想いをはせる。

 薔薇色の人生が待っているに違いなかった。

「ふぅ。今日も楽しい一日になるといいな」

 明日の幸福を信じて小動物ハムスターに話しかけるどこぞの主人公しょうじょのように、窓の外、庭にどでーんと鎮座ましましている古翼竜でっかいやつに微笑みかける。

 ……あいぼうはぐっすりと、すでに二度寝を決め込んでいやがった。

 へけっ。

 寂しいので心の中で一人、小動物ハムスター成分マシマシな返事を返す。

 ……んむ、むなしい。

 そして寂しい。

 やっぱ一人だとアレだな。なんか足りないよな。心が満たされないというか、何か飢えているというか。色々と変なことを考えてしまうというか。

 うん、どうやら俺ってばもうすでに嫁中毒にでもなってしまっているようだな。

 定期的に嫁成分を摂取しないと禁断症状で最悪、廃人になってしまうかもしれない。

 ってな訳で。まずは可愛い嫁達の様子でも見に行くとしますかね。

 そう思い立ち、部屋の入り口の扉へと向かう……その時だった。
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