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もう二度と
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ダーロス男爵家は何も知らないまま、ミファラは苦しそうにすることが増え、日に日に弱っていっていた。
シュアンはどうすればいいのか、答えが出なかった。だが誰にも話さなかった、話したくないと思った。
「病院に入れては貰えませんか?坊ちゃんも、気を遣うでしょう」
「あの子は大丈夫だ、不自由があるか?」
「ありませんが」
「ならば、どうかここにいて欲しい」
「分かりました」
ミファラはその後は言うことはなかったが、同時に来るべき日が来ることを、恐怖に煽られながら生きることとなった。
アークスには具合が良くないから、騒がしいこともあるかもしれないと話した。
「病気なの?」
「ああ、そうなんだ」
「良くなるといいね」
「ありがとう」
ある日、アークスはミファラの部屋の扉が開いているのに気付き、閉めてあげようと思って向かった。同じ邸にいるのに、挨拶しかしたことはなかった。
父からは自分のせいで不幸になった人で、表向きは愛人としていると聞いている。だが、二人が親しそうにしているところを見たことはない。
ミファラという名前の女性は、一日の大半を部屋で過ごしている。食事も部屋で摂っているのだろう。
関わったこともないせいか、愛人というのはあまり良くない人物だと思っていたが、嫌な感じはしなかった。父の言う通り、大事な客人という方が納得が出来た。
アークスが扉を閉めようとすると、ミファラと目が合った。
「ありがとうございます」
前に見た時よりも、顔色が悪いように感じた。病気だと聞いていたので、そう見えたのかもしれない。
「御病気だと聞きました、具合はいかがですか」
「騒がしかったかしら?ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。何か私に出来ることはありませんか」
ミファラはその言葉に、公爵によく似ていると思った。
「大丈夫です。お気持ちだけ受け取ります」
「出来ることがあったら、いつでも声を掛けてください」
「ありがとうございます」
そんな些細なやり取りだったが、その姿を目撃した使用人たちは邪魔しないように、隠れて見守った。
シュアンはその話を聞いて、胸が熱くなった。ミファラは私に会ってから、一番落ち着いているのだろう。
今までだったら、アークスを視界に入れても、見なかったことにしただろう。
だが同時に何を言っても仕方ないと思っている、もう憂いなど残したくもないと思っているのか、それでもこれからのアークスを思えば、有難いことであった。
そして、シュアンはついに弁護士を通じて、アデルに連絡だけでもしようと決めた。
アデルが会わないと言えばそれでいい、ミファラはきっと会いたいはずだ、会う資格がないと言えば、一目でもいい、その目に映してやりたいと思った。
ミファラがアデルを見たのは生後半年のまま。大きくなった姿を頭で想像するしかない。
写真を送って貰おうと思ったが、ミファラは見る資格がないと言って、断った。自分のせいで、アデルに何か不都合なことを起きるのを、排除したかったのだろう。
でもきっと見たいはずだ。結婚する際は、もう大丈夫だからと、こっそり見に連れて行こうと思っていた。結婚式ならば目立つことはないだろうから、馬車の中からそっと見せてあげるつもりだった。
きっとミファラは泣き崩れるだろうと想像もしていた。
こんなに早く別れが来るとは思っていなかった、飲酒も関係していると言っていたが、もし時間が戻っても、酒を取り上げることは出来なかったと思う。
早い方がいいと弁護士に会いに行き、事情を話すとすぐに動いてくれることになった。
あとはアデルの判断に任せる。彼にも選ぶ権利がある。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日もお読みいただきありがとうございます。
そろそろ、このお話も終わります。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。
シュアンはどうすればいいのか、答えが出なかった。だが誰にも話さなかった、話したくないと思った。
「病院に入れては貰えませんか?坊ちゃんも、気を遣うでしょう」
「あの子は大丈夫だ、不自由があるか?」
「ありませんが」
「ならば、どうかここにいて欲しい」
「分かりました」
ミファラはその後は言うことはなかったが、同時に来るべき日が来ることを、恐怖に煽られながら生きることとなった。
アークスには具合が良くないから、騒がしいこともあるかもしれないと話した。
「病気なの?」
「ああ、そうなんだ」
「良くなるといいね」
「ありがとう」
ある日、アークスはミファラの部屋の扉が開いているのに気付き、閉めてあげようと思って向かった。同じ邸にいるのに、挨拶しかしたことはなかった。
父からは自分のせいで不幸になった人で、表向きは愛人としていると聞いている。だが、二人が親しそうにしているところを見たことはない。
ミファラという名前の女性は、一日の大半を部屋で過ごしている。食事も部屋で摂っているのだろう。
関わったこともないせいか、愛人というのはあまり良くない人物だと思っていたが、嫌な感じはしなかった。父の言う通り、大事な客人という方が納得が出来た。
アークスが扉を閉めようとすると、ミファラと目が合った。
「ありがとうございます」
前に見た時よりも、顔色が悪いように感じた。病気だと聞いていたので、そう見えたのかもしれない。
「御病気だと聞きました、具合はいかがですか」
「騒がしかったかしら?ごめんなさいね」
「いえ、大丈夫です。何か私に出来ることはありませんか」
ミファラはその言葉に、公爵によく似ていると思った。
「大丈夫です。お気持ちだけ受け取ります」
「出来ることがあったら、いつでも声を掛けてください」
「ありがとうございます」
そんな些細なやり取りだったが、その姿を目撃した使用人たちは邪魔しないように、隠れて見守った。
シュアンはその話を聞いて、胸が熱くなった。ミファラは私に会ってから、一番落ち着いているのだろう。
今までだったら、アークスを視界に入れても、見なかったことにしただろう。
だが同時に何を言っても仕方ないと思っている、もう憂いなど残したくもないと思っているのか、それでもこれからのアークスを思えば、有難いことであった。
そして、シュアンはついに弁護士を通じて、アデルに連絡だけでもしようと決めた。
アデルが会わないと言えばそれでいい、ミファラはきっと会いたいはずだ、会う資格がないと言えば、一目でもいい、その目に映してやりたいと思った。
ミファラがアデルを見たのは生後半年のまま。大きくなった姿を頭で想像するしかない。
写真を送って貰おうと思ったが、ミファラは見る資格がないと言って、断った。自分のせいで、アデルに何か不都合なことを起きるのを、排除したかったのだろう。
でもきっと見たいはずだ。結婚する際は、もう大丈夫だからと、こっそり見に連れて行こうと思っていた。結婚式ならば目立つことはないだろうから、馬車の中からそっと見せてあげるつもりだった。
きっとミファラは泣き崩れるだろうと想像もしていた。
こんなに早く別れが来るとは思っていなかった、飲酒も関係していると言っていたが、もし時間が戻っても、酒を取り上げることは出来なかったと思う。
早い方がいいと弁護士に会いに行き、事情を話すとすぐに動いてくれることになった。
あとはアデルの判断に任せる。彼にも選ぶ権利がある。
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本日もお読みいただきありがとうございます。
そろそろ、このお話も終わります。
最後までどうぞよろしくお願いいたします。
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