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決められた婚約
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ユーリ・グラーフが学園からいつもより早く帰った日のことだった。
双子の姉・メルベールの部屋が少し開いており、人影が動くのが見え、隙間から見えたのは、メルベールとキリアムが抱き合い、キスをしている光景だった。初々しさはなく、慣れた様子で、二人の時間を感じさせるものであった。
時折、一緒にいるところを見ることはあったが、2人が想い合っていたことを、その日初めて知った。
伯爵家のメルベールとユーリ姉妹と、侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は同い年の双子だった。メルベールとユーリは一卵性の双子でとても良く似ており、キリアムとオーランドは二卵性で、よく似た兄弟程度であった。
メルベールは必ず、ユーリと同じにしたがり、髪の長さ、ドレス、アクセサリー、靴に至るまで、色違いならいい方で、全く同じ色ということもあった。同じにしないと酷く悲しむので、父は私を叱る。
オーランドとキリアムは幼い頃は同じ服を着ていたこともあったが、自我が目覚めてからは、同じようにすることはなく、どちらか分かり易かった。
爵位も伯爵家と侯爵家、隣り合った領地で、王都の屋敷も隣同士、親同士も仲が良く、頻繁に集まっていた。
しかし、成長してから、置かれた状況もあって、メルベールのように明るく天真爛漫にはなれなかったユーリは、あまり3人と関わらなくなっていった。周りからは見た目は同じでも、メルベールは陽、ユーリは陰、そんな風に評されていた。ユーリも的を得ていると思ったので、否定することもなかった。
キリアムは偶然会えば、声を掛けてくれていたが、今考えれば、幼なじみとして、好きな人の家族に嫌われたくなかったのであろう。
2人を見てから数日後、ユーリは父から呼び出された。
「キリアムくんとメルベールが婚約することになった」
「おめでとうございます」
「それでお前はオーランドくんとの婚約だ。お前には勿体ない縁談だよ…まったく」
「なぜですか、私には」
「あいつは駄目だと言っただろう」
「そんな…」
ユーリには騎士との縁談があった、ミランス・オーリー。
二つ年上で、裕福ではない男爵家だったが、何度かお会いして、前向きで、優しくて、温かくて、明るい人だった。
父はユーリの身の丈には合っているが、男爵家ということで渋ってはいたが、母の説得もあって、納得してくれていると思っていた。ユーリは薬学を専攻し、薬師を目指しており、ちゃんと生活も出来る予定だった。
「トスター侯爵家の意向だ。メルベールと共に嫁いで、キリアムは時期当主になるが、オーランドは王太子殿下の側近となるため、元々お持ちだった領地のない子爵位から伯爵位となる予定だ、共に支えて欲しいということだ」
「わ、私ではなくてもいいではありませんか」
昔から両親たちは4人が結婚してくれたらいい、入れ替えることも出来ると、同じ話をよくしていた。グラーフ伯爵家には双子の下に嫡男が生まれているため、メルベールが嫁げば、片方だけでも願いは叶えられたのだから、もういいだろう。
正直、オーランドとは幼い頃以来、まともに話したこともなく、話し掛けても言葉が返って来ず、何を考えているのかよく分からないまま、苦手になっていった。
「お前は黙って受け入れればいい!お前のせいでメルベールの婚約が駄目になってもいいというのか!」
「そうではありません、私はオーリー様と」
「そいつのことは忘れろ!これは決定だ!」
「…」
父は幼い頃から素直で優しいメルベールを優先しており、私は何を言ってもいい存在。私のために時間を掛けることはないことは分かっている。
本来なら良い縁談と言えるのだろう、でも愚かな私はそうは思えなかった。
双子の姉・メルベールの部屋が少し開いており、人影が動くのが見え、隙間から見えたのは、メルベールとキリアムが抱き合い、キスをしている光景だった。初々しさはなく、慣れた様子で、二人の時間を感じさせるものであった。
時折、一緒にいるところを見ることはあったが、2人が想い合っていたことを、その日初めて知った。
伯爵家のメルベールとユーリ姉妹と、侯爵家のキリアムとオーランド兄弟は同い年の双子だった。メルベールとユーリは一卵性の双子でとても良く似ており、キリアムとオーランドは二卵性で、よく似た兄弟程度であった。
メルベールは必ず、ユーリと同じにしたがり、髪の長さ、ドレス、アクセサリー、靴に至るまで、色違いならいい方で、全く同じ色ということもあった。同じにしないと酷く悲しむので、父は私を叱る。
オーランドとキリアムは幼い頃は同じ服を着ていたこともあったが、自我が目覚めてからは、同じようにすることはなく、どちらか分かり易かった。
爵位も伯爵家と侯爵家、隣り合った領地で、王都の屋敷も隣同士、親同士も仲が良く、頻繁に集まっていた。
しかし、成長してから、置かれた状況もあって、メルベールのように明るく天真爛漫にはなれなかったユーリは、あまり3人と関わらなくなっていった。周りからは見た目は同じでも、メルベールは陽、ユーリは陰、そんな風に評されていた。ユーリも的を得ていると思ったので、否定することもなかった。
キリアムは偶然会えば、声を掛けてくれていたが、今考えれば、幼なじみとして、好きな人の家族に嫌われたくなかったのであろう。
2人を見てから数日後、ユーリは父から呼び出された。
「キリアムくんとメルベールが婚約することになった」
「おめでとうございます」
「それでお前はオーランドくんとの婚約だ。お前には勿体ない縁談だよ…まったく」
「なぜですか、私には」
「あいつは駄目だと言っただろう」
「そんな…」
ユーリには騎士との縁談があった、ミランス・オーリー。
二つ年上で、裕福ではない男爵家だったが、何度かお会いして、前向きで、優しくて、温かくて、明るい人だった。
父はユーリの身の丈には合っているが、男爵家ということで渋ってはいたが、母の説得もあって、納得してくれていると思っていた。ユーリは薬学を専攻し、薬師を目指しており、ちゃんと生活も出来る予定だった。
「トスター侯爵家の意向だ。メルベールと共に嫁いで、キリアムは時期当主になるが、オーランドは王太子殿下の側近となるため、元々お持ちだった領地のない子爵位から伯爵位となる予定だ、共に支えて欲しいということだ」
「わ、私ではなくてもいいではありませんか」
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正直、オーランドとは幼い頃以来、まともに話したこともなく、話し掛けても言葉が返って来ず、何を考えているのかよく分からないまま、苦手になっていった。
「お前は黙って受け入れればいい!お前のせいでメルベールの婚約が駄目になってもいいというのか!」
「そうではありません、私はオーリー様と」
「そいつのことは忘れろ!これは決定だ!」
「…」
父は幼い頃から素直で優しいメルベールを優先しており、私は何を言ってもいい存在。私のために時間を掛けることはないことは分かっている。
本来なら良い縁談と言えるのだろう、でも愚かな私はそうは思えなかった。
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