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【テイラー】追想4
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「すまないが、あまり時間がないだろう。動けなくなるかもしれない」
父親を看取ったディオエルは、あれだけキビキビ動いていた父が最期は動けず、ぼんやりしていることを見ていた。
「だが、私が伏せっていることは公にはできないだろう」
「それは」
「側近として、申し訳ないが、混乱を招かないようにしてやって欲しい」
「は、い……」
ディオエルが病に倒れたとなれば、国は混乱する。アンデュースが皇帝宮に出入りすることは、不自然ではないために、上手く隠すしかない。
「私は長くないと分かってしまったが、本当は皇帝を降りて、テイラー嬢を見守るつもりだった」
「っ」
「許可が下りないだろうな。それも分かっている」
「はい……」
気持ちは十分すぎるほど分かるが、ディオエルが皇帝を降りることは、まず純血種の公爵家が認めないだろう。
「それなら、時間を取って、時折でもいい。彼女を見守りたかった……彼女の人生を、邪魔しないように生きていくつもりだった。これは嘘でも、強がりでもない。そうありたいと思っていたんだ」
ライシードはディオエルにとっては報われない人生でも、そんな未来があったのにと、またも涙が零れそうで唇を噛み締めた。
「それも烏滸がましいことだったのかもしれないがな」
「いえ、そうなって、そうあったのならば、私も全力でお支えしたかったです」
公務を調整して、彼女が働くホテルには泊まれなかったかもしれないが、元気な姿を見るだけでも、ディオエルの心は少しでも満たされたかもしれない。
知り合い、友人くらいになることも、もしかしたらできたかもしれない。
テイラーも結婚することにもなったかもしれないが、ディオエルはそれも見届けるつもりだったのではないだろうか。
そうだとしても、そばで見守り、支えたかった。
「そうか、それは心強かったな」
「はい……」
ディオエルが死へ向かっていることもだが、見守りたい相手が既にもういない。
「きっと彼女は、しっかりと生きていったのだろうな」
「そう思います」
テイラーはアイルーンの記憶もあるが、精神的に強い人だったと思う。
後ろ盾もなく、貴族ですらなくなっていた彼女が、竜帝国の皇帝陛下に立ち向かうのは、通常できることはない。
番であったことも、いいきっかけになったとくらいに思っていたかもしれない。
「私がミリオン王国に行かなければ良かったな。いや、そうしたら、アイルーン嬢の事件が明るみに出なかったな」
「そうです」
「必然であったのかもしれないが、それだけで良かったのにな」
「はい……」
アイルーンのことは竜帝国として、明るみに出るべきことであった。
知らなければ良かったなんてことは、絶対にない。
「私のことはいなくなった後、考えなくていい。だが、竜帝国としてアイルーン嬢とテイラー嬢のことは非難がないようにして欲しい」
「はい、必ず」
「よろしく頼む」
それからディオエルはごく僅かな人にだけに、これからのことを告げた。
医師も限られた人だけで、心臓の薬を服用もしたが、胸の痛みが治まるようなことはなかった。番の影響であることを認められないわけではなかったが、何もしないという選択はできなかった。
アイルーンの残された品を見ながら、悲しそうにしていたのが印象的であった。
動けなくなってからは、本当にあっという間ではあったが、ディオエルの休息を取るためとして、アンデュースが代行を行った。
皇帝宮は悲しいが、ディオエルがいなくなる準備が整い始めていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただきありがとうございます。
本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時に、もう1話投稿します。
本日よりまたも、新作「メイド・マイ・デイ」を投稿しております。
よろしければ、よろしくお願いいたします。
父親を看取ったディオエルは、あれだけキビキビ動いていた父が最期は動けず、ぼんやりしていることを見ていた。
「だが、私が伏せっていることは公にはできないだろう」
「それは」
「側近として、申し訳ないが、混乱を招かないようにしてやって欲しい」
「は、い……」
ディオエルが病に倒れたとなれば、国は混乱する。アンデュースが皇帝宮に出入りすることは、不自然ではないために、上手く隠すしかない。
「私は長くないと分かってしまったが、本当は皇帝を降りて、テイラー嬢を見守るつもりだった」
「っ」
「許可が下りないだろうな。それも分かっている」
「はい……」
気持ちは十分すぎるほど分かるが、ディオエルが皇帝を降りることは、まず純血種の公爵家が認めないだろう。
「それなら、時間を取って、時折でもいい。彼女を見守りたかった……彼女の人生を、邪魔しないように生きていくつもりだった。これは嘘でも、強がりでもない。そうありたいと思っていたんだ」
ライシードはディオエルにとっては報われない人生でも、そんな未来があったのにと、またも涙が零れそうで唇を噛み締めた。
「それも烏滸がましいことだったのかもしれないがな」
「いえ、そうなって、そうあったのならば、私も全力でお支えしたかったです」
公務を調整して、彼女が働くホテルには泊まれなかったかもしれないが、元気な姿を見るだけでも、ディオエルの心は少しでも満たされたかもしれない。
知り合い、友人くらいになることも、もしかしたらできたかもしれない。
テイラーも結婚することにもなったかもしれないが、ディオエルはそれも見届けるつもりだったのではないだろうか。
そうだとしても、そばで見守り、支えたかった。
「そうか、それは心強かったな」
「はい……」
ディオエルが死へ向かっていることもだが、見守りたい相手が既にもういない。
「きっと彼女は、しっかりと生きていったのだろうな」
「そう思います」
テイラーはアイルーンの記憶もあるが、精神的に強い人だったと思う。
後ろ盾もなく、貴族ですらなくなっていた彼女が、竜帝国の皇帝陛下に立ち向かうのは、通常できることはない。
番であったことも、いいきっかけになったとくらいに思っていたかもしれない。
「私がミリオン王国に行かなければ良かったな。いや、そうしたら、アイルーン嬢の事件が明るみに出なかったな」
「そうです」
「必然であったのかもしれないが、それだけで良かったのにな」
「はい……」
アイルーンのことは竜帝国として、明るみに出るべきことであった。
知らなければ良かったなんてことは、絶対にない。
「私のことはいなくなった後、考えなくていい。だが、竜帝国としてアイルーン嬢とテイラー嬢のことは非難がないようにして欲しい」
「はい、必ず」
「よろしく頼む」
それからディオエルはごく僅かな人にだけに、これからのことを告げた。
医師も限られた人だけで、心臓の薬を服用もしたが、胸の痛みが治まるようなことはなかった。番の影響であることを認められないわけではなかったが、何もしないという選択はできなかった。
アイルーンの残された品を見ながら、悲しそうにしていたのが印象的であった。
動けなくなってからは、本当にあっという間ではあったが、ディオエルの休息を取るためとして、アンデュースが代行を行った。
皇帝宮は悲しいが、ディオエルがいなくなる準備が整い始めていた。
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本日もお読みいただきありがとうございます。
本日は1日2話、投稿させていただきます。
いつもの17時に、もう1話投稿します。
本日よりまたも、新作「メイド・マイ・デイ」を投稿しております。
よろしければ、よろしくお願いいたします。
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