私が欲しいのならば、最強の父と母を納得させてみよ!話はそれからだ!

文月ゆうり

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三十二、可愛いは可愛い

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 夏から秋に移り変わる頃に、デイグレード帝国は建国祭を迎える。
 初代皇帝を賛える為に、国中が花で彩られるのだ。
 帝国の父である彼は花の精霊が母親だと伝わっていた。
 なので、季節の花や見栄えのために造花が混じり、飾られていく。
 造花造りという仕事も入ることがあり、それに加え豊穣を祝うこともあり国中が活気づくのである。
 後宮にいるユリーシアには帝都の賑やかさはわからないが、侍女や使用人たちの様子から何かがあるのは伝わってきた。

「リズやシュゼも、建国祭をお祝いしてきて」

 二人が常にユリーシアのそばにいることを気にして、お祭りに行ってほしいと言った。
 お祭りが楽しいのは、本で知っている。
 挿絵に笑顔で踊る場面があった。
 リズとシュゼは視線を交わし、微笑んでユリーシアを見る。
 今はユリーシアのおやつの時間だ。
 ケーキのクリームが頬についていたので、優しくリズがハンカチで拭き取る。

「お優しいユリーシアさま。心配しないでください」
「私たちは建国祭の後にあります、花冠祭に参加しますわ」
「かかん、さい?」

 ユリーシアは首を傾げた。
 母のエリザベートから、建国祭は大きなお祭りであるので、前後にも様々な催しがあるとは聞いていた。
 ただ、詳しくは教えてもらっていなかったのである。
 リズとシュゼが微笑む。

「建国祭の後にある花冠祭は、そうですね。恋人たちの祭典ですわね」
「こ、恋人……!」

 はわわと頬を染めるユリーシア。
 そして、気づく。
 恋人たちの祭典に、二人は参加するのだ。
 つまりは。
 リズとシュゼは照れたように笑う。

「婚約者と、過ごしますの」
「彼も、休みを取ってくれて……」
「ほおお!」

 すごい! と、ユリーシアは感激した。
 二人は、婚約者がいる。
 きっと、エリザベートとヴィザンドリーのように仲良しなのだ。
 脳裏に透き通るような水色の髪が過ぎったが、興奮したユリーシアは気づかない。
 部屋の窓際で日光浴をしていたシルクが、「ハッ! 今、甘酸っぱい何かが過ぎった気がするにゃ!」と叫んだ。シルクはたまにこんな風にすごく元気な様子を見せるのだ。

「ですので、建国祭はユリーシアさまと一緒にいたいです」
「はわあ」

 建国祭は皇室において、大人たちの催し物であった。
 ユリーシアだけでなくアインも、建国祭のパーティーには出られない。
 ドレスやタキシードを作ったのは、お昼頃にあるバルコニーからの顔見せで着る為だ。
 だが、国民に顔を見せることにこそ、意味がある。
 ユリーシアが皇帝夫妻から愛を受けていると、知らしめることが。
 そのような思惑を知らないユリーシアは、ただただドレスを楽しみにしている。
 なので、当日はドレスを堪能した後はアインとシルクと一緒に大人しく過ごそうと思っていた。
 だが、リズとシュゼもそばに居てくれるという。
 ユリーシアは嬉しくて、ほわあと笑ってしまった。

「二人と一緒にいられるの、嬉しい!」
「光栄ですわ」
「美味しいお菓子も用意いたしましょう」
「わーい!」

 リズが紙と羽根ペンを用意する。

「当日召し上がるお菓子を、今から書き出しましょう」
「料理長が張り切りますわね!」
「料理長の気まぐれ、食べたい!」

 ユリーシアは目を輝かせた。
 だが、思い出す。
 料理長の気まぐれは、可愛すぎたことを。

「可愛い猫さん……」
「呼んだかにゃ、ユリーシアさん!」

 自分が愛らしいという自覚のあるシルクが、窓際から歩いてくる。
 ユリーシアは抱き上げた。

「シルク、可愛いシルクを食べるなんてできないよ……」
「にゃ?」

 ユリーシアは猫のクッキーと愛らしいシルクを混同して発言した。
 だが、抱っこされたシルクは思い出す。
 精霊王に撫でられた時に、にこやかに笑う精霊王から言われた言葉を。

『人間の言う、食べちゃいたいぐらい可愛いとは、このような気持ちなのだろう』

 シルクは理解した。
 自分はユリーシアに可愛いと思われており、愛されているのだと。
 今の発言は、そういう意味なのだと。

「ユリーシアさん、大好きにゃ!」

 ふにゃっと笑うシルクに、ユリーシアは頬ずりを繰り返す。

「可愛いよう」
「ふふーんにゃ!」

 ユリーシアとシルクの様子を見て、リズとシュゼは微笑んだ。
 我らが主の精神は、とても健やかであると。

 しばらくして部屋を訪れたアインに、料理長の気まぐれの話をユリーシアはした。
 するとアインも、「ふええ」と言いながらシルクを抱っこしたのだ。
 ユリーシアとアインに可愛がれ、シルクはとても満足げに喉を鳴らしたのだった。

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