33 / 35
三十二、可愛いは可愛い
しおりを挟む夏から秋に移り変わる頃に、デイグレード帝国は建国祭を迎える。
初代皇帝を賛える為に、国中が花で彩られるのだ。
帝国の父である彼は花の精霊が母親だと伝わっていた。
なので、季節の花や見栄えのために造花が混じり、飾られていく。
造花造りという仕事も入ることがあり、それに加え豊穣を祝うこともあり国中が活気づくのである。
後宮にいるユリーシアには帝都の賑やかさはわからないが、侍女や使用人たちの様子から何かがあるのは伝わってきた。
「リズやシュゼも、建国祭をお祝いしてきて」
二人が常にユリーシアのそばにいることを気にして、お祭りに行ってほしいと言った。
お祭りが楽しいのは、本で知っている。
挿絵に笑顔で踊る場面があった。
リズとシュゼは視線を交わし、微笑んでユリーシアを見る。
今はユリーシアのおやつの時間だ。
ケーキのクリームが頬についていたので、優しくリズがハンカチで拭き取る。
「お優しいユリーシアさま。心配しないでください」
「私たちは建国祭の後にあります、花冠祭に参加しますわ」
「かかん、さい?」
ユリーシアは首を傾げた。
母のエリザベートから、建国祭は大きなお祭りであるので、前後にも様々な催しがあるとは聞いていた。
ただ、詳しくは教えてもらっていなかったのである。
リズとシュゼが微笑む。
「建国祭の後にある花冠祭は、そうですね。恋人たちの祭典ですわね」
「こ、恋人……!」
はわわと頬を染めるユリーシア。
そして、気づく。
恋人たちの祭典に、二人は参加するのだ。
つまりは。
リズとシュゼは照れたように笑う。
「婚約者と、過ごしますの」
「彼も、休みを取ってくれて……」
「ほおお!」
すごい! と、ユリーシアは感激した。
二人は、婚約者がいる。
きっと、エリザベートとヴィザンドリーのように仲良しなのだ。
脳裏に透き通るような水色の髪が過ぎったが、興奮したユリーシアは気づかない。
部屋の窓際で日光浴をしていたシルクが、「ハッ! 今、甘酸っぱい何かが過ぎった気がするにゃ!」と叫んだ。シルクはたまにこんな風にすごく元気な様子を見せるのだ。
「ですので、建国祭はユリーシアさまと一緒にいたいです」
「はわあ」
建国祭は皇室において、大人たちの催し物であった。
ユリーシアだけでなくアインも、建国祭のパーティーには出られない。
ドレスやタキシードを作ったのは、お昼頃にあるバルコニーからの顔見せで着る為だ。
だが、国民に顔を見せることにこそ、意味がある。
ユリーシアが皇帝夫妻から愛を受けていると、知らしめることが。
そのような思惑を知らないユリーシアは、ただただドレスを楽しみにしている。
なので、当日はドレスを堪能した後はアインとシルクと一緒に大人しく過ごそうと思っていた。
だが、リズとシュゼもそばに居てくれるという。
ユリーシアは嬉しくて、ほわあと笑ってしまった。
「二人と一緒にいられるの、嬉しい!」
「光栄ですわ」
「美味しいお菓子も用意いたしましょう」
「わーい!」
リズが紙と羽根ペンを用意する。
「当日召し上がるお菓子を、今から書き出しましょう」
「料理長が張り切りますわね!」
「料理長の気まぐれ、食べたい!」
ユリーシアは目を輝かせた。
だが、思い出す。
料理長の気まぐれは、可愛すぎたことを。
「可愛い猫さん……」
「呼んだかにゃ、ユリーシアさん!」
自分が愛らしいという自覚のあるシルクが、窓際から歩いてくる。
ユリーシアは抱き上げた。
「シルク、可愛いシルクを食べるなんてできないよ……」
「にゃ?」
ユリーシアは猫のクッキーと愛らしいシルクを混同して発言した。
だが、抱っこされたシルクは思い出す。
精霊王に撫でられた時に、にこやかに笑う精霊王から言われた言葉を。
『人間の言う、食べちゃいたいぐらい可愛いとは、このような気持ちなのだろう』
シルクは理解した。
自分はユリーシアに可愛いと思われており、愛されているのだと。
今の発言は、そういう意味なのだと。
「ユリーシアさん、大好きにゃ!」
ふにゃっと笑うシルクに、ユリーシアは頬ずりを繰り返す。
「可愛いよう」
「ふふーんにゃ!」
ユリーシアとシルクの様子を見て、リズとシュゼは微笑んだ。
我らが主の精神は、とても健やかであると。
しばらくして部屋を訪れたアインに、料理長の気まぐれの話をユリーシアはした。
するとアインも、「ふええ」と言いながらシルクを抱っこしたのだ。
ユリーシアとアインに可愛がれ、シルクはとても満足げに喉を鳴らしたのだった。
96
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
怒らせてはいけない人々 ~雉も鳴かずば撃たれまいに~
美袋和仁
恋愛
ある夜、一人の少女が婚約を解消された。根も葉もない噂による冤罪だが、事を荒立てたくない彼女は従容として婚約解消される。
しかしその背後で爆音が轟き、一人の男性が姿を見せた。彼は少女の父親。
怒らせてはならない人々に繋がる少女の婚約解消が、思わぬ展開を導きだす。
なんとなくの一気書き。御笑覧下さると幸いです。
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる