魔術師セナリアンの憂いごと

野村にれ

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第12話

親と子1

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 数ヶ月後、さすがに動きづらいほどお腹が大きくなり、セナリアンは人生で初めてと言っていいほど、自力で動かず過ごしていた。浮いたり、物を取ったりできるので、一人でも不便はない。

 出産は万が一を考えて、実家に帰ろうと思っていたが、公爵家総出でしっかり努めますからと止められ、ルージエ家もそれならと了承し、念のため、コルロンドの医療専門の魔術師にも診てもらっていた。

 準備もいいのいいの、やらせて頂戴と義母と義妹と、なぜか義父まで参加しており、セナリアンは自分で用意したのは涎掛けの刺繍くらいで、その他は何も準備せずに出産間近となっていた。おかげで領地や魔術管理に時間を取り、動けなくなる前に予防策もしっかりと行うことができたのだ。

 その日が訪れ、さすがのセナリアンも産む痛みというものを経験し、無事男児を出産した。髪色こそはセナリアンに似ていたが、顔は皆の期待通りとはいかず、マージナルに似てしまった。女性を惑わすことになるだろう顔だ。

「髪色がセナだ!」

 高らかにマージナルは叫んで、グスグス泣いていた。この男、執務室に人が来る度に家からかと聞き、産まれそうになったら絶対帰る発言を毎日行い、とうとう当日も凄まじい速さで帰って来たのだ。

 セナリアンを応援したい、手を握っていたいというマージナルだったが、邪魔くさいと怒られて、実父に羽交い絞めにされて追い出され、私が付いているなどと大騒ぎしながら、部屋の外で待っていた。

 勿論、王家、義両親、義妹、両親、コルロンド夫妻、セナリアンの仲間に陣痛便が届き、王家と仲間以外は全員がグロー邸のあらゆる場所で、動いたり座ったりと待っていたのだ。

 長男はルセル・グローと名付けられた。

 マージナルに考えておくように言っていたが、マージナルはどうしてもセナリアンに似たセナール、セナート等といった名前ばかりで、呼ぶ時にややこしいから駄目だと却下されて、唯一マージナルとセナリアンの一文字を付けただけではあったが、響きも良いのではないかと名付けられることとなった。

 数日経ち、ようやく痛みも落ち着いたセナリアン。義両親とゆったりお茶をしながら、ルセルを抱いているマージナルを珍しく呼び寄せた。ルセルの胸には白鳥の涎掛けがされている。

「私、子どもを産んだらやりたいことがあったの!」
「何だい?」
「親子鑑定よ!自分の子をやってみたかったの!」

 珍しくはしゃいでいる様子のセナリアンである。少し産後ハイ状態である。

「依頼すればいいのかい?」
「依頼?違うわ。子どもに私の最初のプレゼントよ!親子鑑定書と、ルセルの画を描いて、本みたいに開けるようにしたいの」
「うん、すごくいいね!」「いい記念になるわね」「うんうん」
「で、私はどうすればいいんだい?」
「血をくれればいいわ」
「それだけ?」
「ええ、もう魔法省と陛下には署名は貰っているから、この魔用紙に血をね」

 通常の専用魔用紙とは違い、枠の部分はグロー公爵家の紋章の白鳥と花で彩られ、既に魔法省の印と陛下の署名が入っている。セナリアンが事前に準備していたものである。偽物だと思われたら困るので、先祖返りだと知らない者には普通の仕様に見えるようになっている。

「どうしてもう貰っているの?」
「ん?だって、私が作ったんだから、不正も何もないからでしょう?」
「ん?」「やっぱりそうだったのね」「そうではないかと思っていた」

 義両親は聞くタイミングを逃していただけで、胎児の鑑定をしているという時点で、そうなのではないかとは思っていたようだ。

「セナが親子鑑定を作ったの?」
「そうよ」
「待って、君はいつから働いていたの?」
「正式には陛下とは五歳、魔法省に登録したのは七歳かな?」
「そうか、うん、そうだよな、忙しいって言葉を使っていいのはセナだけな気がして来たよ」

 マージナルはセナリアン>>>先祖返りなので、確かにさほど興味は無かったが、さすがにセナリアンの忙しいに説得力が増した。
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