58 / 228
第10話
彼女の使命1
しおりを挟む
セナリアンは魔術師として動きながら、ワイン製造の必要な建物は完成し、現在はぶどうを育てている。魔術師が沢山いるということで、短縮できる部分は利用しているので、早いのである。前国王陛下もセナリアンに変身の魔道具を貰っているので、頻繁にお忍びで参加している。
そして、不確実な特性(マージナル)も観察していたが、このところは何も起こっていなかった。
定例の陛下との会合を終え、実は常時クーリット・モルガンもいるが、基本的に会話に入ってくることはない。必要あれば話すが、基本的には二人が話すのを聞くというのが立ち位置である。
「ワインを用意する」
「あー飲まないことにしたんです」
「?」
「妊娠しちゃって」
「まことか!本当か!やった!おめでたいの!離縁は諦めたのだな!」
「不確実な特性もありますからね。かと言って、本人に伝えると喚き出しそうなので、黙って観察することにしました」
「うん、儂も言わぬ方がいいと思っておった。答えが出るといいくらいに思っておこう。胎教に悪そうだ。しかし、リスルートは何も言っておらなかったが」
「あー誰にも言ってませんからね」
「言ってないのか!」
「ええ、言うものです?さすがに初めてなので、誰を最初にと決まりがあるのですか?本にも書いてなかったですし」
セナリアンは貴族教育も受けているのだが、妊娠したら家族に言いましょうなんて、言わなくても分かるようなことが意外と分かっていないところがある。
「はああああ、マージナルに早く言ってやれ、儂は聞かなかったことにする」
「生まれてからで良くないですか?」
「いやいや、その前に気付くだろう?」
「隠せますけど?」
「いやいや、すぐ言ってやれ」
「まあ、明日言いますわ。明かさないといけませんしね」
「やっとか…長かった…」
「ええ、子どもは必要ですし、色々と諦めましたわ。クーリット殿もよろしくお願いしますわね」
「セナリアン殿。おめでとうございます、我が事のように嬉しいです」
クーリットは本当に瞳が潤んでおり、感慨深いのだろう。
「ありがとうございます、生まれたら夫人と抱いてやってくださいね」
「はい、楽しみにしております」
セナリアンとクーリットの付き合いは、出会いは陛下と同じ時なので、非常に長いのである。そしてそれだけではない関係性が二人にはあった。
時はセナリアンが六歳の時まで戻る。
セナリアンは陛下からクーリットの力になってやってくれないかと、相談されたことから始まる。実は奥方が妊娠中なのだが、二度も初期で流産しており、魔力差も問題なく、体の方も医師にも二人とも問題ないと言われているそうだ。
会ってみないことにはどうにもならないと、セナリアンはコルロンドの魔術師・ジョンラを連れて、モルガン公爵邸を訪ねることになった。夫妻は当時はまだ爵位を継いではいなかったが、当主は領地におり、夫妻が王都の公爵邸に住んでいた。迎えたのはクーリットと、妻であるササラである。応接室に通され、使用人はお茶の準備が終わると四人だけとなった。
「改めまして、私はセナリアン・ルージエ、こちらは連れのジョンラ・ファーマスでございます」
「あなた、お噂通り、本当に賢くて可愛らしいご令嬢ですわね。ファーマス様もようこそお越しくださいました」
ジョンラはソファに座るセナリアンの後ろに控え、ありがとうございますだけ言い、頭を下げた。
「なぜ私が来たか不思議に思ってらっしゃると思いますが、こちらをご覧ください」
「セ、セナリアン殿!!」
「大丈夫です、陛下に許可を頂いています」
セナリアンは人差し指の光を見せ、シャーロット・マクレガーの先祖返りだと告げた。夫人も共有する者にしか意思疎通が出来ないようにするためである。
「えっ、あえっ、本当に。どうしましょう、まあ」
「落ち着きなさい」
ササラはおろおろと、頬を抑えたり、あなたあなたと叩いたり、あちこちなぜかキョロキョロしている。
「王妃様とも我が母とも違う可愛らしさをお持ちの夫人ですね」
「面目ないです」
「いえいえ、誉め言葉です。それでデリケートな本題に移ります。クーリット殿は察しがついておりますね?体を晒して調べるようなことはないですが、ジョンラが気になるようでしたら、席を外させますが、いかがですか」
「いえ、ファーマス殿も信頼しております」
ジョンラは再び頭を下げたが、ササラはまだパニックが収まらず、状況も分かっていないが、クーリットは話を進めることにした。
「妊娠のことですよね」
「はい。夫人、私に視させていただいてもよろしいですか」
「はっ、はい、もちろんです。聞いてらっしゃるのですね、これまでのことを…」
「陛下にどうか力になってやって欲しいと頼まれました」
「陛下が…ありがたいことです。よろしくお願いいたします」
そして、不確実な特性(マージナル)も観察していたが、このところは何も起こっていなかった。
定例の陛下との会合を終え、実は常時クーリット・モルガンもいるが、基本的に会話に入ってくることはない。必要あれば話すが、基本的には二人が話すのを聞くというのが立ち位置である。
「ワインを用意する」
「あー飲まないことにしたんです」
「?」
「妊娠しちゃって」
「まことか!本当か!やった!おめでたいの!離縁は諦めたのだな!」
「不確実な特性もありますからね。かと言って、本人に伝えると喚き出しそうなので、黙って観察することにしました」
「うん、儂も言わぬ方がいいと思っておった。答えが出るといいくらいに思っておこう。胎教に悪そうだ。しかし、リスルートは何も言っておらなかったが」
「あー誰にも言ってませんからね」
「言ってないのか!」
「ええ、言うものです?さすがに初めてなので、誰を最初にと決まりがあるのですか?本にも書いてなかったですし」
セナリアンは貴族教育も受けているのだが、妊娠したら家族に言いましょうなんて、言わなくても分かるようなことが意外と分かっていないところがある。
「はああああ、マージナルに早く言ってやれ、儂は聞かなかったことにする」
「生まれてからで良くないですか?」
「いやいや、その前に気付くだろう?」
「隠せますけど?」
「いやいや、すぐ言ってやれ」
「まあ、明日言いますわ。明かさないといけませんしね」
「やっとか…長かった…」
「ええ、子どもは必要ですし、色々と諦めましたわ。クーリット殿もよろしくお願いしますわね」
「セナリアン殿。おめでとうございます、我が事のように嬉しいです」
クーリットは本当に瞳が潤んでおり、感慨深いのだろう。
「ありがとうございます、生まれたら夫人と抱いてやってくださいね」
「はい、楽しみにしております」
セナリアンとクーリットの付き合いは、出会いは陛下と同じ時なので、非常に長いのである。そしてそれだけではない関係性が二人にはあった。
時はセナリアンが六歳の時まで戻る。
セナリアンは陛下からクーリットの力になってやってくれないかと、相談されたことから始まる。実は奥方が妊娠中なのだが、二度も初期で流産しており、魔力差も問題なく、体の方も医師にも二人とも問題ないと言われているそうだ。
会ってみないことにはどうにもならないと、セナリアンはコルロンドの魔術師・ジョンラを連れて、モルガン公爵邸を訪ねることになった。夫妻は当時はまだ爵位を継いではいなかったが、当主は領地におり、夫妻が王都の公爵邸に住んでいた。迎えたのはクーリットと、妻であるササラである。応接室に通され、使用人はお茶の準備が終わると四人だけとなった。
「改めまして、私はセナリアン・ルージエ、こちらは連れのジョンラ・ファーマスでございます」
「あなた、お噂通り、本当に賢くて可愛らしいご令嬢ですわね。ファーマス様もようこそお越しくださいました」
ジョンラはソファに座るセナリアンの後ろに控え、ありがとうございますだけ言い、頭を下げた。
「なぜ私が来たか不思議に思ってらっしゃると思いますが、こちらをご覧ください」
「セ、セナリアン殿!!」
「大丈夫です、陛下に許可を頂いています」
セナリアンは人差し指の光を見せ、シャーロット・マクレガーの先祖返りだと告げた。夫人も共有する者にしか意思疎通が出来ないようにするためである。
「えっ、あえっ、本当に。どうしましょう、まあ」
「落ち着きなさい」
ササラはおろおろと、頬を抑えたり、あなたあなたと叩いたり、あちこちなぜかキョロキョロしている。
「王妃様とも我が母とも違う可愛らしさをお持ちの夫人ですね」
「面目ないです」
「いえいえ、誉め言葉です。それでデリケートな本題に移ります。クーリット殿は察しがついておりますね?体を晒して調べるようなことはないですが、ジョンラが気になるようでしたら、席を外させますが、いかがですか」
「いえ、ファーマス殿も信頼しております」
ジョンラは再び頭を下げたが、ササラはまだパニックが収まらず、状況も分かっていないが、クーリットは話を進めることにした。
「妊娠のことですよね」
「はい。夫人、私に視させていただいてもよろしいですか」
「はっ、はい、もちろんです。聞いてらっしゃるのですね、これまでのことを…」
「陛下にどうか力になってやって欲しいと頼まれました」
「陛下が…ありがたいことです。よろしくお願いいたします」
504
あなたにおすすめの小説
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる