【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

文字の大きさ
327 / 344

【テイラー】追想4

「すまないが、あまり時間がないだろう。動けなくなるかもしれない」

 父親を看取ったディオエルは、あれだけキビキビ動いていた父が最期は動けず、ぼんやりしていることを見ていた。

「だが、私が伏せっていることは公にはできないだろう」
「それは」
「側近として、申し訳ないが、混乱を招かないようにしてやって欲しい」
「は、い……」

 ディオエルが病に倒れたとなれば、国は混乱する。アンデュースが皇帝宮に出入りすることは、不自然ではないために、上手く隠すしかない。

「私は長くないと分かってしまったが、本当は皇帝を降りて、テイラー嬢を見守るつもりだった」
「っ」
「許可が下りないだろうな。それも分かっている」
「はい……」

 気持ちは十分すぎるほど分かるが、ディオエルが皇帝を降りることは、まず純血種の公爵家が認めないだろう。

「それなら、時間を取って、時折でもいい。彼女を見守りたかった……彼女の人生を、邪魔しないように生きていくつもりだった。これは嘘でも、強がりでもない。そうありたいと思っていたんだ」

 ライシードはディオエルにとっては報われない人生でも、そんな未来があったのにと、またも涙が零れそうで唇を噛み締めた。

「それも烏滸がましいことだったのかもしれないがな」
「いえ、そうなって、そうあったのならば、私も全力でお支えしたかったです」

 公務を調整して、彼女が働くホテルには泊まれなかったかもしれないが、元気な姿を見るだけでも、ディオエルの心は少しでも満たされたかもしれない。

 知り合い、友人くらいになることも、もしかしたらできたかもしれない。

 テイラーも結婚することにもなったかもしれないが、ディオエルはそれも見届けるつもりだったのではないだろうか。

 そうだとしても、そばで見守り、支えたかった。

「そうか、それは心強かったな」
「はい……」

 ディオエルが死へ向かっていることもだが、見守りたい相手が既にもういない。

「きっと彼女は、しっかりと生きていったのだろうな」
「そう思います」

 テイラーはアイルーンの記憶もあるが、精神的に強い人だったと思う。

 後ろ盾もなく、貴族ですらなくなっていた彼女が、竜帝国の皇帝陛下に立ち向かうのは、通常できることはない。

 番であったことも、いいきっかけになったとくらいに思っていたかもしれない。

「私がミリオン王国に行かなければ良かったな。いや、そうしたら、アイルーン嬢の事件が明るみに出なかったな」
「そうです」
「必然であったのかもしれないが、それだけで良かったのにな」
「はい……」

 アイルーンのことは竜帝国として、明るみに出るべきことであった。

 知らなければ良かったなんてことは、絶対にない。

「私のことはいなくなった後、考えなくていい。だが、竜帝国としてアイルーン嬢とテイラー嬢のことは非難がないようにして欲しい」
「はい、必ず」
「よろしく頼む」

 それからディオエルはごく僅かな人にだけに、これからのことを告げた。

 医師も限られた人だけで、心臓の薬を服用もしたが、胸の痛みが治まるようなことはなかった。番の影響であることを認められないわけではなかったが、何もしないという選択はできなかった。

 アイルーンの残された品を見ながら、悲しそうにしていたのが印象的であった。

 動けなくなってからは、本当にあっという間ではあったが、ディオエルの休息を取るためとして、アンデュースが代行を行った。

 皇帝宮は悲しいが、ディオエルがいなくなる準備が整い始めていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本日もお読みいただきありがとうございます。

本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時に、もう1話投稿します。

本日よりまたも、新作「メイド・マイ・デイ」を投稿しております。
よろしければ、よろしくお願いいたします。

あなたにおすすめの小説

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

大人しい令嬢は怒りません。ただ二年間、準備していただけです。――婚約解消の申請が受理されましたので、失礼いたします

柴田はつみ
恋愛
婚約者に、誕生日を忘れられた。 正確には、忘れられたわけではない。 エドワード・ヴァルト公爵はちゃんと覚えていた。 記念のディナーも、予約していた。 薔薇だって、一輪、用意していた。 ただ――幼馴染のクロエ・アンセル伯爵令嬢から使いが来た瞬間、全部置いて行ってしまっただけだ。 「すぐ戻る」 彼が戻ったのは、三時間後だった。 蝋燭は溶け切り、料理は冷え、ワインは乾いていた。 それでもリーゼロッテ・フォン・アルテンベルクは、笑顔で座って待っていた。 「ええ、大丈夫でございます。お気遣いなく」 完璧な微笑みで、完璧にそう言った。

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【残り数話を持ちまして3月29日完結!!】 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
【 お知らせ 】 先日、近況ボードにも お知らせしました通り 2026年4月に 完結済みのお話の多数を 一旦closeいたします。 誤字脱字などを修正して 再掲載をするつもりですが 再掲載しない作品もあります。 再掲載の時期は決まっておりません。 表現の変更などもあり得ます。 他の作品も同様です。 ご了承いただけますようお願いいたします。 ユユ 【 お話の内容紹介 】 辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり