【完結】クリスマス・ナンバー・ナイト

野村にれ

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尚垣梢(ニホン)4

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「執着が向きを変えたということかな?」
「田中梢はお金よりも、人への執着が強かったのでしょう」

 確かに田中梢は後悔を口にした時、お金ではなく、人への後悔であった。

 それでも、エボシは得をしたい、お金を払わなくていいという気持ちが強いのだろうと思っていたが、そうではなかったのか。

「一度タガが外れたら、また同じことを繰り返すのではないかと思っていたのですが、良かったです」
「お金のことは、異常に気にしているようだったからな」
「それは彼女にとっては、良いことではありませんか」

 そのくらいしないと、大丈夫かもしれないという気持ちを持ちそうであった。

 お金をきちんと持ち歩き、自分の物は自分で払うこと、当然のことをすればいい。だが、それができなかったから嫌われて、離婚までされたのである。

「だが、エボシの言ったように大金を得ようとして、数字を選ぶくじの番号を控えていた。ポケットから出てきたっそうだよ、持って行けないと言っていたのにな」
「ああ……やりそうですね」
「エボシが去ってから、結局はお金のことを考えていたんだよ」
「まあ、気持ちは分かりますけど」
「分かるの?」
「分かりますよ、あって困るものではありませんし、お金は欲しいですから」
「そうか」

 大金を手に入れたいと考えることは人として、欲深いとは思わない。

 だが、記憶しか持ってはいけないと言えば、無理だと感じる。

 メモまで書いていたというのは、持って行けないと理解していないのか、一か八か書いてポケットに入れたのなら、後のことは考えなかったのだろう。

 恥ずかしいという気持ちも、図々しいことをしていた梢には気にならないか、些細なことだったのだろう。

「だが、番号も同じわけでもないかもしれないのに」
「自分に大金があればと思ったのかもしれませんね、覚えていないでしょうけど」

 塔子もだったが、梢を見て分かるように、どうやって戻ったか、エボシが現れて、契約してからもあの日、12月25日のことを一切覚えていないのである。

 だからこそ、あの日に考えたことも一切覚えていない。

 戻って来たということと、覚えている限りの記憶があるだけである。

 覚えていたら、梢は一番にくじの番号を確認しただろう。記憶もしていたのなら、必死で思い出そうとしただろう。

 だからこそ、消える中にだけ存在するエボシはクリスマス・ナンバー制度を説明をする使者と言いながらも、納得をさせる使者という方が実際には正しい。

「確かにこれはケチというよりは、セコいな」
「でしょう?」

 ケチの代表は、お金を出すのを渋る人であるとされている。

 梢の場合は奢ってもらおうとする図々しい行動や、お金を懐に入れようとしたりしていることから、ケチで下品なセコいという方が合っているように思う。

「両親ともに教師の一般家庭で育っていたはずなんだがな」
「厳しいご家庭だったのかもしれませんね、だからこそだったのでしょう」
「お金に執着すると?」
「厳しいからこそ、ちゃんとしなければならないということは根底にあって、それでも得ができることに抗えなかったのではないでしょうか」
「なるほど……」

 梢は人に奢るということを一度もしたことがないのかもしれない。プレゼントを贈るとしても、見返りを求めて渡していただろう。

 悪いことではないが、基本的にしてあげたいという気持ちはあるが、人にどう思われるか。こんなにしてあげたのだからという気持ちが強く出る。

「人への執着はお金への気持ちを抗う方法だったのかもしれませんね」
「なるほどな、本人も気付いていないのかもしれないな」

 お金は気を付けているから、大丈夫だからと思うことで、気付かぬ間に執着しているのかもしれない。

 さすがエボシだなと思い、ルジは家族への執着を期待していたのだが、そうではなかったようだ。


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本日もお読みいただきありがとうございます。

本日よりこちらの作品を書いておりましたら、
書きたくなってしまった、
新作「メイド・マイ・デイ」を投稿しております。

よろしければ、よろしくお願いいたします。
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