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懐旧
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「お嬢様も責任があると思いますか」
「お金を受け取っていたんですよね?家族も享受したことになると思いますか」
「それは、はい…」
「お金なんてどれも一緒、そう思う人もいれば、そう思えない人もいる。きっと汚いお金ってあるんでしょうね」
私には親が領民を苦しめた罪がある、だからこそ人生をやり直している、それなのに彼はどうして前を向けるのかが不思議だった。人を殺したわけでもない、罪の重さだろうか、それとも考え方の違いだろうか。
「あの借金は、母の治療費でした…肝臓を悪くしたことがありまして、だからいいというわけではありませんが」
「そのお金で甘いお菓子を1つ買っていないとは証明できない。そうなると、その一つの綻びで悪になり得ることもある」
治療費、借金という名前を変えても、そのお金は受け取るはずのなかったお金。
「何がおっしゃりたいのですか」
「難しいことですね、罪を償うというのは…」
「私も生涯を掛けて、責任は取ります。侯爵様にも辞職を願い出ましたが、責任を感じているならば、お前は真っ直ぐ立っていなさいと、だから私は…真っ直ぐ立ち続けたいと思っています」
「…頑張ってください」
ピリッとした雰囲気のまま、アイレットはロズウェル子爵領、元バートロ伯爵領に着くも、懐かしいという気持ちにはならなかった。
街並みが変わったこともあるのかもしれないが、正直、外に出ることはまずなかったため、邸から見る街並みしか憶えていない。だが、その邸は今はもうない、あの景色を見ることは二度と出来ない。
「元バートロ伯爵家が見たいのですよね?」
「はい、お願いします」
何もなくなっていると思ったが、所々崩れた外壁が残っていた。
「焼け落ちた物は撤去しましたが、後はそのまま戒めのために残してあります」
「遺体は?」
「ご遺体は、山に埋められています」
「全員?」
「はい、私は当時、潜入のために使用人として邸に居りましたから、人数を確認しております」
「そう…」
山に埋められているのか、私もあの人も。そう思うと、魂など墓にはないのだと実感出来るものだなと思った。
ここにあった大豪邸とは言えないが、私にとっては大きな邸を思い出していた。両親はほとんど領地に居らず、居ても子どもに構うことはなく、家令に任せきりだったそうだ。
あの人も元気な頃は王都にいたけど、具合が悪くなってからは領地に捨て置かれるようになった。私は話す相手が出来て嬉しかったけど、彼はそうではなかったのかもしれないと思うこともあった。
でも彼は笑っていた、ベットの上で微笑んでいた姿しか思い出せない。
「お嬢様?」
「あっ、ええ、行きましょうか」
「このようなところになぜ来たいとおっしゃったのですか」
「よく家族が話していたの、悪の例のようにね。だから見てみたかったの…悪はどうなったのか」
「さようですか」
「あなたは生きているバートロ伯爵家の人たちに会ったことがあるのよね?どんな人だった?悪だった?」
「悪…何もしていない悪というべきでしょうか。領地経営を家令に任せて、その家令も見て見ぬふり、逃げ出す使用人もおりましたが、皆、お嬢様とお坊ちゃまのために残っておいでだったのではないでしょうか」
「そう…」
使用人に嫌がらせをされたり、何か訴えられるようなこともなかった。何も出来ない可哀想な娘だと諦めていたのだろう。
「お嬢様を見ると、バートロ伯爵家のお嬢様を思い出します」
「…似ているの?」
「いえ、見た目は似ておりませんが、最期に見た彼女と、邸にいるお嬢様は雰囲気が似ております。お気を悪くしたら申し訳ありません」
「いえ、会ったこともないから怒りようもないわ」
「寂しそうな方でした…私が、殺したのです」
アイレットは酷く驚いた顔をしたが、その本当の意味をリンダースは気付くことは出来ない。
「お金を受け取っていたんですよね?家族も享受したことになると思いますか」
「それは、はい…」
「お金なんてどれも一緒、そう思う人もいれば、そう思えない人もいる。きっと汚いお金ってあるんでしょうね」
私には親が領民を苦しめた罪がある、だからこそ人生をやり直している、それなのに彼はどうして前を向けるのかが不思議だった。人を殺したわけでもない、罪の重さだろうか、それとも考え方の違いだろうか。
「あの借金は、母の治療費でした…肝臓を悪くしたことがありまして、だからいいというわけではありませんが」
「そのお金で甘いお菓子を1つ買っていないとは証明できない。そうなると、その一つの綻びで悪になり得ることもある」
治療費、借金という名前を変えても、そのお金は受け取るはずのなかったお金。
「何がおっしゃりたいのですか」
「難しいことですね、罪を償うというのは…」
「私も生涯を掛けて、責任は取ります。侯爵様にも辞職を願い出ましたが、責任を感じているならば、お前は真っ直ぐ立っていなさいと、だから私は…真っ直ぐ立ち続けたいと思っています」
「…頑張ってください」
ピリッとした雰囲気のまま、アイレットはロズウェル子爵領、元バートロ伯爵領に着くも、懐かしいという気持ちにはならなかった。
街並みが変わったこともあるのかもしれないが、正直、外に出ることはまずなかったため、邸から見る街並みしか憶えていない。だが、その邸は今はもうない、あの景色を見ることは二度と出来ない。
「元バートロ伯爵家が見たいのですよね?」
「はい、お願いします」
何もなくなっていると思ったが、所々崩れた外壁が残っていた。
「焼け落ちた物は撤去しましたが、後はそのまま戒めのために残してあります」
「遺体は?」
「ご遺体は、山に埋められています」
「全員?」
「はい、私は当時、潜入のために使用人として邸に居りましたから、人数を確認しております」
「そう…」
山に埋められているのか、私もあの人も。そう思うと、魂など墓にはないのだと実感出来るものだなと思った。
ここにあった大豪邸とは言えないが、私にとっては大きな邸を思い出していた。両親はほとんど領地に居らず、居ても子どもに構うことはなく、家令に任せきりだったそうだ。
あの人も元気な頃は王都にいたけど、具合が悪くなってからは領地に捨て置かれるようになった。私は話す相手が出来て嬉しかったけど、彼はそうではなかったのかもしれないと思うこともあった。
でも彼は笑っていた、ベットの上で微笑んでいた姿しか思い出せない。
「お嬢様?」
「あっ、ええ、行きましょうか」
「このようなところになぜ来たいとおっしゃったのですか」
「よく家族が話していたの、悪の例のようにね。だから見てみたかったの…悪はどうなったのか」
「さようですか」
「あなたは生きているバートロ伯爵家の人たちに会ったことがあるのよね?どんな人だった?悪だった?」
「悪…何もしていない悪というべきでしょうか。領地経営を家令に任せて、その家令も見て見ぬふり、逃げ出す使用人もおりましたが、皆、お嬢様とお坊ちゃまのために残っておいでだったのではないでしょうか」
「そう…」
使用人に嫌がらせをされたり、何か訴えられるようなこともなかった。何も出来ない可哀想な娘だと諦めていたのだろう。
「お嬢様を見ると、バートロ伯爵家のお嬢様を思い出します」
「…似ているの?」
「いえ、見た目は似ておりませんが、最期に見た彼女と、邸にいるお嬢様は雰囲気が似ております。お気を悪くしたら申し訳ありません」
「いえ、会ったこともないから怒りようもないわ」
「寂しそうな方でした…私が、殺したのです」
アイレットは酷く驚いた顔をしたが、その本当の意味をリンダースは気付くことは出来ない。
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