【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

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【テイラー】帰国

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「では、大丈夫と思えるまで、しばらくは距離を取ってもよろしいですか」
「ああ、その方がいいだろう」
「申し訳ございませんが、そうさせていただきます」

 これからの話をしながら、ようやく竜帝国に戻った。随分と長い間いたような気がするが、十日も経っていない。

 それだけのことが起きたことを実感した。

「「「「「おかえりなさいませ」」」」」

 何も知らない皇帝宮で働く者たちは、笑顔で出迎えた。

 だが、事情を知る者はどう声を掛けたらいいのか、分からず、ただただ頭を下げた。ディオエルも感傷的な気持ちは、皇帝宮に入ってから置いておくことにした。

 不在にしていた執務室に入るも、サインが必要な物は、いずれ持って来るだろうが、書類が山積みということはなかった。

 そして、騎士団長とカーズ医師が待ち構えていたように訪ねて来た。

「この度は何と申し上げればいいのか……」
「いや、何も言わなくていい」
「はい……」
「アレはどうだ?」
「はい、こちらが報告書です」

 自白剤を使う前の通常の取り調べと、自白剤を使った取り調べが比較するようにまとめられていた。

 おかげで、イオリクが保身に走っていたことがよく分かる。

「ありがとう、まとめてくれたんだな」
「当然のことです」

 竜帝国に戻されたイオリクは、秘密裏に貴族牢に入れられた。

 外部との接触は罰が決まるまでは、不可とした。オイワード公爵家には、イオリクがミリオン王国で事件を起こしたことは伝えてある。

 内容についてはまだ伝えられないが、ディオエルの命だと言えば、それ以上は聞くことができない。意見することは許されない。

 騎士団長を筆頭に、限られた騎士団員が取り調べを行うも、イオリクの答えはディオエルに伝えた、ライシードが送って来た内容と同じであった。

 だが、自白剤を使用すれば一変した。

 イオリクはテイラーを馬鹿にして、蔑み、敵意すら感じた。そして、自白剤を使う前はお願いに行っただけだと言っていたが、明らかに脅しており、上手くいかなかったことで、行った行為だった。

 明らかな殺意とは言えないが、イオリクは事故だと主張したが、テイラーを傷付けようとして足を出した。

 それがなければ、テイラーは傷付かなかった。

 それがなければ、テイラーが亡くなることはなかった。

 それが全てである。

 イオリクの自白剤を使った姿は、あまりに自分勝手で、ディオエルはきっと聞いていられない、聞かせられないと思った。

 アイルーンの事件を調べる際は、テイラーという存在がいたからこそ、冷静でいられたのだろう。そのテイラーを失ったのだ。

 既に無言で殴り付けたと聞いてはいるが、正気でいられるはずがない。

 ディオエルは報告書を読み、自白剤を使う前はミリオン王国で言ったことと同じ内容。ある意味、イオリクの中では嘘ではない。必要な、言いたくないことを言わないでいるだけなのだろう。

 だが、自白剤を使った後は、テイラーを言うことを聞けばいいのに、馬鹿な女だと見下し、罵倒する言葉が並べられていた。しかも、予想通りに国王陛下やエイク子爵家のことを出して、脅していたことも分かった。

「これはこう言ったのか?」

 ディオエルは報告書のある部分を、指差した。

「はい、そのままを記載しております」

 そこには〈テイラーが妃になると確約をしないまま、ディオエル様を交えて話をしようと言い出し、苛立ったので、出て行かせまいとして、足を引っ掛けて転ばせた。だが、壁に頭を打ち、血が流れ始めた〉とあった。

 当然ではあるが、テイラーが自らの口で証言したものと一致している。ディオエルは、静かに目を瞑って、静かに息を吐いているようだった。

 皆も同じ気持ちであったために、黙ってその姿を見つめることしかできない。
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