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もう二度と
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「デル子爵家のこと聞いたよ、大変だったな…」
「大変だったのは、門番だよ。私は会ってもいない」
グルズに声を掛けられ、翌日に話が回っていることには驚いた。
「もう、話が回っているのか?」
「それが…その妹が大騒ぎしたようで、悪い意味で噂になってしまったんだよ。シュアンに縁談を勧めたように、他の奴にも勧めていて、キドラー・デルは良い奴だが、妹のことは…という感じだったらしい」
シュアンはキドラーすら、良い奴だとすら思えなかった。だが、妹が関わっていない状況で会っていないので、分からない。
「大騒ぎというのは?」
「それがお前の妻なんだと暴れて…ロークロア公爵邸で騒いで連れて来られたのに、何を言っているのだと、担当した者の中にも縁談を勧められた人もいたようで、デル子爵とキドラーに来て貰って、それでもロークロア公爵夫人になるんだから、お前らなんてクビにしてやると言い続けたようでな」
シュアンにそのような権限もなければ、どうして決まってもいない、会ってもいない男の妻になれると思っていることが不思議でならない。
「昨日の話だぞ?」
「それが前からそのつもりだったようなんだ。それで昨日、キドラー・デルが話を付けるからと言っていたそうなんだ」
「それで邸にやって来たのか」
マデラースもそうだが、キドラーも勝手にロークロア公爵家の結婚を、決めることが出来ると本気で思って話していたのか?
「そういうことだろうな、お前のところにも話を聞きに来るだろう」
シュアンが書類を作っていると、マデラースを取り調べをしているベテラン騎士団員から呼び出しがあった。
「事情は概ね聞いている、確認のために会って欲しいんだが」
「以後、接近禁止にして貰えるなら、構いません」
「もう王都には居られないだろうから、大丈夫だろう」
シュアンは結局、初めてマデラース・デル子爵令嬢を見ることになった。執事の言う通りのような、出会った頃よりも痩せてしまったミファラとは違って、栄養の行き届いた逞しい体付きだなという感想であった。
「シュアン様、やっと来てくれたのね。早く、私が妻だと言って頂戴」
鑑を見ていないのか、化粧の剥がれた酷い顔で、足を組み替えながら言った。
「虚言はいい加減にしてくれ、初対面だろう」
「初対面だなんて、パーティーで何度も、話だってしたわ」
「記憶にない」
「そんなはずないわ、私は一度見たら忘れられないって言われているんだから」
そこにいる皆が、いい意味ではなくだろうと思ったが、口には出さなかった。もはやシュアンに同情しかない。
「ロークロア公爵、お知り合いではないと言うことで間違いないですね」
「はい、存じ上げません」
「っな!私があなたの妻になるって、お兄様が話をしたでしょう?愛人も認めてあげるって言っているのに」
シュアンはカッとなったが、話す価値もないと、息を一つ吐いて、静かに首を横に振って、出て行った。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
マデラースは声を上げたが、シュアンは振り向くこともなく、制止したのは騎士団員だった。
「いい加減にしろ、君のせいで兄君も除隊になるんだぞ?」
「っな!どうしてよ」
「君のせいに決まっているだろう?これだけ迷惑を掛けて、加担していたとなれば、除隊は逃れられない」
「シュアン様が私を結婚相手だと認めてくれればいいことでしょう!」
「なぜ、ロークロア公爵と結婚が出来ると思っているんだ?」
キドラーがマデラースを勧めたことは分かっているが、シュアンは初対面だと言ったのに、そこまでどうして思い込めるのか。そういった思考なのだと言われれば、それまでだが、何かきっかけがあるのか。
昨日はシュアン・ロークロアの妻なのよと叫ぶばかりで、暴れて話にならなかったと聞いている。
「だってシュアン様が結婚相手を探しているって」
「それがなぜ君になる?」
「大変だったのは、門番だよ。私は会ってもいない」
グルズに声を掛けられ、翌日に話が回っていることには驚いた。
「もう、話が回っているのか?」
「それが…その妹が大騒ぎしたようで、悪い意味で噂になってしまったんだよ。シュアンに縁談を勧めたように、他の奴にも勧めていて、キドラー・デルは良い奴だが、妹のことは…という感じだったらしい」
シュアンはキドラーすら、良い奴だとすら思えなかった。だが、妹が関わっていない状況で会っていないので、分からない。
「大騒ぎというのは?」
「それがお前の妻なんだと暴れて…ロークロア公爵邸で騒いで連れて来られたのに、何を言っているのだと、担当した者の中にも縁談を勧められた人もいたようで、デル子爵とキドラーに来て貰って、それでもロークロア公爵夫人になるんだから、お前らなんてクビにしてやると言い続けたようでな」
シュアンにそのような権限もなければ、どうして決まってもいない、会ってもいない男の妻になれると思っていることが不思議でならない。
「昨日の話だぞ?」
「それが前からそのつもりだったようなんだ。それで昨日、キドラー・デルが話を付けるからと言っていたそうなんだ」
「それで邸にやって来たのか」
マデラースもそうだが、キドラーも勝手にロークロア公爵家の結婚を、決めることが出来ると本気で思って話していたのか?
「そういうことだろうな、お前のところにも話を聞きに来るだろう」
シュアンが書類を作っていると、マデラースを取り調べをしているベテラン騎士団員から呼び出しがあった。
「事情は概ね聞いている、確認のために会って欲しいんだが」
「以後、接近禁止にして貰えるなら、構いません」
「もう王都には居られないだろうから、大丈夫だろう」
シュアンは結局、初めてマデラース・デル子爵令嬢を見ることになった。執事の言う通りのような、出会った頃よりも痩せてしまったミファラとは違って、栄養の行き届いた逞しい体付きだなという感想であった。
「シュアン様、やっと来てくれたのね。早く、私が妻だと言って頂戴」
鑑を見ていないのか、化粧の剥がれた酷い顔で、足を組み替えながら言った。
「虚言はいい加減にしてくれ、初対面だろう」
「初対面だなんて、パーティーで何度も、話だってしたわ」
「記憶にない」
「そんなはずないわ、私は一度見たら忘れられないって言われているんだから」
そこにいる皆が、いい意味ではなくだろうと思ったが、口には出さなかった。もはやシュアンに同情しかない。
「ロークロア公爵、お知り合いではないと言うことで間違いないですね」
「はい、存じ上げません」
「っな!私があなたの妻になるって、お兄様が話をしたでしょう?愛人も認めてあげるって言っているのに」
シュアンはカッとなったが、話す価値もないと、息を一つ吐いて、静かに首を横に振って、出て行った。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
マデラースは声を上げたが、シュアンは振り向くこともなく、制止したのは騎士団員だった。
「いい加減にしろ、君のせいで兄君も除隊になるんだぞ?」
「っな!どうしてよ」
「君のせいに決まっているだろう?これだけ迷惑を掛けて、加担していたとなれば、除隊は逃れられない」
「シュアン様が私を結婚相手だと認めてくれればいいことでしょう!」
「なぜ、ロークロア公爵と結婚が出来ると思っているんだ?」
キドラーがマデラースを勧めたことは分かっているが、シュアンは初対面だと言ったのに、そこまでどうして思い込めるのか。そういった思考なのだと言われれば、それまでだが、何かきっかけがあるのか。
昨日はシュアン・ロークロアの妻なのよと叫ぶばかりで、暴れて話にならなかったと聞いている。
「だってシュアン様が結婚相手を探しているって」
「それがなぜ君になる?」
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