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番外編【ロロの心】
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僕の名前は、ユリウス・エル・ロロウェン。ロロウェン伯爵家の次男として生まれた。
……僕は、黒髪を持って生まれてきた。
僕の生まれたディーン王国では、過去の因縁から黒色を忌避する動きがある。
僕は、片方とはいえ黒髪を持った事に、劣等感を抱いて生きてきた。
父上や母上。兄上に姉上は、気にするなと言う。ユリウスは、とっても良い子だからと。
でも。その言葉を信じるには、世界は冷たかった。
社交の場にでれば、遠巻きに悪意ある視線が突き刺さる。
幼子であろうとも、彼らは容赦しなかった。
僕の黒髪をじろじろと見やり、陰口を叩く。嘲笑を込めて。
僕は、いつも父上や母上の後ろに隠れていた。
人目に触れるのが、苦痛だった。
街中に出ても黒髪が隠れるように、フードを深く被った。
僕はもう学んでいた。黒髪が、忌避されていると。
瞳が精霊色? そんなの、誰が見てくれるというんだ。誰も彼もが、黒髪しか見ていないのに。
僕は、どんどん卑屈になっていった。
それでも知識への探求心は止められず、僕はよく街の本屋や図書館に通っていた。本は、僕を嫌がらない。平等に知識を分けてくれるのだ。
僕は本の世界に、夢中になった。
家の図書室にも、入り浸る毎日だ。
本ばかりを優先して友達一人出来ない僕に、家族は何も言わなかった。僕のやりたいようにしてくれた。
友達などいらない。それは、紛れもない本音だった。
僕には、家族さえ居ればいいのだ。僕を理解して、支えてくれる家族だけで、世界は成り立っていた。
それは、ラッツフェル幼等学校に通うようになっても、変わらない筈だった。
幼等学校にも、僕はフードを被って通っていた。クラスメイトたちは、最初こそ、奇異な僕に興味を持ち話し掛けてきたが、その全てに僕は愛想なく返した。
今にして思えば、全く可愛げのない五歳児だっただろう。
自然とクラスメイトたちとは、疎遠になっていった。
それすらも、どうでも良かった。僕は、独りきりになりたかった。
いつも一人で、学校の図書館に向かった。図書館は、街のものとは比べ物にならないぐらい大きく、立派だった。外観以上に、中に納められた蔵書の数も素晴らしいものだった。
魅入られるようにして、僕は図書館に通い始めた。
僕は、本の事となると視野が狭くなる。夢中になりすぎて、周りが見えなくなるんだ。
それで、度々人とぶつかってしまう事がある。
たいていの場合は、許してもらえるのだが。
「ふざけるな!」
運が悪いと、許してもらえない相手とかち合う事がある。
今がそうだ。
僕がぶつかった相手は、相当頭に血が上っているようで、顔が真っ赤だ。
「……ふざけてなど、いない」
「ふざけてるだろ! それが謝る態度かよ!」
相手は服装からして貴族だと分かったが、それにしては口が悪い。僕は、それを不快に思っていた。態度には出さないように努めていたけれど。
そんな時だった。
「そこで、何をしているのですか!」
凛とした声がしたのは。
声と共に現れたのは、二人の少女だった。彼女たちには見覚えがあった。以前、図書館で会った事がある。
彼女たちは、二人とも栗毛で、一人はピンクを基調とした服装で、一人は白いワンピースを着ていた。
服装の違いから、貴族と一般の子だと分かる。貴族とその使用人だろうかと、僕は思っていた。
「こいつが、先に俺にぶつかってきたんだよ!」
怒り心頭の彼は、介入してきた彼女たちにも突っかかっていく。不味いな。巻き込んでしまう。いや、もう巻き込んでしまったか。
「……だから、それについては何度も謝ったじゃないか」
謝罪なら、何度も口にした。僕は、少々うんざりしていた。
それが、いけなかった。
僕の態度に激高した彼は、僕に掴み掛かった。そして、その反動で僕の被っていたフードが外れてしまったのだ。
「ひ……っ」
「黒色……」
誰かが悲鳴を上げ、誰かが呟いた。
そこにあるのは、僕の黒髪に対する恐怖のみ。
僕に絡んできた彼らは、僕から逃げ出した。あんなに怒っていたのに、最後には恐怖に染まっていた。
……いつもの、事だ。僕は、自嘲気味にそう思った。
ああ、そうだ。落とした本を拾わなくては。傷が付いていないと、良いんだけど。
そう思い、本を拾おうとした時だった。本を拾うのを手伝う存在に気が付いたのは。
──彼女たちだ。
てっきり、彼女たちも僕の黒髪を恐れて、逃げたと思っていたのに。僕は驚いていた。
「はい、これ」
本を差し出す二人に、僕に対する恐怖の色はない。
家族以外では、初めての事で僕は混乱していた。
普通に接してくれただけでも驚きなのに、彼女たちは僕と友達になりたいと言い出した。
僕は混乱の極みにいた。
なんで、どうして、僕と?
そんな事ばかりが頭の中でぐるぐると回る。理解が出来ない。だけど。
僕と友達になりたいという二人の意思は本物で、気が付けば僕は頷いていた。名前を、教えていた。
これが僕が、リリとララと友達になった瞬間だった。
リリとララはとにかくおかしい。
リリの言動はいつも斜め上をいくし、そんなリリをララは褒め称えている。誉めて伸ばすのが、ララの方針なのだと後で聞いた。お母さんか。
あの出会いから、色んな事があった。
ロンと新たに友人になったり、魔物に襲われたり。僕の精霊色の事が知れ渡ったり。
リリの言動は、いつも不思議だったり。
とにかく、色々あった。
そんな僕らも、もう十七歳だ。
初めての出会いから、もう十年以上経ったのだ。
今までの月日を回想したが、一番驚いたのは、リリが巫女になった事だな。
昔から精霊使いになると言っていたが
、まさか最終目標が巫女だとは思いもしなかった。というか、リリが巫女になれたのは奇跡だと僕は思っている。
何故ならば。
「ねーねー、ロロくん。聞いてよー!」
目の前に、だらけきった巫女様が居るからだ。
「……」
テーブルに突っ伏し、手足をバタバタさせるリリの姿に、僕は溜め息を吐く。
「巫女様。僕は、教会の精霊使いであって、巫女様の雑談相手ではないのですが」
「その巫女様とか、敬語止めようよー。私とロロくんの仲じゃんかー」
巫女になっても、リリは相変わらずだった。
今、僕とリリは精霊教会の内部にある広場に設置してある椅子に座っていた。
ユーフェル高等学校を卒業し、晴れて精霊使いになった僕は精霊教会に入会した。精霊教会が一番、精霊についての研究が進んでいるからだ。
リリとは、巫女になるべく精霊教会から迎えが来た日に、二度と会えないのだろうとしんみりしていたのだが。
まさか、こうも頻繁に祈りの間から抜け出せるとは!
そして、神子様とは違い、割と簡単に会えるとは思ってもみなかった。
「リリ、ちゃんと仕事しているのか?」
僕は本気で聞いた。
「し、してるよ! 失敬な! 今は、休憩中なの!」
体を起こしたリリは、頬を膨らませた。
「あー、はいはい」
「スルー!」
リリがおかしいのは、今に始まった事じゃないけど。やっぱり、リリは変だ。
「ああ、そうだ。ロンだが、宮廷魔術師の一団に入れたそうだ」
「おお! 凄いな、ロンくん! あ、そうだ、ララちゃんお店のお菓子作らせてもらえるようになったって。これ、メル情報」
「そうか、良かったな」
「うん!」
友人たちの近況を互いに報告している時だった。
「巫女様、そろそろお時間です」
「あ、マリー」
マリーと呼ばれた、リリの世話役が休憩の終わりを告げに来た。
「リリ、頑張れよ」
「うん、ロロくん。またね!」
リリはマリーに連れられ、去って行った。
その際、僕はマリーに軽く睨まれた。巫女様に対して気安いと言いたいのだろう。
確かに、気安かったかな、と僕は反省した。
「さて、僕も研究に戻るかな」
相棒のニルを後で、呼び戻そう。
ニルも今頃は、休憩を満喫している筈だ。
僕は、研究の資料を取りに、精霊教会内にある自室に向かう事にする。
「よっ、ユリウス。休憩は終わりか?」
「ユリウス、後で僕の研究を見てくれ」
すれ違う同僚たちが、気軽に挨拶をしてくる。
僕が黒髪である事を吹っ切ったからか、リリやララのおかげで身に付いた世話焼き癖を発揮したせいなのか。僕はすっかり周りに馴染んでいた。
たまに黒髪の事で嫌みを言われる時もあるが、もう僕は気にしない。
昔、リリやララと出会った瞬間から、僕の世界は変わったのだ。
今更黒髪ごときで、動揺したりしない。
二人に名前を聞かれた日から、僕の日常は変わった。毎日が、輝いているようだ。僕は、強くなったのだろう。
自室に着いた。僕は、中に入る。部屋にはあまり物を置いていない。その中で異彩を放つ存在が、ある。
「……」
僕は、それを見るたびにリリの不可思議さを痛感するのだ。
「何故、僕にコレを贈った」
異彩を放つそれは、猫のぬいぐるみだった。
リリが巫女として旅立つ日に、僕にくれたものだ。友情の証として。全く理解不能だ。何故、ぬいぐるみ? 他に何か無かったのか。今でも、そう思う。
「本当に、リリは不思議なやつだ」
僕はぬいぐるみを見つめながら、苦笑を浮かべる。
友情の証。そう言われて、喜んだ自分も確かに居る。
だからこそ、ここにまでぬいぐるみを持ってきてしまったのだし。まあ、同僚には見せられないけど。
「……リリ、幸せにな」
リリが幼い頃から好きだと言っていた相手が、神子様だと知った時には驚いた。
だが、納得する部分もあった。あのリリが好きになる相手だ。よほどの人物ではないと。
今のリリは、毎日が幸せそうだ。
友として、友人の幸せは嬉しいものだ。
自室に置いてあった資料を手に取り、僕は部屋を出ようとする。
その前に、またぬいぐるみを見た。
そして、心の中で呟く。
──リリ。あの日、友達になってくれて。ありがとう。
今の僕は、毎日が充実している。
それら全ての感謝を込めた。
そうして、僕は自室を後にするのだった。
……僕は、黒髪を持って生まれてきた。
僕の生まれたディーン王国では、過去の因縁から黒色を忌避する動きがある。
僕は、片方とはいえ黒髪を持った事に、劣等感を抱いて生きてきた。
父上や母上。兄上に姉上は、気にするなと言う。ユリウスは、とっても良い子だからと。
でも。その言葉を信じるには、世界は冷たかった。
社交の場にでれば、遠巻きに悪意ある視線が突き刺さる。
幼子であろうとも、彼らは容赦しなかった。
僕の黒髪をじろじろと見やり、陰口を叩く。嘲笑を込めて。
僕は、いつも父上や母上の後ろに隠れていた。
人目に触れるのが、苦痛だった。
街中に出ても黒髪が隠れるように、フードを深く被った。
僕はもう学んでいた。黒髪が、忌避されていると。
瞳が精霊色? そんなの、誰が見てくれるというんだ。誰も彼もが、黒髪しか見ていないのに。
僕は、どんどん卑屈になっていった。
それでも知識への探求心は止められず、僕はよく街の本屋や図書館に通っていた。本は、僕を嫌がらない。平等に知識を分けてくれるのだ。
僕は本の世界に、夢中になった。
家の図書室にも、入り浸る毎日だ。
本ばかりを優先して友達一人出来ない僕に、家族は何も言わなかった。僕のやりたいようにしてくれた。
友達などいらない。それは、紛れもない本音だった。
僕には、家族さえ居ればいいのだ。僕を理解して、支えてくれる家族だけで、世界は成り立っていた。
それは、ラッツフェル幼等学校に通うようになっても、変わらない筈だった。
幼等学校にも、僕はフードを被って通っていた。クラスメイトたちは、最初こそ、奇異な僕に興味を持ち話し掛けてきたが、その全てに僕は愛想なく返した。
今にして思えば、全く可愛げのない五歳児だっただろう。
自然とクラスメイトたちとは、疎遠になっていった。
それすらも、どうでも良かった。僕は、独りきりになりたかった。
いつも一人で、学校の図書館に向かった。図書館は、街のものとは比べ物にならないぐらい大きく、立派だった。外観以上に、中に納められた蔵書の数も素晴らしいものだった。
魅入られるようにして、僕は図書館に通い始めた。
僕は、本の事となると視野が狭くなる。夢中になりすぎて、周りが見えなくなるんだ。
それで、度々人とぶつかってしまう事がある。
たいていの場合は、許してもらえるのだが。
「ふざけるな!」
運が悪いと、許してもらえない相手とかち合う事がある。
今がそうだ。
僕がぶつかった相手は、相当頭に血が上っているようで、顔が真っ赤だ。
「……ふざけてなど、いない」
「ふざけてるだろ! それが謝る態度かよ!」
相手は服装からして貴族だと分かったが、それにしては口が悪い。僕は、それを不快に思っていた。態度には出さないように努めていたけれど。
そんな時だった。
「そこで、何をしているのですか!」
凛とした声がしたのは。
声と共に現れたのは、二人の少女だった。彼女たちには見覚えがあった。以前、図書館で会った事がある。
彼女たちは、二人とも栗毛で、一人はピンクを基調とした服装で、一人は白いワンピースを着ていた。
服装の違いから、貴族と一般の子だと分かる。貴族とその使用人だろうかと、僕は思っていた。
「こいつが、先に俺にぶつかってきたんだよ!」
怒り心頭の彼は、介入してきた彼女たちにも突っかかっていく。不味いな。巻き込んでしまう。いや、もう巻き込んでしまったか。
「……だから、それについては何度も謝ったじゃないか」
謝罪なら、何度も口にした。僕は、少々うんざりしていた。
それが、いけなかった。
僕の態度に激高した彼は、僕に掴み掛かった。そして、その反動で僕の被っていたフードが外れてしまったのだ。
「ひ……っ」
「黒色……」
誰かが悲鳴を上げ、誰かが呟いた。
そこにあるのは、僕の黒髪に対する恐怖のみ。
僕に絡んできた彼らは、僕から逃げ出した。あんなに怒っていたのに、最後には恐怖に染まっていた。
……いつもの、事だ。僕は、自嘲気味にそう思った。
ああ、そうだ。落とした本を拾わなくては。傷が付いていないと、良いんだけど。
そう思い、本を拾おうとした時だった。本を拾うのを手伝う存在に気が付いたのは。
──彼女たちだ。
てっきり、彼女たちも僕の黒髪を恐れて、逃げたと思っていたのに。僕は驚いていた。
「はい、これ」
本を差し出す二人に、僕に対する恐怖の色はない。
家族以外では、初めての事で僕は混乱していた。
普通に接してくれただけでも驚きなのに、彼女たちは僕と友達になりたいと言い出した。
僕は混乱の極みにいた。
なんで、どうして、僕と?
そんな事ばかりが頭の中でぐるぐると回る。理解が出来ない。だけど。
僕と友達になりたいという二人の意思は本物で、気が付けば僕は頷いていた。名前を、教えていた。
これが僕が、リリとララと友達になった瞬間だった。
リリとララはとにかくおかしい。
リリの言動はいつも斜め上をいくし、そんなリリをララは褒め称えている。誉めて伸ばすのが、ララの方針なのだと後で聞いた。お母さんか。
あの出会いから、色んな事があった。
ロンと新たに友人になったり、魔物に襲われたり。僕の精霊色の事が知れ渡ったり。
リリの言動は、いつも不思議だったり。
とにかく、色々あった。
そんな僕らも、もう十七歳だ。
初めての出会いから、もう十年以上経ったのだ。
今までの月日を回想したが、一番驚いたのは、リリが巫女になった事だな。
昔から精霊使いになると言っていたが
、まさか最終目標が巫女だとは思いもしなかった。というか、リリが巫女になれたのは奇跡だと僕は思っている。
何故ならば。
「ねーねー、ロロくん。聞いてよー!」
目の前に、だらけきった巫女様が居るからだ。
「……」
テーブルに突っ伏し、手足をバタバタさせるリリの姿に、僕は溜め息を吐く。
「巫女様。僕は、教会の精霊使いであって、巫女様の雑談相手ではないのですが」
「その巫女様とか、敬語止めようよー。私とロロくんの仲じゃんかー」
巫女になっても、リリは相変わらずだった。
今、僕とリリは精霊教会の内部にある広場に設置してある椅子に座っていた。
ユーフェル高等学校を卒業し、晴れて精霊使いになった僕は精霊教会に入会した。精霊教会が一番、精霊についての研究が進んでいるからだ。
リリとは、巫女になるべく精霊教会から迎えが来た日に、二度と会えないのだろうとしんみりしていたのだが。
まさか、こうも頻繁に祈りの間から抜け出せるとは!
そして、神子様とは違い、割と簡単に会えるとは思ってもみなかった。
「リリ、ちゃんと仕事しているのか?」
僕は本気で聞いた。
「し、してるよ! 失敬な! 今は、休憩中なの!」
体を起こしたリリは、頬を膨らませた。
「あー、はいはい」
「スルー!」
リリがおかしいのは、今に始まった事じゃないけど。やっぱり、リリは変だ。
「ああ、そうだ。ロンだが、宮廷魔術師の一団に入れたそうだ」
「おお! 凄いな、ロンくん! あ、そうだ、ララちゃんお店のお菓子作らせてもらえるようになったって。これ、メル情報」
「そうか、良かったな」
「うん!」
友人たちの近況を互いに報告している時だった。
「巫女様、そろそろお時間です」
「あ、マリー」
マリーと呼ばれた、リリの世話役が休憩の終わりを告げに来た。
「リリ、頑張れよ」
「うん、ロロくん。またね!」
リリはマリーに連れられ、去って行った。
その際、僕はマリーに軽く睨まれた。巫女様に対して気安いと言いたいのだろう。
確かに、気安かったかな、と僕は反省した。
「さて、僕も研究に戻るかな」
相棒のニルを後で、呼び戻そう。
ニルも今頃は、休憩を満喫している筈だ。
僕は、研究の資料を取りに、精霊教会内にある自室に向かう事にする。
「よっ、ユリウス。休憩は終わりか?」
「ユリウス、後で僕の研究を見てくれ」
すれ違う同僚たちが、気軽に挨拶をしてくる。
僕が黒髪である事を吹っ切ったからか、リリやララのおかげで身に付いた世話焼き癖を発揮したせいなのか。僕はすっかり周りに馴染んでいた。
たまに黒髪の事で嫌みを言われる時もあるが、もう僕は気にしない。
昔、リリやララと出会った瞬間から、僕の世界は変わったのだ。
今更黒髪ごときで、動揺したりしない。
二人に名前を聞かれた日から、僕の日常は変わった。毎日が、輝いているようだ。僕は、強くなったのだろう。
自室に着いた。僕は、中に入る。部屋にはあまり物を置いていない。その中で異彩を放つ存在が、ある。
「……」
僕は、それを見るたびにリリの不可思議さを痛感するのだ。
「何故、僕にコレを贈った」
異彩を放つそれは、猫のぬいぐるみだった。
リリが巫女として旅立つ日に、僕にくれたものだ。友情の証として。全く理解不能だ。何故、ぬいぐるみ? 他に何か無かったのか。今でも、そう思う。
「本当に、リリは不思議なやつだ」
僕はぬいぐるみを見つめながら、苦笑を浮かべる。
友情の証。そう言われて、喜んだ自分も確かに居る。
だからこそ、ここにまでぬいぐるみを持ってきてしまったのだし。まあ、同僚には見せられないけど。
「……リリ、幸せにな」
リリが幼い頃から好きだと言っていた相手が、神子様だと知った時には驚いた。
だが、納得する部分もあった。あのリリが好きになる相手だ。よほどの人物ではないと。
今のリリは、毎日が幸せそうだ。
友として、友人の幸せは嬉しいものだ。
自室に置いてあった資料を手に取り、僕は部屋を出ようとする。
その前に、またぬいぐるみを見た。
そして、心の中で呟く。
──リリ。あの日、友達になってくれて。ありがとう。
今の僕は、毎日が充実している。
それら全ての感謝を込めた。
そうして、僕は自室を後にするのだった。
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