私が欲しいのならば、最強の父と母を納得させてみよ!話はそれからだ!

文月ゆうり

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三十三、日々は幸せに満ちている

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 ユリーシアはぼんやりと目を覚ました。
 掛け布団のなかは温かく、腕のなかにはアインがすやすやと眠っている。
 ふにゃあと幸せいっぱいの寝顔を見せる弟は、とても可愛い。
 ユリーシアは朝から胸がほわほわとした。

「おねえさまぁ、えへへぇ」

 どうやらアインの夢にはユリーシアがいるようだ。
 ひょこっと、真っ白な猫の騎士であるシルクがベッドに上がってくる。

「おはようにゃー」
「シルク、おはよう」

 アインを起こさないようにこそこそと挨拶を交わす。
 手を伸ばしシルクの頭を撫でると、ふにぃと笑う。可愛い。

「ユリーシアさん、明日はいよいよお祭りにゃね!」

 シルクは目を輝かせている。可愛い。

「うん、お父さまもお母さまも今日は忙しいって」

 両親は昨夜、ユリーシアとアインを抱きしめてくれた。
 明日は忙しいから、今夜からは共に居られないと。
 ユリーシアとて、デイクレート帝国に来てからたくさん愛情を貰ってきたのだ。
 だから、胸を張って寂しいけど、大丈夫だと伝えた。
 アインも同じように返していて、可愛かった。

「明日はね、素敵なドレスを着るのよ」
「お姫さまにゃ!」
「うん!」

 ふふふとユリーシアは嬉しくて笑う。
 完成したたんぽぽ色のドレスは、とても可愛らしくて、見ているだけで胸が躍るのだ。
 かっこいいお父さまに、美しいお母さま。
 そして、可愛くて仕方ないアイン。
 皆と一緒に、城のバルコニーに立つのだ。

「楽しみ」
「にゃー」

 今日は両親は不在ではあるが、叔父であるヴィクトールだけは後宮に滞在している。
 これは特別なことらしい。
 普段はヴィザンドリーが後宮に泊まることのない日は、別の宮にいるのだ。
 しかし、今日だけは特別だからと、ユリーシアたちといてくれると聞いた。

「叔父さまを、独り占めね」
「違うにゃ、アインさんとぼくもいるにゃ!」
「そうだね」

 ユリーシアは楽しくて、嬉しくて笑う。
 それは何一つ曇りのない、澄みとおった優しい笑みであった。



 その青年は、ひっそりと帝都に降り立つ。
 後ろには男が二人。
 彼らは至って平凡な身なりであった。
 どこにでもある茶色の髪に、灰色の混じった赤茶の目をしている。

「……若君、こちらへ」

 彼らを運んだ辻馬車が去るのを待ち、男のひとりが青年に声をかけた。
 男が視線を向けた先には、特別高級ではなさそうな宿屋が見える。
 それに対して、青年は不機嫌を顕にして舌打ちをした。

「僕にあんな安宿に入れと?」
「……あの宿には、監視がありませんので」

 男は静かに返すと、青年は忌々しいと口を歪める。
 それをもうひとりの男が体で周りから隠す。

「若君、表情をお隠しください。記憶に残るのは得策ではありません」
「仕方ない……行くぞ」

 青年たちは、目的があり帝都へと来たのだ。
 それは隠密行動であり、帝国民に顔を覚えられるわけにはいかない。

「何故、僕があんな屑を連れ戻さねばならぬのだ……っ」

 青年の呟きに、男たちはため息を殺す。
 彼らにとって青年は、遥か高みにある高貴な存在だ。
 だが、あまりにも迂闊な行動が多すぎる。
 祖国から帝国までの旅路を思い出し、男たちの胸に苦い思いが浮かぶ。

「姫さまをお迎えするまでの辛抱でございます」
「あいつを姫だと呼ぶな……っ」

 さすがに叫びこそしなかったが、青年の憎しみに満ちた声に、男たちは静かに目を伏せた。
 青年にとって、あの方も血の繋がった妹だろうに、と思いながら。



「おお、鼠が出たようだな」

 ヴィクトールの部屋に遊びに来ていたユリーシアとアインは、叔父の言葉にぴょんっと跳ねる。

「鼠!」
「ねずみさん!」

 読んでいた本を落とし、二人はおろおろと床に寝そべるシルクを見る。

「ねずみさんは、友達にゃ! ここに来たら、お話をして帰ってもらうにゃ!」

 頼もしいシルクの言葉にユリーシアはほっとした。

「シルクがなんとかしてくれるって」
「よかったあ」

 ユリーシアは何度か見たことはあったが、整えられた環境にいるアインは、鼠を見たことがない。
 未知の存在は怖いものだ。
 子供たちの会話に和んだヴィクトールは、豪快に笑う。

「なあに、鼠などお前たちには近寄らせんよ。はーはっはっは!」
「はーはっはっは!」

 アインがいつものようにヴィクトールの真似をする。
 それを優しく見つめて、ヴィクトールは読んでいた紙をくしゃりと潰し灰に変えた。

「さあ、おやつの時間だろう?」
「あ!」
「そうだった!」

 時間を見て、リズとシュゼがお茶の用意を始める。

「叔父さま、クッキー好き?」
「ああ、大好きだ! ミッシェルが大きくなったら、共に食べたいぐらいだな」
「わあ!」
「ぼくも!」

 ミッシェルは母親であるフランチェスカと共におり、不在である。
 フランチェスカはユリーシアたちの両親とともに明日の準備をしているのだ。

「明日の祭典には来られないが、来月辺りに父上たち……お祖父様たちが帰ってくるぞ」
「ほんとう!?」

 アインが頬に手を当て、嬉しそうに笑う。
 ユリーシアも、わくわくしてきた。
 先代皇帝夫妻にはまだ会ったことはないが、度々贈り物をもらっており、手紙でのやり取りをしている。
 いつも温かな文章が綴られていて、ユリーシアは手紙を楽しみにしていた。

「来月の始めに、兄上たちの結婚記念日があるからな」
「わあ! 楽しみがいっぱいだね!」
「うん!」

 今日もユリーシアの周りは、幸せで満ちている。


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