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閑話.「エリナ様の故郷」
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「ハァ~~、やっと着いた……」
馬車から降りた私、セレスティンは、深く息をついた。
澄んだ朝の空気の中、柔らかな日差しに照らされた村の景色が、目の前に広がっている。
カラフルで大きな木組みの家々。
白や赤の花を咲かせた窓辺。
どこか懐かしく、温かな空気をまとった村。
メルヘンチックな雰囲気が漂うこの場所は、まるで絵本の世界のような景観だ。
「ここが、エリナ様が住む村……ルリビクですね!」
思わず、胸が高鳴る。
ここは我が国北東部、エアルザス地方にある村――ルリビク。
王都から馬車に揺られること、丸一日。
私はようやく、エリナ様の故郷であるこの地へと辿り着いたのだった。
そして、この地を訪れた理由は――ただ一つ。
「レオナール様とシュルと協力して作った風邪薬……これで、エリナ様に元気になってもらいますわ。
待っていてくださいね……エリナ様」
そう。先日の魔法薬の授業で、三人で力を合わせて完成させたこの緑色の風邪薬を、今まさに病に伏しているエリナ様へ届けるため、私はここまで来たのだ。
「さぁ、さっそく行きましょう。エリナ様のご自宅へ」
そうして、私は、ゲームの記憶を頼りに、村の奥へと足を踏み出した。
村の奥へ進むにつれ、人通りは少しずつ減っていく。
観光用に整えられた通りではなく、人々の生活が息づく場所――そんな空気へと変わっていった。 石畳の道はところどころ不揃いで、朝露に濡れてほのかに光っている。
家々も入口の装飾は控えめで、干された洗濯物や積まれた薪が、素朴な生活感を静かに主張していた。
(ええっと……たしか、この辺りのはず)
私は記憶を辿りながら、ゆっくりと歩を進める。
そして、一軒のやや大きな家の前で足が止まった。
背の高めの木造の家。
外壁は年季の入った淡いクリーム色で、ところどころに修繕の跡が見える。
派手さはないが、丁寧に手入れされていることが一目で分かる家だった。
玄関脇には、小さな花壇。
そこには色とりどりの野花が咲いていて、きっと住人が大切に世話をしているのだろう。
(……間違いありませんわ)
この家だ。
エリナ様が、平民として生まれ育った家。
ゲームの中では、さらりとしか描写されなかった場所。
けれど、こうして実際に目の前に立つと、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
(こんなに温かい家で育ったからこそ……
エリナ様は、あんなにも優しく、まっすぐな性格に育ったのですね)
私は、胸元で風邪薬の小瓶をそっと握りしめた。
緑色の粉末が、朝の光を受けて淡くきらめく。
「……ついにきましたわ、エリナ様」
そう小さく呟いてから、
私は、家の扉へとコンコンとノックした。
「ごめんくださ――い」
呼びかけると、扉の向こうから、誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。
その音を聞いた瞬間、ようやく緊張していく。
(どなたが出てくるのかしら……エリナ様のお母様? それとも、ご家族の方?
……まさか、エリナ様ご本人?)
ごくり、と唾を飲み込む。
そして――
――ガチャ。
「ゴホッ、ゴホ……はい。どちら様ですか……?」
扉を開けたのは、布マスクをつけたエリナ様だった。
身にまとっているのは、飾り気のない、素朴な家着だった。
「セレスティン様……?」
「あはは……来ちゃった」
少し気まずい空気感が漂っていますが、ようやくエリナ様に会えました。
***
「いきなりの訪問でびっくりしましたよ……セレスティン様」
あれから、エリナ様の家の中へと案内されました。
風邪を引いてからというもの、お母様に心配され、実家で安静にするよう言われているらしい。
今日はちょうど、ご家族全員が用事で外出しているとのことで、現在家にいるのは、ベッドで静かに休んでいるエリナ様だけだった。
「へっくしょん! でも……どうして私の家の場所が分かったのですか?」
可愛らしいくしゃみをしながら、エリナ様が首を傾げる。
「そ、それはですね……」
(やっぱり聞かれるわよね……。実家の場所なんて、直接聞いたことがないのに)
真実はゲームで知っていたからなのですが、当然言えるわけありません。
けれど、私はこの質問への答えを、ちゃんと用意してきている。
私は一度、小さく息を整えてから答えた。
「エリナ様が風邪で伏せていると聞いて、先生方に相談しましたの。
その際に、ご実家で療養されていると伺って……場所を教えていただいたのです」
「先生から……?」
「ええ。容体が悪化していないか、薬を届けたいと伝えましたら、『それなら』と、特別に教えてくださいましたの」
少しだけ申し訳なさそうに、私は微笑む。
「……勝手にお訪ねしてしまって、ごめんなさい」
「……いえ、納得できました。遠かったでしょうに……わざわざありがとうございます」
エリナ様は、風邪で少しかすれた声のまま、ぺこりと丁寧に頭を下げた。
「いえいえ、エリナ様のためでしたら、この程度――なんてことありませんわ」
にこりと笑って、そう答える。
(推しに嘘をつくのは、やっぱり心が痛むけれど……)
(それでも――)
この距離を越えてでも、どうしても届けたかったのだ。
あなたに、元気になってほしかったから。
私は懐から、緑色の粉末が入った小瓶をそっと取り出した。
「実は……今日は、それだけで来たわけではありませんの」
そう言って、私は小瓶をエリナ様へ差し出す。
「こちらは……?」
不思議そうに、小瓶を見つめるエリナ様。
「先日の授業で、レオナール様と、シュルと――三人で作った風邪薬ですわ」
エリナ様の目が、わずかに見開かれる。
「レオナール様と、シュル様が……?」
「ええ! あのレオナール様とシュルです!!」
(よし……。レオナール様の名前も出せば、エリナ様がシュルだけに興味が集中することはないはず。
少なくとも、同じくらいにはレオナール様のことも意識してもらえるでしょう)
ちゃっかりと、私のプランBも進行中だ。
「先生方にも確認していただいています。さぁ、どうかこれを――お水と一緒に飲んでくださいませ」
「ええ。セレスティン様とレオナール様とシュル様が、私のために作ってくださった薬……ぜひ、いただきます」
そう言って、エリナ様はマスクを外し、粉末と水の入ったコップを手に取った。
マスクを外したその姿に、女の私でも思わずドキッとする。
けれど、鼻先が赤くなっているのを見ると、やはり痛々しい。
エリナ様は粉を口に含み、少し苦そうな表情を浮かべたあと、素早く水と一緒に飲み込んだ。
――キュイイイン!
薬が完成したあの時、試験管の中で見た光と同じように、エリナ様の全身が淡く光り始めました。
「あれ? この感じは……」
エリナ様は両手を見つめ、自分の体の変化に戸惑っている様子だった。
やがて光は収まったものの、エリナ様はなおも手を見つめたまま、動かない。
「エリナ様……?」
私は、思わぬ副作用でも出たのではないかと、心配になってきました。
――ですが。
「セ、セレスティン様……私……治ったみたいです」
凍りついたようだった表情が、少しずつほころび、やがてそれは笑顔へと変わっていく。
その言葉に、私は一瞬、言葉を失った。
そして次の瞬間――
「ほ、本当ですの!?」
思わず、エリナ様の両手を取っていた。
「ええ。熱っぽさも、だるさも、鼻づまりも……さっきまであった喉の痛みも、全部……噓のように消えて……」
そして、満面の笑みで。
「すごく元気になりました! ありがとうございます!!」
「よ、よかった……! 本当によかった……!」
エリナ様の回復を実感した瞬間、胸の奥から、嬉しくて温かいものがあふれ出す。
気づけば、それは涙となって零れていた。
そしてエリナ様も、私につられるように目元を潤ませ――二人で、そのまま抱き合った。
「ありがとうございます、セレスティン様……こんなに早く治るなんて、奇跡みたいです」
「ええ。本当に奇跡でしたわ。
私一人の力ではありません……レオナール様とシュルの協力があってこそ、この奇跡は実現できたのです」
しばらくして抱擁を解き、二人で顔を見合わせて、くすりと笑う。
さっきまで病人だったとは思えないほど、エリナ様の表情は、明るく晴れやかなものになっていた。
その後しばらくして――
玄関の方から、がちゃり、と音がした。
「ただいま。エリナ、お母さんよ――」
買い物袋を抱えたお母様が帰宅したのだ。
それからさらにしばらくして、ご家族の方々も次々と帰宅していった。
エリナ様が、薬のおかげですっかり回復したことを伝えると、 ご家族は皆、驚きながらも心から安堵した様子で、口々に祝福の言葉をかけていた。
そしてこの日は、“エリナ様の回復記念”と“私が訪ねてきた歓迎会”。
その二つを兼ねて、ささやかながら温かなパーティが開かれることになった。
笑顔と感謝に満ちたエリナ様のご家族と一緒に過ごすそのひとときは、胸がじんわりと温まる、幸せな一日となった。
……と、ここまでなら感動的な締めとなるのですが。
話は、まだ終わりません。
――後日。
「へっくしょん!」
「セレスティン様!? 大丈夫でしょうか?」
メイドのナタリーに看病されながら、私はベッドの上でくしゃみをしていた。
そう――私も、見事に風邪をひいてしまったのだ。
時期を考えると、原因は明白。
エリナ様のご自宅を訪ねたあの時、うつってしまったのだろう。
私が風邪をひいたと聞いて、エリナ様、レオナール様、そしてなぜかフェラン、アレクシ、シュルまで、お見舞いに来てくれた。
特にシュルは、わざわざ風邪薬を調合して持ってきてくれたのだけれど――
私は、その薬の服用を丁重にお断りした。
その理由は――
(えへへ♡ 推しから菌がうつった。うつった……ぐへへ)
風邪特有の熱っぽさも、だるさも、鼻づまりも、喉の痛みもある。
けれど、それでも――まったくメンタルは落ち込んでいない。
むしろ、心は妙に晴れやかで。
私にとって、この一週間は――
人生で一番、素敵な風邪となったのだった。
馬車から降りた私、セレスティンは、深く息をついた。
澄んだ朝の空気の中、柔らかな日差しに照らされた村の景色が、目の前に広がっている。
カラフルで大きな木組みの家々。
白や赤の花を咲かせた窓辺。
どこか懐かしく、温かな空気をまとった村。
メルヘンチックな雰囲気が漂うこの場所は、まるで絵本の世界のような景観だ。
「ここが、エリナ様が住む村……ルリビクですね!」
思わず、胸が高鳴る。
ここは我が国北東部、エアルザス地方にある村――ルリビク。
王都から馬車に揺られること、丸一日。
私はようやく、エリナ様の故郷であるこの地へと辿り着いたのだった。
そして、この地を訪れた理由は――ただ一つ。
「レオナール様とシュルと協力して作った風邪薬……これで、エリナ様に元気になってもらいますわ。
待っていてくださいね……エリナ様」
そう。先日の魔法薬の授業で、三人で力を合わせて完成させたこの緑色の風邪薬を、今まさに病に伏しているエリナ様へ届けるため、私はここまで来たのだ。
「さぁ、さっそく行きましょう。エリナ様のご自宅へ」
そうして、私は、ゲームの記憶を頼りに、村の奥へと足を踏み出した。
村の奥へ進むにつれ、人通りは少しずつ減っていく。
観光用に整えられた通りではなく、人々の生活が息づく場所――そんな空気へと変わっていった。 石畳の道はところどころ不揃いで、朝露に濡れてほのかに光っている。
家々も入口の装飾は控えめで、干された洗濯物や積まれた薪が、素朴な生活感を静かに主張していた。
(ええっと……たしか、この辺りのはず)
私は記憶を辿りながら、ゆっくりと歩を進める。
そして、一軒のやや大きな家の前で足が止まった。
背の高めの木造の家。
外壁は年季の入った淡いクリーム色で、ところどころに修繕の跡が見える。
派手さはないが、丁寧に手入れされていることが一目で分かる家だった。
玄関脇には、小さな花壇。
そこには色とりどりの野花が咲いていて、きっと住人が大切に世話をしているのだろう。
(……間違いありませんわ)
この家だ。
エリナ様が、平民として生まれ育った家。
ゲームの中では、さらりとしか描写されなかった場所。
けれど、こうして実際に目の前に立つと、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
(こんなに温かい家で育ったからこそ……
エリナ様は、あんなにも優しく、まっすぐな性格に育ったのですね)
私は、胸元で風邪薬の小瓶をそっと握りしめた。
緑色の粉末が、朝の光を受けて淡くきらめく。
「……ついにきましたわ、エリナ様」
そう小さく呟いてから、
私は、家の扉へとコンコンとノックした。
「ごめんくださ――い」
呼びかけると、扉の向こうから、誰かが近づいてくる足音が聞こえてくる。
その音を聞いた瞬間、ようやく緊張していく。
(どなたが出てくるのかしら……エリナ様のお母様? それとも、ご家族の方?
……まさか、エリナ様ご本人?)
ごくり、と唾を飲み込む。
そして――
――ガチャ。
「ゴホッ、ゴホ……はい。どちら様ですか……?」
扉を開けたのは、布マスクをつけたエリナ様だった。
身にまとっているのは、飾り気のない、素朴な家着だった。
「セレスティン様……?」
「あはは……来ちゃった」
少し気まずい空気感が漂っていますが、ようやくエリナ様に会えました。
***
「いきなりの訪問でびっくりしましたよ……セレスティン様」
あれから、エリナ様の家の中へと案内されました。
風邪を引いてからというもの、お母様に心配され、実家で安静にするよう言われているらしい。
今日はちょうど、ご家族全員が用事で外出しているとのことで、現在家にいるのは、ベッドで静かに休んでいるエリナ様だけだった。
「へっくしょん! でも……どうして私の家の場所が分かったのですか?」
可愛らしいくしゃみをしながら、エリナ様が首を傾げる。
「そ、それはですね……」
(やっぱり聞かれるわよね……。実家の場所なんて、直接聞いたことがないのに)
真実はゲームで知っていたからなのですが、当然言えるわけありません。
けれど、私はこの質問への答えを、ちゃんと用意してきている。
私は一度、小さく息を整えてから答えた。
「エリナ様が風邪で伏せていると聞いて、先生方に相談しましたの。
その際に、ご実家で療養されていると伺って……場所を教えていただいたのです」
「先生から……?」
「ええ。容体が悪化していないか、薬を届けたいと伝えましたら、『それなら』と、特別に教えてくださいましたの」
少しだけ申し訳なさそうに、私は微笑む。
「……勝手にお訪ねしてしまって、ごめんなさい」
「……いえ、納得できました。遠かったでしょうに……わざわざありがとうございます」
エリナ様は、風邪で少しかすれた声のまま、ぺこりと丁寧に頭を下げた。
「いえいえ、エリナ様のためでしたら、この程度――なんてことありませんわ」
にこりと笑って、そう答える。
(推しに嘘をつくのは、やっぱり心が痛むけれど……)
(それでも――)
この距離を越えてでも、どうしても届けたかったのだ。
あなたに、元気になってほしかったから。
私は懐から、緑色の粉末が入った小瓶をそっと取り出した。
「実は……今日は、それだけで来たわけではありませんの」
そう言って、私は小瓶をエリナ様へ差し出す。
「こちらは……?」
不思議そうに、小瓶を見つめるエリナ様。
「先日の授業で、レオナール様と、シュルと――三人で作った風邪薬ですわ」
エリナ様の目が、わずかに見開かれる。
「レオナール様と、シュル様が……?」
「ええ! あのレオナール様とシュルです!!」
(よし……。レオナール様の名前も出せば、エリナ様がシュルだけに興味が集中することはないはず。
少なくとも、同じくらいにはレオナール様のことも意識してもらえるでしょう)
ちゃっかりと、私のプランBも進行中だ。
「先生方にも確認していただいています。さぁ、どうかこれを――お水と一緒に飲んでくださいませ」
「ええ。セレスティン様とレオナール様とシュル様が、私のために作ってくださった薬……ぜひ、いただきます」
そう言って、エリナ様はマスクを外し、粉末と水の入ったコップを手に取った。
マスクを外したその姿に、女の私でも思わずドキッとする。
けれど、鼻先が赤くなっているのを見ると、やはり痛々しい。
エリナ様は粉を口に含み、少し苦そうな表情を浮かべたあと、素早く水と一緒に飲み込んだ。
――キュイイイン!
薬が完成したあの時、試験管の中で見た光と同じように、エリナ様の全身が淡く光り始めました。
「あれ? この感じは……」
エリナ様は両手を見つめ、自分の体の変化に戸惑っている様子だった。
やがて光は収まったものの、エリナ様はなおも手を見つめたまま、動かない。
「エリナ様……?」
私は、思わぬ副作用でも出たのではないかと、心配になってきました。
――ですが。
「セ、セレスティン様……私……治ったみたいです」
凍りついたようだった表情が、少しずつほころび、やがてそれは笑顔へと変わっていく。
その言葉に、私は一瞬、言葉を失った。
そして次の瞬間――
「ほ、本当ですの!?」
思わず、エリナ様の両手を取っていた。
「ええ。熱っぽさも、だるさも、鼻づまりも……さっきまであった喉の痛みも、全部……噓のように消えて……」
そして、満面の笑みで。
「すごく元気になりました! ありがとうございます!!」
「よ、よかった……! 本当によかった……!」
エリナ様の回復を実感した瞬間、胸の奥から、嬉しくて温かいものがあふれ出す。
気づけば、それは涙となって零れていた。
そしてエリナ様も、私につられるように目元を潤ませ――二人で、そのまま抱き合った。
「ありがとうございます、セレスティン様……こんなに早く治るなんて、奇跡みたいです」
「ええ。本当に奇跡でしたわ。
私一人の力ではありません……レオナール様とシュルの協力があってこそ、この奇跡は実現できたのです」
しばらくして抱擁を解き、二人で顔を見合わせて、くすりと笑う。
さっきまで病人だったとは思えないほど、エリナ様の表情は、明るく晴れやかなものになっていた。
その後しばらくして――
玄関の方から、がちゃり、と音がした。
「ただいま。エリナ、お母さんよ――」
買い物袋を抱えたお母様が帰宅したのだ。
それからさらにしばらくして、ご家族の方々も次々と帰宅していった。
エリナ様が、薬のおかげですっかり回復したことを伝えると、 ご家族は皆、驚きながらも心から安堵した様子で、口々に祝福の言葉をかけていた。
そしてこの日は、“エリナ様の回復記念”と“私が訪ねてきた歓迎会”。
その二つを兼ねて、ささやかながら温かなパーティが開かれることになった。
笑顔と感謝に満ちたエリナ様のご家族と一緒に過ごすそのひとときは、胸がじんわりと温まる、幸せな一日となった。
……と、ここまでなら感動的な締めとなるのですが。
話は、まだ終わりません。
――後日。
「へっくしょん!」
「セレスティン様!? 大丈夫でしょうか?」
メイドのナタリーに看病されながら、私はベッドの上でくしゃみをしていた。
そう――私も、見事に風邪をひいてしまったのだ。
時期を考えると、原因は明白。
エリナ様のご自宅を訪ねたあの時、うつってしまったのだろう。
私が風邪をひいたと聞いて、エリナ様、レオナール様、そしてなぜかフェラン、アレクシ、シュルまで、お見舞いに来てくれた。
特にシュルは、わざわざ風邪薬を調合して持ってきてくれたのだけれど――
私は、その薬の服用を丁重にお断りした。
その理由は――
(えへへ♡ 推しから菌がうつった。うつった……ぐへへ)
風邪特有の熱っぽさも、だるさも、鼻づまりも、喉の痛みもある。
けれど、それでも――まったくメンタルは落ち込んでいない。
むしろ、心は妙に晴れやかで。
私にとって、この一週間は――
人生で一番、素敵な風邪となったのだった。
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