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真実6
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「毒も、彼の死を聞いてから、作った物でした…」
皆が再び息を飲んだ。
「いつでも死ねるように、でもあの日まで使うことはなかった。疲れた心に、オーランドくんには自分がいなくなれば、妻子が迎えられること」
オーランドは首を振ったが、違うと言う声はもう出せなかった。
「私には掴めなかった幸せを、オーランドくんは掴むことが出来ると、信じていたそうです」
オーランドは言葉が出ず、ただただ流れ出る涙を、止めることが出来なかった。
「そして、アレクスの言った、生まれて来るはずではなかった私が、メルベールのために死ぬことが出来る。あの日、あの子は一度、クレナ伯爵邸に戻り、毒を持ち出した。覚悟を決めていたのです」
サイラの涙も止まることはなかった。
「これで死ぬ理由が出来た…私が死ねば、オーランドくんも幸せになり、アレクスとメルベールの大事なアベリーも助かるかもしれない。そんな思いも気付かないまま、私は送り出したの…死に行く娘を…大事な娘を…愚かな母親です」
鼻をすする音だけの静かな部屋で、サイラは大きく息を吐いた。
「クレア伯爵夫人に戻った際に文を書いて、戻る前に出していました」
「……何と?」
恐る恐るマトムが訊ねた。
「定めを全うするために、毒を飲みます。良くしてくれて、本当にありがとうございました。薬師の力を命を絶つことに使うような私のことは、忘れてくださいと…」
オーランドも、キリアムも、マトムもレイアも、ルオンも涙が堪えられなかった。
「恨み言一つ、書いていなかったそうです。私がこのような場を設けたことも、ユーリは望んでいないでしょう。あの子が望んだのは、オーランドくんへの離縁状と、ミランス様の墓参りだけでした…たったそれだけです」
「すま、すまなかった…」
アレクスは絞り出すような声で、言った。
「以上です。アレクス、私はシュアト公爵夫人の伝手で、針子として働いています」
やはり高位貴族に隠されていたのだと、皆が思った。そこで仕事をしながら、ユーリのことを聞き、動いていたのだろう。
「今日のことは、コンクエッツ公爵夫人、シュアト公爵夫人、スカラット侯爵夫人、ガルツ侯爵夫人、バエルン侯爵夫人、マクシス伯爵夫人が、私が伝えるべきだと認めてくださり、この場で話をさせていただきました」
サイラが変わらなければ、本来なら錚々たる夫人たちがこの場にいた。皆、声を上げることも出来なかったかもしれない。
「戻るとしても仕事は続けます」
「ああ、構わない」
「実家のことは一切無視してください」
「ああ」
「あと、メルベールが離縁されても、邸には住まわせません。自分の力で暮らすこと、私は会うこともしません。そして、月命日に必ずユーリの墓参りに行くこと。それが私の戻って来る条件です」
「全て受け入れる。戻って来て欲しい…」
アレクスは出会ってから初めて、サイラに頭を深く下げた。
「お、お父様!!」
「鵜呑みにした私も悪いが、メルベールを助けることは二度とない。ラオン大公閣下にも許されるならば、謝罪に伺いたい…」
サイラはユーリがいたら、今さらだと言うだろうとは思ったが、叶うならば、夫妻に罵られるべきだと思った。ユーリも足りなければ、アレクスにと言っていた、本来受けるべきことである。
「そうですね…ユーリも足りなければ、あなたにと言っていたそうです」
「ああ、私が責を負う」
ユーリに聞かせたい言葉だった…でも、それも今さらだ。
「メルベールのことはトスター侯爵家に任せます」
「はい」
「オーランドくんは…離縁状にサインをして、返してくれないかしら?」
「それは…」
まさか最後に言われるとは思わず、オーランドは慌てた。もうオーランドに残されたのはユーリの使っていた部屋と、妻であったことだけである。
皆が再び息を飲んだ。
「いつでも死ねるように、でもあの日まで使うことはなかった。疲れた心に、オーランドくんには自分がいなくなれば、妻子が迎えられること」
オーランドは首を振ったが、違うと言う声はもう出せなかった。
「私には掴めなかった幸せを、オーランドくんは掴むことが出来ると、信じていたそうです」
オーランドは言葉が出ず、ただただ流れ出る涙を、止めることが出来なかった。
「そして、アレクスの言った、生まれて来るはずではなかった私が、メルベールのために死ぬことが出来る。あの日、あの子は一度、クレナ伯爵邸に戻り、毒を持ち出した。覚悟を決めていたのです」
サイラの涙も止まることはなかった。
「これで死ぬ理由が出来た…私が死ねば、オーランドくんも幸せになり、アレクスとメルベールの大事なアベリーも助かるかもしれない。そんな思いも気付かないまま、私は送り出したの…死に行く娘を…大事な娘を…愚かな母親です」
鼻をすする音だけの静かな部屋で、サイラは大きく息を吐いた。
「クレア伯爵夫人に戻った際に文を書いて、戻る前に出していました」
「……何と?」
恐る恐るマトムが訊ねた。
「定めを全うするために、毒を飲みます。良くしてくれて、本当にありがとうございました。薬師の力を命を絶つことに使うような私のことは、忘れてくださいと…」
オーランドも、キリアムも、マトムもレイアも、ルオンも涙が堪えられなかった。
「恨み言一つ、書いていなかったそうです。私がこのような場を設けたことも、ユーリは望んでいないでしょう。あの子が望んだのは、オーランドくんへの離縁状と、ミランス様の墓参りだけでした…たったそれだけです」
「すま、すまなかった…」
アレクスは絞り出すような声で、言った。
「以上です。アレクス、私はシュアト公爵夫人の伝手で、針子として働いています」
やはり高位貴族に隠されていたのだと、皆が思った。そこで仕事をしながら、ユーリのことを聞き、動いていたのだろう。
「今日のことは、コンクエッツ公爵夫人、シュアト公爵夫人、スカラット侯爵夫人、ガルツ侯爵夫人、バエルン侯爵夫人、マクシス伯爵夫人が、私が伝えるべきだと認めてくださり、この場で話をさせていただきました」
サイラが変わらなければ、本来なら錚々たる夫人たちがこの場にいた。皆、声を上げることも出来なかったかもしれない。
「戻るとしても仕事は続けます」
「ああ、構わない」
「実家のことは一切無視してください」
「ああ」
「あと、メルベールが離縁されても、邸には住まわせません。自分の力で暮らすこと、私は会うこともしません。そして、月命日に必ずユーリの墓参りに行くこと。それが私の戻って来る条件です」
「全て受け入れる。戻って来て欲しい…」
アレクスは出会ってから初めて、サイラに頭を深く下げた。
「お、お父様!!」
「鵜呑みにした私も悪いが、メルベールを助けることは二度とない。ラオン大公閣下にも許されるならば、謝罪に伺いたい…」
サイラはユーリがいたら、今さらだと言うだろうとは思ったが、叶うならば、夫妻に罵られるべきだと思った。ユーリも足りなければ、アレクスにと言っていた、本来受けるべきことである。
「そうですね…ユーリも足りなければ、あなたにと言っていたそうです」
「ああ、私が責を負う」
ユーリに聞かせたい言葉だった…でも、それも今さらだ。
「メルベールのことはトスター侯爵家に任せます」
「はい」
「オーランドくんは…離縁状にサインをして、返してくれないかしら?」
「それは…」
まさか最後に言われるとは思わず、オーランドは慌てた。もうオーランドに残されたのはユーリの使っていた部屋と、妻であったことだけである。
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